基町自転車等駐車場の再整備に伴う保留床(土地)の取得について(令和7年6月20日)広島市監査公表第23号

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広島市監査公表第23号

令和7年6月20日

 令和7年4月24日付け第499号で受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により、別紙のとおり公表する。

広島市監査委員 古 川 智 之

 同 井 戸 陽 子

 同 定 野 和 広

 同 石 田 祥 子


 

別紙

広監第55号

令和7年6月20日
 

請求人

(略)
 

広島市監査委員 古 川 智 之

 同 井 戸 陽 子

 同 定 野 和 広

 同 石 田 祥 子
 

 広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和7年4月24日付けで受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。


第1 請求の要旨

 請求の要旨は、次のとおり。

1 措置請求の概要

 令和6年5月9日付けで、広島市とA法人が締結した「基町相生通地区第一種市街地再開発事業保留床土地持分売買契約」(以下「本件契約」という。)は、理由なくA法人を利するものであり、2に掲げる点において違法・不当なため、直ちにこれを解除し、支払った代金の返還及び広島市が取得した敷地共有持分の登記名義をA法人に移転させることを求める。

2 本件契約が違法・不当である理由

(1) 売買契約の締結時期

 駐輪場棟の着工時期は、令和10年度の予定であり、その時期に売買契約を締結すればよいにもかかわらず、4年も前倒しして取得している。これは、A法人が保留床を持ち続けることによる固定資産税・都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の負担を軽くしようという、不当・違法な目的によるものである。

(2) 駐輪場の規模が過大であること

 従来の基町駐輪場は、2,397.09平方メートルであったのに対して、新しい駐輪場棟は、5,553.86平方メートルと、約2.3倍である。広島市中区の市営駐輪場の利用者数は、ほぼ横這いで推移しているにもかかわらず、2.3倍の規模は明らかに過大である。
 これは、A法人の保留床を増やし、その保留床を広島市が購入することにより、A法人の利益を増やそうという、不当・違法な目的によるものである。

(3) 売買契約締結までにA法人に賦課された固定資産税等を広島市が負担していること

 固定資産税等の負担を軽くする方法としては、市税条例の減免規定の適用が考えられるが、むろん、こうした場合に減免規定の適用はなく、その代わりに補助金を支出することは、明らかに違法である。

3 損害

 本件契約に基づき支払った12億4,604万8千円

 (事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付は省略。)
 事実証明書1 基町相生通地区第一種市街地再開発事業保留床土地持分売買契約書
 事実証明書2 令和6年度広島市当初予算資料(抜粋)


第2 請求の受理

 本件措置請求は、地方自治法第242条第1項所定の要件を具備するものと認め、令和7年5月20日に、同年4月24日付けでこれを受理することを決定した。


第3 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述

 地方自治法第 242条第7項の規定により、請求人に対し、追加証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、請求人は(1)のとおり追加証拠を提出し、(2)のとおり陳述を行った。

(1) 追加証拠の提出

ア 提出日

 令和7年6月2日

イ 提出された証拠

 措置請求の追加証拠(次の書類が提出されているが、添付は省略。)
 事実証明書3 開発事業特別会計事業費予算
 事実証明書4 基町自転車等駐車場の再整備に伴う保留床(土地)の取得について(説明)
 事実証明書5 駐輪場施設における利用者数実績
 事実証明書6 中国新聞記事(2024年11月10日)

(2) 陳述

ア 陳述日

 令和7年6月3日

イ 要旨

・ 本件契約の締結時期は令和6年5月9日であるが、駐輪場の着工時期は令和10年度の予定となっている。4年も前倒ししてまで財産を取得する理由として、広島市は、事業者から早期取得を求められているなどの説明をしているが、広島市がその保留床を前倒しで取得することで、A法人側は、締結から着工までの4年間、保留床を手放し、それにより、それに係る固定資産税等を負担する必要がなくなる。
 購入は駐輪場着工時の令和10年度に行えばよく、A法人の税金対策のための、早い時期での売買は、不当ないし違法である。

・ 本件契約締結までにA法人に課せられた固定資産税等を広島市が負担していることについて、本来、民間会社の固定資産税等について広島市が補助金を支出することなどあり得ず、違法である。

