広島市市営住宅駐車場の管理について(令和7年7月11日)広島市監査公表第25号

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広島市監査公表第25号

令和7年7月11日

 令和7年5月15日付け第305号で受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により、別紙のとおり公表する。

広島市監査委員 古川 智之

 同 井戸 陽子

 同 川村 真治

 同 平岡 優一


 

別紙

広監第66号

令和7年7月11日
 

請求人

(略)
 

広島市監査委員 古川 智之

 同 井戸 陽子

 同 川村 真治

 同 平岡 優一

 広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和7年5月15日付けで受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。


第1 請求の要旨

 請求書の記載内容から、請求の要旨は次のとおりと整理できる。

(1) A住宅の附設駐車場の管理の是正を求める請求

ア 西区建築課が行った経費の支出事務(平成15年~平成27年3月)

 A住宅の附設駐車場の管理業務については、平成15年から平成27年3月までの間は、西区建築課がA住宅自動車管理組合と直接契約し委託していたところ、何の手続もとられず委託費が当該組合の口座ではなくA住宅自治会の口座へ入金され、その結果、当該自治会により公金が目的外に使用され、会計報告も行われていなかった。
 このため、不適切に支出された公金の返還請求を行い、契約にのっとった正しい委託費の支払を行うことを求める。

イ 指定管理者が行った経費の支出事務(平成27年3月~令和7年4月)

 A住宅の附設駐車場の管理業務については、平成27年3月から令和7年4月にかけて、指定管理者B社が管理委託費を特定個人の私用口座へ入金し、その結果、その金銭が当該個人の生活の中で自由に処分されていた。
 指定管理者の監督責任を負う市が調査等の対応を行わないことから、指定管理者が行った公金(管理委託費)の支出の妥当性に関する会計監査を行うことを求め、また、不適切に支出された公金の返還請求を行い、契約にのっとった正しい委託費の支払を行うことを求める。

(2) A住宅の自動車保管場所の無償貸与の是正を求める請求

ア 自動車保管場所の無償貸与の中止

 市がA住宅自動車管理組合に対し無償貸与しているA住宅の自動車保管場所について、当該組合は住民等から駐車料金を収受しており、A住宅自治会は当該組合を経由して年間約100万円の収入を得ている。A住宅の附設駐車場の料金の8,800円相当で計算すると最大675万8,400円程度の歳入が見込まれるが、市はこれを放棄していることになる。
 このため、自動車保管場所の無償貸与の中止を求める。

イ 自動車保管場所の地区外居住者への違法な貸出し

 自動車保管場所を地区外居住者へ違法に貸し出して得た金銭について、返還請求を行うことを求める。

(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されている。添付は省略。)

  • A住宅自動車管理組合に対し会計帳簿開示請求訴訟にて提出された振込口座の明細
  • 訴訟による公判記録(公金を個人的に受け取っていた事実)
  • 過去の会計報告書との比較資料
  • A住宅自治会出納帳の写し

第2 請求の受理

 本件措置請求は、令和7年6月3日に、同年5月15日付けでこれを受理することを決定した。

第3 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述

 地方自治法第242条第7項の規定に基づき、請求人に対し、証拠の提出及び陳述の機会を設けた。
 これを受けて、請求人は次のとおり、書類を提出するとともに陳述を行った。

(1) 証拠の提出

ア 提出日

 令和7年6月13日

イ 提出された証拠(添付を省略する。)

  • 2023年4月~2025年3月自治会費会計報告書
  • 広島市市営住宅附設駐車場維持管理業務内訳
  • 公文書部分開示決定通知書(開示された文書を含む。)
  • 指定管理者の発言を文字起ししたもの

(2) 陳述

ア 陳述日

 令和7年6月19日

イ 主な内容

 この市営住宅に2018年頃に入居してすぐ自治会長に就くことになり、自治会費の会計報告を見ると駐車場料金収入が2年間で400万円を超えていた。当時は月額1台1,500円を徴収していたので、最大64区画で計算しても2年間で約230万円であるにもかかわらず、400万円を超えるということは110台分以上の料金を徴収していることになっていた。
 自動車管理組合には口座がないため、徴収した駐車場料金は別団体である自治会の口座に入金されており、各戸から集金する自治会費の収入が2年間で約180万円、自治会が支出する電気代等の共益費が約250万円という中で、自治会の口座には2,000万円弱が貯まっており、疑問が生じた。
 調べたところ、この市営住宅の共益費は、自治会費だけでは賄えず、実質的に駐車場料金で対応するという構図があることがわかった。
 また、追加提出した資料にあるとおり、住宅政策課、建築課の職員、自治会関係者が同席した話し合いの場において、自治会が地区外の者への貸出しを認めている。職員も今後改めましょうとしているものの、その後も連綿と続き、職員が経過を監督することもなく、現在に至っている。
 このほかにも、附設駐車場の委託管理費について、指定管理者と自動車管理組合が契約しているにもかかわらず、組合ではなく、組合の代表者個人の口座に振り込まれているというお金の流れがある。指定管理者の前は、建築課と自動車管理組合が契約しており、この時も組合ではなく、自治会の口座に振り込まれていた。
 いずれの場合も、組合に委任状を書かせるよう行政、指定管理者が指南している点が類似している。
 行政から使用許可を受けている駐車場で、自治会が反射的利益を上げ続けており、その収益が駐車場を借りていない住民へ分配されたり、共益費の支払に充てられたりしている。
 これらのことは、行政や指定管理者が、年齢的にも高齢の住民、自動車管理組合の役員などに指南してきたのではないかと思わざるを得ない。
 周辺の駐車場料金は月額1万6,000円程度で、市営住宅の組合が徴収している駐車場料金月額1,000円は地域相場からすると16分の1である。近隣の県営住宅でも月額6,000円の駐車場料金を県が徴収している。
 市営住宅の附設駐車場の料金は月額8,800円程度であり、本来、市の歳入となるべきものが不正に私的な団体等のものとなっていないか調査し、必要な是正措置、返還請求、制度の見直しが行われることを期待している。

