恵下埋立地(仮称)建設工事に係る伐採木の処分(平成29年12月6日)
広島市監査公表第32号
平成29年12月6日
平成29年10月17日付けで受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法第242条第4項の規定により、別紙のとおり公表する。
広島市監査委員 佐伯 克彦
同 井上 周子
同 原 裕治
同 桑田 恭子
別紙
広監第125号
平成29年12月6日
請求人
(略)
広島市監査委員 佐伯 克彦
同 井上 周子
同 原 裕治
同 桑田 恭子
広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)
平成29年10月17日付けで受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法第242条第4項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。
第1 請求の要旨
平成29年10月17日付けで提出のあった広島市職員措置請求書に記載された内容は、以下のとおりである。
A広島市長、R環境局長、B環境局埋立地整備部長、C前恵下埋立地建設事務所長、D前恵下埋立地建設事務所専門員、その他恵下埋立地建設事務所「恵下埋立地(仮称)建設工事」担当者等にかかる措置請求
1 請求の要旨
(1) 概要
平成29年9月14日以降の新聞報道及び10月6日付けで広島市ホームページに公表された住民監査請求結果(広島市監査公表第29号)によれば、「恵下埋 立地(仮称)建設工事」(工期:平成28年3月1日から平成32年3月10日。施工業者:E企業体)においては、伐採した立木(以下、「伐採木」という。)をすべて産業廃棄物として中間処理施設に搬入したのち、チップ等にしてリサイクルする契約となっていた。
しかし、これらの伐採木は、山林所有者から土地を取得したとき、立木に価値があるとして立木補償費を支払って広島市の財産となっているものである。
これらの木々は何代かにわたって、手塩にかけて育てられたものであり、その労に対しても、粗末にしてはならないものである。
その財産を廃棄物として、チップ等にしたり、そのまま廃棄することとして、その処分料まで支払う契約が締結されている。
この契約は、手塩にかけて育てた人の心を踏みにじるものであり、市ひいては市民の財産を不当に侵害するものであり、違法・不当な契約で、市及び市民に損害を与えている。
更に、伐採木はすべて加工してチップ等にリサイクルされる契約であるにもかかわらず、伐採木のうち「幹」の部分が、原木のままで(加工されることなく)木材市場で売却され、業者が不当に売却益を得ていた。
これは一体どういうことなのでしょうか。
伐採現場の恵下地区は、江戸時代「御建山」と呼ばれた良質木材の産地で藩材の供給地であったそうである。その後も現在まで、官民問わず育林が行われ、幹回りの大きなヒノキやマツやスギが豊富にある。
これらは、当然、木材市場(F組合)に有価物として搬入され売却されて、売却益が市の収入になっているものと思っていた。
しかし、前出の監査結果によれば、廃棄物を業者が転売して、売却益と産廃処分料の両方を手に入れていることも明らかになっている。
そもそも有用物を廃棄物として処理すること自体、違法・不当な行為であり、業者が原木のまま手を加えず(再資源化処理をせず)転売したことも、工事請負契約に反する違法・不当な行為であり、本来市に還元されるべき市場売却益と、原木のまま転売し再資源化処理を必要としなかった幹部分の処分料(再資源化処理に要する費用)の両方を業者が不当に手に入れ、市及び市民に損害を与える結果になっている。このような工事請負契約としたために生じた損害額の返金処理と、当該職員への相応の処分を求めるため監査請求する。
この山林の伐採木は、材木として再利用されていると信じて疑わなかったし、100人中100人がそう考える。このような工事請負契約になっていることは、前出の監査結果によって判明したものであり、伐採木を全て産廃処分する契約であったことを知ってから1年以内の請求である。なお、本請求書は、前出の住民監査請求人の了解のもとに、その文章及び資料を用いて作成したものである。
(2) 説明
ア 事実関係
- (ア) 建設工事において、伐採木を有用物として市場売却した場合には、売却益を市へ返納することとなっている。伐採木は市の財産であること、売却益は工事とは別物であることから、市の財産によって得た収益は、市に返納する必要があるからである。
これとは逆に、伐採木を市場価値のないものとして産廃処分する場合は処分料金を払って産廃処理業者に引取らせ処分する必要がある。 - (イ) 恵下埋立地の整備用地として購入した区域は約96.7haで、立木の補償額は約8,000万円であるから、広島市は少なくとも、当該整備用地内に8,000万円の財産を立木として有している。本件工事で約22.4haを伐採したので、単純に比例按分しても伐採木は、1,900万円の価値のある有用物である。
広島市の財産管理上、この伐採木は可能な限り売却して市の収入としなければならない。 - (ウ) 恵下埋立地の整備における環境影響評価書には、「伐採木(直径10cm以上の幹)を建築資材等として再利用すること」が記載され、恵下埋立地の工事にあたって、環境保全措置として事業者(広島市)が実施すると明確に規定されている。〔事実証明書1〕しかし、本件工事においては、それを無視した設計仕様で工事請負契約を締結している。〔事実証明書2〕
- (エ) インターネットに掲載されている「鳥取県県土整備部公共工事建設副産物活用実施要領」には、「処分を前提として取得した立木を伐採した木材については・・・木材市場等に売却する」と、有償売却し売却益を還元することが定められている。〔事実証明書3〕
また、木材市場(F組合)の役員の方からも、広島市に対して、貴重な伐採木を市場に出すよう要望したという話がある。その時点では、産廃処分するので出せないと広島市に断られたそうである。しかし、そのような要望のあった時点で、設計変更することもまた可能であったのではないか。先の「鳥取県県土整備部公共工事建設副産物活用実施要領」には、「処分を前提として取得した立木を伐採した木材について、第三者から譲り受けたいとの申し出があった場合は…一般競争入札を行い売却する」と、より売却益の出る(収入の増える)処理をすることが定められている。〔事実証明書3〕 - (オ) 広島市が安易に、市の財産を廃棄物としているので、そもそも廃棄物とは何かを明確にする必要がある。
廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)によって、「有用物」と「廃棄物」は明確に区分され、「有用物」であるが「廃棄物」でもあるというものは存在しない。
厚生省(当時)は、廃棄物は、「占有者が自ら利用し又は他人に有償で売却することができないために不要になった物をいい、これらに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案して判断する」という通達(昭和52年3月26日環計37号厚生省環境衛生局水道環境部計画課長通知)を出し、以後この通達に従って、いわゆる「総合判断説」によって判断することとなっている。
伐採木は、現場で、枝・幹・根株に選別され集積される。〔事実証明書4〕
幹の部分(丸太材)は、トラックに積込むだけで市場売却でき利益を得ることができるのであるから、他人に有償で売却することができるものであり廃棄物ではない。
また、平成11年11月10日には厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知を出し、伐採木に限定して、「根株等を製材用材等のように一般的に有価で取引きされているものとして利用する場合は廃棄物に該当しないものである」と根株等(枝葉・幹・根株の総称)を有価物として利用するなら廃棄物ではないと明確にしている。〔事実証明書5〕
本件伐採木は、工事のために工事用道路を設置し、伐採に係る費用も別途計上された上で伐採されたものであり、運ぶだけで売却できるのであるから、通常の製材用材目的での山林の伐採よりもはるかに条件がよい。このことからも、製材用材となる幹の部分(丸太材)は有用物であって廃棄物ではない。 - (カ) 本件工事に先立って行われた「恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事」においては、伐採木の「幹」の部分は、有用物として木材市場で売却され、売却益が市に返納されている。その売買記録の一部を〔事実証明書6〕として添付する。
- (キ) 木材市場(F組合)は、本件工事現場から約20kmの位置にあることから、運搬距離が短く、運搬料金を支払っても売却益が見込まれる。市が設計に計上した産廃処分施設(中間処理施設)も約20kmとほぼ同じ距離にある。〔事実証明書7〕
両者を比較しても、有用物として市場売却する方を選ぶべきことは明らかである。 - (ク) しかしながら、先に行われた取付道路の工事では「幹」を市場売却したにも関わらず、本件工事では、伐採木は、「幹」の部分を含めて、全て産業廃棄物として処分する設計で工事請負契約が締結された。〔事実証明書2〕
20数ヘクタールにおよぶ広大な育成山林の伐採であり、立派な材木になるのであるから、ごみとして処分することなどあり得ない。丹精込めて育てた人に対しても申し訳ない。人の努力を無にする行為である。市は莫大な借金をかかえ、お金がないと言いながら、お金と人の心をどぶに捨てる行為を平気で行っている。
前出の監査結果には、市が、山林所有者の方から「伐採木を産業廃棄物扱いにすることは納得できない」と言われたと書かれているが、私の思いもその通りである。 - (ケ) E企業体が作成した施工計画書においても、伐採木は、全て産業廃棄物として処分することとしている。E企業体は、「幹」及び「根株」については、運搬距離が50kmもあるI社(安芸太田町川手)で処分することとした。なお、枝葉については、設計通り、佐伯区五日市町石内にある運搬距離20kmのG社としている。〔事実証明書8〕
- (コ) 本件請負契約には、伐採木を産業廃棄物として扱い再資源化すると明確に記載されていないため、木質チップ等に再資源化できる施設には搬出する契約であるが、契約はそこまでであるから、その後原木のまま売却してもよい、と広島市は主張するかもしれない。しかし、その場合でも以下の通り、「黙示の意思表示」によって「黙示の合意」が成立しており、「産業廃棄物」として扱い「木質チップ等に再資源化」することが、本件工事契約内容となっている。
- 契約仕様に、「産業廃棄物処分業の中間処理の許可を有する再資源化施設」「木質チップ等として再資源化可能な再資源化施設」に搬出するとの記載のあること。
- 産廃としてマニュフェストに記載した上で搬出していること。
- 工事に、産廃としての処分費用が計上されていること。この処分費用は、再資源化するために必要で、適正と認められている費用であること。
- E企業体は、低価格入札調査で「伐採木を産業廃棄物としてチップ化しリサイクル予定の下、チップの需要が高く分量も多いと見込めること等」から低価格でも採算が合うと答えていること。(前出の監査結果より)
- E企業体が処分をI社に委託するにあたって、すべて「破砕」し「木くずチップ」として再生する委託契約を結んでいること。(前出の監査結果より)
- 社会通念上、廃棄物を有用物として転売することで、業者が工事目的外の利益を合法的に得るような公共事業の請負契約が正当な契約であるとはいえないこと。
- 契約の解釈にあたっては、相手方の利益にも配慮した客観的な解釈が必要であるが、再資源化する目的でその処理費用が計上されているにも関わらず、原木のまま売却する場合には、処理費用が不要でかつ売却益が手に入ることから、発注者である広島市が一方的に不利益を被ることとなる。
- (サ) ところが、産廃処分されているはずの伐採木の「幹」の部分が、市場で売却されているという大きな問題が発生した。