・ 駐輪場の利用者実績について、広島バスセンター西自転車等駐車場ほか15施設において令和2年度と令和3年度を比較すると、277万3,217人から273万4,110人に減少し、広島市相生自転車等駐車場ほか30施設において令和4年度と令和5年度を比較すると、688万4,116人から633万4,627人に減少している。
 今後、人口減少、少子高齢化という社会状況から、利用者数が増えることは想像できず、現在計画している駐車台数は、過大と言わざるを得ない。なぜこのような大きな駐輪場を造るのか。それは、中心的施行者であるA法人の保留床を増やし、広島市が買うことで、事業費の足しにしてほしいということであり、明らかに違法・不当である。

2 広島市長(都市整備局都市機能調整部、道路交通局自転車都市づくり推進課)の意見書

 広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めたところ、令和7年5月26日付け広都機第33号により意見書が提出された。なお、陳述は行われなかった。
 意見書の要旨は、次のとおり。

(1) 本市の意見

 請求人の主張には理由がないため、本件措置請求は棄却されるべきである。

(2) 本市の意見の理由

ア 本件契約の締結時期を前倒しした事実がないこと(前記第1の2の(1)の主張に対する反論)

 請求人は、A法人の固定資産税等の負担を軽くしようという、違法又は不当な目的のため、4年も前倒しして本市が保留床を取得した旨主張している。
 しかしながら、本市が、本件契約に先立って、令和3年8月1日付けでA法人ほか4者(いずれも施行者又は関係権利者)と締結した基町相生通地区第一種市街地再開発事業(以下「本事業」という。)に係る基本合意書(以下「基本合意書」という。)には、「当該保留床の取得価額は、第9条第5項に定める算定方法と同様とし、広島市とA法人及びB法人との間で、権利変換計画認可申請までに取得に係る協定を締結し、権利変換期日後、速やかに譲渡契約を締結する。」(第12条第2項)と定められており、令和5年11月30日の権利変換期日後、速やかに本件契約を締結することは本事業における基本的合意事項とされていたのであるから、請求人が主張するような、違法又は不当な目的で本市が本件契約の締結時期を前倒ししたという事実はない。

イ 市営駐輪場棟の延べ面積は過大でないこと(前記第1の2の(2)の主張に対する反論)

 請求人は、本市がA法人から購入する保留床を増やすことにより、その利益を増やすという違法又は不当な目的のため、市営駐輪場棟の延べ面積を明らかに過大なものにしていると主張している。
 しかしながら、市営駐輪場棟の延べ面積が旧基町駐輪場の延べ面積と比較して大きくなっているのは、次のような理由によるものである。

(ア) 市営駐輪場棟の収容台数には、旧基町駐輪場で受け入れていた自転車及び原動機付自転車に、本件再開発事業に伴い廃止した市営基町駐車場で受け入れていた自動二輪車も加えていること。
(イ) 市営駐輪場棟は、地上5階、地下1階の建築物であり、延べ面積には各階を連絡する車路や階段等も含まれていることから、地下1階のみであった旧基町駐輪場と比較すれば、必然的に大きくなること。
(ウ) 駐輪需要が非常に高かった旧基町駐輪場では、1台当たりの駐輪区画や通路幅を必要最小限の面積で運用していたところ、市営駐輪場棟の設計に当たっては、利用者の安全性や利便性を鑑み、設計基準等に基づいた駐輪区画や通路幅を確保した計画としていること。

 以上のことから、旧基町駐輪場と比較して延べ面積が大きくなったものであり、過大ではない。

ウ 本市がA法人に賦課された固定資産税等について減免や補助金の支出を行った事実はないこと(前記第1の2の(3)の主張に対する反論)

 請求人は、本件契約締結までにA法人に賦課された固定資産税等を本市が負担したことについて、市条例の減免規定の適用はなく、その代わりに補助金を支出することは明らかに違法であると主張している。
 しかしながら、当該固定資産税等の支払は、本市がA法人及びB法人との間で締結した令和5年10月4日付け「基町相生通地区第一種市街地再開発事業に係る市営駐輪場棟保留床譲渡に関する協定書」(以下「協定書」という。)第9条に規定されているとおり、あくまで当該保留床の譲渡対価の一部として付加して支払われたものであり、そもそも減免規定の適用やそれに代わる補助金の支出ではない。

エ 損害について

 請求人は、本件契約に基づき本市がA法人に支払った売買代金12億4,604万8千円が損害であると主張している。
 しかしながら、本市はA法人に支払った売買代金の対価として売買代金相当額の保留床の譲渡を受けており、損害は生じていない。