2 広島市長(都市整備局住宅部住宅政策課、西区役所建設部建築課)の意見書

 市に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めたところ、令和7年6月13日付け広住政第172号により意見書の提出があった。なお、陳述は行われなかった。
 この意見書の主な内容は、次のとおりである。

(1) 本件市営住宅の地元管理委託契約

 地元管理委託契約の委託料について、西区建築課においては、本件市営住宅の自動車保管場所管理組合から自治会への受領委任による口座指定の上で、本市の規程に基づく決裁を経て適正に支出している。
 また、指定管理者においては、管理組合より提出された口座指定に係る通知書に基づき、附設駐車場の管理を行う団体又はその関係者であることを判断の上、指定された口座へ支出している。
 この支出に関しては、広島市指定管理者制度ガイドラインに基づく実地調査においても適正になされていることを確認しており、附設駐車場管理において支障となる特段の問題も生じていない。
 このことから、本件契約に関して追加での措置を講ずる必要はない。

(2) 自動車保管場所

 本市においては、自動車保管場所の附設駐車場化を順次進めているところであるが、各住宅の入居者との交渉の進捗状況及び予算措置状況により、未整備の住宅がいまだ存する状況であり、当該附設駐車場未整備の住宅においては、広島市市営住宅等条例第62条に基づき、入居者等に対する自動車保管場所の使用の承認を行っているものである。
 したがって、附設駐車場整備が完了していない本件市営住宅における、自動車保管場所の使用承認については、何ら違法不当な点はなく、無償貸与中止の措置を講ずる必要はない。
 なお、本市が自動車保管場所の使用を承認しているのは、入居者等の個人に対してであり、自動車保管場所管理組合に対するものではない。
 また、本市は自動車保管場所の不正利用が認められた場合、当該行為を行った使用者に対する承認取消の措置を講じることとしている。しかしながら、本市は自動車保管場所については無償で使用承認することとしており、不正利用により、本市に損害が発生していることが明らかとはいえないことから、返還請求の措置を講ずる必要はない。

(3) 結論

 請求人の主張には理由がないため、本件措置請求は棄却されるべきである。

3 監査対象事項

(1) A住宅の附設駐車場の管理の是正を求める請求

ア 委託料の支出事務(平成15年~平成27年3月)(監査対象事項(1)-ア)

 監査請求期間の経過後の請求であることについて正当な理由があるか。また、正当な理由があると認められる場合に、委託料の支出に違法性や不当性が認められるか。

イ 指定管理料の支出事務(平成27年3月~令和7年4月)(監査対象事項(1)-イ)

 市と指定管理者との協定に基づき適正な手続が執られているか。また、市による指定管理料の支出に違法性や不当性が認められるか。

(2) A住宅の自動車保管場所の無償貸与の是正を求める請求

ア 自動車保管場所の無償貸与の中止(監査対象事項(2)-ア)

 市が自動車保管場所を無償で貸与していることについて、違法性や不当性が認められるか。

イ 自動車保管場所の地区外居住者への違法な貸出し(監査対象事項(2)-イ)

 自動車保管場所が違法又は不当に第三者に転貸等されていないか。また、違法又は不当に第三者へ転貸等されている場合に、市に損害賠償請求権又は不当利得返還請求権が生じているか。

4 監査の実施内容

 請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類、請求人から提出された追加証拠、請求人の陳述の内容、広島市長から提出された意見書のほか関係書類を確認するとともに、監査事務局職員による現地の確認及び関係職員からの聴取りを行うなどして監査した。

5 本件措置請求の対象とされる事務の担当所属

(1) 都市整備局住宅部住宅政策課

 都市整備局住宅部住宅政策課は、市営住宅等の管理に関し、指定管理者の公募・選定、協定の締結、協定に基づく業務実施報告書の受領、指定管理料の支出、指定管理者の指導監督等の事務を行っている。

(2) 都市整備局住宅部住宅整備課

 都市整備局住宅部住宅整備課は、市営住宅等の建設、建替及び改善事業等を行っている。

(3) 西区役所建設部建築課

 西区役所建設部建築課は、西区内の市営住宅等の管理に関し、財産管理・維持補修、入居・使用に関する事務、家賃・使用料等に関する事務、指定管理者職員との調整等の事務を行っている。

