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「都心居住ガイド」 第3章 豊かで魅力ある都心居住の実現(1)
1 「住みやすさ」とは?
(1) 居住ニーズに合った住宅であること
個人の価値観の多様化やライフスタイルの変化の中で、多様な居住ニーズに合った質の高い住宅や住環境が供給・整備され、必要に応じて適切に選択できるようになることが望まれます。
子育て世帯には、広い居住スペースや安全な住環境、子どもを安心して遊ばせることのできる*1プレイロット、児童室(キッズルーム)や集会室等子育てに配慮したコミュニティ施設の整備が必要となります。
一般的に、マンションの高層階の居住者ほど外出が少なくなると言われています。また、子育て世帯では、外出不足が親子の過度な心理的密着を生み、子どもの自立が遅れるなど子どもの成長に影響を及ぼすとの指摘があります。プレイロット等の施設が活用されることにより、マンション内外のコミュニケーションの活性化が図られるとともに、外出の機会が増えることも期待できます。
また、マンションの購入等にあたっては、子どもの成長に応じた通学や医療機関への通院などについても、あらかじめ考慮しておくことが必要です。
広島市には、都心やその周辺部で中堅所得ファミリー世帯向けの良質な賃貸住宅の供給を目的として、世帯の所得に応じて民間賃貸住宅の家賃の一部を助成する「*2広島市特定優良賃貸住宅」や広島市が建設し供給している「*2特賃住宅」があります。
また、市営住宅の入居に際し、ひとり親世帯、多子世帯等に対して当選率を優遇する制度があります。
住宅金融支援機構では子育てファミリー向け賃貸住宅の建設にあたり、事業者を対象に融資する「子育てファミリー向け賃貸住宅融資制度」があります。
高齢者世帯には、バリアフリー化された居室や生活利便性の良い住環境が必要となります。
広島市では、高齢者の在宅生活を支援するため、高齢者福祉施設を併設した「*3高齢者向けケア付住宅(シルバーハウジング)」があります。この住宅は、高齢入居者の生活面の不安に応えるため、ライフサポートアドバイザー(生活援助員)による安否確認や生活相談等に応じるものです。
また、広島市は、高齢者の方が安心して居住できる民間賃貸住宅を「*4高齢者向け優良賃貸住宅」として認定しています。その一部の住宅について、現在、家賃の一部を補助しています。
広島県では、高齢者の方の入居を拒まない民間賃貸住宅を「*5高齢者円滑入居賃貸住宅」として、また、専ら高齢者を賃借人とする賃貸住宅を「高齢者専用賃貸住宅」として、それぞれ登録しており、この登録簿を広島市都市整備局住宅部住宅政策課(以下、「広島市住宅政策課」という。)や区役所建築課で閲覧することができます。
(財)高齢者住宅財団では、「高齢者円滑入居賃貸住宅」や「高齢者専用賃貸住宅」をホームページで公表しています。
最近では、それぞれの入居者のニーズに応じた快適な空間づくりのため、設計の段階から入居者同士が話し合って決める「*6コーポラティブハウス」、複数の世帯がお互いに支え合い、安心して暮らせる住宅として居間や台所等の生活の一部を共同利用する「*7コレクティブハウス」や、一人暮らし高齢者が一緒に居住する「*8グループリビング」等があります。
これらの住宅は、入居後お互いに支え合っていく上で必要なコミュニティの活性化にも有効なものとなります。
一方、マンションは多様な世帯が集まって居住するものであることから、例えば、隣の住戸や上下階の住戸との遮音対策や防犯対策、火災時の対策等についてもきちんと把握しておくことが重要です。
安心して快適に暮らすためには、入居者がマンションの住宅性能や居住環境の水準について理解した上で、自分のライフステージやライフスタイルに合わせて、希望する性能等を有する住宅を適切に選択することが重要となります。
住宅の性能については、「*9住宅の品質確保の促進等に関する法律」(以下「品確法」という。)に基づく住宅性能表示制度に、10項目の住宅性能(P25表1参照)が示されています。住宅性能が等級や数値で表示されているため、いろいろな住宅を同じ基準で比較することができます。
また、国が平成18(2003年)年9月に定めた「*10住生活基本計画(全国計画)」には、住宅の居住室の構成等を示す「基本的機能」(P25表2参照)、良好な居住環境の確保のための指針となる「居住環境水準」(P25表3参照)及び世帯人数やライフスタイルに応じた住宅の面積の目安となる「居住面積水準」(P26表4参照)が示されていますので参考にしてください。