(3) 結論

 以上のとおり、請求人が主張する内容について、いずれも理由がなく、また本市には何ら損害が発生していないことから、本件措置請求は棄却されるべきである。

3 監査対象事項

(1) 本件契約の締結時期

 本件契約の締結時期(保留床土地持分の取得時期)について、違法性や不当性が認められるか。

(2) 駐輪場の規模

 駐輪場の規模について、違法性や不当性が認められるか。

(3) 固定資産税等の負担

 広島市が固定資産税等相当額を負担することについて、違法性や不当性が認められるか。

4 監査の実施内容

 請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類、請求人から提出された追加証拠、請求人の陳述の内容、広島市長から提出された意見書のほか関係書類を確認するとともに、関係職員への聴取りを行うなどして監査した。


第4 監査の結果

1 事実の確認

 請求人が住民監査請求の対象としている本件契約は、本事業実施の一環として締結されたものである。
 本事業は、広島市が広島駅周辺地区と紙屋町・八丁堀地区を都心の東西の核と位置付け、都市機能の集積・強化を図ることにより、これらの地区が相互に刺激し高め合う「楕円形の都心づくり」を進める中、中四国地方最大の業務・商業集積地である紙屋町・八丁堀地区の活性化に向けたリーディングプロジェクトとして、官民が連携して実施することとされている。本事業の概要等は、以下のとおり。

(1) 本事業の概要

ア 事業の名称

 基町相生通地区第一種市街地再開発事業

イ 施行者

 C法人(代表施行者)、A法人、B法人、D法人(以上は、いずれも共同施行者)

ウ 地権者

 A法人、B法人、D法人、広島市、E法人

エ 施行地区

 広島市中区基町(区域面積約1.0ヘクタール)

オ 施行期間

 令和4年度~令和11年度

カ 施設建築物の概要

区分

高層棟

変電所棟

市営駐輪場棟

用途

オフィス、ホテル、店舗、駐車場、駐輪場 変電所、駐車場 駐輪場、駐車場(自動二輪車のみ)

高さ

約160メートル 約30メートル 約20メートル

階数

地上31階・地下1階 地上5階 地上5階・地下1階

キ 総事業費

 576億7,800万円

(2) 本事業の経緯等

 本事業に係るこれまでの経緯及び今後の予定は、おおむね次のとおり。

区分

内容

平成30年10月 地権者(広島市、D法人、A法人、B法人)からC法人へ事業化検討に係る協力を要請。
令和3年6月 広島市とE法人が市営基町駐車場とE法人ビルの財産交換契約書を締結。(これにより、E法人が地権者に加わる。)
令和3年8月 地権者とC法人の6者で、基本合意書を締結。
令和4年3月 本事業について、「第一種市街地再開発事業」・「都市再生特別地区」を都市計画決定。
令和4年10月 第一種市街地再開発事業の施行認可
令和5年10月 広島市とA法人等が協定書を締結。権利変換計画認可
令和5年11月 権利変換期日(令和5年11月30日)
市営基町駐輪場の代替駐輪場開設
令和5年12月 既存建物(旧市営基町駐車場、市営基町駐輪場)の解体工事開始
令和6年5月 広島市とA法人が本件契約を締結。
令和6年9月 既存建物の解体工事完了
令和6年10月 高層棟・変電所棟新築工事着工
令和7年度 変電所棟建物完成(予定)※切替工事完了後供用開始
令和9年度 高層棟完成(予定)
令和10年度 市営駐輪場棟新築工事着工(予定)
令和11年度 市営駐輪場棟完成(予定)

(3) 本事業における市営駐輪場棟保留床に係る枠組み

 広島市が本事業において市営駐輪場棟の保留床を取得することに係る枠組みは、以下のとおりである。

ア 基本合意書

 広島市、D法人、A法人、B法人、E法人及びC法人の6者は、令和3年8月1日、基本合意書を締結した。
 基本合意書の目的は、紙屋町・八丁堀地区における官民連携のリーディングプロジェクトとして、交流とにぎわいのある都市環境を創出する再開発事業を実現するため、必要となる基本的な事項を定めることにある(第1条)。
 基本合意書には、A法人等から広島市が市営駐輪場棟の保留床を取得することに係る定め(第12条)、事業スケジュールの遵守に係る定め(第17条)、固定資産税等の負担に係る定め(第19条)などが置かれている。