平成28年12月伐採分以降は、契約を変更し、広島市の財産として直接売却しているということであるが、それ以前は、産廃処分(リサイクル)するという契約で中間処理施設に搬入された幹の部分を、中間処理業者I社からH組合が買い取って市場売却していたということである。〔事実証明書9〕 - (シ) 市場売却益は売主であったH組合が得ていた。前出の監査結果によれば、その量は3,800立方メートルで、売却額は、3,327万1,000円ということである。
広島市がE企業体に聞取り調査したところ、その量は、平成28年12月までに3,700立方メートルということであった。〔事実証明書9〕
なお、H組合は、本件工事の一次下請業者である。〔事実証明書10〕 - (ス) 市場売却されていた幹は、伐採現場において枝を取り払われ、幹のみにしてトラックに積込み易いよう選別・集積されていたもの〔事実証明書4〕である。
伐採木は、中間処理施設で再資源化処理(チップ等にする処理)を行うこととして処理費用が組み込まれている。しかし、「幹」の部分はそのままで売却することができ、再資源化処理費用が発生しないものである。
設計上は、佐伯区五日市町石内のG社で再資源化するとして、その費用(1立方メートル当り2,200円)が計上されている。市場売却された数量を3,800立方メートルとすれば、836万円となる。(市場売却数量は末口2乗法で算定されたもので、実際の体積とは異なっているため、836万円は概算値である。)請負業者に渡った金額は、諸経費も含まれるので、1,000万円程度になると思われる。これは、原木(丸太)のまま転売されたので、実際に再資源化の作業がないにも関わらず支払われた額である。
再資源化処理が不要なのであるから、処理費用を設計に計上してはならないことは明らかで、原木のままリユースするのであれば、設計変更契約により処理費用を減じる必要があるが、なされていない。
本来必要のない処理費用が広島市から支出されているため、業者は、不要であることを知りながら返却せず受け取っている。
広島市の設計に用いられるG社及びI社の産廃処分費は〔事実証明書11〕の通りである。 - (セ) 前出の監査請求人によれば、産廃処分されているはずの伐採木の一部が市場売買されていることについて、昨年7月E企業体の所長に話して改善を求め、9月には恵下埋立地建設事務所でC所長に話し、調査と是正措置をお願いしたが、契約変更がなされなかったということである。
双方の協議で契約変更は可能である。
チップ等の再資源化を目的とした契約であったことから、(1)原木のまま転売(リユース)すること、(2)転売によって法外な利益を得ることは契約に含まれておらず、あくまで再資源化(リサイクル)することとして契約が締結されていた。従って、リサイクルではなく、原木のまま売却してリユースすることは、契約不履行にあたる。そのため、売却益を返納する契約変更が必要であった。昨年、C所長が事実を知った時点で請負業者と協議し、契約変更していれば、本来、市に還元されるべき売却益が業者に流れることはなかった。
しかし、広島市の見解は、「すべて産廃処分としているが、再資源化施設において手選別で、廃棄物と有用物をより分け、有用物を市場売却しているので違法ではない」というものであり、議会でも、伐採木のすべてを産廃処分(再資源化施設に搬入)することして設計計上し、請負業者もその通り再資源化施設に搬入していると答弁をしている。〔事実証明書12〕
なお、広島市からの問い合わせに対して元請業者は、すべて産廃処分している(中間処理施設に搬入している)と答えている。〔事実証明書13〕(前出の監査結果で、中間処理施設を経由せずそのまま木材市場に搬入されたもののあることが発覚し、元請業者が虚偽の報告をしたことが明らかとなっている。) - (ソ) しかしながら、現場で伐採された樹木は、現場で、枝と幹の部分に分けられ、幹は定尺長に切断されたうえで集積して、トラックに積み込まれており〔事実証明書4〕、中間処理施設(再資源化施設)で手選別でより分けている訳ではない。
現場で、そのまま木材市場に搬入できる状態にしていること、事実として、その幹を木材市場で売買したことから、「幹」を有価取引しており、実態からも「産業廃棄物」ではなく「有用物」である。
このような実態を把握していれば、当初契約で廃棄物としていても、早い段階で直接売買に切替えることができた。工事契約書には、施工条件明示として、(1)Q社(現G社)樹木リサイクルセンターへの搬出を見込んでいること、(2)他の産業廃棄物処分業の中間処分の許可を有し、木質チップ等として再資源化可能な再資源化施設に変更してもよいことを記載している。しかし、伐採木は最後までその条件の通り処分しなければならい訳ではなく、双方協議によって施工条件を変更することは当然に可能であるから、判明した時点で変更しなければならなかった。そうしなかったことから、結果として、リサイクルの契約が履行されておらず、債務不履行の状態になっている。 - (タ) 広島市が、有用物を産廃扱いする工事仕様としたことから、業者はこれを逆手に取って、幹の部分を廃棄物として一旦中間処理施設に運んで、そこでH組合に売却し、H組合が木材市場で売却するという、工事契約仕様で想定していない処理を行い、想定外の利益を手にした。
- 重ねて言うが、業者のこの策略は、廃棄物をリサイクルするという契約仕様の処理ではなく、再資源化処理を施すことなく原木のままリユースしているので、契約内容と異なり債務不履行にあたる。
- (チ) 広島市は、このことについて、平成28年9月22日の市議会本会議で、議員からの質問に対して、R環境局長が、「広島市の設計は、チップ等にして再資源化(リサイクル)する仕様となっていた。しかし、入札段階で業者が、(1)産業廃棄物(再資源化)として処分料金を得たうえで、(2)再利用(リユース)目的で転売し、(3)市場売却益を得ることで下請けを安く使う、ということを考えて落札した。設計より安く落札したのだから、設計との差分の範囲内で利益を得ても問題ない」という主旨の答弁をした。(答弁全体は〔事実証明書14〕)
しかし、本件工事は、あくまで、再資源化することとしてその処分料及び運搬費を見込んで発注し、その仕様通りに施工することでE企業体が落札したのであるから、その時点で本件工事の正当な施工価格は落札価格である。従って、設計金額よりも安価であるから設計仕様と違っても問題ないということはなく、この答弁は、市及び市民に対する背信行為であり、自らの責任を逃れようとする発言である。
このことが許されるのであれば、設計金額10億円の工事を8億円で落札したら、差分の2億円の範囲内であれば業者が何をしようと、市が損をしないことだから問題ない、ということになるが、そのようなことはない。
R環境局長の認識は、工事請負契約及び入札制度の根幹を揺るがすもので、責任者として不適格である。
設計仕様通りに行う前提で入札し、落札後は落札額が正当な工事価格になるのであるから、工事請負契約や入札制度の根本を恣意的にゆがめても問題ないなら、制度そのものが成り立たないことは、言うまでもない。 - (ツ) 同じ議会答弁で、R環境局長は、「国有林など間伐等の十分な管理がなされ、一見して有用物が確認できる場合には」有用物として売却することもあるが、「民有地の立木であったことから、工事に支障とならないように除去することを重視」して産業廃棄物としたと答弁した。しかし、民有地においても「恵下埋立地(仮称)整備事業施行に伴う支障物件調査・算定業務(23-1)」などで立木の状況を詳細に調査し、有用なヒノキやスギ等の規模・数量等を詳細に把握し、立木補償費を払って取得し、市の財産としていた。そもそも、工事の設計にあたっての現地調査で民有地を見ただけで、「一見して有用物が確認できる」のであるから、かかる答弁は事実と異なる虚偽答弁である。
- (テ) R環境局長が「民有地の立木であったことから、工事に支障とならないように除去することを重視」して産業廃棄物としたと答弁したことは、R局長の人間性や適格性に問題のある可能性を示している。
22.4haという広大な区域の伐採である。手塩にかけて育てた人の思いを慮ることが出来ず、立派に育った大量の立木を、ごみ扱いし、邪魔だからどかすとの答弁は、人間性や業務への適格性が疑われるものであり、愛情をもった仕事の進め方ができないのではないかと危惧される。 - (ト) 本件の構図を整理すると以下のとおりとなる。
- 広島市は、伐採木はすべて産廃とすることとして設計した。
- 請負業者甲は、次の処理を行うことで下請けと安価に契約できると考えた。
- 産廃処分業者乙に産廃として引取らせ処分費用(リサイクルに要する費用)を発注者から得た上で、
- 幹部分(丸太)を再資源化(リサイクル)するのではなく、再利用(リユース)目的で、乙から下請の伐採業者丙に売却させ、
- 丙がそれを木材市場で売却すれば、
- 乙に、実際に行っていない再資源化の費用(処分費用)と丙への丸太の売却益が入り、
- 丙には、木材市場での売却益が入る。
- 乙及び丙とは、その取得利益分を差し引いて契約すれば、安価に下請け契約が行える。
- 請負業者甲は、以上の考えから、価格を下げて応札し、落札した。
- しかしながら、請負業者甲は、産廃処分業者乙と、中間処理施設に搬入する伐採木をすべて「破砕」し「木くずチップ」として再生品とする委託契約を結んでいる。(前出の監査結果より)
- 広島市の見解(平成29年9月22日議会答弁の主旨(答弁全体は〔事実証明書14〕))
請負業者が入札時に上記のことを考え、設計より安く落札したのであるから、業者が売却益を得たとしても、設計額と落札額の差より小さく、広島市に損失はないのであり、問題はない。
伐採木に係る設計金額は209,664,000円、請負業者甲の見積は113,299,200円で、96,364,800円安かったことから、木材売却益約3,300万円が業者にわたっても広島市は損をしていない。
- (ナ) 本件工事は、廃棄物から法外な利益を得ることを想定した設計仕様ではない(リユースではなくリサイクルの設計)のであるから、設計仕様通り及び産廃処分業者との委託契約内容通りの処分をせず、廃棄物を横流しして法外な利益を得ることを当初から画策したのであれば、詐欺行為にあたるのではないか。そうであれば、広島市は被害者であるから、それを是認することは理屈に合わない。詐欺行為の被害者としての刑事告訴や刑事訴訟法第239条第2項「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発しなければならない。」(公務員の告発義務)によって刑事告発しなければならない立場にあるのではないか。
- (ニ) 伐採現場と木材市場、I社との位置関係は〔事実証明書15〕の通りであり、一度I社(中間処理施設)まで搬出してそこで積みなおして再度木材市場まで戻ってくることは不自然である。そのような位置関係にはなく、I社に搬入することにして、実際には直接木材市場に運搬し、一層の利益を得ることを考えたルートとも思われる。事実、伐採木の搬出を始めた6月には、少なくとも880m3の材積の幹(丸太)が、産廃としてI社に搬出するようマニュフェストに登録されながら、直接木材市場に搬入されており、違法行為が明らかになっている。(前出の監査結果より)
このような事実から、これは、廃棄物処理を利用した偽装工作による詐欺であり、その事実を知っていながら契約変更を行わなかった広島市も結託していると言われても仕方がないことなのではないか。
前の工事(恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事)で市場売却としたにも関わらず、本件工事で産業廃棄物として設計したこと自体不自然であり、R環境局長の答弁も合わせて考えれば、当初から業者と結託してそのような設計とした可能性があるのではないかとの疑念すら生じる内容である。 - (ヌ) 製材用材等として一般に有価で取引されているものは、本省産業廃棄物対策室長通知に廃棄物ではないと記載されているように、「幹」の部分は産廃ではないのであるから、産廃のマニュフェストに載せるべきものではない。一度、中間処理施設(I社)までわざわざ搬入して、そこでトラックを変えて木材市場に搬入したとしても、伐採現場ですでに有用物として選別されているのであるから、産廃を装って処分費を詐取したととられる処理である。
