各工事を随意契約により実施したことについて

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広島市監査公表第10号

令和7年5月1日

 令和7年3月7日付け第1721号で受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により、別紙のとおり公表する。

広島市監査委員 古 川 智 之

同 井 戸 陽 子

同 定 野 和 広

同 石 田 祥 子

 

 

別紙

広監第14号

令和7年5月1日

請求人

(略)

 

広島市監査委員 古 川 智 之

同 井 戸 陽 子

同 定 野 和 広

同 石 田 祥 子

 広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和7年3月7日付け第1721号で受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。

 

第1 請求の要旨

(1) 監査請求の概要 

 安佐北区役所における工事発注に関して、本来は1件の工事として発注すべき案件を、少額随意契約の軽易工事として250万円以下の3件に分割して発注・契約していることが発覚しました。これは、違法な分割発注に該当すると考えられます。これら3件の工事はいずれも同一の業者と契約が締結され、実施されています。

 当該工事は、一体的な工事契約を締結することが不可能であったとは言い難く、地方自治法等の法令に定める一般競争入札等の競争性を確保した契約方式を採用すべき案件でありました。

 また、本工事は「道路改良工事」とされているものの、実際には民地の急傾斜地に対する工事であり、道路予算を用いて施工することは適切ではありません。本来であれば「急傾斜地崩壊対策事業」として実施すべきでありながら、道路予算を流用して施工している点も違法であると考えます。そのため、違法に支出された金額の返還を求めます。

 仮に監査委員が道路予算を流用して施工していることに違法性はないと主張する場合であっても、3件の工事に分割発注・契約したこと自体に明らかな違法性があるため、一般競争入札を行った場合との価格差に相当する損害額を算定し、市が被った損害を補填するための適切な措置を講じるよう求めます。

 

見積合わせの結果は、以下の通りです。

入札金額(税抜き額)

見積業者

(5ー1)工事

(5ー2)工事

(5-3)工事

A社

2,500,000円

辞退

辞退

B社

辞退

辞退

辞退

C社

辞退

辞退

辞退

D社

2,210,000円

辞退

辞退

E社

2,000,000円

2,000,000円

2,100,000円

F社

2,325,000円

2,220,000円

2,220,000円

 3件に分割して見積合わせを行っていますが、1件目を受注した業者の工事に他者が手を出さないのは当然のこと(同時に同じ場所での作業はできない)です。また、本件は1本の工事で発注するより割高になっていて、特定の1者に本来の利益以上の「利益供与」を行ったことになり、市民・国民の「税金を違法に支出したこと」になります。

 更に、3件の工事は共に増額変更をしており、そのうち2件は上限の30%ギリギリの増額で不自然です。

 現在、入札時点における談合は難しい(かもしれない)状況になっていますが、落札後の設計変更によって法外な利益を得ることは可能です。請負業者の提出した実態と異なる見積書によって増額変更することで特定の業者に利益供与することができ、業者との癒着によって市の職員が犯罪に走る可能性も懸念されています。

 見積合わせは、自由な競争ではなく、広島市が指名した業者の間で競争が行われるものです。本件では、1件目の入札で、B社とC社は辞退しており、この工事を行う意思はないと判断できます。税込み250万円が上限の工事ですから、税引きでは約227万円が上限となるにも関わらずA社とF社はそれ以上の額で見積を出しているので、この工事を行う意思はないと判断できます。このことが分かっている2件目の入札では、これら4者を除いて指名すべきです。また、2件目の工事をD社が辞退したことから、3件目の工事はE社しか工事を行う意思がないことが明らかになっており、E社以外は指名業者を変えるべきです。1件目から3件目まで同じ6者を指名したことは、E社を落札させる意図があったのではないかと疑われます。

 このような疑義も生じていることから、これらの事実関係も含めた監査の実施が必要です。

No.

工事件名

請負業者

工事概要

当初請負契約

最終請負金額

増額

増加率

工期

工事場所

【1】

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5ー1)

E社

法面整形工一式(22.5m)

2,200,000円

2,516,800円

316,800円

14.4%

令和5年11月9日~令和6年3月29日

図1

【2】

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5ー2)

E社

法面整形工一式(20.5m)

2,200,000円

2,857,800円

657,800円

29.9%

令和5年11月22日~令和6年3月29日(工期延期 令和6年7月31日)

図2

【3】

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5ー3)

E社

法面整形工一式(15.3m)

2,310,000円

2,997,700円

667,700円

28.9%

令和6年1月10日~令和6年3月29日(工期延期 令和6年7月31日)

図3

(省略) 

 ※随意契約は、設計金額(税込)250万円以下の工事なので、税抜きの入札金額は、約227万円(250÷1.1)以下でなければならないのに、それ以上の額の見積を出しているA社とF社は受注したくないことが明らか。結局、D社かE社の競争だが、D社は上限に近い額を提示しているので落札するつもりはない。1件目でE社の工事と決まったので、2件目、3件目には他の業者は手を出さない。F社は、1者による随契にならないよう、入札の見栄えをよくするためにつきあいで上限額で入札していると思える。

