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令和2年6月5日に、建築物等の解体等工事における石綿の排出等の抑制を図るため、「大気汚染防止法の一部を改正する法律」(令和2年法律第39号。以下「改正法」という。)が公布されました。改正法は、令和3年4月1日から順次施行されています。
広島市衛生研究所では、アスベストによる大気汚染の現状を把握するため、昭和63年度から毎年、住宅地域、商工業地域、幹線道路沿線等でアスベスト調査を実施しています。今回は、調査方法と調査結果を紹介します。
アスベストは石綿(いしわた、せきめん)とも呼ばれる天然に産出する繊維状鉱物の総称です。
ILO(国際労働機関)では表に示す6種類の繊維状鉱物をアスベストと定義しています。代表的なものは蛇紋石系のクリソタイル(白石綿)、角閃石系のアモサイト(茶石綿)クロシドライト(青石綿)の3種類です。
アスベストは安価で優れた耐熱性・耐薬品性・絶縁性を持つため、以前は建築物の断熱材・耐火材など様々な用途に使用されていました。
分類 | 石綿名 |
---|---|
じゃもんせきけい 蛇紋石系 |
しろせきめん クリソタイル(白石綿) |
かくせんせきけい 角閃石系 |
ちゃせきめん アモサイト(茶石綿) |
あおせきめん クロシドライト(青石綿) |
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ちょくせんせき アンソフィライト(直閃石) |
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とうかくせんせき トレモライト(透角閃石) |
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ようきせんせき アクチノライト(陽起閃石) |
クリソタイル(白石綿)
アモサイト(茶石綿)
クロシドライト(青石綿)
写真は、代表的なアスベストの標準品です。それぞれのアスベストの色は名前の通り、クリソタイル(白石綿)は白、アモサイト(茶石綿)は茶、クロシドライト(青石綿)は青です。また、すべてのアスベストが細い繊維状であることがわかるでしょうか。
クリソタイル(走査型電子顕微鏡写真)
これはクリソタイルを電子顕微鏡という特殊な顕微鏡で撮影した写真です。
写真の赤い〇をつけたクリソタイルの太さは約0.4μmです。人間の髪の毛の太さが約70μmなので、このクリソタイルの太さは髪の毛の約180分の1と、とても細い繊維であることがわかります。(1μm=0.001mm)
現在日本では、アスベストの製造・輸入等は法律で禁止されていますが、規制が始まった昭和50年まで建材や電化製品など様々な用途に使用されており、昭和30年代~50年代初頭には多くの建築物で断熱材・耐火材として使用されてきました。現在、それらの建築物は解体時期に入っています。
そのため、アスベストを使用した建築物の解体やアスベストの除去を行う際は、アスベストの飛散を防ぐため外気と隔離された空間でアスベストの除去を行うなどの措置を講ずる必要があります。
また、アスベストは天然の鉱物ですので、一般大気中にもほんの少し存在します。
アスベスト自体には毒性はありませんが、アスベストは非常に細い繊維のため、大気中に飛散すると人が吸入してしまう恐れがあります。アスベスト繊維は吸入されると肺の中に残り、多量のアスベストの吸入は肺がんや中皮腫、アスベスト肺(*)といった病気の原因となります。
(*)アスベスト肺:アスベストが肺内に蓄積することにより生じる肺線維症
実際に大気中に飛んでいるアスベストはとても細く短いため、肉眼で確認することは困難です。そこで、ポンプを使って、ろ紙上に採取し、顕微鏡で測定しています。試料採取装置の概形図を示します。
試料採取装置概形図
専用ホルダーにろ紙をセットし、ポンプで空気を吸引します。
空気中に浮遊している物質はろ紙の表面に捕集されます。
調査風景
粉じんを採取したろ紙を顕微鏡で観察し、繊維状のもの1つ1つについてアスベストかそうでないかの判定を行います。測定方法は「アスベストモニタリングマニュアル(環境省)」(以下「マニュアル」という)で定められています。
マニュアル(第4.2版)では、まず位相差顕微鏡でアスベスト以外の繊維を含むすべての繊維の大気中濃度(総繊維数濃度)を求め、この結果が1f/L(*)を超えた場合は走査型電子顕微鏡で繊維を観察し、アスベストであるかどうかを判定します。この方法ではアスベストの種類を判別することができます。
(*)f/Lとはアスベストの大気中濃度を表す単位で、「空気1リットル(L)中の繊維の本数(f)」を示しています。
走査型電子顕微鏡
走査型電子顕微鏡にはエネルギー分散型X線分光器が付属しており、繊維にどのような元素が含まれているかを測定できます。繊維に含まれる元素の種類や割合などから、その繊維がアスベストか、その他の繊維かを判定します。
位相差顕微鏡写真
走査型電子顕微鏡写真(クリソタイル)
エネルギー分散型X線分光器の測定結果(クリソタイル)
走査型電子顕微鏡写真(ロックウール)
エネルギー分散型X線分光器の測定結果(ロックウール)
令和4年度の広島市の調査結果を表に示します。
地域 | 地域区分 | 最小値~最大値 | 平均値 |
---|---|---|---|
バックグラウンド地域 | 住宅地域 | 0.28~1.4f/L | 0.58f/L |
商工業地域 | N.D.~0.96f/L | 0.15f/L | |
発生源周辺 | 幹線道路沿線 | 0.42~1.0f/L | 0.70f/L |
(注)N.D.:定量下限値(0.056f/L)未満
総繊維数濃度が1f/Lを超えた試料について、マニュアルに基づき走査型電子顕微鏡でアスベスト繊維の判定を行ったところ、全ての試料でアスベストは検出されませんでした。
測定結果はすべての調査地点で「大気汚染防止法」によって定められるアスベスト製品製造工場などの境界線における大気中濃度の基準の許容限度(10f/L)を下回っていました。
現在の測定方法となった平成27年度から令和4年度の8年間の測定結果についてグラフに示します。
総繊維数濃度が1f/Lを超えた試料について、マニュアルに基づき走査型電子顕微鏡でアスベスト繊維の判定を行ったところ、全ての試料でアスベストは検出されませんでした。
環境省ではアスベストによる大気汚染の状況を把握するため、広島県を含む全国のアスベスト濃度の調査を実施しています。調査結果は、環境省のホームページで公開されています。(詳しくは「関連情報」からご確認ください)