原爆体験者等健康意識調査報告書第3-2(1)-4、5
第3 調査結果
2 解析の方法と結果
(1)心身の健康影響
4.健康不安と差別・偏見体験の及ぼす影響について
上記のように、基本調査の解析結果においては、凄惨な原爆体験がもたらした影響以上に、放射線曝露の影響による健康不安や社会的な差別・偏見の体験が、精神健康に悪影響をもたらしていたことが明らかとなった。そこで、個別調査においては、本調査のために作成した健康不安尺度と差別・偏見体験尺度の得点とSF-36上付き、GHQ28、CAPS各得点との関連を検討した。
- 尺度の内部一貫性は、健康不安尺度(5項目)(a係数=.91)、差別・偏見体験尺度(5項目)(a係数=.78)とも優れていた。(a係数=個々の質問項目が、調べたいものとしての内的整合性を持つ質問項目群であるかを示す。)
- 被曝群では、健康不安尺度得点はSF-36上付きの全ての下位尺度得点(r=-.24~-.45)と有意な負の相関がみられ、GHQ28(r=.34)、CAPS(r=.37)とは有意な正相関が認められた。したがって、健康不安が強いほどQOLは低く、精神健康度と心的外傷性ストレス症状は不良であった。一方、差別・偏見体験尺度得点も、SF-36上付きの全ての下位尺度得点(r=-.23~-.27)と有意な負の相関が示され、GHQ28(r=.26)、CAPS(r=.39)とは有意な正相関が認められた。また、健康不安尺度と差別・偏見体験尺度の間にも正相関(r=.57)を認めた。
- (4)指定地域群では、健康不安尺度得点はSF-36上付きのPF(身体機能)(r=-.27)、GH(全体的健康感)(r=-.44)、SF(社会的機能)(r=-.35)と有意な負の相関が認められ、GHQ28(r=.31)、CAPS(r=.27)とは有意な正相関が認められた。一方、差別・偏見体験尺度得点も、SF-36上付きのSF(社会的機能)(r=-.32)と有意な負の相関が示され、CAPS(r=.40)とは有意な正相関が認められた。また、健康不安尺度と差別・偏見体験尺度の間にも正相関(r=.58)を認めた。
- (5)未指定地域群では、健康不安尺度得点はSF-36上付きの全ての下位尺度得点(r=-.38~-.56)と有意な負の相関が示され、GHQ28(r=.50)、CAPS(r=.32)とは有意な正相関が認められた。一方、差別・偏見体験尺度得点も、SF-36上付きの全ての下位尺度得点(r=-.23~-.30)と有意な負の関連がみられており、GHQ28(r=.29)、CAPS(r=.19)とは有意な正相関が認められた。また健康不安尺度と差別・偏見体験尺度の間にも正相関(r=.61)を認めた。
5.被爆群の体験内容別心身の健康影響について
- 個別調査結果から、GHQ28、SF-36上付き、CAPS得点、健康不安尺度得点、差別・偏見体験尺度得点、PTGI得点を用いて検討した。
(注)SF-36上付きは得点が低いほど心身の健康状態が悪く、GHQ28、CAPS、健康不安、差別・偏見体験の各尺度は点が高いほど不良な状態を示す。
PTGIは得点が高いほどポジティブな精神変化が大きい。 - 特に被爆群(N=486)については、その体験内容により、爆心地から2km以内で被爆した直接被曝者(以下「近距離直爆群」という。)(n=134)、同じく2キロメートル以遠の直接被爆者(以下「遠距離直爆群」という。)(n=192)、入市及び救護・看護被爆者(以下「間接被爆群」という。)(n=160)の3群に分け、それぞれの男女割合をカイ二乗検定により、年齢、教育年数及び各尺度得点を分散分析法(ANOVA=analysis of variance)により比較した。さらに、群間で差が見られた際、Tukey-KramerのHSD検定により、全てのペアの群間比較(有意水準p<.05)を行った。その結果は次のとおりであった(Mは平均値を示す)。
- 男女比と教育年数には、3群間で有意差を認めなかった。
- 年齢は、3群間に有意差(F=6.47,p=.0017)があり、近距離直爆群、遠距離直爆群、間接被爆群の順に高く、ペアごとの比較では、近距離直爆群は間接被爆群よりも有意に高かった(M:近距離直爆群=77.60、遠距離直爆群=76.83、間接被爆群=76.30)。
- GHQ28得点は3群間に有意差を認めなかった(M:近距離直爆群=8.00、遠距離直爆群=7.83、間接被爆群=7.87)。
- SF-36上付きの8下位尺度得点(国民標準値に基づくスコアリング)では、PF(身体機能)、RP(日常役割機能・身体)、BP(体の痛み)、GH(全体的健康感)、VT(活力)、SF(社会生活機能)、RE(日常役割機能・精神)、MH(心の健康)の全てにおいて3群間に有意差を認めなかった。
- CAPS現在症状得点は3群間に有意差を認めなかった(M:近距離直爆群=6.36、遠距離直爆群=5.02、間接被爆群=5.31)。
- 健康不安尺度得点は、3群間に有意差(F=5.68,p=.0037)があり、ペアごとの比較では近距離直爆群は間接被爆群よりも有意に高かった(M:近距離直爆群=5.43、遠距離直爆群=4.48、間接被爆群=3.78)。
- 差別・偏見体験尺度得点は、3群間に有意差(F=7.69,p=.0005)があり、ペアごとの比較では、近距離直爆群は遠距離直爆群及び間接被爆群よりも有意に高かった(M:近距離直爆群=3.56、遠距離直爆群=2.38、間接被爆群=2.26))
- 回答の信頼性を検討するために実施した人格目録テスト(MMPI:Minnesota Multiphasic Personality Inventory)のK尺度得点は3群間に有意差を認めなかった。
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