衛研ニュース 農作物中の残留農薬検査
農作物の生産における農薬
我々が日々生活していくためには、食料となる農作物の安定的な生産が必要不可欠です。しかし農作物には、イナゴ、ウンカ、アブラムシのような害虫による食害や、うどんこ病、ベト病といったカビ等による病害にかかるリスクがあります。農業ではこれらの対策が必要となり、そのために数多くの農薬が開発されてきました。農作物の安定的な生産のためには、農薬は欠かせない存在となっています。
主な農薬として、害虫を駆除する殺虫剤、病原体となるカビ等の菌類や細菌を防除する殺菌剤、不要な雑草を除去する除草剤の3種類が挙げられます。
わが国では1900年前後から海外の農薬が導入され、1930年代から農村でも農薬が普及し始めるとともに、世界各地で農薬の開発が進められました。しかし、1960年代頃から農薬の安全性について疑問視されるようになります。1962年には琵琶湖や有明海で大量の魚が死亡する事故が起こり、その原因として、当時水田用の除草剤として使われていたPCPが散布直後の大雨で流出したことが挙げられました。また、同年、アメリカの生物学者レイチェル・カーソンにより「沈黙の春」が出版されました。そこでは、当時普及していた殺虫剤DDT等が自然界で分解されにくく環境中に蓄積するというように、農薬を含めた化学物質による環境問題に警鐘を鳴らす内容が記されていました。その後も農薬に関する事故が続いたことから、農薬の毒性や環境への影響に関心が持たれるようになり、農薬の安全使用に向けて法律が改正されることになりました。
このように、農薬は農作物の安定的な生産に欠かせないものではありますが、一方で農薬自体の毒性や環境への影響を最小限に抑えることも考慮する必要があり、我々が安心して農作物を食べていくためにも、農薬の使用を規制する必要があります。
ポジティブリスト制度による残留農薬の規制
食品衛生法では2006年5月29日より、食品中に残留する農薬の規制についてポジティブリスト制度が施行されています。この制度は農薬の残留を原則禁止としたうえで、残留を認める農薬を基準値とともにリスト化したものです。本制度により、基準値を超えて農薬が残留している食品、またはリストに記載のない農薬が検出される食品の販売等が禁止されています。
以前は、残留を認めない農薬を基準値とともにリスト化し規制するネガティブリスト制度が導入されていました。この制度では、リストに記載が無く基準値が定められていない農薬については、食品に残留していても販売等の禁止ができませんでした。ポジティブリスト制度はこの問題点を解消し、リストに記載された農薬について残留基準を超えないよう規制するだけでなく、リストに記載がない農薬が検出される食品も規制の対象とすることができるようになりました。
より詳細な内容については、厚生労働省のポジティブリスト制度についてのパンフレットを参照してください。
農薬の残留基準
農薬の残留基準値は、農薬を定められた使用方法で使用した際の残留濃度や国際基準等を基に設定されています。その値については、農薬が残留する食品を長時間にわたり摂取した場合や、農薬が高濃度に残留する食品を短時間に大量に摂取した場合であっても、人の健康を損なうおそれがないことを確認しています。
より詳細な内容については、厚生労働省の残留農薬のホームページを参照してください。
残留農薬の試験法
当所では、アセトニトリル等の試薬を使って農作物から農薬成分を抽出した後、ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC-MS/MS)及び高速液体クロマトグラフ・質量分析計(LC-MS/MS)を用いた手法により残留農薬の検査を行っています。試験法の妥当性評価や精度管理を実施し検査結果の信頼性確保に努めるとともに、検査項目の拡充に向けて取り組んでいます。
今回は、野菜・果実等の農作物を対象とした残留農薬の検査手法をご紹介します。
1 農作物を、フードプロセッサーで均質化させます。
均質化した農作物は、一定量量り採ります。
2 アセトニトリル等の試薬を用い、農薬成分を抽出します。
この際に、不要な水分も除去します。
3 固相抽出により、色素等の不要な成分を除去します。
4 ロータリーエバポレーターを使い、農薬成分を濃縮します。
5 ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC-MS/MS)及び高速液体クロマトグラフ・質量分析計(LC-MS/MS)を使用して、農薬成分を定量します。