第4 監査の結果

1 事実の確認

(1) 市営住宅等附設駐車場及び自動車保管場所の概要

 広島市では現在、市営住宅の入居者又は同居者(以下「入居者等」という。)が使用できる自動車の駐車場としては二種類のものがある。一つは、広島市市営住宅等条例(平成9年広島市条例第35号。以下「条例」という。平成9年6月1日施行。)第2条第12号に規定する有償の市営住宅等附設駐車場(以下「附設駐車場」という。)であり、もう一つは、条例第62条に規定する無償の自動車保管場所(市営住宅の敷地(共用空地)の一部を住宅の管理上支障のない範囲において市が使用承認するもの。以下「自動車保管場所」という。)である。なお、これら二つの駐車場の制度は、現条例の前身に当たる広島市市営住宅条例(昭和27年広島市条例第40号)の時代から存在していた。
 もっとも、昭和60年頃までは、二種類の駐車場のうち、自動車保管場所の在る市営住宅の方が多くを占めており、その後、市営住宅の新築等の際に附設駐車場が整備されることにより、附設駐車場を有する市営住宅が徐々に増えていった。こうした中で、附設駐車場(=有償)を使用する入居者との負担の公平化を図る観点から、自動車保管場所(=無償)を使用する入居者に応分の負担を求める動きが強まってきた。
 その後、平成8年に公営住宅法(昭和26年法律第193号)が改正され、駐車場が入居者のために必要な施設として位置付けられたことを契機に、本格的に自動車保管場所の有償化(自動車保管場所→附設駐車場)を進めることとなり、本市では平成11年度から徐々に、自動車保管場所が附設駐車場へと転換していった。
 なお、附設駐車場への転換に当たっては、市営住宅の入居者等関係者と交渉して協力を得られた住宅から進めているところであるが、平成11年度から既に四半世紀を経過し、いまだこの転換は完了していない状況である。

ア 附設駐車場の概要

(ア) 附設駐車場の整備

 市営住宅は、現在、118団地(「団地」とは、条例別表第1に掲げられた住宅のことをいう。以下同じ。)あり、そのうち、95団地(部分的に整備済みの3団地を含む。)に附設駐車場が整備されている。
 自動車保管場所から附設駐車場への転換に当たっては、平成11年度に附設駐車場整備事業計画が策定され、計画の対象とされた78団地のうち、整備済みは67団地、未整備は11団地(部分的に整備済みの3団地を含む。)で、同計画上の整備率は約86%(≒67団地/78団地)となっている(令和7年4月1日現在)。なお、同計画において、建替えや用途廃止の予定がある団地はその対象に含まれていない。
 附設駐車場整備事業の実施状況は、次のとおり。

整備年度

団地数

駐車区画数

平成11年度

5

215

平成12年度

2

164

平成13年度

7

323

平成14年度

6

222

平成15年度 

(※) 10

397

平成15、17~19、21年度、令和4年度

(※) 1

530

平成16年度

17

621

平成16、22 、24年度

1

91

平成17年度

7

610

平成17~19、29~31年度

1

1,033

平成18年度

1

281

平成19、21年度

(※) 1

143

平成20年度

1

36

平成21年度

1

17

平成24年度

1

66

平成25、27年度

2

92

平成26年度

1

77

令和2年度

1

127

令和3年度

1

43

令和6年度

3

101

70

5,189

  • 「整備年度」とは、附設駐車場設置工事が完了した年度をいう。
  • (※)には、部分的に整備済みの団地(計3団地)を含む。

(イ) 附設駐車場の使用

 条例は、附設駐車場に関し、申込者資格(第55条)、使用の申込み及び許可(第56条)、附設駐車場使用料の決定(第58条)、禁止行為(第59条)等について規定するほか、その具体的な運用について市長に委任している。
 条例の委任を受けた「広島市市営住宅等附設駐車場の管理に関する取扱要綱」(以下「附設駐車場取扱要綱」という。)は、駐車区画の制限(第3条)、申込者資格(第4条)、使用の申込み(第5条)、使用許可(第7条)、使用許可期間(第8条)、登録車両の変更(第9条)、附設駐車場の返還(第12条)、使用者の遵守事項(第14条)、使用証明書の交付(第17条)等について規定している。
 附設駐車場使用料は市長が定めることとされており(条例第58条第1項)、その金額は、附設駐車場の所在する地域やその構造に応じて定められている。

(ウ) 附設駐車場の管理

 平成25年度までは、市が自ら管理を行い、管理業務の一部を、必要に応じて各市営住宅の入居者等が組織する団体(以下「地元団体」という。)に受託の意向を確認した上で委託していた。また、平成26年度以降は、市が地方自治法第244条の2第3項の指定管理者に管理を行わせており、指定管理者は、その管理業務の一部を、必要に応じて地元団体に受託の意向を確認した上で委託している。
 地元団体に委託される業務は、指定管理者の公募関係資料によれば、1)駐車場の利用指導及び周知業務、2)駐車場内の迷惑駐車車両の連絡業務、3)使用者に対する文書の配布業務、4)駐車場施設の修繕箇所の連絡業務、5)駐車場内の環境美化業務とされている。

イ 自動車保管場所の概要

(ア) 自動車保管場所の状況

 自動車保管場所の在る団地数及びその駐車区画数は、次のとおり。なお、南区、安佐南区、安佐北区及び安芸区の各団地には、自動車保管場所がない。

団地数

駐車区画数

中 区

1

33

東 区

3

92

西 区

6

840

佐伯区

1

12

11

977

(令和7年6月26日現在)

(イ) 自動車保管場所の使用

 条例は、自動車保管場所に関し、市営住宅等の入居者等が市長の承認を得た上で使用することができる旨を定め(第62条)、その具体的な運用について市長に委任している。
 条例の委任を受けた「広島市市営住宅敷地内自動車保管場所に関する取扱要綱」(以下「保管場所取扱要綱」という。)は、自動車保管場所の範囲(第3条)、(自動車保管場所として使用させる)空地の維持管理(第5条)、(承認の)対象者(第6条)、使用申込みの手続(第7条)、使用承認書の交付(第8条)、使用条件(第9条)、費用の負担(第12条)、自動車保管場所の返還(第13条)等について規定している。
 自動車保管場所の使用料については、条例その他において特段の定めがなく無償である。
 このほか、自動車保管場所の使用を希望する入居者等は、市長に対し使用承認申請を行う際に、維持管理団体の代表者に確認を求めることとされている(第7条第2項)。

