原爆体験者等健康意識調査報告書第2-2(2)
第2 調査方法
2 調査内容
(2)個別調査(面談による自記式質問紙の確認と構造化面接)
1.調査対象者(抽出方法)
被爆群上付き
- ア 被爆者の基本調査回答者(日程的な都合により、平成20年(2008年)8月までに回収したもの)から、体験の記憶の明確さと調査協力の身体的負担を考慮し、年齢71~82歳※2の者を抽出した。
- イ アを性別、年齢(71~76歳、77~82歳)、IES-R得点(25点未満、25点以上)別に分類し、さらに被爆区分(直接被爆、入市被爆、救護・看護被爆)別に分類して計24区分における人数割合を算出した。(注:基本調査におけるIES-Rの合計得点中央値=25点)
- ウ 面談に協力すると回答した者の中から、500人及び予備サンプルを、上記24区分ごとに各人数割合に従って無作為に抽出した。
なお、以下の者を抽出対象から除外した。
- 要介護認定を受けている者
- 収入が未回答の者
- 基本調査の問8(原爆体験)について、9項目中4項目以上未回答の者
- 基本調査の問10(原爆の影響)について、5項目中2項目以上未回答の者
黒い雨関係群上付き(比較対照群上付きも含む)
- 被爆者以外の基本調査回答者(平成20年(2008年)8月までに回収したもの)から、被爆群と同様に年齢71~82歳上付きの者を抽出した。
- 以下の者を抽出対象から除外した。
- 要介護認定を受けている者
- 収入が未回答の者
- 基本調査の問8(原爆体験)について、9項目中4項目以上未回答の者
- 基本調査の問10(原爆の影響)について、5項目中2項目以上未回答の者
- 基本調査の問15(1)(黒い雨体験の有無)で「わからない」と回答した者又は未回答の者
- 基本調査の問15(2)(黒い雨体験曝露)で「わからない」と回答した者
- 指定地城群上付き及び未指定地域群上付きについては、面談へ協力すると回答した者全員を対象とした。また、比較対照群については、面談へ協力すると回答した者が指定地域群、未指定地域群よりも多かったため、未指定地域群対象者と男女及び年齢層分布をマッチングさせた上で無作為に抽出した。
- ※1 被爆群、黒い雨関係群、比較対照群等の説明は、後述第3の1(3)の各区分の定義参照。
- ※2 年齢は全て基本調査実施時のもの
2.依頼方法
上記1の調査対象者に対し、文書により個別調査への協力を要請するとともに、電話でも協力を依頼し、日程、調査会場を調整した。この結果、個別調査の実施が確定した者に対し、正式な調査協力依頼書等を送付した。
3.調査時期
平成20年(2008年)11月28日~平成21年(2009年)3月29日(83日間)
4.主な調査項目
- 氏名、性別、生年月日
- 生活習慣(喫煙歴)、教育を受けた年数、身体的疾患の受療歴
- 健康関連QOL尺度:SF-36上付き(MOS36-Item Short-Form Health Survey)上付き
- 精神健康調査:GHQ28(The General Health Questionnaire 28)上付き
- 外傷後成長尺度:PTGI(Posttraumatic Growth Inventory)上付き
- 人格目録テスト:MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory)K尺度上付き
- 健康不安尺度上付き
- 差別・偏見体験尺度上付き
- 原爆体験の有無、その内容に関する質問
- PTSD臨床診断面接尺度:CAPS(Clinician-AdministeredPTSDscaleforDSM-IV)上付き
(評価尺度の説明)
※1 SF-36上付き
基本調査の評価尺度参照
※2 GHQ28
英国のGoldbergによって1970~74年に開発された自記式質問票。神経症や抑うつの症状把握、評価及び発見にきわめて有効なスクリーニングテストとされる。日本語版は中川ら(1996)により作成・標準化されている。本調査で使用した項目版は、4因子(身体的症状、不安と不眠、社会的活動障害、うつ傾向)の代表項目(各7項目)から構成される。回答は4件法であるが2段階で採点し、合計点0-28点で症状評価する。
※3 PTGI