イ 協定書

 広島市とA法人等は、令和5年10月4日、協定書を締結した。
 協定書の目的は、広島市が市営駐輪場棟の所有権を取得することに関し必要な事項を定め、本事業の円滑な遂行を図ることにある(第1条)。
 そして、広島市とA法人は、協定書に基づき、本敷地共有持分(A法人が広島市に譲渡する本事業によって造成される敷地に関する権利をいう。以下同じ。)の譲渡に関する「保留床土地持分売買契約書」を締結する旨が定められている(第5条第1項第1号)。
 また、この譲渡契約の締結については、広島市・A法人合意の上、基本合意書第12条第2項の定めにかかわらず、令和6年4月中までを目途に同契約を締結する旨が定められている(第5条第2項第1号)。
 加えて、本事業の施行者としてA法人に賦課される、本敷地共有持分の固定資産税等が本敷地共有持分の譲渡対価の一部として付加され、これを広島市が負担する旨が定められている(第9条)。

ウ 契約書

 協定書第5条第1項第1号及び同条第2項第1号を受けて、A法人と広島市は、本敷地共有持分を売買することについて、令和6年5月9日、本件契約を締結した。
 本件契約では、広島市がA法人に支払うべき本敷地共有持分の価額が定められているとともに(第2条第1項)、当該価額に加えて、広島市が、本事業の施行者としてA法人に賦課される本敷地共有持分に係る固定資産税等を支払う旨が定められている(同条第2項)。

 なお、基本合意書において「権利変換後速やかに」行うこととされている広島市の保留床取得時期については、令和5年度中頃に保留床の評価額が判明した後、令和5年中に補正予算を編成することがかなわず、令和6年5月となったことを確認した。

(4) 市営駐輪場の規模等

 新たに建設予定の市営駐輪場棟と旧基町駐輪場の各種データを比較すると、以下のとおり。

ア 市営駐輪場棟及び旧基町駐輪場の延べ面積比較表 (単位:平方メートル)

区分

市営駐輪場棟(A)

旧基町駐輪場(B)

差(A-B)

延べ面積 ※1
(上段の延べ面積は請求人主張ベース
のもの)

5,553.86

2,397.09

3,156.77

(上記は共用部の延べ面積を
含む。)
(上記は共用部の延べ面積を含んでいない。
これを含めると、2,654.45)

2,899.41

  自動二輪車

(※2) 1,997.88

1,997.88

  車路等

(※3) 2,104.78

1,805.45

299.33

  自転車区画

1,163.9

503

660.9

  原動機付自転車区画

287.3

346

△58.7

※1 請求人は、市営駐輪場棟(A)の延べ面積(5,553.86平方メートル)と旧基町駐輪場(B)の延べ面積(2,397.09平方メートル。共用部の延べ面積を含んでいない。)を比較し、前者が後者の約2.3倍であると主張している。
※2 自動二輪車用フロア4階及び5階の車路等の延べ面積を含んでいる。
※3 自転車及び原動機付自転車用フロアである地下1階から地上3階までの延べ面積から「自転車区画」及び「原動機付自転車区画」の延べ面積を除いた数値である。

イ 市営駐輪場棟及び旧基町駐輪場等の1台当たりの面積等比較表

区分

市営駐輪場棟

旧基町駐輪場(自動二輪車以外)
旧基町駐車場(自動二輪車)

1台当たりの面積
(平方メートル)

計画台数
(台)

駐輪等区画面積
(平方メートル)

1台当たりの面積
(平方メートル)

収容台数
(台)

駐輪等区画面積
(平方メートル)

自動二輪車

2.3

304

699.2

2.2

327

719

自転車

1.14

1,021

1,163.9

0.55

918

503

原動機付自転車

1.52

189

287.3

1.71

202

346

合計

1,514

1,447

※ 今回整備する市営駐輪場棟の1台当たりの面積は、道路上の自転車及び自動二輪車等の駐車場の整備に関する一般的技術的指針である「路上自転車・自動二輪車等駐車場設置指針について(平成18年11月15日国道交安第28号)」に基づくものであり、現在、広島市では、屋内・屋外を問わず、基本、当該指針に基づき、自転車等駐車場の整備を行っている。
 また、市営駐輪場棟の計画台数は、再開発事業の基本設計着手前に施行者に示す必要があったことから、平成30年度に実施した駐輪場利用状況調査等を踏まえ、令和元年度に設定したとのことである。なお、旧基町駐輪場周辺5施設(広島バスセンター西、西新天地、袋町、袋町小学校地下、相生)で見ると、利用者数は、令和4年度が109万3,535人、令和5年度が106万5,637人とのことである。

