広島市と畜場における地方病性牛白血病の抗体保有状況とその発生
広島市食肉衛生検査所
大川育之 阿部恵子 太田垣寧 佐伯幸三 瀬尾和範
要約
平成17年4月から18年8月までに広島市と畜場に搬入された牛について、地方病性牛白血病の発生状況および抗体保有状況を調査した.抗体調査を実施した331頭中、抗体陽性牛は112頭(33.8%)で、このうち本疾患と診断され全廃棄になったものは8頭であった.年齢別にみると、2歳齢以下の牛でも27.3%と高い抗体陽性率を示し、発生頭数、抗体陽性率ともに上昇傾向がうかがえた.
序文
地方病性牛白血病は、牛白血病ウイルス(BLV)による感染症で、と畜検査現場でも多発性腫瘍などとともにしばしばみられる疾病である.感染様式は節足動物による吸血や汚染器具等による水平伝播、もしくは垂直伝播によると考えられている1).感染牛の多くは不顕性といわれる2)が、BLVに感染した牛は抗体が陽転しても体内から排除されず、持続感染状態となり、病態が進むと感染牛の約30%が、リンパ球増多ないしは持続性リンパ球増多症を示す.さらに病体が進行すると最終的に感染牛の2~3%が発症するといわれており3)、発症した牛は全部廃棄の対象となるため、畜産農家への影響は大きく、BLVの蔓延は重要視されている.近年、広島市と畜場において、牛白血病又は悪性リンパ腫で全部廃棄となる事例が増加してきた.そこで、今回、広島市と畜場における発生状況を整理するとともに、搬入された牛331頭の抗体保有状況調査を行ったので報告する.
材料及び方法
平成17年4月から平成18年8月までに、広島市と畜場に病畜として搬入された牛および生体検査で精密検査が必要と判断し採血を実施した牛、さらに解体後の検査で多発性腫瘍を疑いその検査に供した牛、計331頭の血清について調査した.
抗体価の検査は受身赤血球凝集反応法(牛白血病抗体アッセイキット「日生研」)により実施した.判定は、測定キットの使用法に従い、定性試験、定量試験及び阻止試験を行い、抗体価16倍以上のものを陽性とした.
成績
検査した牛331頭のうち、抗体価が陽性であったものは112頭であり、陽性率は33.8%であった.このうち病理学的に牛白血病と診断し、全部廃棄された牛は8頭であった.(表1)
8頭中7頭で心臓に腫瘍病変を認めた.
○:軽度病変 ◎:重度病変

また、その他ほとんどの症例では、消化管や胸部リンパ節に腫瘍病変を認めたが(表2)、中には心臓と第4胃の小病変のみの症例も存在した。(写真1)
抗体陽性率を年度別に集計すると、平成17年度は204頭中、陽性牛が59頭で陽性率は28.9%、平成18年度は127頭中、陽性牛は53頭で陽性率は41.7%であった。また、好発年齢といわれる3歳齢4)で区切り、年齢別に集計すると3歳齢を超えるものでは37.9%であったが、2歳齢以下の牛でも27.3%もの抗体陽性率を示していた。品種別の集計では、ホルスタイン種37.9%、交雑種26.7%、黒毛和種8.8%であった。(表3)
抗体陽性牛のうち、発症する可能性が高いとされている5)、抗体価256倍以上のものは全体で46.4%であり、2歳齢以下でも、45.7%の牛が256倍以上と、高い抗体価を持つものが見られた。(図1)
地方病性牛白血病発症牛の8頭のうち7頭が512倍以上の高い抗体価を示し(図2)、1歳7ヶ月齢という若齢での発症も見られた。(表2)
考察
牛白血病は、平成10年に届出伝染病に指定されて以来、全国的に発生頭数が増加してきているといわれている3).平成元年4月から平成18年8月までに広島市と畜場に搬入され、牛白血病と診断された牛を、年度ごとに、100万頭あたりの発生頭数に換算し、比較した.平成元年度から平成12年度までは、100前後で推移してきたが、平成13年度以降は増加傾向がみられ、平成17年度は406.1、平成18年度は980.9と、大幅に増加していた(図3).抗体陽性率も、平成17年度と比較すると平成18年度は増加しており、ウイルス汚染の拡大傾向が示唆された.
地方病性牛白血病の好発年齢は、3歳齢以上(とくに5歳齢から8歳齢)といわれている4).今回の調査でも、発症牛8例中7例が3歳齢以上の牛であった.しかし、3歳齢以下の若齢での発症牛や高い抗体価を保有する牛も多く認めたことから、早期での感染が疑われ、年齢に係わらず注意が必要と考えられる.品種別の抗体陽性率は、乳用牛に比べ、肉用牛の方が高いとされている4).今回、広島市では、黒毛和種に比べ、ホルスタイン種、F1が高い陽性率を示した.ホルスタインに関係した飼養形態や環境などの何らかの要因が関与しているのではないかと考えられた.高橋ら5)の調査では、発症牛のほとんどが256倍以上の抗体価を示していたが、今回私達の調査でも、発症牛の8頭中7頭は、512倍以上の高い抗体価を示していた.しかし、128倍で発症した事例や、腫瘍病変が数少ない事例、また小病変で見落としやすい事例も見られることから、今後は、牛白血病が増加している現状を念頭におき、搬入されると畜の検査の際には十分注意を払う必要がある.そのため、抗体価の検査結果を、できるだけ生体検査のデータとして活用できるように検査体制を整備し、地方病性牛白血病の確実な診断に努めていきたい.また、発症牛や抗体陽性牛等の情報を可能な限り畜産現場にフイードバックし、地方病性牛白血病の減少につなげていければと考えている.
文献
- 小沼操:BLV伝播とその清浄化、臨床獣医、22(3)、15~19(2004)
- 日本獣医病理学会編:動物病理学各論、第1版83~84、文永堂出版、東京(1998)
- 小沼操:BLV感染と病態発現、臨床獣医、22(3)、10~14(2004)
- 小山弘之:獣医伝染病学、第3版、104~106、近代出版、東京(1992)
- 高橋壮一郎ら:地方病性牛白血病の検出状況と牛白血病ウイルス抗体調査、神奈川県食肉衛生検査所平成12年度事業概要(2000)
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