このような問題についての広島市への文書での質問に対する文書回答は、〔事実証明書16〕の通りとのことである。 - (ネ) 産業廃棄物は、マニュフェストによって、その行先が分かるようになっている。
本件工事の排出事業者は元請業者であるが、市は、最終処分まで監視し違法な処理が行われていないか確認する必要がある。マニフェスト上は、幹の部分は、I社で再資源化され、H組合に売却されているはずである。そのマニュフェストを確認していたならば、設計仕様の問題点を把握し、早い段階で「幹」の部分を直接市場売却することに切り替えることができたであろう。しかし、一切の変更がなされなかった。 - (ノ) C前恵下埋立地建設事務所長は、議会で、再資源化施設に持ち込んだ産業廃棄物を「手選別」によって、廃棄物と有用物により分けたのち有用物として市場売買したもので違法ではないとの答弁をしている。
しかしながら、当該伐採木は、伐採現場で「枝」と「幹」の部分に選別されており、それぞれにトラックに積み込まれたため、「手選別」の過程がない。議会を軽視し、虚偽の答弁をしている。
イ 違法性、不当性
- (ア) 本件工事の伐採区域は22.4haに及び、用地取得時点での立木の補償費を推計すれば1,900万円程度になるものと推察される。少なくとも1,900万円の価値を有するものを廃棄物として廃棄することは、市の財産を不当に侵害する行為であり、違法である。
事実、H組合は、木材市場で売却し、材積約3,800立方メートルで3,327万1,000円の売却益を得ているが、当初契約から有用物として市場売却していれば5~6千万円(推定)を市に還元することができた。 - (イ) 廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)によれば、「有用物」と「廃棄物」は明確に区分され、「有用物」と判断されるものは「廃棄物」ではない。市場価値のある「有用物」に、産廃の処分料金を支払うのは違法な公金支出行為である。
- (ウ) 広島市は、伐採木は産業廃棄物であるとし、再資源化施設で「手選別」によって、廃棄物と価値のあるものに分けられ、価値のあるものが市場で売買されたのであるから違法ではないと議会で答弁したが、実際には、伐採現場で「枝葉」と「幹」に区分けされ、「幹」の部分のみまとめてトラックに積み込まれているのであるから、再資源化施設での「手選別」は必要ない。(そもそも、処分料は再資源化するための費用であり、幹を手選別する費用ではない。)全く再資源化施設で手をかける必要がないにも関わらす、かかる説明を議会でしたことは、議会及び市民への背信行為である。
- (エ) 環境影響評価書に記載された計画を無視して、環境保全を図る措置をしなかったこと、先に行われた「恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事」とは真反対の産業廃棄物としたことは、意図的な何かがあったとも推測されるものである。
本件は公務員が公務員として職務上果たすべき義務に違反して工事請負契約がなされたものであり、工事契約仕様と異なる処理が行われていることを知っても措置しなかった。これらのことは、市有財産管理義務や職務専念義務、善管注意義務などに違反し、公務員職権乱用罪(不作為)にもあたる。 - (オ) 元請業者が伐採木の幹部分を工事契約仕様通りのリサイクルとせず、再資源化処理を施さないで原木のままリユースしたことは、契約内容と異なり、債務不履行にあたる。
元請業者は、このことを計画的に実施したのであるから、産廃処分を装った偽装工作で市有財産である伐採木を詐取したこととなり、適切な措置をとる必要があったが、放置した。このことは、職務専念義務、善管注意義務などに違反し、公務員職権乱用罪(不作為)にもあたる。 - (カ) 上記の結果、払ってはならない産廃処分料を支払ったこと、市場売却益を返納させなかったことが、公金の不当支出にあたり、市民に損害を与えた。
- (キ) 広島市は、平成28年11月17日に請負業者に対して、追加で用地取得した土地の伐採範囲については、有価物となる木材を分別し、売り払いを行うこと、及びその他の範囲についても可能な限りこれに準ずることを指示した。〔事実証明書17〕
広島市は、この指示書をもって、平成28年12月以降の伐採においては、追加で用地取得した土地だけでなくすべての土地の伐採分を、有用物として直接市場に搬入し、売却益を市に返納することとしている。〔事実証明書18〕
しかし、そのように見直した理由を「工事請負契約の締結後の昨年9月に、売買契約を締結した土地所有者の方から、大切にして育てた木を廃棄物として取り扱うのではなくて、建築資材として扱って欲しいとのご要望をいただいたため、昨年12月から伐採木の中で、建築資材への活用が可能なものは、元請け業者が直接木材市場の方で売り払うよう見直しております。」と議会(平成29年3月8日予特)で説明したことは、問題の本質を隠して議会を欺くもので、不当行為にあたる。
(3) 請求の対象となる職員
- A広島市長
- R環境局長
- B環境局埋立地整備部長
- C前恵下埋立地建設事務所長
- D前恵下埋立地建設事務所専門員
- その他、本請求理由による公金の違法・不当支出に関わったすべての職員
(4) 損害の推定
違法に支払われた産廃処分費 推定約1,000万円
市に返納すべき木材の売却益 3,327万1,000円
(5) 請求する措置
- 不当な公金支出の是正(違法・不当な支出分の返納)
- 関係職員の処分
(6) 問題点の図化
別図1のとおり
(7) 本件監査請求を行った背景
22.4haという広大な山林の伐採が行われ、その伐採木すべてが産業廃棄物とされた。このことは、手塩にかけた人たちの心を踏みにじるものであり、R環境局長の、「工事に支障とならないように除去することを重視」したという発言にいたっては、民の心が分からないのではないかとの不安を感じた。
この言葉は「工事の邪魔になるごみを早く捨てる」ということであり、育林していた人からは、「私らは一生懸命役に立たない廃棄物を育てていたということか」との落胆の声が漏らされた。
森林を守り、育て続けることは、並大抵のことではない。単に木材としてだけでなく治水治山の上での大きな役割がある。その公的な役割も、育林に携わる人が担っている。
このような人の心を踏みにじることが平気で行われて、反省の声も聞こえない。
広島市の事業の進め方には、大きな疑問と憤りを感じる。
広島市の財産である立木を、ごみとして処分することは、市及び市民に対する背信行為であり、財産権の侵害である。
本件工事の契約仕様は間違っており、改めるべきものである。
一体誰が、立派に育った幹回りの大きな立木が、粉砕されチップにされることを想像できたであろうか。昔からの良木の産地で、丹精込めて育てられた木が伐採されたのであるから、製材用材などに用いるのは当然のことであろう。
平成29年9月14日のS新聞報道は衝撃的であった。10月6日付けの監査結果はそれを裏付けるものであった。想像だにしなかったごみ扱いの工事契約は違法・不当である。
このことを知ったのは9月14日の新聞報道であり、確認できたのは、10月6日付けの監査結果である。
地方自治法第242条第1項の規定により、別紙事実証明書を添え、必要な措置を請求します。
(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)
- 〔事実証明書1〕「伐採木(直径10cm以上の幹)を建築資材等として再利用すること」が記載された環境影響評価書(抜粋)
- 〔事実証明書2〕工事契約書のうち、伐採木の幹を再利用しないことが記載してある施工条件部分(抜粋)
- 〔事実証明書3〕工伐採木を市場売却または一般競争入札にかけることの記載してあるる「鳥取県県土整備部公共工事建設副産物活用実施要領」(抜粋)
- 〔事実証明書4〕伐採された樹木の現場集積状況(現場で、枝と幹の部分に分けられ、幹は定尺長に切断されたうえで集積して、トラックに積み込まれる)
- 〔事実証明書5〕「根株等を製材用材等のように一般的に有価で取引きされているものとして利用する場合は廃棄物に該当しないものである」と記載されている平成11年11月10日付け厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知
- 〔事実証明書6〕本件工事に先立って行われた「恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事」において有用物として市場売買された売買記録の一部
- 〔事実証明書7〕本件伐採現場と工事の設計で見込んでいる産廃処分施設(再資源化施設)と木材市場の位置関係図
- 〔事実証明書8〕伐採木は全て産業廃棄物とし、幹の部分の産廃処理業者(再資源化業者)をI社(安芸太田町川手)としているE企業体の施工計画書(抜粋)
- 〔事実証明書9〕伐採木をすべて中間処理施設に搬入していること、幹の部分をH組合に売却し更に木材市場で売却していることの分かる、広島市がE企業体に聞き取りした記録文書
- 〔事実証明書10〕H組合が一次下請業者であることの分かる本件工事の施行体系図
- 〔事実証明書11〕広島市の設計に用いられるG社及びI社の産廃処分費
- 〔事実証明書12〕伐採木のすべてを産廃処分(再資源化施設に搬入)することして設計計上し、施工業者もその通り再資源化施設に搬入しているという議会答弁の抜粋
- 〔事実証明書13〕E企業体が、伐採木をすべて産廃処分している(中間処理施設に搬入している)ことを広島市に回答した文書
- 〔事実証明書14〕設計金額と落札金額との差分の範囲内で利益を得ても市に損害はなく問題ないとのR局長の議会答弁
- 〔事実証明書15〕伐採現場と木材市場、I社との位置関係
- 〔事実証明書16〕本件疑義に関して広島市への文書での質問に対する広島市の回答文書
- 〔事実証明書17〕追加で用地取得した土地の伐採範囲については、有価物となる木材を分別し、売り払いを行うこと及びその他の範囲についても可能な限りこれに準ずることを広島市がP社に指示した指示書
- 〔事実証明書18〕広島市がE企業体に出した指示書が、実質的にその後の伐採についてはすべて直接売却する意味合いであることが記載された広島市の回答文書
第2 請求の受理
本件措置請求は、地方自治法第242条第1項の所定の要件を具備するものと認め、平成29年10月27日に、同月17日付けでこれを受理することを決定した。
第3 監査の実施
1 請求人による証拠の提出及び陳述
地方自治法第242条第6項の規定に基づき、平成29年11月15日に請求人に対し証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、請求人は新たな証拠として次の書類を提出するとともに、陳述を行った。
(新たな証拠として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)
- 〔追加事実証明書1〕伐採木を全量「産業廃棄物」として契約していた事実
- 〔追加事実証明書2〕中間処理施設で全量チップ等にしてリサイクルすることとして契約していた事実
- 〔追加事実証明書3〕ネット上に掲載されていた「黙示の合意」に関連する最高裁の判決
請求人は、以下の点について、陳述した。
- 職員措置請求書に沿った内容の説明
- 新たな証拠として提出した書類に基づく補足説明
伐採木は全量、産業廃棄物としてチップ化してリサイクルする契約であること。
2 広島市長の意見書の提出及び陳述
広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めたところ、平成29年11月14日付け広施恵第385号により意見書が提出された。なお、陳述は行わなかった。
意見書の内容は、以下のとおりである。
(1) 本市の意見の趣旨
請求人の主張には理由がないため、本件措置請求は棄却されるべきである。
(2) 本市の意見の理由
ア 本件措置請求の要旨
本件措置請求の要旨は、おおむね次のとおりであると解される。
平成28年3月1日に広島市とE企業体との間で締結した恵下埋立地(仮称)建設工事(以下「本件工事」という。)の請負契約(以下「本件請負契約」という。)において、同年12月までの間、広島市は、伐採木のうち有用物(市場価値を有する幹)については産業廃棄物として処理すべきではないにもかかわらず、この有用物を含めて伐採木の全てを産業廃棄物として処理することとしていた。