*本検査における手法について、その妥当性について評価したうえで検査を行っています。
広島市が検査した農作物における近年の残留農薬の検出事例
直近5年間(平成29年度~令和3年度)では226検体、延べ38,046項目の検査を実施し、以下の表のとおり残留農薬が検出されましたが、残留基準値を超える農薬が検出された事例はありませんでした。
農薬名 | 農作物 | 産地名 | 検出濃度(ppm) | 検出年度 |
---|---|---|---|---|
アセタミプリド | こまつな | 広島市 |
0.07 |
平成29年度 |
アセタミプリド | こまつな | 広島市 |
0.08 |
平成29年度 |
アセタミプリド | なす | 広島市 |
0.08 |
平成30年度 |
アセタミプリド | きゅうり | 広島市 |
0.02 |
平成30年度 |
アセタミプリド | りんご | 青森県 |
0.01 |
平成30年度 |
アセタミプリド | ほうれんそう | 台湾 |
0.05 |
平成30年度 |
アセタミプリド | きょうな | 広島市 |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
アセタミプリド | りんご | 長野県 |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
アセタミプリド | こまつな | 広島市 |
0.03 |
平成31(令和元)年度 |
アセタミプリド | きょうな | 広島市 |
0.07 |
平成31(令和元)年度 |
アセタミプリド | りんご | 青森県 |
0.08 |
令和2年度 |
アセタミプリド | きゅうり | 広島市 |
0.05 |
令和3年度 |
アセタミプリド | ほうれんそう | 福岡県 |
0.08 |
令和3年度 |
アセタミプリド | こまつな | 福岡県 |
0.03 |
令和3年度 |
アセタミプリド | りんご | 青森県 |
0.02 |
令和3年度 |
イミダクロプリド | かぼちゃ | メキシコ |
0.06 |
平成29年度 |
イミダクロプリド | レモン | チリ |
0.01 |
平成29年度 |
イミダクロプリド | こまつな | 広島市 |
0.01 |
平成30年度 |
イミダクロプリド | かぼちゃ | メキシコ |
0.07 |
平成30年度 |
イミダクロプリド | ほうれんそう | 台湾 |
0.29 |
平成30年度 |
イミダクロプリド | かぼちゃ | メキシコ |
0.01 |
平成31(令和元)年度 |
イミダクロプリド | ほうれんそう | 中国 |
0.04 |
平成31(令和元)年度 |
イミダクロプリド | ほうれんそう | 広島県 |
0.16 |
令和2年度 |
クロチアニジン | きゅうり | 佐賀県 |
0.24 |
平成29年度 |
クロチアニジン | レタス | 長野県 |
0.02 |
平成29年度 |
クロチアニジン | ねぎ | 広島県 |
0.01 |
平成31(令和元)年度 |
クロチアニジン | ほうれんそう | 広島市 |
0.01 |
令和3年度 |
クロマフェノジド | ほうれんそう | 福岡県 |
0.02 |
令和3年度 |
クロルピリホス | オレンジ | アメリカ |
0.09 |
平成29年度 |
クロルピリホス | レモン | チリ |
0.03 |
平成29年度 |
クロルピリホス | レモン | アメリカ |
0.01 |
平成30年度 |
シペルメトリン | ほうれんそう | 福岡県 |
0.02 |
令和3年度 |
スピロジクロフェン | りんご | 青森県 |
0.01 |
令和3年度 |
チアクロプリド | りんご | 青森県 |
0.03 |
令和2年度 |
チアクロプリド | りんご | 青森県 |
0.01 |
令和3年度 |
チアメトキサム | レタス | 長野県 |
0.02 |
平成29年度 |
チアメトキサム | こまつな | 広島市 |
0.05 |
平成30年度 |
チアメトキサム | レタス | 長野県 |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
チアメトキサム | かぼちゃ | メキシコ |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