(省略) 

 写真で見るとよく分かりますが、同じ内容の工事であり、分割発注することは明らかに法令に違反しています。

(2) 請求の対象となる職員

 広島市長

 安佐北区長

 安佐北区地域整備課長

 その他この手続き及び支払いに関係する職員

(3) 損害の推定

 8,372,300円(急傾斜地崩壊対策事業として行わねばならないところを道路予算で施工したことによる工事費)

(4) 請求する措置

 損害金の返還請求を行うこと

 かかる違法処理を行った職員に対して応分の処分を行うこと

 

(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付を省略する。) 

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-1)建設工事請負契約書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-1)建設工事請負契約変更契約書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-1)工事場所詳細図

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-1)予定価格の決定について

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-1)見積依頼業者の選定理由書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-1)入札・見積調書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-2)建設工事請負契約書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-2)建設工事請負契約変更契約書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-2)工事場所詳細図

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-2)予定価格の決定について

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-2)見積依頼業者の選定理由書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-2)入札・見積調書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-3)建設工事請負契約書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-3)建設工事請負契約変更契約書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-3)工事場所詳細図

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-3)予定価格の決定について

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-3)見積依頼業者の選定理由書

安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-3)入札・見積調書

 

第2 請求の受理

 本件措置請求は、地方自治法第242条第1項の所定の要件を具備するものと認め、令和7年3月24日に、同月7日付けでこれを受理することを決定した。

 

第3 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述 

 地方自治法第242条第7項の規定により、請求人に対し、証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、請求人からは証拠の提出はなく、陳述も行われなかった。

 

2 広島市長(安佐北区役所農林建設部地域整備課)の意見書の提出 

 広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めたところ、令和7年3月28日付け広佐整第1629号により意見書が提出された。なお、陳述は行われなかった。

 意見書の主な内容は、次のとおりである。

(1) 本市の意見の趣旨

 請求人が主張しているような違法な契約手続及び不当な支出は行っていないため、本件措置請求は棄却されるべきである。

(2) 本市の意見の理由

ア 令和7年3月28日付け広佐整第1629号の意見書

(ア) 本来1件の工事として発注すべきものを、随意契約の軽易工事として分割して発注・契約したことは違法であるとの主張について

 安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-1)(以下「5-1工事」という。) は、令和3年から4年にかけて地権者から、急傾斜地崩壊対策施設にある草が隣接する安佐北1区1876号里道(以下「里道」という。)にはみ出しており、また秋には穂や種、害虫が飛び回って歩行者等の通行に支障を来たしているので、草が生えないよう法面枠内にモルタル吹付をしてほしい旨の要望を受けて実施したものであり、工事発注に当たり、地方自治法施行令第167条の2第1項第1号に基づく随意契約による見積合わせの結果、令和5年11月9日にE社が受注した。

 この工事の発注手続きを開始した後、別の地権者から、5-1工事の隣地についても同様に法面枠内のモルタル吹付の要望があったため、安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-2)(以下「5-2工事」という。)として実施することとし、工事発注に当たり、地方自治法施行令第167条の2第1項第1号に基づく随意契約による見積合わせの結果、令和5年11月22日にE社が受注した。

 その後、5-1工事及び5-2工事の施工中に近接住民から、5-2工事とは反対側の5-1工事の隣地についても同様の要望があったため、安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-3)(以下「5-3工事」という。)として実施することとし、工事発注に当たり、地方自治法施行令第167条の2第1項第1号に基づく随意契約による見積合わせの結果、令和6年1月10日にE社が受注した。

 よって、5-1工事、5-2工事及び5-3工事は、地権者等からの要望を受けて、地方自治法施行令第167条の2第1項第1号に基づく随意契約による見積合わせにより、順次、発注したものであり、3件の工事を1件の工事として発注すべきで、分割して発注・契約したことは違法であるという請求人の主張は当たらない。

(イ) 急傾斜地崩壊対策事業として行わねばならないところを、道路改良工事として道路予算で施工していることは違法であり、違法に支出した金額の返還を求めるとの主張について

 急傾斜地崩壊対策施設は、平成6年度に安佐北区役所農林建設部土木課(現:安佐北区役所農林建設部地域整備課)が当該土地所有者と土地使用貸借契約を締結し、その土地に急傾斜地崩壊対策施設として設置したものである。その後、同課が施設管理者として急傾斜地崩壊対策施設の除草等の維持管理を行っている。

 こうした中、前記(ア)のとおり、隣接する里道の歩行者等の通行に支障を来たしていること、また、法面枠内の土砂の流出による里道及び市道安佐北1区53号線への影響が考えられることから、両路線の道路防災のため、5-1工事、5-2工事及び5-3工事を道路事業により行ったものであり、急傾斜地崩壊対策事業として行わねばならないところを、道路改良工事として道路予算で施工していることは違法であるという請求人の主張は当たらない。

