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ページ番号:0000307976更新日:2022年12月1日更新印刷ページ表示

衛研ニュース/結核菌とBCGとの鑑別検査について

結核とは

 結核は、結核菌に感染することで引き起こされる病気です。毎年全国で1万人以上が新たに感染しており、広島市でも約100人の新規感染者が発生しています。結核と聞くと、咳やたんなどの症状が出る肺の病気というイメージが強いかもしれませんが、実際は肺だけでなく、リンパ節、骨、腎臓、脳など全身に影響が及ぶことがあります。また、抵抗力の弱い乳幼児が感染すると、全身性の重篤な結核症になることもあり、特に注意が必要です。
・結核について(広島市) https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/72/2932.html

 結核は感染症法において二類感染症に分類されていますので、診断した医師は直ちに保健センターへ届出を行わなければなりません。患者には保健センターによる入院勧告や就業制限が行われ、接触者に対する健康診断も実施されます。
 結核を予防するワクチンとしてBCGワクチンがあり、わが国では生後1歳になるまでに接種することとされています。BCGワクチンを接種することで、小児における結核発症や全身性の結核症の予防効果が期待できます。
・子どもの予防接種について(広島市) https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/72/2952.html

BCGワクチンとは

 BCGワクチンは、結核菌とは別の種類であるウシ型結核菌を長い時間をかけて弱毒化したBCGという菌を使用している生ワクチンです。BCGという名称は、このワクチンを開発したフランスにあるパスツール研究所の研究者の名前に由来していて、「Bacille Calmette-Guerin(カルメットとゲランの菌)」の頭文字をとったものです。現在BCGは、結核に対するワクチンとしてだけでなく、一部の膀胱がんの治療にも使用されています。

 弱毒化しているとはいえ、生きた菌を体に入れていますので、BCGワクチンを接種すると、ごく稀に骨炎や骨髄炎などを起こすことがあります。また膀胱がんの治療においても、膀胱内に繰り返しBCGを注入することで、リンパや血液の流れに乗って全身に移行し、敗血症や間質性肺炎などの副作用を引き起こす場合もあります。このようなBCG感染症は感染症法上の結核には該当しませんので、届出の対象にはなりません。そのため、患者に対する入院勧告や就業制限も行われません。

 結核かBCG感染症か、その違いにより感染症法の対象となるか否かが変わってきますし、治療方法も異なります。そのため、BCGワクチン接種歴のある小児患者やBCG治療中又は治療歴がある患者の場合、原因菌が結核菌かBCGかの鑑別が重要なのです。

 BCGワクチンを接種、又はBCGによる治療をしているのであれば、その副作用であると思われるかもしれませんが、中には結核菌に感染していたという事例も報告されています。また結核患者として治療を行っていたものの、過去にBCGを使った膀胱がん治療を受けていたことが判明し、本当に結核菌によるものかどうか原因追及が必要になった事例もあります。

結核菌とBCGとの鑑別検査について

 結核菌とBCGはよく似ているため、医療機関等で広く使用されている簡易同定キットでは鑑別することができません。鑑別方法の一つとして、ゲノムDNA上のRD1領域の有無を検出する遺伝子検査法※があります。この方法は、結核菌やウシ型結核菌のゲノムDNA上には存在するRD1領域が、BCGのゲノムDNA上では欠失しているという特性を利用しています。RD1領域の上流(ET1)及びRD1領域内(ET2)にフォワードプライマーを、RD1領域の下流(ET3)にリバースプライマーをそれぞれ設計し、この3種類のプライマーを用いてPCR反応を行うというものです。

 結核菌はゲノムDNA上にRD1領域があるので、ET1、ET2及びET3の全てのプライマーが作用して増幅反応が起こりますが、ET1とET3の間は9,650bpととても長いため、完全には増幅できません。そのためET2とET3の間で増幅された150bpのPCR産物のみが得られます。一方、BCGはゲノムDNA上にRD1領域がないため、ET2は作用せず、ET1とET3の間で増幅反応がおき、200bpのPCR産物が得られるのです。

 当所では、このマルチプレックスPCR法による鑑別試験を行っており、行政検査依頼があった場合に迅速に対応できるようにしています。

ゲノムDNA上のRD1領域の有無を検出する遺伝子検査法

図 ゲノムDNA上のRD1領域の有無を検出する遺伝子検査法

※【参考】Talbot EA et al.: PCR identification of Mycobacterium bovis BCG, J Clin Microbiol, 35(3), 566~569(1997)