(2)*11バリアフリーや*12ユニバーサルデザインに対応していること
広島市において持家の共同住宅は、居住者の5割(注1)を超える人たちが住み続けたいという意向を持っており、「終の棲家」として定着し始めています。高齢化社会において、誰もが快適に不自由なく生活できる住宅や住環境が整備されていることが望まれます。(注1)平成15年(2003年)住宅・土地統計調査より
厚生労働省の平成15年(2003年)人口動態統計によると、住宅内の事故死者のうち約7割が65歳以上の高齢者となっています。
また、平成15年(2003年)の住宅・土地統計調査によると、手すりの設置や段差の解消等、何らかの高齢者等のための整備が行われている住宅は全体の約37%となっています。
これからの住まいは、高齢になっても、身体に障害が生じても、基本的にそのまま安心して住み続けることができるよう、住宅内や敷地内の段差等の物理的障害をなくするためのバリアフリー対応に取り組むことが必要です。
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ユニバーサルデザインとは、バリアフリーの考え方を発展させたもので、すべての人ができる限り使いやすいデザインを考えていこうとするものです。
これらを実現させるために、「*13高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」、「*14広島県福祉のまちづくり条例」や「広島市公共施設福祉環境整備要綱」が制定され、設計に関する基準が示されています。
広島市では、介護保険の住宅改修費支給制度の補完として、高齢者が居住する住宅を改造するために必要な費用について補助する「広島市高齢者住宅改造費補助」、市内に居住し一定の要件に該当する障害者の方が居住する住宅を改造するために必要な費用について補助する「広島市障害者住宅改造費補助」や低利で貸付けを行う「広島市障害者住宅整備資金貸付」の制度があります。
マンションのリフォームを考えている方が、工事を依頼しようとする事業者を確認したり、相談できる事業者を選ぶ時に参考にしていただける住宅リフォーム支援者名簿(編集・発行:(財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター)があり、広島市住宅政策課において閲覧することができます。
また、広島市住宅政策課では、住宅のバリアフリー化やリフォーム等について、建築士による住宅相談(無料)を毎月開催していますのでご利用ください。住宅リフォームに関する情報ネットとして「リフォネット」があります。この小冊子を広島市住宅政策課等で配布しています。
なお、マンションでリフォームを行う場合には、管理規約上の制限を伴うことがありますので注意が必要です。
(3) 耐震性能が確保されていること
昭和56年(1981年)5月以前の古い耐震基準で設計された建築物は、現行の*15建築基準法の耐震基準に適合していない可能性があるため、すみやかに耐震診断を行い、その診断結果に基づき必要な耐震補強を行うことが望まれます。
近年のわが国の地震の発生状況をみると、大地震は、いつ、どこで発生してもおかしくない状況にあります。
地震による人的・経済的被害を軽減するためには、建築物1棟ずつの耐震性能が確保されているとともに、居住者一人ひとりが自分の財産や家族の生命を守るという意識、賃貸マンションの管理者には他人の生命・財産を預かっているという意識が重要です。
昭和56年(1981年)6月から新しい耐震基準が施行されましたが、平成15年(2003年)の住宅・土地統計調査によると、広島市における昭和55年(1980年)以前に建設された住宅の割合は、全住宅の約34%となっています。(全国平均約38%)
建築物の耐震改修の促進に関する法律(以下「耐震改修促進法」という。)には、*16特定建築物(賃貸の共同住宅等)の所有者は、建築物が現行の耐震基準と同等以上の耐震性を確保するよう耐震診断や耐震改修に努めることが定められています。平成17年(2005年)11月には耐震改修促進法が改正され、計画的な耐震化の促進(平成27年度(2015年度)までに住宅の耐震化率9割を目標)や建築物の所有者等に対する指導等の強化等について定められました。
広島市では、住宅政策課、建築指導課及び区役所建築課で、住宅の耐震診断等について相談を行っていますのでご利用ください。
また、住宅政策課では、平成18年度(2006年度)から、一定の条件を満たす住宅の耐震診断費用の一部を補助する制度を始めるとともに、耐震診断を行う資格者についても広島市-耐震診断資格者についてホームページ等で公表しています。