(3) 結論

 以上のことから、請求人が主張する内容については、いずれも根拠が認められず、本件措置請求は棄却されるべきである。

 

3 監査対象事項

(1) 各工事を随意契約により実施したことが、違法又は不当であるか。違法又は不当と認められる場合において、市に損害が発生しているか。

(2) 急傾斜地崩壊対策事業として施工すべきところを、道路予算で施工している事実が認められるか。当該事実が認められる場合において、市に損害が発生しているか。

(3) 各工事の増額変更について、違法又は不当な点はないか。

 

第4 監査の結果

1 事実の確認

(1) 各工事の概要

ア 安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-1)請負契約(以下「5-1工事」という。)の概要

(ア) 工事場所 安佐北区白木町大字市川

(イ) 工 期 令和5年11月9日から令和6年3月29日まで

(ウ) 請負代金額 220万円(当初契約)

 251万6,800円(変更契約)

(エ) 受注者 E社

(オ) 契約日 令和5年11月9日(当初契約)

 令和6年3月18日(請負代金額の変更契約)

(カ) 工事内容 施工延長 22.5メートル

 法面整形工 一式、法面吹付工 一式

(キ) 設計図書上の記載

 設計図面及び工事設計書には、次の内容が記載されている(関係部分を抜粋)。

 ア) 設計図面

 モルタル吹付工 t=8センチメートル A=72平方メートル

 イ) 工事設計書(変更数量等)

名 称

単 位

当初数量

変更数量

法面工

法面吹付工

一式

一式

 モルタル吹付工

 吹付厚8センチメートル

 250平方メートル未満

 枠内吹付有

平方メートル

72

 モルタル吹付工

 プラント制約有250平方メートル未満

 厚8センチメートル

平方メートル

72

イ 安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-2)請負契約(以下「5-2工事」という。)の概要

(ア) 工事場所 安佐北区白木町大字市川

(イ) 工 期 令和5年11月22日から令和6年3月29日まで

(ウ) 請負代金額 220万円(当初契約)

 285万7,800円(変更契約)

(エ) 受注者 E社

(オ) 契約日 令和5年11月22日(当初契約)

 令和6年3月6日(工期の変更契約(繰越))

 5月31日(工期の変更契約)

 6月27日(工期の変更契約)

 7月19日(請負代金額の変更契約)

(カ) 工事内容 施工延長 20.5メートル

 法面整形工 一式、法面吹付工 一式

(キ) 設計図書上の記載

 設計図面及び工事設計書には、次の内容が記載されている(関係部分を抜粋)。

 ア) 設計図面

 モルタル吹付工 t=8センチメートル A=70平方メートル

 イ) 変更設計図面(変更で追加)

 モルタル吹付工 t=8センチメートル A=11平方メートル

 ウ) 工事設計書(変更数量等)

 施工延長 当初 20.5メートル 変更 28.5メートル

 法面整形工 一式、法面吹付工 一式

名 称

単 位

当初数量

変更数量

法面工

法面整形工

 -

一式

一式

 枠内剥ぎ取り

平方メートル

70

81

 枠内清掃工

平方メートル

70

81

 残土等処分

立方メートル

 7

 8

 土砂等運搬

立方メートル

 7

 8

 人力運搬

立方メートル

 7

 8

 人力積込

立方メートル

 7

 8

法面吹付工

一式

一式

 モルタル吹付工

 吹付厚8センチメートル

 250平方メートル未満

 枠内吹付有

平方メートル

70

 モルタル吹付工

 プラント制約有250平方メートル未満

 厚8センチメートル

平方メートル

81

 ラス張工

平方メートル

70

81

準備費

 -

一式

一式

 枠内除草

平方メートル

70

81

ウ 安佐北1区53号線ほか1路線道路改良工事(5-3)請負契約(以下「5-3工事」という。)の概要

(ア) 工事場所 安佐北区白木町大字市川

(イ) 工 期 令和6年1月10日から令和6年3月29日まで

(ウ) 請負代金額 231万円(当初契約)

 297万7,700円(変更契約)

(エ) 受注者 E社

(オ) 契約日 令和6年1月10日(当初契約)

 3月6日(工期の変更契約(繰越))

 5月31日(工期の変更契約)

 6月27日(工期の変更契約)

 7月19日(請負代金額の変更契約)

(カ) 工事内容 施工延長 15.3メートル

 法面整形工 一式、法面吹付工 一式

(キ) 設計図書上の記載

 設計図面及び工事設計書には、次の内容が記載されている(関係部分を抜粋)。

 ア) 設計図面

 施工範囲 L=15.3メートル

 モルタル吹付工 t=8センチメートル A=66平方メートル

 イ) 変更設計図面(変更で追加)