本件工事の現場の立木は広島市の財産である(広島市に所有権がある。)にもかかわらず、E企業体の下請業者(本件工事の現場における立木の伐採を行う業者)及び委託業者(発生した伐採木を産業廃棄物処理施設(再資源化施設)(以下「中間処理施設」という。))において処理を行う業者及び運搬業者)(以下「下請業者等」という。)が伐採木のうち有用物を売却した利益を得ており、当該売却によって生じた利益は、広島市にとっての損害(平成29年8月10日付け広島市職員に関する措置請求(以下「前回の措置請求」という。)に対する同年10月6日付け監査結果(広監第79号。以下「前回の措置請求に係る監査結果」という。)によれば、売却益は3,327万1,000円)となっている。
また、広島市は有用物に係る産業廃棄物処分料に係る支出を計上しているが、当該処分料(推定1,000万円)を支払う必要はない。
よって、上記2点の損害(合計4,327万1,000円)の補塡及び当該職員への処分を求めるものである。
なお、本件措置請求の内容は、前回の措置請求とおおむね同じ内容である。
イ 本市の見解
- (ア) 本件請負契約について
- 本件措置請求は請求期限を経過していることについて
請求人は、本件請負契約においては伐採木をすべて産業廃棄物として処分することが前提とされているにもかかわらず、その一部を木材市場で売却しており、その売却された伐採木は中間処理施設に搬入されてはいるものの産業廃棄物として処分されたことにはならず、伐採木処分費が違法・不当にE企業体に支払われていると主張する。
この請求人の主張が、本件請負契約において再資源化の工程を経ることなく、売却された伐採木についても伐採木処分費を支払うこととされていることが違法・不当との趣旨であるとすれば、住民監査請求は対象となる財務会計行為の後1年を経過したときは請求できないとされているところ(地方自治法第242条第2項)、本件請負契約の締結は、平成28年3月1日になされたものであり、平成29年10月17日になされた本件措置請求は、請求期限を徒過している。 - 請求期限までに請求できなかったことについて正当な理由がないことについて
1年を経過しても、正当な理由があるときはこの限りでないと規定されている(地方自治法第242条第2項ただし書き)ところ、「正当な理由」の有無は、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為の存在及び内容(本件措置要求についていえば、本件請負契約において発生する伐採木を全て産業廃棄物として処理すること)を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきであるとされている(最高裁平成14年9月12日第一小法廷判決)。
本件請負契約について、入札公告が行われていた平成27年10月30日から同年12月18日までの間、工事所管課である環境局恵下埋立地建設事務所において、契約に係る一連の関係書類の閲覧受付を行っていた。この閲覧書類において、本件請負工事において発生する伐採木は全て産業廃棄物として処理する旨を記載した土木工事施工条件(事実関係証明書2参照)を公開していた。
よって、遅くとも平成27年12月18日ころには、住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて本件請負契約において発生する伐採木を全て産業廃棄物として処理することを知りえる状況にあったものと解される。
したがって、平成29年10月17日付けの本件措置請求には正当な理由があるとはいえない。
- 本件措置請求は請求期限を経過していることについて
- (イ) 前回の措置請求に係る監査結果の勧告について
- 勧告の概要
前回の措置請求に係る監査結果の勧告の概要は、次のとおりである。- 発生木材運搬費及び伐採木処分費について
広島市は、本件請負契約における元請業者E企業体が中間処理施設に搬入していない伐採木に係る発生木材運搬費及び伐採木処分費について、その額を算出し、これを既にE企業体に支払っている場合には、その額についてE企業体に対し債務不履行に基づく損害賠償請求をするとともに、いまだ支払っていない場合には、その支払いを中止するなど必要な措置を講ずること。 - 伐採木の売却益相当額について
広島市は、H組合が中間処理施設に搬入せずに売却した伐採木の売却益相当額について、その額を算出し、その額について、同組合に対し、不当利得返還請求をするなど必要な措置を講ずること。
- 発生木材運搬費及び伐採木処分費について
- 勧告を受けての措置(予定)
本件措置請求は、おおむね前回の措置請求と同じ内容であるところ、本市は、前回の措置請求に対する勧告を踏まえ、次のとおり、現在、勧告に沿った対応をしているところである。- 発生木材運搬費及び伐採木処分費について
本市が調査したところ、中間処理施設に搬入していない伐採木に係る発生木材運搬費及び伐採木処分費は、13万9,930円及び193万5,120円であることが判明した。
この発生木材運搬費及び伐採木処分費について、E企業体との協議を行っており、協議が整い次第、請負代金からの減額を行う予定である。 - 伐採木の売却益相当額について
上記のとおり、本市が調査したところ、中間処理施設に搬入していない伐採木に係る伐採木の売却益相当額は349万260円である。
この伐採木の売却益相当額について、E企業体及びH組合との協議を行っており、協議が整い次第、この額を請求する予定である。
よって、本件監査請求での主張については、本市が前回の措置請求に対する勧告を踏まえて既に対応していることから、新たに措置請求する理由はない。
- 発生木材運搬費及び伐採木処分費について
- 勧告の概要
- (ウ) 前回の措置請求に係る監査結果の意見について
- 意見の概要
今後同様な請負工事等の設計に当たって、有価物の財産価値を認識した設計とするため、適正な事務処理を示した手引や設計積算基準の整備等に取り組まれたい。 - 意見を受けての措置(予定)
監査意見を踏まえ、同様な請負工事等の設計に係る積算基準等の整備を行う予定である。
- 意見の概要
ウ 上記(イ)aを除く主張に対する反論について
本件措置請求において、次のとおり、前回の措置請求からの新たな主張がなされているため、これについて反論する。
- (ア) 1請求の要旨の(2)の(チ)について
請求人は、平成29年9月22日の市議会本会議において、環境局長が、「業者が市場売却益を得ることを考慮して、広島市の設計額より安価に落札したのだから問題ない。」という主旨の答弁をしたことは、市及び市民に対する背信行為であり、工事請負契約及び入札制度の根幹を揺るがすものであると主張する。
しかし、局長答弁は、前回の措置請求に対する本市意見書(第2の2の(2)(2ページ13行目~3ページ6行目))で述べた設計額等に係る事実関係について説明したものであり、市及び市民に対する背信行為には当たらない。 - (イ) 1請求の要旨の(2)の(ツ)について
請求人は、同じ議会答弁において、環境局長が、「国有林など間伐等の十分な管理がなされ、一見して有用物が確認できる場合には有用物として売却することもあるが、民有地の立木であったことから、工事に支障とならないよう除去することを重視して産業廃棄物とした」という主旨の答弁をしたことは、事実と異なる虚偽答弁であると主張する。
しかし、局長答弁の主旨は、民有林が管理されていることを否定したものではなく、別の契約(平成24年度に発注した恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事)と本件請負契約における伐採木の取扱いに係る事実関係を述べたにすぎず、虚偽答弁には当たらない。 - (ウ) その他
上記(ア)及び(イ)を除く本件措置請求は、前回の措置請求とおおむね同じであるところ、本市の主張は、前回の措置請求に係る監査結果の第3の2のとおりである。
エ 結論
以上の次第で、本件措置請求は速やかに棄却されるべきである。
3 前回措置請求との比較
本件措置請求において述べられている事実関係について、別紙の平成29年10月6日付け広監第79号「広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)」(以下「前回監査結果」という。)で監査結果を通知した広島市職員に関する措置請求(以下「前回措置請求」という。)において述べられている事実関係と比較し、違いの有無について確認した。
第4 監査の結果
1 事実関係の確認
本件措置請求において述べられている事実関係は、前回措置請求において述べられている事実関係と内容において同一のものであると認められる。
したがって、本件措置請求に対する判断の基となる事実関係については、前回監査結果において確認した事実関係のとおりである。
2 判断
上記1の事実関係から、本件措置請求に対する判断については、前回監査結果における判断のとおりとする。
3 その他
なお、本件措置請求において、請求人は、次に掲げる主張をしているが、これらについては、それぞれで述べるとおり、上記2の判断に影響を与えるものではない。
(1) 本件請負契約における伐採木の処分に係る債務の内容
請求人は、本件請負契約における伐採木の処分に係るE企業体の債務について、伐採木を中間処理施設に搬入しさえすればよいというものではなく、搬入後木材チップにするところまでが債務内容であったと主張し、それを行っていないのは債務不履行であるから、伐採木処分費の支払は違法であると主張する。
しかし、本件請負契約においては、詳細な仕様書が作成されているところ、当該仕様書には伐採木を中間処理施設に搬入することしか定めておらず、木材チップにすることは定めていないのであって、また、本件請負契約全体の趣旨から木材チップにしなければ契約の目的が実現できないといった特段の事情があるともいえないことから、搬入後の伐採木を木材チップにすることまでが本件請負契約の内容とされているとはいえない。
よって、中間処理施設に搬入された伐採木の伐採木処分費の支払については、債務不履行はないのであり、違法・不当な点はない。
(2) 請求期限徒過の正当な理由
請求人は、本件請負契約について知ったのは平成29年9月14日のS新聞の報道によってであり、知ってから1年以内の本件措置請求は請求期限徒過につき正当な理由があると主張する。
住民監査請求は対象となる財務会計上の行為の後1年を経過したときは請求することができないとされているが(地方自治法第242条第2項)、請求期限までに請求できなかったことについて正当な理由がある場合は、請求することは可能であるところ、この正当な理由については、請求期限までに普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合に、当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をした場合には正当な理由が認められるとされる(最高裁平成14年9月12日判決)。
本件請負契約の締結は、平成28年3月1日になされたものであり、平成29年10月17日になされた本件措置請求は、請求期限を徒過しており、また、本件請負契約は、入札公告において契約関係書類を一般の閲覧に供した上で、市議会における公開の審議・議決を経て締結されているのだから、請求期限までに住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合に該当するとはいえない。
したがって、本件措置請求において請求期限を徒過したことにつき正当な理由があるとはいえない。
別紙(広監第79号)
広監第79号
平成29年10月6日
請求人
(略)
広島市監査委員 佐伯 克彦
同 井上 周子
同 原 裕治
同 桑田 恭子
広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)
平成29年8月10日付けで受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法第242条第4項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。
