原爆体験者等健康意識調査報告書第3-2(1)-3

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ページ番号1022260  更新日 2025年2月20日

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第3 調査結果

2 解析の方法の結果

(1)心身の健康影響

3.影響を与えた要因について

これらスコアに関連する(影響を与えた)要因(体験等)を探るため、個別の原爆体験内容、原爆による健康不安や差別体験、原爆以外の戦争体験、その他の心的外傷体験を説明変数に加えて投入し、さらに原爆体験区分と具体的な体験の内容等との交互作用項も加えて調整を行った(表2)。

表2 要因(体験等)別のスコア差(精神健康尺度)

原爆体験等

MCS-8

スコア差

MCS-8

p

K6

スコア差

K6

p

IES-R

スコア差

IES-R

p

爆発による光・熱・風を感じた 0.812 0.050 n.s. n.s.
残骸・焼け跡・遺体などの光景を見た n.s. n.s. 1.010 0.017
ひどいやけどや大けがをした n.s. n.s. 1.223 0.005
やけどや大けがで苦しむ人を見た n.s. n.s. n.s.
家族などを救えなかった -0.929 <0.001 0.526 <0.001 3.896 <0.001
急性障害があった -0.753 0.001 0.435 <0.001 3.365 <0.001
急性障害で苦しむ人を見た n.s. 0.184 0.083 1.850 <0.001
爆発や急性障害で命を落とす危険を感じた -0.859 <0.001 0.908 <0.001 5.617 <0.001
爆発や急性障害で家族などを失った n.s. 0.354 <0.001 2.845 <0.001
戦後身近な人を放射線の病気で亡くした n.s. 0.513 <0.001 2.570 <0.001
放射線が原因と思われる病気に罹ったことがある -0.966 <0.001 0.439 <0.001 0.956 0.006
放射線の影響で病気になることがかなり不安 -2.411 <0.001 1.652 <0.001 6.865 <0.001
他の人からの差別や偏見などを強く感じた -1.706 <0.001 1.802 <0.001 5.337 <0.001
原爆体験者であることはなるべく話さない -0.916 <0.001 0.797 <0.001 5.630 <0.001
他の戦争体験での命の危険や大けが -0.846 <0.001 0.797 <0.001 2.990 <0.001
戦争で家族を亡くした(原爆以外) n.s. 0.486 <0.001 2.036 <0.001
災害・事故・暴力犯罪など他の心的外傷体験 -1.104 <0.001 1.328 <0.001 2.934 <0.001

(注)上記は、基本属性要因を調整後、各体験内容等を説明変数として投入した上で、体験区分と要因との交互作用も調整した。
※ n. s.=non-significant「統計的に有意でない」

  • 比較のために、原爆体験以外の「他の戦争体験での命の危険や大けが」や「災害・事故・暴力犯罪など他の心的外傷体験」といった要因についても確認し、よりスコア差が大きかったものを確認した。
    • ア MCS-8(精神健康機能指標)で関連が強かった要因は、「放射線による病気の不安」と「差別・偏見体験」であった。
    • イ K6で関連が強かった要因は、同じく「放射線による病気の不安」と「差別・偏見体験」であった。
    • ウ IES-Rで関連が強かった要因は、「家族などを救えなかった」「急性障害があった」「命の危険」など、心的外傷性ストレス症状尺度として予想されたように原爆をめぐる悲惨な状況と直接結びついた心的外傷体験も多く含まれたが、やはり「放射線による病気の不安」と「差別・偏見体験」及びこれにも影響すると思われる「原爆体験者であることを話さない」との関連が強かった。
  • 一方、PCS-8(身体健康機能指標)では、被爆群((1)直接被爆群、(2)入市被爆群)あるいは黒い雨体験群のいずれも、比較対照群と比べて差は僅少ながら有意に低いスコアであった(表3)。
    また、基本属性要因を調整しても、被爆群は比較対照群に比べ、有意にスコアが低かった。
表3 原爆体験区分ごとの対照群との尺度スコア差(身体健康尺度)