(ウ) 自動車保管場所の管理

 自動車保管場所の維持管理について、保管場所取扱要綱は、「市長は、自動車の保管場所として使用承認をした空地については、当該住宅の入居者等で組織した団体(以下「維持管理団体」という。)において管理規約を作成させ、自主的に維持管理させることができる。ただし、当該維持管理団体を組織することが困難な事情がある場合その他特別の事情がある場合は、当該空地を自主的に維持管理させるものとする。」(第5条第1項)と定めている。
 また、この維持管理に係る費用の負担について、「空地を自動車保管場所として使用するために必要な費用」は「使用者の負担とする。」(第12条)と定めている。
 維持管理団体が組織される場合には、維持管理団体は、管理規約を定め、自動車保管場所の使用者に対し、その維持管理に要する費用の負担を求め、当該使用者に代わり、区画線の引き直しなどの維持管理を行っているものと解される。

ウ 附設駐車場と自動車保管場所の比較

区分

附設駐車場

自動車保管場所

法的性格

公の施設

(地方自治法第244条第1項)

市営住宅等の敷地の一部

(独立した公の施設ではない。)

使用権原の取得方法

許可(条例第56条)

承認(条例第62条)

管理主体

指定管理者(平成26年度~)

市長(~平成25年度)

指定管理者(平成18年度~)

市長(~平成17年度)

管理業務の実施者

指定管理者

なお、業務の一部(利用指導、迷惑駐車・修繕箇所の確認、環境美化等)は地元団体(自動車保管場所の維持管理団体や自治会など)に委託。

維持管理団体

(組織できない場合は、各使用者。)

管理経費の支出

指定管理者

地元団体への委託料は200円/台・月×駐車区画数

維持管理団体

(組織できない場合は、各使用者。)

管理経費の負担

指定管理者(市からの指定管理料で賄う。)

使用者(維持管理団体の管理規約等による負担額。)

市に納付する使用料

あり(条例第58条)

(月額1,740円~17,600円)

なし

(2) A住宅の附設駐車場及び自動車保管場所の概要

 本件措置請求の対象とされたA住宅(以下「当該住宅」という。)の供用開始当初(平成4年)においては、自動車保管場所(以下、当該住宅の自動車保管場所を「当該保管場所」という。)のみが運用されていたが、入居者等からの駐車場増設の要望(平成14年度)を踏まえ、平成16年度に、敷地内の植え込みと花壇があった場所に、附設駐車場(以下、当該住宅の附設駐車場を「当該附設駐車場」という。)●区画が新設された。その後、当該保管場所として運用されている既存の66区画についても附設駐車場化する案が検討されたが、実施されないまま現在に至っている。
 監査時点において、市長が、使用許可している当該附設駐車場は●区画のうち1区画、使用承認している当該保管場所は66区画のうち45区画であった。

(3) 当該附設駐車場の管理等

ア 市が自ら管理していた平成25年度以前の管理等

 当該附設駐車場の管理については、平成25年度までは、市が自ら管理を行い、市と「A住宅自動車保管場所管理組合」(令和7年4月1日に名称変更した「A住宅自動車管理組合」を含め、以下「当該組合」という。)との間で当該附設駐車場の管理に係る業務委託契約(以下「管理委託契約(市・組合)」という。)を締結していたが、契約書、支出命令書等の会計書類については、監査時点において保存年限(5年)が満了し、既に廃棄されていたため、確認できなかった。
 そこで、支出負担行為伺や支出命令書等を起案する際に使用する財務会計システムを確認したところ、平成25年度分のデータが残存していた。最も遅い平成26年3月分の支出命令データでは、同年4月30日に支払がなされており、当該組合とその代表者(組合長)が債権者として、A住宅自治会(以下「当該自治会」という。)とその代表者(会長)と推認される者が委託料を代理受領する代理人として、また、当該自治会名義の金融機関口座(以下、金融機関口座を「口座」という。)が支払先の口座として、それぞれ登録されていた。

イ 指定管理者制度を導入した平成26年度以降の管理等

(ア) 市の事務

 市は、附設駐車場の管理に指定管理者制度を導入した平成26年度以降、当該附設駐車場を含め当該住宅の指定管理者として、B社(以下「当該指定管理者」という。)を指定した。
 市と当該指定管理者は、指定管理に関する基本協定を締結するとともに、指定管理期間中の各年度の指定管理料の支出金額や支出時期を定めた年度協定を年度ごとに締結した。
 市は、基本協定に基づき当該指定管理者から毎月末に業務実施報告書の提出を受けるとともに、年度協定に基づき各月分の指定管理料を前金払により当該各月の末日を期限として支出することとしている。令和6年度指定管理料の支出年月日は、次表のとおりであった。

令和6年度指定管理料の支出年月日

区分

支出年月日

区分

支出年月日

区分

支出年月日

区分

支出年月日

4月分

令和6年4月30日

7月分

令和6年7月31日

10月分

令和6年10月31日

1月分

令和7年1月31日

5月分

令和6年5月31日

8月分

令和6年8月30日

11月分

令和6年11月29日

2月分

令和7年2月28日

6月分

令和6年6月28日

9月分

令和6年9月30日

12月分

令和6年12月27日

3月分

令和7年3月31日

 また、令和6年度に市が2回行った当該指定管理者に対する実地調査の結果を確認したところ、第1回(令和6年10月4日)、第2回(令和7年3月27日)ともに実地調査チェックリストにより実施状況等の確認を行っていた。加えて、その結果報告の決裁文書には、地元団体に委託している附設駐車場の管理業務に関し、「報告書やそれを補完する資料により、適切に業務確認を行っていることを確認した」(第1回)、「契約書、業務実施報告書及び委託料の振込履歴について確認した」(第2回)等の記述が認められた。