第1 請求の要旨
平成29年8月10日付けで提出のあった広島市職員措置請求書に記載された内容は、以下のとおりである。
A広島市長、B環境局埋立地整備部長、C前恵下埋立地建設事務所長、D前恵下埋立地建設事務所専門員、その他恵下埋立地建設事務所「恵下埋立地(仮称)建設工事」担当者等にかかる措置請求
1 請求の要旨
(1) 概要
「恵下埋立地(仮称)建設工事」(工期:平成28年3月1日から平成32年3月10日、施工業者:E企業体)においては、伐採した立木(以下、「伐採木」という。)はすべて産業廃棄物として処分することとして、その処分料金を工事金額に含んでいた。
ところが、伐採木のうち「幹」の部分が「産廃処分」ではなく、「有用物」として木材市場で売却されていた。
その結果、産廃処分料と売却益の両方が、違法・不当に請負業者に渡った。
昨年、C前恵下埋立地建設事務所長に対してこのことを指摘し、調査及び是正措置をお願いした。しかしながら、広島市は是正措置(返納措置)をとらなかったため、違法・不当に税金を支出することとなり市民に損害を与えた。(平成28年12月以降の伐採分については、指摘通り産廃から有用物に変更し直接木材市場で売却しているとの事であるので、措置請求は、産業廃棄物としながら市場で売却されていたものに対してである。)
かかる違法・不当な公金支出に対して、損害額の返金処理と、当該職員への相応の処分を求めるため監査請求するものである。
(2) 説明
ア 事実関係
- (ア) 伐採木を有用物として市場売却した場合には、売却益を市へ返納することとなっている。伐採木は市の財産であること、売却益は工事とは別物であることから、市の財産によって得た収益は、市に返納する必要があるからである。
これとは逆に、伐採木を市場価値のないものとして産廃処分する場合は処分料金を払って産廃処理業者に引取らせ処分する必要がある。 - (イ) 本件工事に先立って行われた「恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事」においては、伐採木の「幹」の部分は、有用物として木材市場で売却され、売却益が市に返納されている。その売買記録の一部を〔事実証明書1〕として添付する。
- (ウ) 木材市場(F組合)は、本件工事現場から約20kmの位置にあることから、運搬距離が短く、運搬料金を支払っても売却益が見込まれる。市が設計に計上した産廃処分施設(再資源化施設)も約20kmとほぼ同じ距離にあり、両者を比較しても、有用物として市場売却する方を選んで設計すべきものであった。
- (エ) しかしながら、先に行われた取付道路の工事では「幹」を市場売却としたにも関わらず、本件工事では、伐採木は、「幹」の部分を含めて、全て産業廃棄物として処分する設計で工事発注された。〔事実証明書2〕
- (オ) E企業体が作成した施工計画書においても、伐採木は、全て産業廃棄物として処分することとしている。E企業体は、「幹」及び「根株」については、運搬距離が50kmもあるI社(安芸太田町川手)で処分することとした。(なお、枝葉については、設計通り佐伯区石内のG社としている)〔事実証明書3〕
- (カ) ところが、産廃処分されているはずの伐採木の「幹」の部分が、市場で売却されていた。
- (キ) 市場売却益は売主であったH組合が得ていた。その額がいくらであるのかは不明であるが、おおよそ推定すれば1,000万円程度になると思われる。E企業体も広島市も、関係ないため把握していないと言っているが、F組合かH組合に確認すれば分かるはずである。
私たちの指摘によって、広島市がE企業体に聞取り調査したところでは、売却された量は、平成28年12月までに3,700立方メートルということであった。〔事実証明書4〕
なお、H組合は、本件工事の一次下請業者である。〔事実証明書5〕 - (ク) 市場売却されていた幹は、伐採現場において枝を取り払われ、幹のみにしてトラックに積込み易いよう選別・集積されていたものである。
伐採木は、再資源化施設で再資源化処理(チップ等にする処理)を行うこととして処理費用が組み込まれている。しかし、「幹」の部分はそのままで売却されている。
設計上は、佐伯区五日市町石内のG社で再資源化するとして、その費用(1立方メートル当り2,200円)が計上されている。市場売却された数量を3,700立方メートルとすれば、1,000万円程度(諸経費込み)が、実際に再資源化の作業をしていないにも関わらず支払われた額になる。
I社での処分費が、I社の公表通り1立方メートル当り7,500円であれば、2,700万円余りがE企業体からI社に渡っているということになるが、再資源化処理をしていないのであるから、共謀して処理費用を広島市からだまし取ったという構図になっている。産廃処分費は〔事実証明書6〕の通り。 - (ケ) 木材運搬トラックが、伐採現場からI社に行くのではなく、木材市場の方に行ったという目撃情報〔事実証明書7〕からは、産廃処分場への運搬費も支出してはならない経費ということになる。しかし、本件工事の設計に組み込まれている。
実際に伐採現場から直接木材市場に搬入された量は、運搬トラックのナンバー記録や運行記録を突き合わせれば判明すると思われる。 - (コ) 産廃処分されているはずの伐採木の一部が市場売買されていることについて、昨年、恵下埋立地建設事務所を訪れ、C所長に話し、調査と是正措置をお願いした。その後の広島市の見解は、「すべて産廃処分としているが、再資源化施設において手選別で、廃棄物と有用物をより分け、有用物を市場売却しているので違法ではない」というものであり、議会でも、伐採木のすべてを産廃処分(再資源化施設に搬入)することして設計計上し、施工業者もその通り再資源化施設に搬入していると答弁をしている。〔事実証明書8〕
なお、広島市からの問い合わせに対して元請業者は、すべて産廃処分している(中間処理施設に搬入している)と答えている。〔事実証明書9〕 - (サ) しかしながら、現場で伐採された樹木は、現場で、枝と幹の部分に分けられ、幹は4mに切断されたうえで集積して、トラックに積み込まれており〔事実証明書10〕、中間処理施設(再資源化施設)で手選別でより分けている訳ではない。
現場で、そのまま木材市場に搬入できる状態にしていること、事実としてその幹を木材市場で売買したことから、「幹」は伐採現場に存在している時点ですでに「産業廃棄物」ではなく「有用物」であった。
従って、産廃処分場までの運搬費も支払うべきではない経費ということになる。 - (シ) 平成11年11月10日付け厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知には、「根株等を製材用材等のように一般的に有価で取引きされているものとして利用する場合は廃棄物に該当しないものである」と明確に記載されている。〔事実証明書11〕
本件のように、有価で取引されている製材用材として利用する場合には、「廃棄物」ではなく「有用物」として取り扱わなければならない。 - (ス) 伐採現場と木材市場、I社との位置関係は〔事実証明書12〕の通りであり、一度I社まで搬出してそこで積みなおして再度木材市場まで戻ってくるような位置関係にはない。このことは、当初から、幹の部分をI社に運ぶのではなく木材市場への運搬を前提としているとみることができる。
なお、本件工事の設計で見込んでいる再資源化施設G社は〔事実証明書13〕の位置にある。 - (セ) 先に記述した通り、幹の部分は、実際に市場で売却したのであるから、「廃棄物」ではなく「有用物」である。当初設計を変更せず廃棄物のままとしたこと自体が違法・不当である。
幹の売却益(1,000万円程度になるものと推定される)は市に返納すべきものである。
廃棄物ではないのであるから、産廃処分料金(1,000万円程度になるものと推定される)も支払ってはならないものである。
あわせて2000万円程度が、違法・不当に請負業者に支払われたが、これは、廃棄物処理を利用した偽装工作による詐欺であり、業者と、その事実を知っていながら返納を求めなかった広島市の担当者も結託した詐欺事件ともいえるのではないか。
前の工事(恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事)で市場売却としたにも関わらず、本件工事で産業廃棄物として設計したこと自体不自然であり、当初から業者と結託してそのような設計としたのではないかとの疑念すら生じる内容である。 - (ソ) 一般に、廃棄物か有用物かは、「中間処理(再資源化処理)に要した費用」+「売却先への運搬費」が、売却益を上回れば廃棄物、下回れば有用物と判断されており、廃棄物を再資源化施設で資源化して売買すること自体は違法ではない。
しかし本件は、伐採現場で選別し幹の部分のみトラックに積込んでいるので、中間処理施設(再資源化施設)で手選別している訳ではない。また、実態としても、中間処理施設まで運搬せず、直接木材市場に搬入している。(目撃情報)
更に、本省産業廃棄物対策室長通知に明確に「廃棄物」ではないと記載されているように、「幹」の部分は産廃ではないのであるから、産廃のマニュフェストに載せるべきものではない。一度、中間処理施設(I社)までわざわざ搬入して、そこでトラックを変えて木材市場に搬入したとしても、現場で有用物として選別されているのであるから、産廃を装って処分費を詐欺したということに変わりはない。
このような問題についての広島市への文書での質問に対する文書での回答は、〔事実証明書14〕の通りであった。 - (タ) 環境影響評価書には、伐採木は、可能な限り製材用材等として有効活用することが記載されている。しかし、本件工事において、それを無視した設計を行っている。〔事実証明書15〕
また、木材市場の役員の方からも、広島市に対して、貴重な伐採木を市場に出すよう要望したという話がある。その時点では、産廃処分するので出せないと広島市に断られたそうである。 - (チ) 木材市場で売却したのは、請負業者の一次下請けであるH組合である。広島市の所有物が、いつの間にか、H組合の所有物として市場売買されるという、いわば横領行為も行われているが、広島市の担当者が、そのことを知った上で黙認していることも大きな問題である。
- (ツ) 産業廃棄物は、マニュフェストによって、その行先が分かるようになっている。本件工事は電子マニュフェストであり、最終処分場所の記載されているもの(紙マニュフェストのE票にあたる部分)を広島市に開示請求したが、取得していないとして開示されなかった。〔事実証明書16〕
本件工事の排出事業者は元請業者であるが、市は、最終処分まで監視し違法な処理が行われていないか確認する必要がある。マニフェスト上は、幹の部分は、I社で再資源化され、H組合に売却されているはずである。そのマニュフェストを確認していたならば、設計の問題点を把握し、早い段階で「幹」の部分を直接市場売却することに切り替えたであろう。しかし、私たちが指摘するまで仕様変更しなかったし、それ以前に伐採したものについては不問とした。
すでに伐採済のものについても、本省通達の通り「幹」の部分は産業廃棄物ではないのであるから、適正な変更処理をしなければならなかったが、状況を把握していたにも関わらず変更処理をしなかったことが大きな問題である。 - (テ) C前所長は、議会で、再資源化施設に持ち込んだ産業廃棄物を「手選別」によって、廃棄物と有用物により分けたのち有用物として市場売買したもので違法ではないとの答弁をしている。
しかしながら、当該伐採木は、伐採現場で「枝」と「幹」の部分に選別されており、それぞれにトラックに積み込まれたため、「手選別」の過程がない。議会を軽視し、虚偽の答弁をした。
イ 違法性、不当性
- (ア) 廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)によれば、「有用物」と「廃棄物」は明確に区分され、「有用物」と判断されるものは「廃棄物」ではない。市場価値のある「有用物」に、産廃の処分料金を支払うのは違法な公金支出行為である。
- (イ) 本件工事の現場に存在している立木は、市の財産である。市の財産が、H組合の財産として市場で売却されていたが、この行為は、横領にあたる。このことを知りながら黙認していることは違法・不当な行為にあたる。