区分

PCS-8

スコア差

PCS-8

P

被爆群(1)直接被爆群 -0.461 0.003
被爆群(2)入市被爆群 -0.458 0.010
被爆群(3)救護・看護被爆群 n.s.
黒い雨体験群(4)指定地域群 -0.669 0.037
黒い雨体験群(5)未指定地域群 -0.515 0.082
比較対照群 0.000  

(注)性別、年齢、居住状況、要介護度、世帯収入の基本属性要因を調整し解析した。
PCS-8は、マイナス値大であるほど身体的健康状態が低い。

  • なお、身体健康度の低さの説明変数として比較的関連していた体験内容は、「放射線が原因と思われる病気に罹った」「ひどいやけどや大けがをした」「急性障害があった」「放射線の影響による病気の不安」などであった。
  • 以上の結果より、被爆群、黒い雨体験群のいずれも、比較対照群と比べてことに精神健康上の不良が、測定した3つの指標の全てにおいて示唆された。また、現在の精神健康不良と最も強い関連を認めたのは「放射線による病気の不安」と「差別・偏見体験」であることが示唆された。
  • 基本調査の単純集計の結果から、「放射線による病気の不安」に関する設問に対して「有る」と回答した者の割合は表4のとおりである。直接被爆者は半数以上の割合、また、それ以外の被爆群と黒い雨体験群も約4割であり、比較対照群に比べ高い数値であった。
表4 放射線による病気の不安

区分

「ある」の割合

被爆群(1)直接被爆群 56.0%
被爆群(2)入市被爆群 43.3%
被爆群(3)救護・看護被爆群 34.2%
黒い雨体験群(4)指定地域群 38.5%
黒い雨体験群(5)未指定地域群 33.5%
比較対照群 10.4%
  • 「差別・偏見体験」に関する設問に対して「有る」と回答した者の割合は表5のとおりであり、(1)直接被爆群が最も高い。
表5 差別・偏見を強く感じた

区分

「ある」の割合

被爆群(1)直接被爆群 15.7%
被爆群(2)入市被爆群 10.2%
被爆群(3)救護・看護被爆群 6.2%
黒い雨体験群(4)指定地域群 4.0%
黒い雨体験群(5)未指定地域群 5.7%
比較対照群 2.5%
  • 「原爆体験を人に話さないようにしてきたか」の設問に対して「はい」と回答した者の割合は表6のとおりであり、被爆群については約3割の方が現在でも人に話していない状態にあった。
表6 原爆体験を人に話さないようにしてきた

区分

「はい」の割合

被爆群(1)直接被爆群 34.7%
被爆群(2)入市被爆群 32.8%
被爆群(3)救護・看護被爆群 28.9%
黒い雨体験群(4)指定地域群 23.4%
黒い雨体験群(5)未指定地域群 18.2%
比較対照群 12.9%
  • 一方、個別調査の結果では、黒い雨を体験した者についての回答を見てみると、表7のとおりであり、「黒い雨を沢山浴びた(触れたり口にした)」と「黒い雨を少し浴びた(触れたり口にした)」を合わせると、(4)指定地域群、(5)未指定地域群でほとんどの者が黒い雨に直接曝露した体験を有していた。
表7 黒い雨体験の内容

区分

被爆群

(4)指定地域群

(5)未指定地域群

黒い雨を沢山浴びた(触れたり口にした) 35.1% 59.0% 40.3%
黒い雨を少し浴びた(触れたり口にした) 47.4% 32.8% 43.3%
合計 82.5% 91.8% 83.6%
  • さらに、黒い雨体験者全体で、黒い雨は放射線を含有していると考えている者の割合は75%以上であった。これらの数値は、被爆群に限らず、黒い雨体験群についても放射線による健康不安が増大していたことを裏付けるものであった(表8)。
表8 黒い雨と放射線の関係

区分

「はい」の割合

全ての黒い雨は放射線が沢山含まれていたと思う 41.0%
全ての黒い雨に放射線が少しは含まれていたと思う 21.5%
降った場所によっては沢山含まれていたり、あまり含まれていなかったと思う 13.0%
合計 75.5%

このページに関するお問い合わせ

健康福祉局原爆被害対策部 調査課
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