2 判断

(1) 財産の取得に係る違法性に関する判断基準

 請求人は、本件契約が違法・不当であるゆえに、これを直ちに解除し、広島市がA法人に支払った代金の返還等を行うよう求めている。本件契約は、広島市が保留床土地持分を売買により取得することを内容とする契約であるから、本件措置請求について監査するに当たっては、当該財産の取得(財務会計上の行為)に違法性等があるかどうかを判断することになる。
 この点、地方公共団体の財産の取得に関し、福岡高裁は、平成14年6月14日判決(裁判所ホームページ)において、「地方公共団体の長による財産取得契約の締結ないしその対価の決定は長の裁量に委ねられた行為であると考えられること等を総合すると、長においてその裁量権を濫用もしくは逸脱し、土地取得の必要性との関連で合理的な理由なく著しく高額な価格で財産を取得する契約を締結し、当該地方公共団体に債務を負担させた場合には、当該行為は違法と評価され、長は当該地方公共団体に対し損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。また、土地の取引価格は、経済的要因のみならず、当該取引の当事者の個別的、主観的な事情等の複雑な要素によって決定されるのであって、その要素次第で大きく変動する性質のものであることに鑑みると、土地を取得すべきかどうか、とりわけその対価がどうあるべきかについては、地方公共団体の長に広範な裁量権があるものと解されるから、(略)長の裁量権の濫用ないし逸脱の有無の判断にあたっては、当該財産取得の目的、この目的に照らした当該財産取得の必要性、契約締結に至る経緯(相手方の交渉態度ないしそれに対する長の対応)及び取得価格の当否等を総合的に検討して判断するべきである。」と判示する。
 以下、前記第3の3の各監査対象事項について検討した上で、この判旨に照らし、本件契約に違法性等があるかどうかについて判断する。