ご自分のマンションの耐震性を確認される場合は、(財)マンション管理センターがホームページでチェックフロー図等を公表していますので参考にしてください。
(財)日本建築防災協会では、建築物所有者・管理者の耐震診断・耐震改修の一層の促進を図るため、既存建築物の耐震診断、耐震改修設計業務を行う建築士事務所をホームページで公表しています。
(4) 健康対策がなされていること
健康で快適に生活できる住まいづくりのために、室内は*17シックハウス対策、結露対策等が施されていることが重要です。
シックハウス対策
近年、住宅の内装や家具等から発生する化学物質等による健康への影響(シックハウス症候群)が問題となっています。このため、平成15年(2003年)7月から建築基準法でホルムアルデヒド等の化学物質を含む建材等の使用が制限されるとともに、居室への換気設備の設置が義務付けられています。
住宅リフォーム推進協議会では、リフォームのシックハウス読本等シックハウスに関する情報をホームページで公表しています。
結露対策
住宅内においては、結露等の水分から、カビ等の菌が繁殖しやすくなります。壁や窓の結露は、温度の高い空気中に含まれる水蒸気が、外気に接している窓ガラス等の冷えた部分で冷却され、気体のままでは留まっていられなくなって発生するものです。
結露対策は、このような結露のしくみを理解し、室内の換気を適切に行うことや住宅の断熱性を高めることが重要になります。
近年では、結露が起こりにくい外断熱工法等が開発されています。外断熱工法は、外壁の外周部を断熱材で覆う工法で、室外の気温が下がった場合も外壁自体の温度がそれほど下がらないため、壁の温度変化が少なく室内温度は安定し結露が起こりにくくなります。
*18アスベスト対策
平成17年(2005年)6月末の新聞記事を契機に、アスベストによる健康被害が大きな社会問題となっています。空気中に浮遊したアスベスト繊維を吸引すると健康への影響が生じるといわれています。建築物の耐火被膜材等に使用されている吹付けアスベストは、損傷や劣化により、その粉じんを飛散させるおそれがある時は、除去、封じ込め、囲い込み等の適切な措置を講じなければなりません。
広島市や広島県では、アスベストに関する相談窓口を設けるとともに、アスベストに関する情報を広島市-アスベスト(石綿)に関する相談窓口等ホームページで公表しています。
(5) 防犯対策がなされていること
居住者が安全で安心して暮らせる地域社会を実現するためには、犯罪の起こりにくいマンションの整備が重要です。
広島市では、「広島市安全なまちづくり推進条例」に基づき、犯罪の起こりにくい安全なまちづくりの総合的かつ計画的な推進を図るため、平成18年(2006年)12月に「広島市安全なまちづくりの推進に関する基本計画」を策定しています。
マンションの新築や改修時には、住宅への侵入や敷地内で発生する犯罪を防止するため、必要な防犯対策を計画し、将来にわたり安全で安心して住み続けられる防犯性に優れた住宅とすることが重要です。マンションにおける防犯対策は、ハード面の整備とソフト面の取組の両輪による対策が必要です。
ハード面の整備
共用部分の設備として、防犯カメラの設置、エントランスのオートロック化、窓付きエレベーターの整備等があります。
専用部分に関わるものとしては、玄関ドアの対策(防犯性の高い鍵への交換、二重錠等)、窓ガラスの対策(*19合わせガラス、面格子等)、*20ホームセキュリティシステムの導入等があります。既にマンションにお住まいの方も、どんな改善の余地があるのか点検することが大切です。ハード面の整備に際しては、「減らそう犯罪」ひろしま安全なまちづくり推進条例に基づき広島県が作成した「*21防犯指針」や警察庁や国土交通省等で構成する合同会議から公表されている「防犯性能の高い建物部品の目録(CPマーク)」が参考になります。
また、平成18年(2006年)4月から住宅性能表示制度において、新たに「防犯(開口部の侵入防止対策)」の項目が追加されました。
(社)広島県防犯連合会では、犯罪に遭いにくい構造・設備の基準を満たしていると認められるマンションを「防犯モデルマンション」として登録して、防犯意識の高揚と犯罪防止を推進しています。
ソフト面の取組
防犯対策には、良好なコミュニティの形成も重要な要素となります。居住者の交流を図り、相互の情報交換が活発に行われることで、不審者を発見しやすく、また、犯罪を行おうとする者が近寄りにくい環境を形成することとなります。