 施工範囲 L=21.6メートル

 モルタル吹付工 t=8センチメートル A=76平方メートル

 ウ) 工事設計書(変更数量等)

 施工延長 当初 15.3メートル 変更 21.6メートル

 法面整形工 一式、法面吹付工 一式

名 称

単 位

当初数量

変更数量

法面工

法面整形工

一式

一式

 枠内剥ぎ取り

平方メートル

66

76

 枠内清掃工

平方メートル

66

76

 残土等処分

立方メートル

 7

 8

 土砂等運搬

立方メートル

 7

 8

 人力運搬

立方メートル

 7

 8

 人力積込

立方メートル

 7

 8

法面吹付工

一式

一式

 モルタル吹付工

 吹付厚8センチメートル

 250平方メートル未満

 枠内吹付有

平方メートル

66

 モルタル吹付工

 プラント制約有250平方メートル未満

 厚8センチメートル

平方メートル

76

 ラス張工

平方メートル

66

76

準備費

一式

一式

 枠内除草

平方メートル

66

76

(2) 主な経緯

 各工事に関する主な経緯を整理すると、次のとおりである。

年度

内 容

平成6年度頃

急傾斜地崩壊対策事業の区域に決定。土地使用貸借契約により民有地(急傾斜地)を広島市が無償で借り受け、土地所有者等に代わり、急傾斜地崩壊対策工事(吹付枠工)を実施し、法枠を設置。

令和3年度

地元住民Aから工事担当課に対し、「今まで何度も法枠内(表土部)の除草が行われているが、経費の無駄となるので除草ではなく法枠内にモルタル吹付をしてほしい」との要望があった。

令和4年度

地元住民Aから工事担当課に対し、以下の要望があった。

・法枠内に生えている雑草が隣接する安佐北1区1876号里道に覆いかぶさり、通行に支障を来している。また、穂から種が飛散したり害虫が発生したりするなど、周辺地域の環境にも悪影響を及ぼしている。

・これまで、当該箇所に隣接する関係者等で出来ることは対応してきたが、関係者等も高齢となり急傾斜面での作業等、対応が困難となっている。

・法枠内の除草の要望は毎年行う必要があり煩雑であることから、法枠内へのモルタル吹付施工による永久構造物としてほしい。

令和5年度

工事担当課は、当該箇所から繁茂する雑草等が里道の通行を阻害し、周辺住民の日常生活に支障を来たしているだけでなく、法枠内から流出した土砂が市道安佐北1区53号線に及ぶことが危惧される状況にあると判断し、道路の通行に係る安全の確保を目的として道路予算により対応する方針とした。