- (ウ) 広島市は、伐採木は産業廃棄物であるとし、再資源化施設で「手選別」によって、廃棄物と価値のあるものに分けられ、価値のあるものが市場で売買されたのであるから違法ではないと議会で答弁したが、実際には、伐採現場で「枝葉」と「幹」に区分けされ、「幹」の部分のみまとめてトラックに積み込まれているのであるから、再資源化施設での「手選別」はあり得ない。全く手をかけていないにも関わらす、かかる説明を議会でしたことは、議会及び市民への背信行為である。
- (エ) 平成11年11月10日付け厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知に、「根株等を製材用材等のように一般的に有価で取引きされているものとして利用する場合は廃棄物に該当しないものである」と明確に記載されている通り、木材市場で売却した「幹」が産業廃棄物に該当しないことを知りながら、また、50kmも離れているI社を再資源化施設とし、その途上20km地点にある木材市場に搬入していたことを知りながら、業者と一体となってその事実を隠していることが、地方公務員法に違反している。
- (オ) 環境影響評価書に記載された計画を無視して、環境保全を図る措置をしなかったこと、先に行われた「恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事」とは真反対の産業廃棄物としたことは、意図的な何かがあったと推測されるものである。公務員が公務員として職務上尽くすべき義務に違反しており、ここには違法行為があると考えざるを得ない。
- (カ) 上記の結果、払ってはならない産廃処分料を支払ったこと、市場売却益を返納させなかったことが、公金の不当支出にあたり、市民に損害を与えた。
- (キ) 「幹」の部分は産廃ではないとの私たちの指摘を正しいと考え、広島市は、平成28年11月17日に請負業者に対して、追加で用地取得した土地の伐採範囲については、有価物となる木材を分別し、売り払いを行うことを指示した。〔事実証明書17〕
広島市は、この指示書をもって、平成28年12月以降の伐採においては、有用物として直接市場に搬入し、売却益を市に返納することとしたと称している。そのように見直した理由を「工事請負契約の締結後の昨年9月に、売買契約を締結した土地所有者の方から、大切にして育てた木を廃棄物として取り扱うのではなくて、建築資材として扱って欲しいとのご要望をいただいたため、昨年12月から伐採木の中で、建築資材への活用が可能なものは、元請け業者が直接木材市場の方で売り払うよう見直しております。」と議会(H29.3.8予特)で説明したことは、問題の本質を隠して議会を欺くものであり、不当行為にあたる。
(3) 請求の対象となる職員
- 本件工事の契約者 A広島市長
- 本件工事の契約責任者 B環境局埋立地整備部長
- 本件工事の実施責任者 C前恵下埋立地建設事務所長
- 本件工事の現場責任者 D前恵下埋立地建設事務所専門員
- その他、本請求理由による公金の違法・不当支出に関わったすべての職員(氏名不知)
(4) 損害の推定
違法に支払われた産廃処分費 推定1,000万円
市に返納すべき木材の売却益 推定1,000万円 合計2,000万円
(5) 請求する措置
- 不当な公金支出の是正(設計変更による違法・不当な支出の返納)
- 関係職員の処分
(6) 問題点の図化
別図2のとおり
(7) 住民監査請求を行うに至った想い
広島市の次期一般廃棄物最終処分場として計画・整備されている「恵下埋立地」の工事において、不適切な公金支出が行われました。
恵下埋立地は、広島市佐伯区恵下地区の山林約102haを事業地とする計画で、そのうち約31haを開発するものです。「恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事」によって約3haがすでに開発済み(建設工事は平成24年7月5日から平成28年1月29日にかけて行われた)であり、今回「恵下埋立地(仮称)建設工事」により、広範囲にわたって大規模伐採が行われています。
この地は山林ですから、まず最初に立木の伐採が必要となります。
恵下地区は、江戸時代「御建山(おたてやま)」と呼ばれ良質木材の産地として手厚く育成・保護され、明治時代以降も営林署や民間で手厚く造植林されてきたところです。ここを広範囲に伐採し環境に影響を与える事業ですから、環境保全に十二分に留意することが求められています。
環境影響報告書には、本事業が環境保全措置の一つとして、伐採木の再利用・再資源化を図る計画であることに対して、「可能な限り建築資材等としての再利用や、チップ化等により、再利用・再資源化を図ることにより、廃棄物の発生の低減が見込まれます。」と評価しています。
しかしながら、そのように評価した広島市自身が、恵下埋立地(仮称)建設工事において、伐採木をすべて産業廃棄物として処分する設計としました。その設計に従い、工事を請け負ったE企業体によって、伐採木を「枝・葉」「幹」「根」の部分に現場で区分けした上で、トラックにより産業廃棄物の再資源化施設(枝・葉はG社、幹・根株はI社)に搬出する処分計画が策定されました。
ところが、建築資材等として価値のある幹の部分は、産業廃棄物として処分されるのではなく、I社への搬出路の途中にある木材市場に搬出し、有価物として売却されていました。
このことについて異議を唱えたところ、立木伐採を半分程度残した時点で方針転換し、幹の部分について、環境影響評価書に記載の通り、有用物として直接市場売却することとなりました。しかしながら、それ以前に伐採された部分については、有用物として市場売却されていたにも関わらず、設計を是正しなかったため、産業廃棄物処分費用と木材の市場売却益の両方を請負業者が違法・不当に得ることとなりました。
広島市は、環境影響評価での設計の考え方を踏襲することなく、環境に配慮することなく設計し工事を進めています。
平成17年度には、廃タイヤ等の燃える大規模な火事のあり、大規模に燃え殻が存在し土壌汚染の可能性のあることを知っていました。平成19年度から22年度にかけての現地調査(ボーリング調査)では、燃え殻を掘り当てていたにも関わらず、その燃え殻の分析を行うことなく土壌汚染のない土地として土地を取得したことや、土壌環境基準の29倍ものダイオキシン類や同じく8.2倍もの鉛の存在を放置し続けたことなど、広島市職員の対応に不信感を持ち、事務処理能力に不安を感じています。このような仕事の進め方をしていては、安全・安心は確保できません。
全身全霊で職務に専念し、市民の福祉の向上に寄与できる組織に生まれ変わって欲しいというのが、切なる願いです。
地方自治法第242条第1項の規定により、別紙事実証明書を添え、必要な措置を請求します。
(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)
- 〔事実証明書1〕 本件工事に先立って行われた「恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事」において有用物として市場売買された売買記録の一部
- 〔事実証明書2〕 本件工事設計仕様書(伐採木は、「幹」の部分を含めて、全て産業廃棄物としている)
- 〔事実証明書3〕 E企業体が作成した施工計画書(伐採木は全て産業廃棄物として処分。産廃処理業者(再資源化業者)をI社(安芸太田町川手)としている)
- 〔事実証明書4〕 広島市がE企業体に木材市場での売却数量を聞取り調査したもの
- 〔事実証明書5〕 本件工事の施行体系図(H組合が一次下請業者)
- 〔事実証明書6〕 本件工事の「幹」の部分に係る処分費の基準及び概算処分費
- 〔事実証明書7〕 木材運搬トラックが、伐採現場からI社に行くのではなく、木材市場の方に道を変えたという目撃情報
- 〔事実証明書8〕 議会答弁の抜粋(伐採木のすべてを産廃処分(再資源化施設に搬入)することして設計計上し、施工業者もその通り再資源化施設に搬入していると答弁)
- 〔事実証明書9〕 E企業体が、伐採木をすべて産廃処分している(中間処理施設に搬入している)ことを広島市に回答した文書
- 〔事実証明書10〕 伐採された樹木のトラックへの積込み状況(現場で、枝と幹の部分に分けられ、幹は4mに切断されたうえで集積して、トラックに積み込まれる)
- 〔事実証明書11〕 平成11年11月10日付け厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知(「根株等を製材用材等のように一般的に有価で取引きされているものとして利用する場合は廃棄物に該当しないものである」と記載)
- 〔事実証明書12〕 伐採現場と木材市場、I社との位置関係
- 〔事実証明書13〕 本件工事の設計で見込んでいる産廃処分場(再資源化施設)の位置
- 〔事実証明書14〕 広島市への文書での質問に対する広島市の文書回答
- 〔事実証明書15〕 伐採木は可能な限り製材用材等として有効活用するとの環境影響評価書の記述
- 〔事実証明書16〕 本件工事の産業廃棄物処理マニュフェスト開示請求に対する不存在決定
- 〔事実証明書17〕 有価物となる木材を分別し、売り払いを行うことの指示書
第2 請求の受理
本件措置請求は、地方自治法第242条第1項の所定の要件を具備するものと認め、平成29年8月30日に、同月10日付けでこれを受理することを決定した。
第3 監査の実施
1 請求人による証拠の提出及び陳述
地方自治法第242条第6項の規定に基づき、平成29年9月13日に請求人に対し証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、請求人は新たな証拠として次の書類を提出するとともに、陳述を行った。
(新たな証拠として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)
- 〔事実証明書7〕 木材運搬トラックの目撃情報
- 〔事実証明書10〕 伐採された木の集積・積込み
- 〔事実証明書15〕 恵下埋立地環境影響評価書(抜粋)
- 鳥取県県土整備部公共工事建設副産物活用実施要領(抜粋)
- 県民の声・意見の内容
請求人は、以下の点について、陳述した。
- 職員措置請求書に沿った内容の説明
- 新たな証拠として提出した書類等に基づく補足説明
- ア 土地と一緒に購入した立木の所有権について鳥取県と本件との比較
- イ 本件伐採木の処分方法が環境影響評価書の環境保全措置の記載事項と異なること。
2 広島市長の意見書の提出及び陳述
広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めたところ、平成29年9月12日付け広施恵第320号により意見書が提出された。なお、陳述は行わなかった。
意見書の内容は、以下のとおりである。
(1) 本市の意見の趣旨
請求人の主張には理由がないため、本件措置請求は棄却されるべきである。
(2) 本市の意見の理由
ア 本件措置請求の要旨
本件措置請求の要旨は、おおむね次のとおりであると解される。
平成28年3月1日に広島市とE企業体との間で締結した恵下埋立地(仮称)建設工事(以下「本件工事」という。)の請負契約(以下「本件請負契約」という。)において、同年12月までの間、広島市は、伐採木のうち有用物(市場価値を有する幹)については産業廃棄物として処理すべきではないにもかかわらず、この有用物を含めて伐採木の全てを産業廃棄物として処理することとしていた。
本件工事の現場の立木は広島市の財産である(広島市に所有権がある。)にもかかわらず、E企業体の下請業者(本件工事の現場における立木の伐採を行う業者)及び委託業者(発生した伐採木を産業廃棄物処理施設(再資源化施設)において処理を行う業者及び運搬業者)(以下「下請業者等」という。)が伐採木のうち有用物を売却した利益を得ており、当該売却によって生じた利益は、広島市にとっての損害(推定1,000万円)となっている。
また、広島市は有用物に係る産業廃棄物処分料に係る支出を計上しているが、当該処分料(推定1,000万円)を支払う必要はない。
