包括外部監査の結果(指摘事項)に対する措置事項及び監査の意見に対する対応結果の公表(令和7年6月4日公表)
広島市監査公表第22号
令和7年6月4日
広島市監査委員 古川 智之
同 井戸 陽子
同 定野 和広
同 石田 祥子
地方自治法第252条の38第6項の規定により、広島市長から監査の結果に基づき措置を講じた旨の通知があったので、当該通知に係る事項を次のとおり公表する。
なお、併せて、広島市長から通知のあった監査の意見に対する対応結果についても、当該通知に係る事項を公表する。
令和4年度包括外部監査の結果に基づいて講じた措置等の公表(都市整備局)
1 監査結果公表年月日
令和5年2月2日(広島市監査公表第3号)
2 包括外部監査人
松本 京子
3 監査結果に基づいて講じた措置通知年月日
令和7年5月26日(広住政第125号及び第126号)
4 監査のテーマ
財産に関する事務の執行及び管理について
5 監査の結果(指摘事項)及び措置の内容
(1) 受任通知後の調査について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の結果
家賃滞納者が破産申立てを弁護士等へ委任した場合、受任した弁護士等から広島市宛てに受任通知が送付される。受任通知が送付された後に、破産手続の開始までかなり期間が空く場合がある。また、結果的に破産申立てがなされない場合もある。このことから、債権管理事務マニュアル(以下「マニュアル」という。)では破産申立ての受任通知が届いたとしても、通常の債権管理も引き続き行う必要がある旨が記載されている(マニュアル153頁)。
しかし、住宅政策課(以下「担当課」という。)及び各区の建築課とも家賃滞納者の調査を行っておらず、平成23年に受任通知を送付した弁護士等が破産申立てを行ったか不明のまま放置されている案件が存在する。また、破産手続開始通知書を受領したものの、免責決定がなされたか調査しないまま放置されている案件が複数散見され、中には平成24年から放置されている案件も存在した。
受任通知や破産開始決定通知書のみで滞納家賃等は自然債務とはならず、破産手続終結決定又は破産手続廃止決定とともに免責決定が行われない限り、滞納家賃は通常の債権のままである。免責決定が行われない場合、広島市としては、家賃滞納者に対して滞納家賃の回収手続を行わなければならない。それにもかかわらず、上記調査を怠ったことにより、滞納家賃を時効により消滅させてしまった場合は「怠る事実」(地方自治法第242条第1項)があったと評価される可能性が高い。
この度指摘した案件は、担当課が令和4年10月に免責許可決定がされているかにつき官報を調査したところ、いずれも免責許可決定がされていることが確認できたとのことであるため、結果的には全て免責許可決定がされており、消滅時効が成立した案件は存在しなかった。もっとも、10年以上調査未了のまま案件を放置していた事実は変わらない。このような対応が継続されれば、近いうちに消滅時効が成立してしまう案件が生ずる危険性は高い。受任通知を受領した場合は破産手続開始決定の有無を、破産手続開始通知書を受領した場合は免責許可決定の有無を意識しながら案件を管理するとともに、適切な調査を行うべきである。
措置の内容
監査の結果を受けて、受任通知の受領等により滞納者が破産手続開始の申立てを行ったことを把握した場合には、必ず免責許可決定に至るまでの状況を確認することとし、令和6年3月に、事務処理手順を新たに作成し、関係職員への周知を図った。
(2) 家賃滞納者が破産し免責決定を受けた際における債務の決算上の処理方法について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の結果
通常、広島市が弁護士等から受任通知を受領し、債務者が破産手続開始の決定を受けた際には、まず履行期限の繰り上げ(マニュアル86頁)を行い、その後に債務者が免責決定を受けた場合は、その後に債権放棄して不納欠損処理を行うことになる(マニュアル172頁)。
家賃滞納者が破産手続終結決定又は破産手続廃止決定とともに、支払いきれなかった債務について免責決定を受けたとしても、上記債務は自然債務として残存する。自然債務は、債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり、上記債権については、改正前民法第166条第1項に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないというべきである。そのため、破産者が免責決定を受けた場合、上記債権について消滅時効を観念することができない(最三小判平成11年11月9日民集53巻8号1403頁)。