ア 5ー1工事の経緯

年 月 日

内 容

令和5年

10月24日

施行伺兼契約依頼伺(道路予算・随意契約)を起案(10月26日決裁)。

31日

選定業者に見積資料の配付日を連絡。

11月 1日

選定業者に見積資料を配付。

 8日

見積合わせを執行。

 9日

受注者と請負契約を締結。

令和6年

 3月14日

施行変更伺兼契約依頼変更伺(請負代金額変更)を起案(3月15日決裁)。

18日

受注者と請負代金額の変更契約(増額31万6,800円)を締結。

 21日

受注者は、発注者に工事完成を通知。

 28日

発注者は、工事完成検査を行い、完成を確認。

 29日

請負契約における工期終了

イ 5-2工事の経緯

年 月 日

内 容

令和5年

10月27日

地元住民Bから別の箇所の早期実施要望があり、現地を確認し、5-2工事の発注準備を進めることとした。

11月 1日

施行伺兼契約依頼伺(道路予算・随意契約)を起案(11月1日決裁)。

11月14日

選定業者に見積資料の配付日を連絡。

 15日

選定業者に見積資料を配付。

21日

見積合わせを執行。

22日

受注者と請負契約を締結。

12月11日

地元住民Cから受注者に対し、別の箇所の早期実施要望があり、受注者は発注者に伝えた。

 15日

発注者は要望箇所を確認し、崩土の危険があるため受注者に追加を指示。

令和6年

3月 4日

施行変更伺兼契約依頼変更伺(工期変更)を起案(3月5日決裁)。工期の終期を令和6年3月29日から同年5月31日に変更。

 6日

受注者と工期延長に係る変更契約を締結。

5月27日

施行変更伺兼契約依頼変更伺(工期変更)を起案(5月27日決裁)。工期の終期を令和6年5月31日から同年6月28日に変更。

31日

受注者と工期延長に係る変更契約を締結。

6月21日

施行変更伺兼契約依頼変更伺(工期変更)を起案(6月26日決裁)。工期の終期を令和6年6月28日から同年7月31日に変更。

27日

受注者と工期延長に係る変更契約を締結。

7月11日

施行変更伺兼契約依頼変更伺(請負代金額変更)を起案(7月17日決裁)。

19日

受注者と請負代金額の変更契約(増額65万7,800円)を締結。

24日

受注者は、発注者に工事完成を通知。

31日

発注者は、工事完成検査を行い、完成を確認。

同日

請負契約における工期終了

ウ 5-3工事の経緯

年 月 日

内 容

令和5年

12月15日

地元住民Cから工事担当課に対し、別の箇所の早期実施要望があり、現地を確認した。

12月中旬

工面できた予算の範囲内で、5-3工事の発注準備を進めることとした。

12月19日

施行伺兼契約依頼伺(道路予算・随意契約)を起案(12月19日決裁)。

 22日

選定業者に見積資料の配付日を連絡。

 25日

選定業者に見積資料を配付。

令和6年

1月 9日

見積合わせを執行。

10日

受注者と請負契約を締結。

発注者は、予算確保の目途がついたため、受注者に追加を指示。

3月 4日

施行変更伺兼契約依頼変更伺(工期変更)を起案(3月5日決裁)。工期の終期を令和6年3月29日から同年5月31日に変更。

 6日

受注者と工期延長に係る変更契約を締結。

 5月27日

施行変更伺兼契約依頼変更伺(工期変更)を起案(5月27日決裁)。工期の終期を令和6年5月31日から同年6月28日に変更。

 31日

受注者と工期延長に係る変更契約を締結。

6月21日

施行変更伺兼契約依頼変更伺(工期変更)を起案(6月26日決裁)。工期の終期を令和6年6月28日から同年7月31日に変更。

27日

受注者と工期延長に係る変更契約を締結。

7月11日

施行変更伺兼契約依頼変更伺(請負代金額変更)を起案(7月17日決裁)。

19日

受注者と請負代金額の変更契約(増額66万7,700円)を締結。

24日

受注者は、発注者に工事完成を通知。

31日

発注者は、工事完成検査を行い、完成を確認。

同日

請負契約における工期終了

(3) 事務の執行等

ア 各工事を随意契約により実施したことについて

 ・ 令和3年度から受けている要望に対し、令和5年度においても当初予算は確保できておらず、現地では、法枠内から流出した土砂が安佐北1区1876号里道及び市道安佐北1区53号線に及ぶことが危惧される状況にあった。

 ・ 工事担当課は、5-1工事の実施を決定した後、別の範囲について早期実施の地元要望を受け、現地を確認した上で、5-2工事について早期に実施する必要があると判断し、さらに別の範囲について早期実施の地元要望を受け、現地を確認し、必要な予算を確保した上で5-3工事を実施した。

 ・ 各工事共に適正に積算されており、設計金額は随意契約により実施することができる金額であった。

イ 急傾斜地崩壊対策事業ではなく道路事業の予算で施工したことについて

 ・ 各工事の箇所は、既に急傾斜地崩壊対策施設(法枠)を設置済みであったところ、法枠内にモルタル吹付を行う各工事は急傾斜地崩壊対策事業の実施要件(補助事業の採択基準)に該当しなかった。

 ・ 工事担当課は、現地を確認した上で、道路の管理瑕疵による事故を未然に防ぐため、道路法第42条(道路の維持又は修繕)第1項等に基づき、広島市道等の通行に係る安全の確保を目的とし、法枠内の表層を固定する各工事を道路予算で実施した。

ウ 各工事の増額変更について

 ・ 工事担当課は地元要望を受け、現地を確認するなどした上で、各工事の必要性を判断し、設計変更を行った。

 ・ 各工事共に適正に積算されており、設計変更契約は適切に行われていた。

(4) 関係規定等について

 本件措置請求に係る関係規定等は、次のとおりである。

ア 地方自治法(昭和22年法律第67号)

 第234条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。

 2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。

イ 地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)

 第167条の2 地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
 (1) 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(貸借の契約にあつては、予定賃貸借料の年額又は総額)が別表第5上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。

別表第5(第167条の2関係)(令和7年4月改正前)

契約の種類

金額

(1) 工事又は製造の請負

都道府県及び指定都市

250万円

市町村(指定都市を除く。以下この表において同じ。)

130万円

(2) 財産の買入れ

都道府県及び指定都市

160万円

市町村

80万円

(3) 物件の借入れ

都道府県及び指定都市

80万円

市町村

40万円

(4) 財産の売払い

都道府県及び指定都市

50万円

市町村

30万円

(5) 物件の貸付け

 

30万円

(6) 前各号に掲げるもの以外のもの

都道府県及び指定都市

100万円

市町村

50万円

ウ 広島市契約規則(昭和37年広島市規則第51号)(令和7年4月改正前)

 第22条の2 地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第167条の2第1項第1号の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。

 (1) 予定価格が250万円を超えない工事又は製造の請負をさせるとき。

 (2) 予定価格が160万円を超えない財産を買い入れるとき。

 (3) 予定賃借料の年額又は総額が80万円を超えない物件を借り入れるとき。

 (4) 予定価格が50万円を超えない財産を売り払うとき。

 (5) 予定賃貸料の年額又は総額が30万円を超えない物件を貸し付けるとき。

 (6) 前各号に掲げるもの以外の契約でその予定価格が100万円を超えないものをするとき。

エ 道路法(昭和27年法律第180号)