(イ) 当該指定管理者の事務

 市が当該指定管理者から取り寄せた資料を閲覧するとともに、市の担当職員から聴取した結果は、次に述べるとおりである。
 当該指定管理者と当該組合との間の当該附設駐車場の管理に係る業務委託契約(以下「管理委託契約(指定管理者・組合)」という。)については、当該指定管理者の協力を得て、当該指定管理期間である令和2年度分から令和6年度分までの見積書、契約書、市営住宅附設駐車場管理業務委託料振込口座通知書(以下「口座通知書」という。)及び市営住宅附設駐車場管理業務実施報告書(以下「報告書」という。)を確認した。
 見積書は、月額●円(内訳:●区画×200円)と記載され、当該組合の組合長の氏名が記名・押印され、令和2年3月31日に提出されていた。
 管理委託契約(指定管理者・組合)の契約書には、委託業務の範囲が、1)駐車場の利用指導及び周知業務、2)駐車場内の迷惑駐車車両の連絡業務、3)使用者に対する文書の配布業務、4)駐車場施設の修繕箇所の連絡業務、5)駐車場内の環境美化業務と定められ、実施報告書の提出期限(四半期ごと)、実施報告書の承認を受けた後の委託料の支払等が定められ、当該組合の組合長の氏名が記名・押印されていた。
 報告書は、前記指定管理期間中、契約書に定められたとおり、四半期ごとに提出期限内に提出されていた。
 口座通知書は、前記指定管理期間中、毎年度当初(令和6年度のみ5月)において、当該組合の組合長の氏名が記名・押印され、当該組合長の個人名義の口座が指定されたものが提出されていたが、それぞれ当該口座が当該組合長個人の生活に使用されている口座であるかどうかは、書類上確認できなかった。
 市の担当職員から聴取したところ、当該指定管理者は、口座通知書において指定された振込先口座が当該組合名義の口座ではないことにつき、その口座の名義と当該組合の組合長の氏名が同一であることを確認した上で、当該口座通知書を受領し、指定された口座に入金していた。
 当該口座通知書と管理委託契約(指定管理者・組合)の契約書のそれぞれに押印された印影を照合したところ、それらは同一のものであると認められた。なお、他の市営住宅においても委託料振込口座として個人名義の口座が指定されているケースが複数認められた。

(4) 当該保管場所の管理等

ア 当該組合による管理等

 当該住宅においては、供用開始後間もなく当該組合が設立されており、市長は、当該組合から管理規約や役員名簿を提出させ、それ以降、当該組合に当該保管場所の自主的な管理を行わせていることが認められる。
 設立当初の管理規約には、「この組合は、市営A住宅の入居者で組織され市営住宅敷地内における共用空地を自動車保管場所(以下『保管場所』という)として使用するにあたり居住者の親睦を図り、その使用を適正に行い、問題の発生防止に努め、団地の環境を良好に維持管理することを目的とする」、「保管場所の維持管理費として使用者から毎月額1,500円(略)を徴収する」というような定めがあり、当該保管場所の使用者(市長が当該保管場所の使用を承認した入居者等と同義。以下「使用者」という。)から徴収した金銭(以下「会費」という。)を原資に、当該組合の責任において当該保管場所の維持管理が行われていることが認められる。
 また、事実証明書のうち、令和4年度に市が当該保管場所の管理に関し、関係者へ聴き取り調査を行った記録によれば、関係者の発言として、当該保管場所が、過去には当該住宅の入居者等でない外部の者の使用に供されていたが、平成30年度に市から是正を指導されたため、外部の者の駐車は全て排除した旨の記述があった。一方、当該調査当時において、当該保管場所が、市長から居住認定を受けていない入居者等の親族の使用に供されており、管理規約に定める月額よりも高い会費を徴収しているといった旨の関係者の発言に対し、市が以後の是正を促す記述があった。
 このことについて、事実証明書のうち当該自治会の会計書類によれば、当該組合が使用者から徴収した会費(駐車場代)は次のとおりであり、設立当初の管理規約上の月額1,500円により計算される額を上回る額が徴収されていたものと認められるところ(令和5~6年度会計を除く。)、これは前記聴き取り調査の内容を裏付けるものであると推認される。

「駐車場代」収入計上額及び1台1月当たりの会費相当額 (単位:円)

会計年度等

「駐車場代」収入計上額

1台1月当たりの会費相当額(※)

平成17~18年度

3,037,000

1,917

平成19~20年度

3,228,500

2,038

平成21~22年度

3,376,000

2,131

平成23年度

1,823,500

2,302

平成24年度

1,839,000

2,321

平成25年度

2,053,400

2,592

平成26年度

1,954,500

2,467

令和元~2年度

2,549,500

1,609

令和3~4年度

2,539,200

1,603

令和5~6年度

1,345,000

849

(事実証明書等を基に監査事務局において作成)

  • (※)「駐車場代」収入計上額を期間最大延べ台数792台(66台/月×12月)又は1,584台(66台/月×24月)除して得たもの(1円未満の端数切捨て)。

イ 当該保管場所の使用実態の調査及びその結果

 当該保管場所について、市長が使用承認している自動車の車両番号等の情報と現地の状況を比較するため、市に対し延べ7日分の現地写真の撮影を依頼し、提供された写真との照合を行った。また、市の担当職員の同行の下、監査事務局職員による現地調査を行った。そして、調査期間中において、次表のとおり、市長が使用承認していない車両が複数回駐車されている事例を確認したところ、これらについては、不正使用の可能性が否定できないものと考えられる。