(2) 本件契約の締結時期(保留床土地持分の取得時期)について

 本件契約は、本事業の一環として締結されたものである(前記第4の1の(1)ないし(3))。
 そして、本事業は、広島市が広島駅周辺地区と紙屋町・八丁堀地区を都心の東西の核と位置付け、都市機能の集積・強化を図ることにより、これらの地区が相互に刺激し高め合う「楕円形の都心づくり」を進める中、中四国地方最大の業務・商業集積地である紙屋町・八丁堀地区の活性化に向けたリーディングプロジェクトとして、官民が連携して実施することとされている。加えて、都心の西の核である紙屋町・八丁堀地区は、平和記念公園を擁する地域として国際的知名度が高く、水と緑に囲まれた美しい都市景観を生かした誘客や都市機能の充実・強化、海外からの高度人材の確保に向けた環境整備など、国際競争力の強化に向けた取組を推進する「特定都市再生緊急整備地域」にも指定されている。
 このように、本事業は、広島市の都市づくりにとって重要であり、公共性が極めて高く、事業規模も大きい。また、複数の民間企業等が施行者となっており、本事業に関する様々な法定手続等に相応の時間がかかることがうかがわれる。
 このため、関係者間であらかじめ共通認識を確認し、その後の交渉や諸手続を円滑に進めるべく、まず、関係者間で基本合意書が締結されたものであり、その手法及び内容は、本事業のような複数の施行者による大規模な市街地再開発事業を実施するに当たって、合理的なものと考えられる。
 本件措置請求では、本件契約の締結時期が問題とされているが、一般に、大規模な事業ほど事業の進行管理には意を用いなければならないと考えられるところ、基本合意書第17条第1項では、「各締結者は、事業スケジュールに影響を及ぼさないように、それぞれ当事者として早期の事業完了に向けて最大限努力する。」と定められている。
 事業スケジュールに係るこの定めは、基本合意書の各締結者に課せられた努力義務に関するものであり、当然に締結者の一人である広島市もこれに拘束される。
 また、広島市がA法人から市営駐輪場棟の保留床を取得することについて、基本合意書第12条第2項では、「広島市とA法人等との間で、権利変換計画認可申請までに取得に係る協定を締結し、権利変換期日後、速やかに譲渡契約を締結する。」旨定められているところ、基本合意書の締結者の一人で、かつ、都心の活性化による都市づくりを推進する中心的役割を担っている広島市がこの定めを遵守しなければならないことは、当然のことであると考えられる。
 こうした基本合意書の定めを踏まえ、その後、広島市は、具体に、市営駐輪場棟の所有権を取得することに関し必要な事項を定め本事業の円滑な遂行を図るべく、令和5年10月4日、A法人等と協定書を締結し、さらに、協定書の関係規定に基づき、令和6年5月9日、A法人と本件契約を締結した。
 以上述べたとおり、広島市を含め基本合意書の締結者は、本事業の円滑な施行を確保するため、市営駐輪場棟の保留床の早期取得について合意し、その趣旨を踏まえ、広島市とA法人は、本件契約締結に至ったものである。
 加えて、市街地再開発事業においては、事業により整備された建築物の処分が事業の成否を左右しているものであるため、その処分の目途をあらかじめ早期に確定しておくことは、事業リスクの低減、初動資金の圧縮、金利負担の軽減等につながり、事業推進を図る上で有効であるとされている(平成10年8月28日付け建設省都計発99号ほか建設省都市局長・住宅局長通達「都市再開発法及び都市開発資金の貸付けに関する法律の一部改正について」参照)。
 この点、基本合意書において、広島市がA法人等との間で、権利変換期日後、速やかに、市営駐輪場棟の保留床に係る譲渡契約を締結する旨を定め、その後、協定書及び契約書を締結するに至った流れは、前記通達の趣旨にもかなった合理的なものであるといえる。
 以上の次第で、広島市は令和6年度中にA法人から本敷地共有持分を取得したものであり、広島市にA法人を不当に利する目的があったとか、A法人の税金対策のために広島市が早期に取得したといったような事実は見当たらない。
 仮に広島市が令和10年度に本敷地共有持分を取得した場合、それまでは所有者であるA法人がそれに係る固定資産税等を負担することになるが、取得時期をそのようにしていないことをもって市長の判断に裁量権の逸脱・濫用があったと認定することはできない。
 よって、本件契約の締結時期(保留床土地持分の取得時期)について、違法性ないし不当性は認められない。

(3) 駐輪場の規模について

 請求人は、他の自転車等駐車場の利用者が減少していることや人口減少等の社会状況から、今後駐輪場の利用者が増えることは想像できない、にもかかわらず、新しい市営駐輪場棟の延べ面積が従来の旧基町駐輪場と比べ約2.3倍と過大になっているのは、広島市がA法人の保留床を増やし、それを購入することでA法人の利益を増やそうとするものであり、不当・違法である旨主張する。
 しかしながら、監査において、そのような不当・違法な目的をうかがわせるような事実は見当たらなかった。
 市営駐輪場棟の計画台数に関しては、請求人が陳述した各2年度間を比較した他の自転車等駐車場の利用者の実績によると、その限りにおいて利用者が相当数減少していることが認められるものの、前記第4の1の(4)のイの表の欄外に記載するとおり、旧基町駐輪場周辺の5施設での利用者数を比較すると、令和4年度が109万3,535人、令和5年度が106万5,637人と、それほど大幅な減少は認められない。
 また、市営駐輪場棟の計画台数については、令和元年度の再開発事業の基本設計着手前に施行者に示す必要があったため、平成30年度に駐輪場利用状況調査等を実施したところ、紙屋町・八丁堀地区では平日の日中に満車になる駐輪場が複数あったとのことである。こうした状況等を踏まえ、少なくとも計画台数の総数が、従前の収容台数と比較し、同規模程度となるよう、前記表のとおり設定したとのことであった。
 以上のことからすると、市営駐輪場棟の計画台数については一定の合理性が認められるのであり、少なくとも、A法人を利するために過大な設定が企図されたというような事実は見当たらない。
 なお、市営駐輪場棟の延べ面積が増えている理由は、次のとおりであると考えられる。