心的外傷体験後のポジティブな精神的変化を測定することを目的として、米国のTedeschiとCalhoun(1996)が開発した21項目の自記式質問票。心的外傷体験後の精神的成長(post-traumaticgrowth)に関する国内外の研究で広く使用されている。日本語版は、宅ら(2007)により標準化されている。英語版は5因子であるが、日本語版では4因子(他者との関係、新たな可能生、人間としての強さ、スピリチュアルな変容および人生に対する感謝)が抽出されている。今回の調査ではTedeschi、Calhounおよび宅の了承を得て、原爆体験者用に質問文の字句を一部修正し、使用した。
※4 MMPI
米国ミネソタ大学のHathawayとMckinley(1940)によって開発された人格目録質問票。今回の調査では、その中の妥当性尺度であるK尺度を、回答者の回答態度(防衛的傾向、率直さ、自己批判的傾向など)を参照するため使用した。K尺度で高得点の人は、精神病理を否定して自分を好ましく見せようとしている可能性があり、逆に低得点の人は、精神病理を誇張してひどく好ましくないように見せようとしている可能性がある。日本語版は、MMPI新日本版研究会により1993年に再標準化されている。
※5 健康不安尺度
原爆放射線の影響がもたらす健康上の懸念の程度を測定する5項目、4件法の尺度で、合計点0-15点で評価する。今回の個別調査実施にあたり独自に作成した。(具体的な質間内容については資料3(2)参照)
※6 差別・偏見体験尺度
原爆によるスティグマ体験がもたらす精神的苦痛の程度を測定する5項目、4件法の尺度で、合計点0-15点で評価する。今回の個別調査実施にあたり独自に作成した。(具体的な質問内容については資料3(2)参照)
※7 CAPS
米国の国立PTSDセンターで1995年に開発された、PTSD診断のための構造化臨床診断面接尺度。現在、最も精度の優れた診断尺度として、国内外での各種調査研究や冶験などで広く使用されている。DSM-4.基準に則り、PTSDの17症状を含めA~F基準を評価する。日本語版は、飛鳥井ら(2003)によって翻訳作成され、信頼性と妥当性を検証されている。心理検査として保険診療報酬用を認可された。
5.調査員
- 臨床心理士(広島県臨床心理士会会員)87人が従事した(広島市、県の行政関係者は除く)。
- 全員が事前に面談調査専門トレーニングを受講した。
- トレーニング実施日:平成20年(2008年)10月25日、26日
- 講師:
飛島井 望(東京都精神医学総合研究所社会精神医学研究分野長)*現所長代行
加藤 寛(兵庫県こころのケアセンター副センター長・研究部長)
6.面接会場
広島市の公的施設(各区の公民館、地域福祉センター)計34箇所で、個室又はパーテーションで区切った場所で面談を実施した。
7.面談者数(実績)
891人(面談を途中で中止し無効となったものは含まない。)
8.個別調査(面談)時の倫理的配慮等
- 調査会場等において調査対象者のプライバシ一や健康に最大限配慮するようにした。
- 調査の目的、方法及び調査のもたらす個人への不利益等について調査対象者へ説明し、協力の自発性の原則を守り、調査対象者の明確な同意に基づいて調査を進めた。
- 調査対象者が途中で答えたくないと思った場合や体調が悪くなった場合のほか、調査員の判断により面談を休止又は中止することができるようにした。(会場には看護師を常駐させた。)
- 原則として、調査対象者は一人で面談を受けるものとするが、調査対象者が付添者の同席を求め、調査員が必要であると判断した場合は、同席を許可した。
- 面談後に心理的に不安定になる調査対象者のケアのために、調査期間終了後まで広島市の原爆被害対策部内に専用電話(フリーダイヤル)を設置した。
なお、面談終了後に体調を悪くしたなどの報告はなかった。 - 倫理面については、「広島大学疫学研究倫理審査委員会」及び「東京都精神医学総合研究所研究倫理委員会」の承認を受けて実施した。
- 調査時に、調査対象者の同意を得た場合には録音し、調査員が講習内容に沿って調査を行っているか、トレーニングを行った講師が定期的に確認した。
また、調査員には、事前に調査対象者の原爆体験の内容について知らせないようにするなど、調査内容の均一化、信頼性向上に努めた。 - 面談会場の入口には「調査会場」とのみ表示し、特別な案内表示は行わなかった。
(一人当たりの面談時間は概ね1.5~2時間(最長4時間40分)であった。)
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健康福祉局原爆被害対策部 調査課
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