 第42条 道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。

 2 道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、政令で定める。

 3 前項の技術的基準は、道路の修繕を効率的に行うための点検に関する基準を含むものでなければならない。

オ 広島市財産規則(昭和39年広島市規則第24号)

 第16条 課長は、その所管に属する公有財産の管理について、常に現状をは握し、特に次に掲げる事項には最善の注意を払い、経済的かつ効率的に使用されるようにしなければならない。

 (1) 公有財産の使用目的及び使用状況が適当であるかどうか。

 (2) 公有財産の維持保全上不完全な点がないかどうか。

 (3) 電気、ガス及び給排水等の設備は完全であるかどうか。

 (4) 土地の境界に不明な点がないかどうか。

 (5) 公有財産の現況が、公有財産台帳及び附属の図面と符号しているかどうか。

 (6) 使用の許可をし、又は貸し付けた公有財産の使用状況が適正であるかどうか。

 (7) 公有財産の使用料又は貸付料の額及びその徴収が適正であるかどうか。

カ 広島県急傾斜地崩壊対策事業補助金交付要綱

 第1条 県は、急傾斜地の崩壊による災害防止のため、市町が行う急傾斜地崩壊対策事業に要する経費に対し、予算の範囲内において補助金を交付するものとし、その交付に関しては、広島県補助金等交付規則(昭和48年広島県規則第91号。以下「規則」という。)に規定するもののほか、この要綱に定めるところによる。

 第1条の2 この要綱で「急傾斜地」とは、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第2条第1項に規定する土地をいう。

 2 この要綱で「激甚災害」とは、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(昭和37年法律第150号)第2条第1項の規定により激甚災害と指定され、かつ、同法第3条及び第4条若しくは第5条の規定による措置の適用が講じられるか、又は講じられることが確実である災害をいう。

 3 この要綱で「通常事業」とは、急傾斜地の崩壊による災害防止のため市町が行う崩壊防止施設の設置事業で、次2項に定める事業以外のものをいう。

 4 この要綱で「災害関連地域防災がけ崩れ対策事業」とは、激甚災害に伴い、急傾斜地に崩壊等が発生している箇所のうち、地域防災上重要で復旧整備を重点的に推進する必要がある箇所において、市町が行う崩壊防止施設の設置事業をいう。

 5 この要綱で「急傾斜地崩壊防止施設緊急改築事業」とは、前2項の事業実施をした施設で施工時と比較して明らかに施設の災害防止機能が不足しており、放置すれば重大な災害につながるおそれのある施設において、市町が行う改築事業をいう。

 6 この要綱で「事業費」とは、第3項及び第5項の事業においては事業実施に必要な本工事費及び附帯工事費をいい、第4項の事業においては事業実施に必要な本工事費、附帯工事費、測量及び試験費及び用地補償費をいう。

 7 この要綱で「政令市」とは、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市の指定を受けた市をいう。

 8 この要綱で「不交付団体」とは、地方交付税法(昭和25年法律第211号)による普通交付税の交付を受けない市町をいう。

 第2条 通常事業のうち、第1条の補助金の交付の対象となる事業は、次の各号に該当する事業とする。

 (1) 急傾斜地の高さが5メートル以上の自然がけであること。

 (2) 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第42条第1項の規定による市町村地域防災計画に危険個所として記載され、又は記載されることが確実である急傾斜地であること。

 (3) 急傾斜地の崩壊により被害が生じるおそれのある2戸以上の人家又は官公署、学校、病院、旅館、災害対策本部を設置することとされている施設若しくは市町村地域防災計画に指定されている避難場所等があること。

 (4) 1箇所の事業費がおおむね100万円以上であること。

キ 急傾斜地崩壊対策事業について(広島市ホームページ)

 急傾斜地崩壊対策事業の実施要件(広島市施工)

 がけの状態 自然がけ(自然に形成された人の手が加わっていないがけ)

 がけの勾配 30度以上

 がけの高さ 5メートル以上

 保全人家 5戸以上

 事 業 費 100万円以上

ク 広島市建設工事設計変更ガイドライン(令和2年1月)

 (4) 別途工事として契約すべきもの(設計変更ができないもの)

ア 概要

 次のいずれかに該当する場合は、民法第513条に規定する契約の更改にあたるため、原則として別途工事として契約することとし、設計変更で対応してはならない。

 (ア) 「工事の目的を変更するもの」

 a 工事内容の同一性がなくなるもの

 b 原契約の工事の範囲を超える部分の工事を追加するもの

 (イ) 変更見込額(設計金額ベース)の合計額が、当初の設計金額の3割又は設計金額が3,000万円を超える増額変更を行うもの

 ただし、(ア)又は(イ)に該当するものであっても、現に施工中の工事と分離して施工することが著しく困難なものは設計変更で対応してもやむを得ないものとする。

 