チアメトキサム | ねぎ | 広島県 |
0.06 |
平成31(令和元)年度 |
ピペロニルブトキシド | オレンジ | アメリカ |
0.19 |
平成29年度 |
ピリプロキシフェン | レモン | チリ |
0.06 |
令和3年度 |
フェンピロキシメート | レモン | チリ |
0.01 |
令和3年度 |
フェンプロパトリン | レモン | アメリカ |
0.06 |
平成30年度 |
フルフェノクスロン | きょうな | 広島市 |
0.01 |
平成29年度 |
フルフェノクスロン | ねぎ | 広島県 |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
フルフェノクスロン | きょうな | 広島市 |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
フルフェノクスロン | こまつな | 広島市 |
0.04 |
平成31(令和元)年度 |
フルフェノクスロン | こまつな | 広島市 |
0.12 |
平成31(令和元)年度 |
フルフェノクスロン | ほうれんそう | 広島県 |
1.3 |
令和2年度 |
フルフェノクスロン | ほうれんそう | 広島市 |
0.01 |
令和3年度 |
フルフェノクスロン | ほうれんそう | 広島市 |
0.18 |
令和3年度 |
フルフェノクスロン | ほうれんそう | 広島県 |
0.02 |
令和3年度 |
フルフェノクスロン | ほうれんそう | 福岡県 |
0.31 |
令和3年度 |
フルフェノクスロン | ほうれんそう | 宮崎県 |
0.02 |
令和3年度 |
メトキシフェノジド | レタス | 長崎県 |
0.01 |
平成31(令和元)年度 |
農薬名 | 農作物 | 産地名 | 検出濃度(ppm) | 検出年度 |
---|---|---|---|---|
アゾキシストロビン | きょうな | 広島市 |
0.03 |
平成29年度 |
アゾキシストロビン | なす | 広島市 |
0.06 |
平成30年度 |
アゾキシストロビン | なす | 広島市 |
0.07 |
平成30年度 |
アゾキシストロビン | こまつな | 広島市 |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
アゾキシストロビン | ねぎ | 広島県 |
0.03 |
平成31(令和元)年度 |
アゾキシストロビン | きょうな | 広島市 |
0.86 |
平成31(令和元)年度 |
アゾキシストロビン | ブロッコリー | 鳥取県 |
0.03 |
令和3年度 |
イプロジオン | きゅうり | 宮崎県 |
0.11 |
令和2年度 |
シアゾファミド | こまつな | 広島市 |
0.09 |
平成29年度 |
シアゾファミド | こまつな | 広島市 |
0.04 |
平成30年度 |
シアゾファミド | レタス | 長崎県 |
0.06 |
平成31(令和元)年度 |
シアゾファミド | こまつな | 広島市 |
0.06 |
令和3年度 |
シアゾファミド | こまつな | 福岡県 |
0.02 |
令和3年度 |
トリフルミゾール | トマト | 広島市 |
0.06 |
平成30年度 |
トリフルミゾール | なす | 広島県 |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
トリフロキシストロビン | りんご | 長野県 |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
ボスカリド | りんご | 青森県 |
0.02 |
平成29年度 |
ボスカリド | りんご | 青森県 |
0.06 |
平成30年度 |
ボスカリド | ほうれんそう | ベルギー |
0.01 |
平成30年度 |
ミクロブタニル | かぼちゃ | メキシコ |
0.02 |
平成29年度 |
メタラキシル | かぼちゃ | メキシコ |
0.02 |
平成31(令和元)年度 |
メタラキシル | きゅうり | 広島市 |
0.01 |
令和2年度 |
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