調査日時

使用承認していない車両の駐車

6月12日 9時30分~

3台

6月13日 11時00分~

4台

6月13日 16時30分~

1台

6月17日 17時00分~

1台

6月18日 18時30分~

1台

6月19日 17時50分~

1台

6月20日 10時20分~

3台

7月 1日 9時10分~

3台

延べ台数

(実台数)

17台

(5台)

 このほか、ナンバープレートの交付後の車両番号の報告漏れや、駐車区画変更の申請漏れなど、手続上の不備がある車両11台を確認した。

2 判断

(1) 当該附設駐車場の管理の是正を求める請求

ア 委託料の支出事務(平成15年~平成27年3月)(監査対象事項(1)-ア)

 請求人は、本監査対象事項において、平成15年から平成27年3月までの市と当該組合との間の管理委託契約(市・組合)に関する支出事務を財務会計上の行為として、その違法・不当を主張していると認められる。
 しかしながら、前記第4の1(3)アのとおり、市が直接管理していたのは平成25年度までであるから、平成26年3月分までに係る支出事務を対象とし、以下検討する。
 この点、最も遅い平成26年3月分の支出は同年4月30日に支払がなされており、本件措置請求のあった令和7年5月15日までに地方自治法第242条第2項に定める1年の監査請求期間を経過しているため、本監査対象事項は不適法な請求となる。しかしながら、同項ただし書において、正当な理由がある場合には1年を経過していても請求することができるとされていることから、これについて念のため検討する。
 この正当な理由について、仙台高裁平成18年2月27日判決(裁判所ホームページ)は、「住民監査請求においては、対象とする財務会計上の行為(当該行為)が秘密裡にされた場合に限らず、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には、法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度(編注:監査請求をするに足りる程度)に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁平成14年9月12日第1小法廷判決民集56巻7号1481頁、最高裁平成14年9月17日第3小法廷判決集民207号111頁参照)が、当該普通地方公共団体の一般住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて上記の程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなくても、監査請求をした者が上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される場合には、上記正当な理由の有無は、そのように解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁平成14年10月15日第3小法廷判決集民208号157頁参照)。(中略)法242条2項所定の「正当な理由」の有無の判断に関して、監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたときとは、監査請求をしようとする者が、住民として求められる相当の注意力をもってすれば認識し得た事実及び自ら認識し得た事実に基づき、監査請求の対象となる当該行為を何らかの指標をもって他の事項から区別し特定して認識し、何らかの事実に基づきその違法事由を特定して疑惑を提示することができる程度に至ったときを指すというべきである。」旨判示する(同判決の上告審である最高裁平成20年3月17日判決(判タ1267号152頁)もこれを支持))。
 また、前記相当な期間について、最高裁平成17年12月15日判決(判時1922号67頁)は、「食糧費の支出に関する文書について本件情報公開請求をし(略)、同9年8月19日、本件情報公開請求に係る一般支出決議書等の文書を交付され、それにより、個別の食糧費の支出の日、金額、その内訳及び債権者名並びに食糧費の支出に係る会合の場所、出席人数及び市側の出席者が明らかになったのであるから、(略)同日ころには、市の一般住民においても、同様の手続を採るなど相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて本件各支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたというべきである。そうすると、そのころから約4か月弱の期間が経過した同年12月15日にされた本件監査請求は、前記の相当な期間内にされたものということはできない。」旨判示する。
 この点、本件措置請求における「知得日:令和6年12月11日」との記述と事実証明書(請求人が行った別訴における第4回口頭弁論調書)を照らし合わせて考えると、請求人は、市が委託料を当該組合の口座ではなく当該自治会の口座に支払っていたことを口頭弁論期日(令和6年12月11日)まで知り得なかったと主張しているものと解される。
 そうすると、請求人は、令和6年12月11日には、監査請求をするに足る程度に財務会計上の行為の存在及びその行為に違法・不当な点があればそれを認識できたと言うべきである。したがって、その日から5月以上も経過した令和7年5月15日になされた本件措置請求のうち、当該附設駐車場の管理に関し市が行った委託料の支出事務(監査対象事項(1)-ア)に係るものについては、相当な期間内の請求とは言えず、監査請求期間の徒過に係る正当な理由がない。

イ 指定管理料の支出事務(平成27年3月~令和7年4月)(監査対象事項(1)-イ)