2 判断

(1) 各工事を随意契約により実施したことの違法性等について

ア 随意契約に関する法令の定め

 普通地方公共団体の行う契約事務の執行は、一般競争入札が普通地方公共団体の締結する契約方法の原則とされ、随意契約は、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができるとされている(地方自治法第234条第1項及び第2項、地方自治法施行令第167条の2第1項)。

 また、地方自治法施行令第167条の2第1項第1号は、「売買、貸借、請負その他の予定価格(略)が別表第5上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。」は随意契約によることができる旨規定しており、本市にあっては、工事の請負の場合、当該額は、250万円である(広島市契約規則第22条の2第1号)。

 地方自治法施行令第167条の2第1項第1号の趣旨は、金額の少額な契約についてまで競争入札で行うことは、事務量がいたずらに増大し、能率的な行政運営を阻害することから、契約の種類に応じた一定の金額以内のものについては一律随意契約によることができるとしているものである。

 もっとも、地方自治法施行令第167条の2第1項第1号の規定により、金額の少額な工事の請負に係る契約は随意契約によることができるが、同号を適用するために故意に契約を細分化するような脱法的行為は許されない。

 なお、随意契約に該当するか否かの判断基準について、最高裁は、「契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている地方自治法及び地方自治法施行令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である」旨判示し(最二小判昭62.3.20民集41巻2号189頁)、随意契約の許容性を契約担当者の合理的な裁量判断に委ねられるとし、その裁量性を認めている。

イ 本件各工事に係る経緯等

 請求人は、5-1工事、5-2工事及び5-3工事は、本来1件の工事として発注すべきところ、これら三つの工事に分割して発注したことが違法である旨主張する。

 まず、各工事に係る請負契約が締結されるに至った主な経緯(事実の確認(前記第4の1))は、次のとおりである。

(平成6年度頃)

 各工事に係る民有地(急傾斜地。当時は自然崖)について、本市(安佐北区役所農林建設部土木課)が急傾斜地崩壊対策工事(吹付枠工)を実施し、法枠を設置。

(令和3年度)

 地元住民(5-1工事に隣接する民有地(急傾斜地)の所有者)から、本市(安佐北区役所農林建設部地域整備課。以下同じ。)に対し、「今まで何度も法枠内(表土部)の除草が行われているが、経費が無駄になるので、除草ではなく、法枠内(表土部)にモルタル吹付をしてほしい」との要望あり。

(令和4年度)

 地元住民(5-1工事に隣接する民有地(急傾斜地)の所有者)から、本市に対し、次のような要望あり。

・ 法枠内(表土部)の雑草が隣接する安佐北1区1876号里道に覆いかぶさり、通行に支障を来している。また、穂から種が飛散したり、害虫が発生するなど、周辺の環境にも悪影響を及ぼしている。

・ 地元住民でできることは対応してきたが、高齢となり、急傾斜地での作業等が困難となってきている。

・ 法枠内(表土部)の除草の要望は毎年行っているが、除草は煩雑なので、法枠内(表土部)にモルタル吹付を実施し、永久構造物としてほしい。

(令和5年度)

 令和5年度は、法枠内(表土部)の除草に係る予算が付かなかった(予算は数年に1度しか確保できていない状況)。本市は、令和3年度及び令和4年度の地元住民(5-1工事に隣接する民有地(急傾斜地)の所有者)からの要望の内容等を踏まえ、当該民有地(急傾斜地)の法枠内(表土部)の雑草等が安佐北1区1876号里道の通行を阻害している状況があること、さらに、当該法枠内(表土部)から流出した土砂が同里道のほか市道安佐北1区53号線にも及ぶことを危惧し、令和5年度中に、工事の道路予算により5-1工事を実施することを決定した。

 5-1工事に係る契約の締結から工事完成までは、事実の確認(前記第4の1)のとおりであり、工事の内容や積算等自体に違法は見当たらない。

 次に、5-2工事について、契約の締結から工事完成までは、事実の確認(前記第4の1)のとおりであり、工事の内容や積算等自体に違法は見当たらない。ただ、5-2工事の内容は5-1工事の内容と同様であり、施工場所も近接しているのであるから、5-2工事に係る民有地(急傾斜地)の所有者から要望があった際、5-2工事を5-1工事と合わせて1件として捉えるべきかどうかについて検討を行うことが求められるところ、そのような検討を行った形跡は見当たらない。

 次に、5-3工事について、契約の締結から工事完成までは、事実の確認(前記第4の1)のとおりであり、工事の内容や積算等自体に違法は見当たらない。同じ年度の12月中旬頃に予算が確保できたことを契機に、先に施行されている5-1工事と5-2工事を追うように、同様の内容の工事を施行しようというものである。