そこで、自然債務を不納欠損処理するためには、議会の議決を経て権利を放棄する必要がある。
しかし、家賃滞納者が破産手続終結決定又は破産手続廃止決定とともに、支払いきれなかった債務について免責決定を受けた場合、債務が発生してから5年経過をもって消滅時効が成立したとして不納欠損している案件が散見される。
現状、自然債務について議会の議決を経て権利を放棄することなく、観念し得ない消滅時効が成立したとして不納欠損処理している。これは民法の理解を誤った処理であることから、マニュアル記載のとおり、議会の議決を経て権利を放棄した上で不納欠損処理すべきである。
なお、例えば、京都市、富田林市、別府市等の自治体における債権管理条例では、市長等が非強制徴収公債権を放棄できる場合を定めており、自然債務について議会の議決を経ることなく権利を放棄することができる仕組みになっている。広島市においても、上記債権管理条例と同様の条項が制定されれば、自然債務の処理が適法かつ円滑に行われるものと思料する。同指摘は平成23年度包括外部監査結果報告書においても行われているところであり、広島市として積極的に検討することが望まれる。
措置の内容
監査の結果を受けて、滞納者の破産による免責許可決定によりその履行を請求することができなくなった債権(一般に債務者側の視点から「自然債務」といわれるものであり、消滅時効が成立し得ないまま存在し続ける。)については、その権利の放棄を行った上で不納欠損処理を行うこととし、令和5年3月に、不納欠損処理の際に使用するマニュアル(時効起算日の認定方法)について、滞納者の破産により免責の対象となった債権の不納欠損処理に当たっては議会の議決を得ることによりその権利の放棄を行う必要があることなどを明記する改正を行い、関係職員への周知を図った。
また、広島市行政経営改革推進プラン(令和6年度~令和9年度)における取組として、令和7年度末を目途に、債権管理条例の制定の検討を含め債権放棄の方針の策定に向けた検討を行っており(所管課:管財課)、その方針が策定された後に、それに則して滞納者の破産による免責の対象となった債権に関する権利の放棄を行っていくこととした。
(3) 建物明渡請求訴訟前における鍵の交換について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の結果
外国籍である賃借人が行方不明となり、その連帯保証人から、賃借人が母国へ帰国したという情報を得たことから、その住宅の使用許可を取り消した上で、建物明渡訴訟を提起することなく、鍵の交換を行った案件が存在する。
民法は自力救済の禁止を念頭に置いて制定されている(民法第200条、第414条参照)。例外的に自力救済が認められるのは、「法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」場合である(最三小判昭和40年12月7日民集19巻9号2101頁)。
この度の案件は、外国籍の賃借人の所在調査のため連帯保証人へ連絡を取り、賃借人が日本に在住しない可能性が高いことまで調査したところは評価に値するが、裁判手続を待っていたら、居住物件に重大な影響が生じることを避けられないなど「緊急やむを得ない特別の事情が存する場合」とはいえない。
したがって、鍵の交換は自力救済の典型例であり、判決等の債務名義を得た上で実現するのが本来の筋であることから、本件のように法的根拠なく債務名義を得ずに鍵を交換したことは違法であると評価される可能性が高い。今後は安易に鍵を交換せず、建物明渡請求訴訟を提起するという正攻法で臨むべきである。
措置の内容
本件における鍵の交換については、公営住宅法第15条の規定による公営住宅の管理に関する基本理念等を踏まえ、施設管理者として、入居者が市営住宅の返還手続を経ずに無断で退去したとの事実認定に基づいて実施したものである。
監査の結果を受けて、入居者の無断退去等に係る鍵の交換が自力救済と判断される場合もあることを踏まえ、鍵の交換を行う場合には、自力救済による違法性が問われることのないよう引き続き入居者の無断退去等の事実認定を適切に行うこととし、当該事実認定に係る判断が容易でない場合には、必ず弁護士へ相談を行い、その見解を確認した上で慎重に判断をするよう令和6年3月に、関係職員への周知を図った。
6 監査の意見及び対応の内容
(1) 滞納家賃等に対する請求について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の意見