(ア) 令和6年5月15日以前に行われた支出に係る部分に関する監査請求期間の徒過に係る正当な理由の有無

 請求人は、当該住宅に係る指定管理業務のうち当該附設駐車場の管理について、平成27年3月から令和7年4月までに行われた市の支出事務を財務会計上の行為とし、その違法・不当の理由として、当該指定管理者が管理委託契約(指定管理者・組合)に基づき行った委託料の支払先が不適正であることを主張していると認められる。
 この支出については、本件措置請求のあった令和7年5月15日までに地方自治法第242条第2項に定める1年の監査請求期間を経過しているものが含まれていると認められるため、その限りにおいては、本監査対象事項の一部は不適法な請求となる。しかしながら、同項ただし書において、正当な理由がある場合には1年を経過していても請求することができるとされていることから、正当な理由の有無について、念のため検討する。
 本件措置請求における「知得日:令和6年12月11日」との記述と事実証明書(請求人が行った別訴における第4回口頭弁論調書)を照らし合わせて考えると、請求人は、当該指定管理者が委託料を当該組合の口座ではなく個人の私用口座に支払っていたことを口頭弁論期日(令和6年12月11日)まで知り得なかったと主張しているものと解される。
 そうすると、請求人は令和6年12月11日には、監査請求をするに足る程度に財務会計上の行為の存在及びその行為に違法・不当な点があればそれを認識できたと言うべきである。したがって、その日から5月以上も経過した令和7年5月15日になされた本件措置請求における、当該附設駐車場の管理に関し市が行った指定管理料の支出事務のうち、令和7年5月15日までに1年を経過した支出、すなわち、令和6年5月15日以前に行われた支出に係る部分については、相当な期間内の請求とは言えず、監査請求期間の徒過に係る正当な理由がない。
 以上を踏まえ、前記第4の1(3)イ(ア)のうち、令和6年5月16日以降に行われた支出事務を対象とし、以下検討する。

(イ) 令和6年5月16日以降に行われた支出に係る部分

 前記第4の1(3)イ(イ)のとおり、当該指定管理者は、当該組合から書面により委託料の振込先口座の通知を受けており、指定された振込先口座が当該組合名義の口座ではないことにつき、その口座の名義と当該組合の組合長の氏名が同一であることを確認した上で、当該口座通知書を受領し、指定された口座に入金していた。また、当該口座通知書と管理委託契約(指定管理者・組合)の契約書のそれぞれに押印された印影は同一のものであると認められた。
 一般的に、任意団体による口座開設に当たっては、金融機関による特に厳格な審査が行われるところ、便宜的に団体役員の個人名義の口座を用いることもあり得ると考えられる。
 このことからすれば、当該指定管理者が、指定された振込先口座名義と当該組合の組合長の氏名が同一であることが確認できたことをもって、本件委託料を指定された口座に入金していたとしても、それが手続上不適切であるとは認められない。
 また、市は、指定管理料の支出に当たり、業務実施報告書により当該指定管理者による業務の履行状況の確認を行っているほか、当該指定管理者に対する年2回の実地調査において契約書、業務実施報告書及び委託料の振込履歴等についても確認しており、これらの点において、市に財務会計法規上の義務違反があったとは言えない。
 よって、令和6年5月16日以降に行われた指定管理料の支出事務に違法・不当は認められず、請求人の主張には理由がない。

(2) 当該保管場所の無償貸与の是正を求める請求

ア 当該保管場所の無償貸与の中止(監査対象事項(2)-ア)

(ア) 違法・不当な財産の管理

 請求人は、市が当該保管場所(=無償)について、附設駐車場(=有償)への転換を行わないことをもって、違法・不当な財産の管理である旨を主張していると解せられる。
 公営住宅法に規定する公営住宅につき、大阪地裁平成20年8月7日判決(判タ1296号188頁)は、「公営住宅が低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸するためのものであることをも勘案するならば、駐車場としての使用許諾が無償で行われたという一事をもって、直ちに市長の裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法な財産管理であったということもできない」旨判示する。
 このことを踏まえれば、請求人の前記主張には理由がない。

(イ) 財産の管理を怠る事実

 また、請求人は、当該組合が当該保管場所を原因とする不当な利益を得ているとも主張しており、これは、当該組合が不当な利益を得ることにより市に損害が生じているにもかかわらず、市が不当利得返還請求権(民法(明治29年法律第89号)第703条、第704条)を行使していないこと、すなわち、財産の管理を怠る事実を主張していると解する余地があることから、これについて念のため検討する。
 不当利得があると言えるためには、1)他人の財産又は労務によって利益を得たこと、2)他人に損失を与えたこと、3)受益と損失との間に因果関係があること、4)法律上の原因がないことの四つの要件を充足する必要があるため、この点について検討する。
 市長は、入居者等に対し当該保管場所の区画を無償で使用することを承認しているのであるから、当該保管場所について、使用者が当該区画を自ら使用している限りにおいては、使用者が当該組合に対し会費として維持管理費用相当額を支払っていたとしても、そのことをもって市に損失を与えたことにはならない。よって、前記不当利得の要件のうち、そもそも2)の要件を満たさないため、市と当該組合との関係において市に不当利得返還請求権が生じているとは解されない。

(ウ) 小結

 以上のことから、当該保管場所の無償貸与の中止(監査対象事項(2)-ア)について、請求人の主張には理由がない。

(エ) 当該自治会における不当な収入

 請求人は、当該自治会が当該組合を経由して不当に収入を得ている旨主張している。これは、当該組合が、市から無償貸与を受けた当該保管場所を原因とする不当な利益を得た上で、その利益を当該自治会に対し供与しているとの主張であると解されるところ、市と当該組合との関係において当該組合に不当利得が生じていると解されないことは、前述のとおりであり、したがって、市と当該自治会との関係においても当該自治会に不当な収入があったとは解されない。
 なお、請求人は、当該組合と当該自治会との関係性についての是正を求めているが、このことについては、市の財務会計上の行為には当たらないことから、住民監査請求の対象とはならない。

イ 当該保管場所の地区外居住者への違法な貸出し(監査対象事項(2)-イ)

 請求人は、当該保管場所について、使用者又は当該組合(以下「使用者等」という。)が地区外居住者(当該住宅の入居者等でない者と解する。以下同じ。)に対する転貸により違法に利益を得ているにもかかわらず、市が不当利得返還請求権又は不法行為による損害賠償請求権を行使していないこと、すなわち、財産の管理を怠る事実を主張していると解される。