ア 市営駐輪場棟の収容台数には、旧基町駐輪場で受け入れていた自転車及び原動機付自転車に、旧基町駐車場で受け入れていた自動二輪車も加えていること。
イ 市営駐輪場棟は、地上5階、地下1階の建築物であり、延べ面積には各階を連絡する車路や階段等も含まれていることから、地下1階のみであった旧基町駐輪場と比較すれば、必然的に延べ面積が大きくなること。
ウ 駐輪需要が非常に高かった旧基町駐輪場では、1台当たりの駐輪区画や通路幅を必要最小限の面積で運用していたところ、市営駐輪場棟の設計に当たっては、利用者の安全性や利便性を鑑み、国の指針等に基づいた駐輪区画や通路幅を確保した計画としていること。

 以上のことから、駐輪場の規模について、違法性ないし不当性は認められない。

(4) 固定資産税等の負担について

 請求人は、本件契約締結までにA法人に賦課された固定資産税等を広島市が負担していることが違法である旨主張するところ、これは、本件契約第2条第2項の定めを指しているものと解せられる。
 これについて、そもそも広島市がA法人に対し税金を支払うということはあり得ないため、同項の定めは、「広島市は、本件契約第2条第1項の価額に加えて、A法人に賦課される固定資産税等相当額をA法人に支払う」と解釈するのが合理的である。
 監査の結果によると、本件契約にこのような定めが置かれた理由は、以下のとおりである。
 権利変換期日(令和5年11月30日)後、令和6年1月1日時点で、市営駐輪場棟の保留床土地持分については、まだA法人が所有していたため、これに係る令和6年度の固定資産税等の賦課については、A法人が名宛人となる。この点、基本合意書に基づき、権利変換期日(令和5年11月30日)後、速やかに、市営駐輪場棟の保留床土地持分について譲渡契約を締結し、令和5年12月31日までに広島市がこれを取得していれば、これに係るA法人の令和6年度の固定資産税等の負担は生じなかった。
 しかしながら、令和5年度中頃に保留床の評価額が判明した後、広島市は、令和5年中に補正予算を編成することがかなわず、したがって、令和5年12月31日までに市営駐輪場棟の保留床土地持分を取得することは困難となった。このことは、市営駐輪場棟の保留床について、権利変換期日後、速やかに譲渡契約を締結する旨を定めた基本合意書第12条第2項や、事業スケジュールの遵守について定めた同第17条の趣旨にそぐわないものである。
 一方、A法人としては、権利変換期日後、速やかに市営駐輪場棟の保留床土地持分を広島市に売却しようと思っても、それが前記事情によりできず、その結果、本来負担する必要のない当該保留床土地持分に係る令和6年度の固定資産税等の負担が生ずることになった。
 こうしたことから、令和5年内での保留床土地持分取得が難しいことがほぼ見込まれていた令和5年10月4日に、広島市は、A法人と協定書を締結し、その第9条で「本事業の施行者として乙(A法人)に賦課される、本敷地共有持分の固定資産税等は、本敷地共有持分の譲渡対価の一部として付加し甲(広島市)が負担する。」旨定めた上で、令和6年度の関係予算を確保し、令和6年5月9日に本件契約を締結するに至ったものである。
 以上要するに、広島市は、市営駐輪場棟の保留床の取得時期について定めた基本合意書第12条第2項の定めや事業スケジュールの遵守について定めた同第17条にそぐわなくなってしまう前述の状況を実質的に克服するべく、固定資産税等相当額を広島市が負担する旨定めた本件契約をA法人と締結したものである。
 以上の次第からすると、本件契約締結について、市長の判断に裁量権の逸脱・濫用はなく、よって、違法性は認められない。

(5) まとめ

 以上述べたとおり、本件契約締結は、中四国地方最大の業務・商業集積地である紙屋町・八丁堀地区の活性化に向けたリーディングプロジェクトとして、官民が連携して実施する本事業の一環として、これを成功させる目的で行われたものと捉えることができる。
 こうした目的や購入時期に係る諸事情等を総合考慮した場合、令和6年度において、計画された規模での新しい市営駐輪場棟の保留床土地持分を、本敷地共有持分の価額に令和6年度の固定資産税等相当額を加えた額で広島市がA法人から取得したことについて、市長は、付与された権限を合理的裁量の下行使していると解するのが相当であり、当該権限の行使において、裁量権の逸脱・濫用は認められない(前掲福岡高判に同旨)。
 したがって、本件契約に何ら違法・不当はなく、請求人が主張するような損害も生じていない。

3 結論

 以上の次第で、本件措置請求には理由がないため、請求を棄却する。

 

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