よって、上記2点の損害(合計2,000万円)の補塡及び当該職員への処分を求めるものである。
しかしながら、本件請負契約は、本市に何ら損害を発生させるものではなく、請求人の主張には理由がない。以下その理由を述べる。
イ 本市に損害を発生させていないことについて
- (ア) 伐採木のうち有用物を売却したことによって生じた利益について
本件請負契約は、恵下埋立地(仮称)を建設するに当たって、工事の支障となる立木を除去するために、本市がE企業体に対し、立木の伐採と伐採木等の処分を全面的に委ねたものである。したがって、本件請負契約成立時点で、当該立木に係る所有権は、本市からE企業体に移転している。
よって、本市は、発生した伐採木が産業廃棄物であるか有用物であるかの如何に関わりなく、当該発生した伐採木の所有権を有していないことから、E企業体の下請業者等に対して、当該伐採木の売却益を請求することはできない。また、当該伐採木の売却益を請求する法的根拠のない本市にとって、それが損害になるということはあり得ない。 - (イ) 有用物に係る産業廃棄物処分料を設計費に計上することについて
本市が本件請負契約において、伐採木の処理(立木の伐採、この伐採木の運搬及び根株の全てを産業廃棄物として処理するもの)に要する費用として設計した金額は、2億966万4,000円である。
他方、E企業体が入札時に、本件請負契約の伐採木の処理に要する費用として提示した見積金額は、1億1,329万9,200円である。これについては、本件請負契約締結後に、本市はE企業体から下請業者等が伐採木のうちの一部が売却できることを見越していたことから伐採木の処理に係る費用を安価に見積もることができたとの説明を受けたところである。(別添資料1の1参照)
よって、本市が設計した金額(2億966万4,000円)とE企業体の見積金額(1億1,329万9,200円)との差額(9,636万4,800円)は、伐採木を有用物として売却することを見込んだことによって生じたものといえる。
また、仮に、本件請負契約において、伐採木の一部(10%)が有用物に当たるという前提で設計する(別添資料1の2参照)と、設計金額は、1億7,008万8,000円となり、上記E企業体の見積金額(1億1,329万9,200円)の方が安価となる。
なお、本市は、E企業体が産業廃棄物処理施設に搬出した伐採木のうち、市場で売却された木材の売却益は3,327万1,000円と確認している。(別添資料1の3参照)
以上のことからすれば、有用物に係る産業廃棄物処分料として設計費に計上されている額は、本市に損害を発生させるものとはなっていない。
ウ 請求人の違法性・不当性に係る主張に対する反論について
請求人が主張する違法性・不当性(第1の1請求の要旨(2)イ)についても、請求人の主張には理由がない。以下その理由を述べる。
- (ア) 請求の要旨(2)イ(ア)について
請求人は、有用物に産業廃棄物処分料を支払うのは違法な公金支出であると主張している。
しかし、平成11年11月10日厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知(以下「厚生省通知」という。)は、根株等(根株、伐採木及び末木枝条)を有用物として利用する場合は廃棄物として規制する必要がないことを示したにすぎず、根株等を有用物として取り扱う場合の公共工事の積算について何ら言及するものではなく、本件請負契約において、有用物に係る産業廃棄物処分に必要となる料金を見込んでいることが違法となる論拠とはなり得ない。 - (イ) 請求の要旨(2)イ(イ)について
請求人は、本件工事の現場に存在している立木が本市の財産であるのに、本市が、当該立木が市場で売却されていることを知りながら黙認していることは、違法・不当な行為に当たるなどと主張している。
しかし、上記イの(ア)のとおり、本件請負契約成立時点で、立木の所有権は、本市からE企業体に移転していることから、違法・不当の主張は当たらない。 - (ウ) 請求の要旨(2)イ(ウ)について
請求人は、伐採木について、実際には伐採現場で「枝葉」と「幹」に区分けされているのに、産業廃棄物処理施設(再資源化施設)で「手選別」によって廃棄物と価値のあるものとに分けられている旨を本市が議会で答弁したことは、議会及び市民への背信行為であると主張している。
しかし、E企業体からの聞き取りを踏まえ、産業廃棄物処理施設において伐採木の手選別(選別処理)がされていると答弁したことは、本件工事の現場において伐採木を幹と枝葉に分別していることを否定したものではなく、議会及び市民への背信行為との主張は当たらない。 - (エ) 請求の要旨(2)イ(エ)について
請求人は、厚生省通知があるにもかかわらず、産業廃棄物に該当しない「幹」を産業廃棄物として設計していること、また、それが直接木材市場に搬入されていることを知りながら、本市が業者と一体となってその事実を隠していることは、地方公務員法に違反していると主張している。
しかし、上記(ア)のとおり、厚生省通知は、伐採木のうち有用物を産業廃棄物として取り扱う場合の公共工事の積算について言及するものではない。
また、本市は、幹も含めた伐採木の本件工事の現場から産業廃棄物処理施設への搬出については、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき、電子マニフェストで確認しているところであり、本市が業者と一体となって事実を隠していることはなく、地方公務員法に違反している事実もない。 - (オ) 請求の要旨(2)イ(オ)について
請求人は、本市が、(1)環境影響評価を無視して環境保全を図る措置をしなかったこと、(2)伐採木の取扱いについて、恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事とは真反対の産業廃棄物処理としたことは、公務員として職務上尽すべき義務に違反していると主張している。
しかし、以下のとおり請求人の主張に理由はない。- (1)について
本市が作成した「恵下埋立地(仮称)建設工事に係る環境影響評価書」(以下「環境影響評価書」という。)には、環境保全措置として、発生した伐採木について建築資材等として再利用することのみを掲げていたわけではなく、チップ化し代替燃料として再利用する方法もある旨記載している。本件請負契約における伐採木は、環境影響評価書のとおり発生した伐採木をチップ化できる産業廃棄物処理施設に搬出されている。
よって、環境影響評価書を無視し、環境保全を図る措置を行っていないという事実はない。 - (2)について
平成24年度に発注した恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事の工事場所は、国有林として間伐等の十分な管理がなされ、一見して有用物が確認できるものであったことから、伐採木の一部を売却することを見込んで設計したが、本件工事は、民有地の立木を除去することを重視して設計したものである。
よって、事案に則した設計をしたところであり、公務員として職務上尽くすべき義務に違反しているとはいえない。
- (1)について
- (カ) 請求の要旨(2)イ(カ)について
請求人は、本市が、払ってはいけない産業廃棄物処分料を支払い、市場売却益を返納させなかったことが、公金の不当支出に当たり、市民に損害を与えたと主張している。
しかし、上記イのとおり、本件請負契約において、本市には損害が発生していないのであるから、公金の不当支出には当たらない。 - (キ) 請求の要旨(2)イ(キ)について
請求人は、本市が平成28年12月以降、伐採木を売却した利益相当額を本件請負契約の代金から減額する取扱いに変更したことについて、請求人らの指摘が正しいと考えて行ったものであるのに、土地所有者から、大切に育てた木を廃棄物ではなく建築資材として扱ってほしいとの要望を受けたためであると議会で説明したことは、問題の本質を隠し議会を欺く不当行為であると主張している。
しかし、平成28年12月19日以降、伐採木のうち売却した利益相当額を本件請負契約の代金から減額することとしたのは、本件請負契約の締結時に未買収地であった土地所有者から、立木を市場で売却してほしいとの要望があったため、立木が有用物と確認できる場合の取扱いに切り替えることにしたものである。
なお、この取扱いの切替えは、本件請負契約の土木工事施工条件9の(12)(未買収用地等の立木の搬入先について)において、取得する用地の立木補償条件等により、立木の搬出先が変更される可能性があることを記載していたことを踏まえてのものである。(別添資料2参照)
平成29年3月8日の予算特別委員会での本市職員の答弁は、こうした事実関係を説明したものであって、議会を欺く不当行為ではない。
エ まとめ
以上の次第で、請求人が主張する内容について、いずれも本市には何ら損害が発生していないことから、本件措置請求は棄却されるべきである。
(意見に係る証拠書類として、次の書類が提出されているが、添付を省略する。)
- 資料1 恵下埋立地(仮称)建設工事における伐採木の処分に係る費用等
- 資料2 恵下埋立地(仮称)建設工事土木工事施工条件
3 監査対象事項
- 本件請負契約に基づく、発生木材運搬費及び伐採木処分費の支払は、違法又は不当か。
- 伐採木の売却益の返還を求めていないことは、違法又は不当か。
第4 監査の結果
1 事実関係の確認
請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類、広島市長から提出された意見書及び関係書類並びに広島市の関係職員への調査により、以下のとおり確認した。
(1) 恵下埋立地(仮称)建設工事(以下「本件工事」という。)の概要
ア 恵下埋立地(仮称)建設工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)の概要
- (ア) 工事場所 佐伯区湯来町大字和田
- (イ) 工期 平成28年3月1日から平成32年3月10日まで(契約締結日 平成28年3月1日)
- (ウ) 請負代金額 93億4,848万円 (当初契約時)
94億7,467万2,600円(変更契約時)
変更契約締結日 平成28年10月7日
変更理由 公共工事設計労務単価変更に対応するため - (エ) 受注者 E企業体
- (オ) 工事内容 全体計画容量160万立方メートルのうちの35万立方メートルの廃棄物埋立地建設工事(埋立地の用地約22万4,000平方メートルの造成その他工事)
イ 契約図書上の伐採木に係る記載
本件工事の特記仕様書、土木工事施工条件及び工事設計書には、伐採木について次の内容が記載されている。
- (ア) 特記仕様書
13 建設副産物の搬出について
(1) 工事の施工により発生する建設副産物は、下記の場所に搬入することとする。なお、指定場所等との協議等で他の受入れ場所へ搬入する必要がある場合又は、他の受入場所がない場合は、本市と協議し決定するものとする。なお、運搬、搬入等にあたり産業廃棄物に該当する建設副産物は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」を遵守すること。受入場所 建設副産物
搬入場所
発生木材 産業廃棄物処分業の中間処理の許可を有する再資源化施設 - (イ) 土木工事施工条件
- 7.建設副産物関係
(5) 伐採木及び根株
本工事において発生する伐採木及び根株については、下記の受入場所に搬出することとし、所在地への搬出を見込んでいる。
ただし、下記の受入場所以外の「産業廃棄物処分業の中間処分の許可を有し、木質チップ等として再資源化可能な再資源化施設」に搬出することを妨げるものではない。
施設名 Q社樹木リサイクルセンター
(名称変更があり、現在はG社樹木リサイクルセンター)
所在地 佐伯区五日市町大字石内
運搬距離 19.4km - 9.その他
- (2) 伐採除根量について
本工事の施工に当っては、伐採除根量(体積)について近隣工事の実績により、下記のとおり見込んでいる。
なお、下記の条件により難い場合は、発注者と受注者の協議のうえ契約変更の対象とする。項目
数量
伐採木、木くず等
1,300平方メートル
根株
900平方メートル
- (12) 未買収用地等の立木の搬出先について取得する用地の立木補償条件等により、本条件明示7(5)に示す搬出先が変更となる場合がある。