(ア) 不当利得返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権

 当該保管場所について、市と使用者等との関係において、使用者等に不当利得が生じていると言えるためには、1)他人の財産又は労務によって利益を得たこと、2)他人に損失を与えたこと、3)受益と損失との間に因果関係があること、4)法律上の原因がないことの四つの要件を充足する必要がある(民法第703条、第704条)。
 自動車保管場所の使用者は、その使用に当たり「自動車の保管場所を第三者に転貸し、又はその使用する権利を第三者に譲渡しないこと」を書面により誓約し、市長から使用承認を受けることとされている(保管場所取扱要綱第9条及び第10条)。
 また、当該組合の管理規約には、遵守事項又は禁止事項として「保管場所を入居者以外に又貸しすることは、堅く禁止する」(設立当初)、「自動車保管場所管理組合を入居者以外に又貸しすることは禁止とする」(2024年4月1日改訂版、原文ママ)、「管理組合及び組合員は次の行為(編注:無断転貸、地区外の者への駐車区画の貸与等)を行ってはならない」(2025年4月1日より施行)とあり、表現の違いはあるものの、当該組合は、自動車保管場所の第三者への転貸を市が認めていないことを了知していたと言える。
 これらのことを前提に、以下検討する。
 「当該保管場所の使用者等が地区外居住者に対する転貸により違法に利益を得ている」場合につき、前記要件のうち、1)について、使用者等は市の財産により利益を得ていると言える。2)及び3)について、市営住宅の敷地は行政財産であり、条例第62条の規定による市長の承認を得ない当該保管場所の不正な使用に当たっては、市には行政財産の目的外使用料相当額の損害が生じており、当該損害と1)の使用者等の利益との間には因果関係があると言える。4)について、当該保管場所は市の財産であり、市は使用者による転貸を認めていないことから、使用者等には法律上の原因がない。
 以上から、当該保管場所の使用者等が地区外居住者に無断転貸している場合には、市には当該使用者等又は当該地区外居住者に対する不当利得返還請求権が生じ得ると解するのが相当である。
 また、この場合においては、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法第709条)も生じ得ると解するのが相当である。

(イ) 不正使用の可能性

 前記第4の1(4)アのとおり、当該保管場所が、過去に当該住宅の入居者等でない外部の者や居住認定を受けていない入居者等の親族の使用に供されていたことが推認されたところである。
 また、当該保管場所の使用実態を調査した結果は、前記第4の1(4)イのとおりであり、市長が使用承認していない車両が複数回駐車されていることを確認した。
 これらの事例が不正使用に該当する場合には、前述のとおり、損害賠償請求権又は不当利得返還請求権が生じ得ると考えられるが、地方自治法第242条第6項に定める監査期間(60日間)の制約がある中で、本件監査においてそのような事実の有無の認定を行うまでには至らなかった。
 このため、市は、これらの事例が不正使用に該当するかどうか、更に調査を尽くした上で、損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の発生の有無、その行使について判断すべきである。

(ウ) 小結

 以上のことから、当該保管場所の地区外居住者への違法な貸出し(監査対象事項(2)-イ)について、前記のとおり、請求人の主張に理由があると認める。

3 結論

(1) 本件措置請求のうち、当該附設駐車場の管理に関し市が行った委託料の支出事務(監査対象事項(1)-ア)に係る部分については、不適法であるため却下する。

(2) 本件措置請求において、当該附設駐車場の管理に関し市が行った指定管理料の支出事務(監査対象事項(1)-イ)に係る部分のうち、令和6年5月15日以前に行われた行為に係る部分については、不適法であるため却下し、その余については理由がないため棄却する。

(3) 本件措置請求のうち、当該保管場所の無償貸与の中止(監査対象事項(2)-ア)に係る部分については、理由がないため棄却する。

(4) 本件措置請求のうち、当該保管場所の地区外居住者への違法な貸出し(監査対象事項(2)-イ)に係る部分については理由があるため、第5のとおり勧告する。

第5 勧告

 本件措置請求における請求人の主張の一部には理由があると認めたため、地方自治法第242条第5項の規定により、市長に次のとおり勧告する。
 市は、当該保管場所における不正使用の有無その他当該保管場所の使用実態の確認を行い、その結果を踏まえ、適正な管理を行うために必要な措置を講ずること。
 なお、本勧告に対する措置の期限は、令和7年10月31日までとし、地方自治法第242条第9項の規定により、措置期限までに講じた措置の状況について、同年11月14日までに監査委員に通知されたい。

第6 意見

1 自動車保管場所から附設駐車場への転換の推進

 市は、平成11年度以降、市営住宅の入居者や地元団体、維持管理団体等と交渉の上、その協力を得て、無償の自動車保管場所から有償の附設駐車場への転換に取り組んでいるところ、いまだ当該転換が進んでいない所も見受けられる。
 ついては、市は、市営住宅の入居者の負担の公平化等を図るため、当該保管場所を含む自動車保管場所の附設駐車場への転換をより一層積極的に進められたい。

2 附設駐車場へ転換するまでの間の自動車保管場所の適正な管理の徹底

 当該保管場所において、不正使用の可能性が否定できない事例が複数検出され、また、使用者による申請漏れ等の事例が相当数検出された。
 ついては、市は、当該保管場所を含め、附設駐車場へ転換するまでの間の自動車保管場所について、適正な管理を行うようより一層努められたい。

 

注 A住宅の市営住宅等附設駐車場の駐車区画数は公表されており、A住宅の特定につながるおそれがあるため、当該区画数を伏せ字(●)としている(計算により当該区画数の特定につながる情報を含む。)。

 

 

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