地方財政法第8条は「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない」と規定する。
これを受けて、広島市債権管理事務取扱規則第9条は「債権の管理に関する事務は、法令又は条例等の定めるところに従い、債権の発生原因及び内容に応じて、財政上もつとも市の利益に適合するよう処理しなければならない。」と規定している。
上記条項を前提として、広島市は、広島市市営住宅家賃滞納整理要綱(以下「整理要綱」という。)第12条第3項に「住宅政策課は、退去した滞納者で、前項の納付指導にも応ずることなく、滞納家賃を納付しないものについては、必要に応じて徴収停止又は法的措置等を講ずるものとする。」と規定している。上記条項に基づき、退去滞納者で滞納家賃等を納付しないものに対する法的措置の実施等について、市営住宅等から退去した滞納者に対する法的措置実施要領(以下「実施要領」という。)第4条に最終通告書を送付した後、納付期限までに滞納家賃等を納付しない者について、住宅政策課は(1)債務名義を取得している者について強制執行の申立て(ただし、税情報の調査等の結果、給与及び預貯金等の資産の差押えが可能であると判断した場合に限る。)、(2)債務名義を取得していない者について支払督促の申立て、という法的措置を実施すると規定している。
しかし、店舗利用している者が長期間家賃を滞納しているにもかかわらず、最終通告書が送付されず、引き続き利用している案件が存在する。また、市営住宅等から退去した家賃滞納者に対して、滞納家賃の納付指導を行ってから一定期間経過したにもかかわらず最終通告書を送付していない案件、住宅明渡しの断行を行った後に、滞納家賃を回収するための調査及び折衝を行っていない案件が散見される。
整理要綱第12条第3項にいう「必要に応じて」措置を講ずるには、措置を検討するための情報が必要であり、情報を得るための折衝や調査などが必要となる。折衝や調査などを長期間行わず、十分な情報を取得していない中で「必要に応じて」措置を講ずることは困難である。
また、同項は必要に応じて「徴収停止」又は「法的措置」その他の方法を採ることを講ずることを求めているのであり、静観して年単位で案件を放置することを容認する条項ではない。
したがって、長期間折衝や調査などをせず、必要な情報を得ることなく、年単位で案件を放置する対応は改善されることが望ましい。
いまだ施設を使用し続ける長期家賃滞納者に対して、速やかに、最終通告書を送付し、分割納付による家賃納付の申入れがあり、即決和解事務処理基準第2条に規定する前提条件を満たし、即決和解に移行できると判断した場合は即決和解を、それ以外は明渡等請求訴訟の提起をすることが望ましい(整理要綱第19条、第20条)。
退去家賃滞納者に対しては、納付指導に従わない者に対して最終通告書を送付、また債務名義を取得している場合で実施要領第4条第1項ただし書の要件を満たす場合は強制執行申立て(実施要領第4条第1項第1号)を、債務名義を取得していない場合は支払督促の申立等(実施要領第4条第2号)を行うことが望ましい。
また、名義人が外国籍で、入国管理局に外国人登録記録票等を請求しているが所在が判明せず、徴収見込みがないのであれば徴収停止を検討することが望ましい。
これらの処理を行うことなく、消滅時効を迎えて不納欠損処理を行う場合は、広島市債権管理事務取扱規則第9条に抵触する危険がある。さらに、確たる判断基準なく法的措置を行われる者と行われない者が生じることは行政の対応として公平性に欠けるものであり、望ましくない。
住宅政策課(以下「担当課」という。)が効率的に業務を行うために、優先順位を設けて滞納整理を進めることは理解できるが、整理要綱や実施要領などの規定に記載されている手続を遵守した上で行っていくことが望ましい。
なお、住宅明渡しの断行を行った後に滞納家賃を回収するために強制執行へ移行できていない主たる理由としては、退去時に家賃滞納者から「納付誓約書兼同意書」を取得できなかったことにより税情報の調査を行えず、強制執行の申立てそのものを検討できなかったからではないかと推察される(実施要領第4条、第5条)。そこで、税情報の調査を実行できるよう、入居時に作成する請書の「承諾事項」に、「家賃を5か月以上滞納した場合は税情報について広島市が調査・確認することに同意する」旨の条項を加えることを提案する。
対応の内容
監査の意見を受けて、各事項について、次のとおり対応することとした。