ウ 小結

 公共工事に係る工事の実施方法の決定は、財政状況、工事の必要性や緊急性、工事の実施場所や内容、住民の要望等諸般の事情を総合的に考慮して行われるべきものであり、当該考慮において合理的な裁量判断が認められる場合、当該公共工事の請負契約は地方自治法等関係法令に違反するとはいえない。

 逆に、公共工事の実施方法等の決定において何ら合理性が認められず、当該公共工事に係る請負契約の締結が関係法令の規定を潜脱する目的でされたと認定できるような場合、当該契約は違法であるといえる。

 このことを踏まえ各工事に係る経緯等を見るに、全体的にやや計画性に欠け、結果的には、隣接する工事施行箇所でほぼ同時期に随意契約による複数の工事を実施するとともに、その増額変更を行うこととなっており、各工事に係る契約事務の適正性に疑念を抱かれかねない状況にあることは否めない。

 しかしながら、各工事については、地元住民からそれぞれ異なる時期に早期実施について強い要望を受ける中、限られた予算で道路の安全な通行の確保等を図るべく、優先順位を付けて必要な箇所からできるだけ速やかに工事を施行していこうとしている姿勢がうかがわれ、その結果として、各工事を令和5年度から令和6年度にかけて施行するに至ったことが認められる。

 以上のことを勘案すると、少なくとも、各工事の担当課において、故意に本件契約を細分化し、地方自治法等関係法令の規定を潜脱しようとする目的があったというような事実は認定し難い。

 よって、各工事に係る請負契約を随意契約により実施したことにつき違法性ないし不当性はない。加えて、これらの請負契約による本市の損害は認められない。

(2) 各工事を、急傾斜地崩壊対策事業ではなく道路予算で施行したことに係る違法性について

 各工事に係る民有地(傾斜地)は、急傾斜の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第2条第1項に規定する土地(傾斜度が30度以上である土地)に当たるため、広島県急傾斜地崩壊対策事業等において定義されている「急傾斜地」に該当する。

 このため、平成6年度頃、当時は自然崖の状態であった各工事に係る民有地(傾斜地)については、急傾斜地崩壊対策事業の区域に決定されて急傾斜地崩壊対策工事が実施され、法枠が設置された(前記第4の1の(2)の各工事に関する経緯の表の「平成6年度頃」の項)。

 この工事の実施により、民有地(傾斜地)は自然崖の状態ではなくなったため、本件各工事は急傾斜地崩壊対策事業の実施要件を満たしていない。

 したがって、各工事を急傾斜地崩壊対策事業により施行しようとしてもできないのであるから、同事業によらなかったことにつき何ら違法性は認められない。

 また、本市は、法枠内(表土部)に繁茂する雑草等が里道の通行を阻害し、及び法枠内(表土部)から流出した土砂が市道に及ぶことが危惧される状況にあると判断し、およそ道路の通行に係る安全の確保を目的として道路予算により対応したのであるから(前記第4の1の(2)の各工事に関する経緯の表の「令和5年度」の項)、各工事を道路予算で施行したことについても、違法性は認められない。

 加えて、各工事を急傾斜地崩壊対策事業ではなく道路予算で施行したことによる損害は何ら発生していない。

(3) 各工事の請負代金の増額変更に係る違法性について

 広島市建設工事設計変更ガイドラインにおいては、変更見込額の合計額が当初の設計金額の3割等を超える増額変更を伴うものは、原則として別途工事として契約することとし、設計変更で対応してはならないと定められている。

 この点、工事担当課においては、地元からの要望を踏まえ、現地を確認の上、迂回路の必要性を判断するなどして、工面した予算の範囲内で地元要望に速やかに対応した結果、変更契約に至ったものであり、これら一連の対応を総じて見れば、各工事の請負代金の変更(前記第4の1の(1)の各工事の概要及び(2)の主な経緯のとおり)について違法性ないし不当性はなく、加えて損害も認められない。

(4) 結論

 以上の次第で、本件措置請求には理由がないため、請求を棄却する。

 なお、請求人は、本件措置請求において違法処理を行った職員に対し応分の処分を行うことも請求しているが、当該請求は地方自治法第242条第1項に規定する請求に当たらないため、却下する。

 

第5 意見

 前述したとおり、普通地方公共団体における契約は、一般競争入札によることが原則であり、随意契約は、地方自治法施行令第167条の2第1項各号に掲げる場合にのみ認められる限定的な契約方法であるから、その取扱いは厳正に行わなければならない。

 特に、公共工事に係る請負契約については、その締結に当たって、工事の実施方法、財政状況、工事の必要性や緊急性、工事の実施場所や内容等諸般の事情を総合的に考慮した上での合理的な判断が求められるところ、関係職員にあっては、関係法令の趣旨を十分に理解した上で、市民から疑念を抱かれることのないよう十分に留意し、事務の執行に当たることが望まれる。

 

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