具体的には、あいさつ運動、掲示板等による犯罪情報の周知、地域住民との共同防犯パトロール等、地域ぐるみでの防犯対策の取組が効果的です。
(6) 建設にあたり、近隣住民との話し合いがなされていること
私たちは、共同社会の中で生活しています。そのため、お互いに何らかの影響を常に与え合うことになります。地域ごとに定めてある建築物の建設に関する制限や地区の特性を理解し、快適な都市生活を営むことが望まれます。
土地の合理的な利用を図るため*22都市計画法に基づき、地域ごとの用途地域や建築物の規模を制限する容積率等を定めています。
また、建築基準法は、建築物の個々の安全性や居住性を一定レベル以上に保つことを目的とする法律で、都市における安全で合理的な秩序を確保するための規定が定められています。
例えば、建築物の高さに関する規制としては、都市計画法に定める容積率や地区計画に定める高さ制限、建築基準法に定める道路斜線や日影規制(建築物が隣地におとす影の時間制限)があります。なかでも、建築物の日影について、夏と冬では太陽の高さが異なり、冬の日影の長さの方が長くなるので注意が必要です。
*図を拡大したい場合は、こちらをクリックしてください。<拡大図>
建築物は、これら都市計画法や建築基準法等に基づき、地域の各種の制限に適合して建設されることになります。
マンションを購入しようとされる方は、建設される敷地の用途地域による土地利用制限、建築物の高さの制限及び日影規制等を事前に調査するとともに、敷地の周辺に駐車場等の低・未利用地がある場合は、将来、建築物が建設される可能性があることも考慮しておくことが重要となります。
一方、建築物を新たに建設される方は、事前に近隣の方に対しこれらの制限等に係る計画の内容について十分に説明を行い、建築紛争を未然に防ぐことが重要です。
また、地区の居住環境を良好なものとするため、一定の地区を定め、法律で規定する制限に加えて、用途の制限や壁面後退の制限等のきめ細かな制限を、皆さんで考えて定めることができる*23地区計画制度や*24建築協定制度及び緑化等について定めることができる*25緑地協定制度があります。これらの制度を活用して良好な居住環境を形成・維持していくことができます。
広島市では、「広島市中高層建築物の建築に係る紛争の予防および調整に関する条例」(以下「中高層条例」という。)や「広島市共同住宅型建築物に関する指導要綱」を定め、建築主や設計者による近隣住民の方への事前説明を通じ、建設前の話し合いによる紛争の未然防止に取り組んでいます。
また、「中高層条例」に関して「住みよいまちは、お互いの話し合いから~建築紛争の防止と解決に向けて~」を作成し、広島市-中高層建築物に関する条例・規則ホームページで公表していますので、参考にしてください。
(7) 良好なコミュニティが形成されること
マンション内にコミュニティ活動を行う場を積極的に整備することにより、居住者間や地域住民との交流を盛んにし、相互理解が図れるような良好なコミュニティが形成されることが望まれます。
日常的なトラブルの未然防止やマンションの大規模修繕工事等維持管理の円滑な実施など、安心して快適な生活を送るためには、コミュニティの形成が重要となります。
コミュニティの形成を促すためには、居住者の憩いや語らいの場として、マンションの一部に集会所、屋外広場等のオープンスペースや樹木や草花の植栽スペースを整備することが有効です。
一方、入居後のコミュニティの形成に大きく寄与する「コーポラティブハウス」や「コレクティブハウス」といった参加型の住宅建設の手法もあります。
また、バランスの良いコミュニティを形成し、地域活動を活性化させるためにも、多様な世帯の居住(コミュニティ・ミックス)ができるような住戸を計画することが望まれます。
広島市では、平成17年(2005年)2月に策定した「ひろしま都心ビジョン」の中で、「住みよい都心づくり」を基本方向の一つに定め、多様な世帯の生活様式に対応した居住の推進を図ることとしています。
関連情報
- 「都心居住ガイド」
~マンションに住まわれる方、マンションを建設される方へ~ - 「都心居住ガイド」 -目次-
- 「都心居住ガイド」 第1章 都心居住ガイドの目的
- 「都心居住ガイド」 第2章 快適な都市生活を送るために
- 「都心居住ガイド」 第3章 豊かで魅力ある都心居住の実現(2)
- 「都心居住ガイド」 第3章 豊かで魅力ある都心居住の実現(3)
- 「都心居住ガイド」 第3章 豊かで魅力ある都心居住の実現(4)
- 「都心居住ガイド」 第4章 地区別のモデルプラン
- 「都心居住ガイド」 別表
- 「都心居住ガイド」 用語解説
- 「都心居住ガイド」 問合わせ先