長期間折衝等が行われていないことへの対応については、最終折衝日から一定期間が経過している案件の抽出ができるように、令和5年3月に市営住宅総合管理システムの改修を行った。
そして、最終折衝日から2か月を経過している案件を毎月抽出し、当該案件についても引き続き折衝を行うことで長期間に及び対応を放置することがないようにすることとし、令和5年3月に、関係職員への周知を図った。
市営店舗を使用継続中の長期滞納者(以下「本件長期滞納者」という。)については、これまでの対応の経緯を考慮しつつ、法的措置への移行も視野に入れて本件長期滞納者との納付折衝を行うよう、令和6年8月に対応方針を改めた。
この対応方針に基づく納付折衝の結果、納付状況が改善されたこと等を勘案し、本件長期滞納者に当該市営店舗の使用を継続させたまま滞納分の店舗使用料に係る債権回収を図った方が、本市にとって徴収上有利であるとの判断に至り、当該債権については、任意の分割納付の方法によりその回収を行うこととした。
その上で、今後、納付状況が悪化した場合には、当該市営店舗の明渡等請求訴訟の提起を見据えた最終通告書の送付等の措置をとることとした。
市営住宅等からの退去後の滞納者については、税情報の調査を行うための本人同意が得られている場合において、1年以上にわたり滞納家賃等の納付に応じないときは、必ず本人の収入状況等を確認するために当該調査等を実施し、債権回収の可能性を確認した上で、最終通告書の送付及び適切な法的措置の実施の検討を行い、又は徴収停止の検討を行うようにすることとし、令和5年3月に、関係職員への周知を図った。
税情報の調査を行うことの入居者等の同意の取得方法については、退去時に「納付誓約書兼同意書」を提出させる現在の方法の他に、次の方法を加えるよう整理要綱を改正するとともに、事務処理方針を見直し、令和6年3月及び10月に、関係職員への周知を図った。
ア 即決和解時及び任意の分割納付の誓約時にも「納付誓約書兼同意書」を提出させることによる方法
イ 入居等の時にその申込者に提出させる「請書」の承諾事項に、家賃等を滞納した場合は、自らの税情報について本市が調査・確認することに同意する旨の条 項を加えた上で、これを提出させることによる方法
(2) 即決和解対象者による即決和解違反後の措置について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の意見
整理要綱第19条は最終通告前の折衝時又は最終通告書を送付した後に、家賃滞納者から分割納付による家賃納付の申入れがあった場合に、即決和解事務処理基準に沿って即決和解ができると判断した場合は、引き続き居住することを認め、簡易裁判所において即決和解することを規定している。
和解成立後は、分割納付又は当月分の納付につき3回以上の不履行があれば、即決和解事務処理基準第7条第1項及び第8条に従い、和解条項に沿って使用許可を取消し、明渡し及び滞納家賃の一括払いを求めることになる。
しかし、即決和解に違反した退去滞納者に対して、所在を特定したまま放置、納付を促す通知文を6か月余り繰り返し送付し続けている案件、即決和解分納納付書を送付したまま1年4か月余り放置している案件が存在する。
地方財政法第8条を受けて、広島市債権管理事務取扱規則第9条は「債権の管理に関する事務は、法令又は条例等の定めるところに従い、債権の発生原因及び内容に応じて、財政上もつとも市の利益に適合するよう処理しなければならない。」と規定している。滞納家賃について広島市の利益に最も適合する処理は滞納者からの回収である。
一方、適正な債権管理を怠った結果、債権を時効により消滅させた場合、公金の徴収や財産管理を怠ったものとして、住民監査請求や住民訴訟の対象となる可能性がある。それを避けるために、債権管理事務は適正確実に処理されなければならない。
このことは、即決和解違反者に対しても同様である。即決和解違反者の所在を特定しただけで納付指導を行わないこと及び納付を促す通知文を繰り返し送付したり、即決和解分納納付書を送付したりしても支払がないことでとどめることは適正かつ確実な債権管理事務とはいい難い。実施要領第3条及び第4条に従い、最終通告書の通知及び適切な法的措置の検討を行うことが望ましい。
対応の内容
監査の意見を受けて、市営住宅等から退去した即決和解違反者のうち、1年以上にわたり納付に応じない者については、必ず本人の収入状況等を確認するために税情報の調査等を実施し、債権回収の可能性を確認した上で、最終通告書の送付及び適切な法的措置の実施の検討を行い、又は徴収停止の必要性の検討を行うようにすることとし、令和5年3月に、関係職員への周知を図った。
(3) 不納欠損処理を行う時期について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の意見
不納欠損は既に調定された歳入が徴収し得なくなったことを表示する決算上の取扱いであるから、時効により消滅した債権等について行うべきである(行政実例昭和27年6月12日)。不納欠損を行うことで回収可能性がある債権の存在を適切に把握することができることから、適切な時期に不納欠損処理されることが望ましい。
しかし、名義人の行方を調査したものの、その行方が不明である案件について、最終納付日から10年以上経過しているにもかかわらず、そのまま放置されている案件、折衝状況票における「折衝状況」に平成31年6月17日に消滅時効が成立すると記載されたまま残存している案件、平成31年5月29日に消滅時効が成立すると記載されたまま残存している案件が存在する。
さらに、平成24年に破産開始決定通知を受領した案件がいまだ残存している。
担当課からは、
【1】最終納付から10年以上経過しているにもかかわらず、そのまま放置されているとする案件は、平成22年に即決和解に伴う分割納付を開始し、まだ納付期限から10年経過していない債権があり、順次消滅時効完成により不納欠損しているもので、放置している事実はない。
【2】平成24年に破産開始決定通知を受領した案件については、提訴に伴う債権で、破産手続で債権届出書を平成24年に提出しており、今年度以降に不納欠損処理すべきもので、問題ない。
との説明がなされた。
即決和解事務処理基準第3条第1項第4号は、和解納付分家賃等又は当月分家賃等のいずれかの納付について3回以上不履行があった場合は期限の利益を失い、未払残額を一時に納付し、使用許可取消日までに滞納した当月分の家賃を納付する旨規定している。【1】の案件においても上記条項に従った和解調書が作成されている。その上で、【1】の案件は退去後3回以上不履行があったことから、同号に基づき、期限の利益が喪失しており、滞納者は一時に納付することになる。
したがって、期限の利益が喪失した日から滞納家賃全てについて消滅時効が進行するのであり、分割された債務につき順次消滅時効が完成していくことはない。
また、【2】については、監査の結果「家賃滞納者が破産し免責決定を受けた際における債務の決算上の処理方法について」で指摘したとおり、免責許可決定がなされたことにより自然債務(消滅時効の進行を観念することができない債務)となった債務に対する処理として債権管理事務マニュアル(以下「マニュアル」という。)違反であり不適切である。
したがって、消滅時効が成立し得る債権は5年又は10年経過後、債権を放棄すべき債権は議会の議決により債権放棄した後、速やかに不納欠損処理することが望ましい。なお、公平性の観点から、安易な不納欠損処理は行うべきではなく、滞納家賃に対する回収は適切に行うことが望ましい。
対応の内容
監査の意見を受けて、次のとおり対応を行った。
ア 事務処理について
不納欠損処理の際に使用するマニュアル(時効起算日の認定方法)について、即決和解違反に伴い期限の利益が喪失した場合における時効起算日の認定方法及び滞納者の破産により免責の対象となった債権の不納欠損処理前には議会の議決を得ることによりその権利の放棄を行う必要があることなどを明記した上で、関係職員への周知を図った。
また、最終折衝日から2か月を経過している案件を抽出し、当該案件について引き続き折衝を行うことで長期間に及び対応を放置することがないようにするとともに、市営住宅等から退去した即決和解違反者のうち、1年以上にわたり納付に応じない者については、必ず本人の収入状況等を確認するために税情報の調査等を実施し、債権回収の可能性を確認した上で、最終通告書の送付及び適切な法的措置の実施の検討を行い、又は徴収停止の必要性の検討を行うことにより、安易に不納欠損処理を行うことがないように取り組むこととした。
イ 個別案件への対応について
監査の意見に記載の案件を含め、最終納付日から10年以上が経過している案件で、和解条項の3回以上の不履行による期限の利益の喪失に伴い消滅時効が完成しているものについては、令和5年3月に不納欠損処理を行った。
また、平成24年に破産開始決定通知を受領した案件については、債権放棄をするまでは、不納欠損処理を行わないこととした。
(4) 消滅時効の管理事務について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の意見
(1)に記載のとおり、地方財政法第8条、これを受けた広島市債権管理事務取扱規則第9条を踏まえると、滞納家賃について広島市の利益に最も適合する処理は滞納者からの回収であるといえる。また、適正な債権管理を怠った結果、債権を時効により消滅させた場合、公金の徴収や財産管理を怠ったものとして、住民監査請求や住民訴訟の対象となる可能性がある。これらのことから、債権管理事務、特に消滅時効の管理事務は適正確実に処理されなければならない。
現在、担当課における滞納家賃等に対する消滅時効は{1}消滅時効成立後における不納欠損処理する際に確認している。また、時効成立を確認する目的で行ってはいないものの、{2}毎月「滞納者一覧表」をシステムから出力して、その一覧表で滞納開始年月や最終納付日などにより、不納欠損の成立が近いものなどは時効起算日の確認や納付折衝を行うなどしている。
上記{1}及び{2}の確認は消滅時効の管理という目的では行われておらず、その結果、最終折衝日から相当期間が経過しているものの対応が放置されている案件が散見されている。この状況をもって適正確実な債権管理事務がなされているとはいい難い。
これらのことから、時効成立時期の確認を主たる目的とした債権管理事務も行うべきであり、当該事務処理により消滅時効が成立しそうな案件が抽出された際は折衝、訴訟提起など適切な処理をとることが望ましい。
上記債権管理事務の一例として、毎月「滞納者一覧表」をチェックする際に、最終折衝日から90日以上経過している案件を抽出するという方法を検討されたい。
対応の内容
監査の意見を受けて、最終折衝日から一定期間が経過している案件の抽出ができるよう令和5年3月に市営住宅総合管理システムの改修を行った。
その上で、最終折衝日から2か月を経過している案件を抽出し、当該案件について引き続き折衝を行うことで長期間に及び対応を放置することがないようにするとともに、消滅時効の完成時期が迫っている案件が抽出された場合には、最優先で折衝等を行うこととし、関係職員への周知を図った。
(5) 滞納家賃への一部弁済における消滅時効の起算点について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の意見
即決和解成立又は訴訟提起による判決取得後に、債務者から滞納家賃に対して一部弁済があった場合、一部弁済が債務の「承認」に当たることから残債務全体について時効の更新が行われる(民法第152条第1項)。
担当課からの正式な回答は上記見解どおりであり、この限りにおいては、担当課の理解としては十分と考えられる。一方で、上記(3)【1】のとおり、担当課が期限の利益が喪失し分割された債務について「順次消滅時効完成により不納欠損している」と回答していることから、時効の更新に関する理解が不十分であるように見受けられる。
職員全体で共有するため、上記見解を「不納欠損処理の際に使用するマニュアル(時効起算日の認定方法)」に明記することが望ましい。
対応の内容
監査の意見を受けて、令和5年3月に、「不納欠損処理の際に使用するマニュアル(時効起算日の認定方法)」について、即決和解成立後又は明渡等請求訴訟の確定判決後の滞納家賃の一部納付が債務の承認に当たるため、当該滞納家賃に係る残債権の全体について時効の更新が行われることなどを明記することとし、関係職員への周知を図った。
(6) 退去滞納者等との折衝期間の間隔について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の意見
(1)記載のとおり、地方財政法第8条、これを受けた広島市債権管理事務取扱規則第9条を踏まえると、滞納家賃について広島市の利益に最も適合する処理は滞納者からの回収である。そして、滞納者から回収するためには、滞納者の現状を把握するとともに、滞納者へ滞納の事実を認識させることが重要である。
しかし、家賃滞納者又はその相続人との最後の折衝より1年から3年ほど経過している案件が散見される。
滞納者からの債権回収が困難であると判断し得る合理的な理由がない限り、滞納者への折衝又は調査などは断続的に行うことが望ましい。
各折衝又は調査など毎の間隔としては、整理要綱第26条に年4回滞納整理強化月間を設けて納付指導等を実施する旨が規定されていることから、最終折衝日から90日以上経過することがないようにすることが望ましい。
対応の内容
監査の意見を受けて、最終折衝日から一定期間が経過している案件の抽出ができるよう令和5年3月に市営住宅総合管理システムの改修を行った。
その上で、最終折衝日から2か月を経過している案件を抽出し、当該案件について引き続き折衝を行うことで長期間に及び対応を放置することがないようにすることとし、令和5年3月に、関係職員への周知を図った。
(7) 「滞納請求しない」とした事例における当該判断の根拠及び妥当性について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の意見
地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法第240条、地方自治法施行令第171条から第171条の7までの規定によれば、客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず、原則として、地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない。
例外的に、「債権金額が少額で、取立てに要する費用に満たないと認められるとき」に該当し、これを履行させることが著しく困難又は不適当であると認めるときは、以後その保全及び取立てをしないことができるものとされている(地方自治法施行令第171条の5第3号)(最二小判平成16年4月23日民集58巻4号892頁)。
つまり、滞納家賃を回収することは地方公共団体が有する債権の管理であることから、回収可能性及び費用対効果等の観点に基づき、債権回収を行うか否かを決めることが求められているといえる。
一方で、折衝状況票の「折衝状況」に、特段、退去滞納者に対して請求を断念した理由を記載することなく、同日に「滞納請求しない」と記載して滞納家賃の回収を中止している案件が散見される。
「滞納請求しない」と判断する場合はその根拠を明示すべきであり、仮に、回収可能性及び費用対効果等以外の理由により「滞納請求しない」と判断している場合は、「地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない」(最二小判平成16年4月23日民集58巻4号892頁)ことに抵触するものであり、差し控えることが望ましい。
対応の内容
監査の意見において、折衝状況票に特段理由を記載することなく「滞納請求しない。」と記載した案件については、「慎重な対応が必要であるので不用意な滞納請求をしないこと」との趣旨であったが、誤解を生じさせる記載であったため、今後、このような記載を行うことのないよう、令和5年3月に、関係職員への注意喚起を行った。
(8) 退去滞納者の相続人に対する調査について(市営住宅家賃等)
(所管課:都市整備局住宅部住宅政策課)
監査の意見
(1)記載のとおり、地方財政法第8条、これを受けた広島市債権管理事務取扱規則第9条を踏まえると、滞納家賃について広島市の利益に最も適合する処理は滞納者からの回収である。一方、適正な債権管理を怠った結果、債権を時効により消滅させた場合、公金の徴収や財産管理を怠ったものとして、住民監査請求や住民訴訟の対象となる可能性がある。それを避けるために、債権管理事務は適正確実に処理されなければならない。
もっとも、現状では、退去滞納者が死亡した後に相続人の調査を途中で打ち切っている案件が散見される。また、相続人の調査を行わず、消滅時効を迎えて不納欠損処理を行っている案件も存在する。
家賃滞納者が死亡した場合、家賃滞納分の債務は相続人へ相続されることから、相続人を調査した上で、相続人へ債務の弁済を求めるべきである。その調査を合理的な理由なく打ち切ることは望ましくなく、仮に調査を打ち切るのであれば、その理由を十分検討した上で、折衝状況票の「折衝状況」に記載することが望ましい。
また、相続人が行方不明であることを理由に調査を打ち切る場合は徴収停止の手続も併せて検討することが望ましい(マニュアル82、83頁)。
それにもかかわらず、相続人への十分な調査を行うことなく、滞納家賃を時効により消滅させてしまった場合は「怠る事実」(地方自治法第242条第1項)があったと評価される可能性がある。
対応の内容
監査の意見を受けて、死亡した滞納者の相続人に対する調査を十分に行うため、専任の担当者を設置して体制を整備した。
その上で、調査を行った結果、相続人が行方不明であることや被相続人が外国籍であることなどが原因で調査の続行が困難な場合には、市営住宅総合管理システム内の「折衝状況」欄にその旨を記載するとともに、徴収停止の検討を行うこととし、令和5年3月に、関係職員への周知を図った。
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