- (2) 伐採除根量について
- 7.建設副産物関係
- (ウ) 工事設計書(共通仮設費内の準備費)
名称
数量
単位
伐採・除根 224,000 平方メートル 集積 224,000 平方メートル 発生木材運搬費 224,000 平方メートル 伐採木処分費 29,120 平方メートル 根株処分費 20,160 平方メートル
(2) 本件工事の前提となる事項
ア 恵下埋立地(仮称)整備事業(以下「埋立地整備事業」という。)用地内の立木
- (ア) 支障物件調査
埋立地整備事業用地の取得に当たり、市において、立木の樹種名、胸高直径、本数及び林齢等が調査されている。 - (イ) 立木の補償額
埋立地整備事業用地として購入された土地の面積は、96万7,074.73平方メートルで、立木の補償額の総計は、8,080万2,600円とされている。なお、この土地の面積のうち、本件工事により22万4,000平方メートルの範囲の立木を伐採することとされている。 - (ウ) 地権者からの要望等
用地交渉等において、地権者2名から要望等があり、その1名から、平成27年10月14日及び同年12月16日に「伐採木を市場に持っていって欲しい。」との要望が、平成28年4月4日には「伐採木の扱いはどうなったか。」との質問が出され、広島市(以下「市」という。)からは、「ここの伐採木については、市場の方へ持って行けるように検討する。」との回答がなされている。
他の1名からは、平成28年6月30日及び同年10月4日に「伐採木を産業廃棄物扱いにすることは納得できない。」との意見が出されている。
イ 環境影響評価
本件工事を含む埋立地整備事業は、広島市環境影響評価条例第2条第2項第6号に規定されている廃棄物処理施設の設置又はその構造若しくは規模の変更の事業に該当するため、事業の実施に当たり、あらかじめ環境影響評価が行われている。
恵下埋立地(仮称)整備事業に係る環境影響評価書(以下「恵下埋立地環境影響評価書」という。)の第8章環境保全のための措置において、伐採木に係る措置については、次のとおり記載されている。
環境要素 |
環境保全措置 |
---|---|
15 廃棄物等 工事の実施 |
伐採木の再利用・再資源化 |
16 温室効果ガス等 工事の実施 |
(伐採木に対して)
|
ウ 参考となる工事(恵下埋立地(仮称)取付道路建設工事(以下「取付道路工事」という。))
- (ア) 取付道路工事の概要
- 工事場所 佐伯区湯来町の大字麦谷及び大字和田
- 工期 平成24年7月5日から平成28年1月29日まで
- 請負代金額 16億6,333万4,400円(最終)
- 受注者 K企業体
- 工事内容 (1)トンネル工事、(2)道路新設工事
- (イ) 契約図書上の伐採木に係る記載
取付道路工事の特記仕様書及び土木工事施工条件には、伐採木について次の内容が記載されている。- 特記仕様書
14 建設副産物の搬出について
(1) 工事の施工により発生する建設副産物は、下記の場所に搬入することとする。なお、指定場所等との協議等で他の受入れ場所へ搬入する必要がある場合又は、他の受入場所がない場合は、本市と協議し決定するものとする。なお、運搬、搬入等にあたり産業廃棄物に該当する建設副産物は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」を遵守すること。受入場所 建設副産物
搬入場所
発生木材
(伐採木)
産業廃棄物処分業の中間処理の許可を有する再資源化施設 - 土木工事施工条件
伐採木関係
1.工事区域の樹木は、伐採することとしているが、元は保安林であったことから売払い可能な有用な木があると思われるため、伐採木の約1割は売払い可能な樹木として算出している。
全伐採木1,640平方メートルのうち売払いを150平方メートル見込んでいる。
伐採量及び売払い量は、協議により変更する部分がある。
- 特記仕様書
- (ウ) 積算
伐採木処分等の積算においては、当初設計時から共通仮設費内の準備費に、売払いが可能な伐採木については売払い金額がマイナス計上され、売払いができない伐採木については処分費がプラス計上されている。 - (エ) 伐採木の売却実績
実績として、伐採木を売却できた数量は、136立方メートルとなり、当初の見込み(150立方メートル)より少なくなったため、数量減分を増額する設計変更が行われている。
(3) 入札
ア 入札の状況
本件工事は、一般競争入札で行われ、2者が入札している。2者とも低入札であり、最低価格提示者に対し低入札価格調査が実施された結果、最低価格提示者が落札者とされている。
-
予定価格
- 10,703,396,000円
-
調査基準価格
- 9,612,993,933円
-
入札者(業者名)
- 入札金額
-
E企業体
- 8,656,000,000円
-
L企業体
- 9,580,000,000円
※金額は、消費税及び地方消費税相当額を除く。
イ 低入札価格調査
平成28年1月7日に市により、低入札価格調査の事情聴取が行われている。この中で、市の設計金額と業者見積金額の差額の比率が高い工種について調査が実施され、伐採に係る費用が含まれる準備費についても調査が行われている。
最低価格提示者(E企業体)から提出された準備費の明細書では、伐採木・根株処分費が市の設計金額と差が大きかったため、市がその理由を聴き取りしたところ、E企業体から、受け入れた木材をチップ化した上で100パーセントリサイクルしているが、チップの需要が高まっており量的に相当見込めるなどのため、通常より安価な見積りとしたとの回答がなされている。
(4) 伐採に係る施工
ア 施工計画書の記載内容
平成28年4月13日付けでE企業体から市に提出された施工計画書には、伐採工について次の内容が記載されている。
項目 |
施工時期 |
数量 |
---|---|---|
伐採・除根 | 平成28年4月~平成30年12月 | 224,000平方メートル |
伐採処分 | 平成28年4月~平成30年12月 | 29,120平方メートル |
根株処分 | 平成28年4月~平成30年12月 | 20,160平方メートル |
施工方法
- 伐採前確認
- 草刈・立木枝払い
- 伐採
- 伐採材集積
- 除根
- 場内運搬
- 場外運搬・処分(伐採材積込)
バックホウにてダンプトラック(10t)に積込む。低木・枝葉類はパッカー車に積込み、過積載とならないように注意する。
ダンプトラック(10t)及びパッカー車にて、所定の処分場所まで運搬し、処分する。
場外搬出前に、元請職員がマニフェストにより産廃項目・数量を確認する。
運搬中は決められたルートを走行し、交通規則の厳守により運搬する。
項目 |
単位 |
検査時期 |
検査方法 |
---|---|---|---|
伐採工 | 平方メートル | 伐採範囲を明示後 | 巻尺、測量機器及び設計図書により面積を算出する。 |
伐採木処分 | 平方メートル | 伐採処理後 | マニフェストで確認する。 |
根株処分 | 平方メートル | 伐採処理後 | マニフェストで確認する。 |
イ 施工体制
- (ア) 下請契約の状況
平成28年5月16日付けでE企業体から市に提出された下請業者通知書における伐採工の施工体制は、次のとおりとされている。- 1次下請業者
H組合- 工事内容:伐採工(224,000平方メートル)
- 契約日:平成28年4月22日
- 2次下請業者
- M組合
- 工事内容:伐採工(224,000平方メートル)
- 契約日:平成28年5月10日
- N組合
- 工事内容:伐採工(180,000平方メートル)
- 契約日:平成28年5月12日
- M組合
- 3次下請業者
O社- 工事内容:伐採工(224,000平方メートル)
- 契約日:平成28年5月10日
- 1次下請業者
- (イ) 伐採木(幹)及び根株の運搬・処分に係る委託契約の状況
本件工事における伐採木(幹)及び根株の運搬及び処分(中間処理)の委託契約は、次のとおりとされている。項目
委託元
委託先
委託先の処分内容
委託先による再生品
運搬 P社 J社 ― ― 処分 P社 I社 破砕 木くずチップ
ウ 伐採木の運搬・処分
- (ア) 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)上の扱い
廃棄物処理法第21条の3第1項において、廃棄物処理法上の事業者(以下「排出事業者」という。)は、建設工事を請け負った元請業者とされており、元請業者が、廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならないこととされている。
廃棄物処理法第12条の5により、排出事業者が産業廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合で、産業廃棄物管理票の代わりに電子情報処理組織を使用した登録及び報告(以下「電子マニフェスト」という。)による場合は、- 排出事業者は、産業廃棄物を引き渡した日から3日以内に、委託に係る産業廃棄物の種類及び数量等の必要事項を情報処理センター(公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター)に登録しなければならない。
- 運搬受託者は、運搬終了日から3日以内に必要事項を入力して情報処理センターに報告しなければならない。
- 処分受託者は、処分終了日から3日以内に必要事項を入力して情報処理センターに報告しなければならない。
- 排出事業者は、情報処理センターから運搬終了報告又は処分終了報告の通知を受けたときは、運搬又は処分が終了したことをこの通知により確認しなければならない。
- (イ) 伐採木の運搬・処分の状況
本件工事における伐採木の運搬・処分については、電子マニフェストにより、産業廃棄物の種類及び数量、運搬受託者名、処分受託者名、産業廃棄物の引渡し年月日、運搬先の事業場名、運搬終了年月日、処分終了年月日等が管理されており、排出事業者であるE企業体により、これらの内容が確認されている。
エ 伐採木の売却
市の調査によれば、伐採木が中間処理施設に搬入された後に、有価物と考えられる幹が木材市場に持ち込まれ売却されていたことが確認されている。幹の売却は、工事現場から中間処理施設に搬入された後、一次下請業者のH組合が有価物と考えられる幹を中間処理業者から買い取り、木材市場に持ち込んで売却するという構図とされている。
幹の木材市場への持ち込みは、伐採木を工事現場から搬出し始めた平成28年6月1日から、市が伐採木の一部を有価物として取り扱い、E企業体に直接売却を指示し、その準備が整う同年12月19日までの間に行われており、約3,800立方メートルの木材が、3,327万1,000円で売却されている。なお、この材積は、丸太から不要部分を切り落として角材にした体積(有効な矩形断面×長さ×本数)とされている。
オ 伐採木の処分方法の変更に係る市の指示
平成28年11月17日付けの工事打合せ簿において、市からE企業体に対して、
- 追加で用地取得した土地の伐採範囲については、価値がある森林が比較的多いことから、有価物となる木材を分別し、売払いを行うこと
- 売払いの対象となる基準は、伐採木の末口の直径が20センチメートル以上のものとすること
- その他の範囲についても可能な限りこれに準ずること
などの指示がなされている。
これに対してE企業体からは、平成28年11月18日付けの工事打合せ簿において、
- 売払い及び運搬契約等の手続期間として、おおむね1か月程度必要となること
- その期間中の伐採木を仮置きする場所等もないため、運搬契約等の手続が整うまでの間は、これまでどおり搬出とすることに関する協議の申出がなされている。
市からは、同日付けでこれを認める旨の回答がなされ、加えて、契約等の手続が整い次第、速やかに売払いを開始するようE企業体に依頼が行われている。
平成28年12月19日から、E企業体により伐採木が直接木材市場で売却されている。
なお、市からは、当該指示に関する変更契約については、他の変更内容がまとまった時点で合わせて行う予定であると聞いている。
(5) 伐採木が木材市場に直接持ち込まれ売却された事実
市の調査によれば、本件請負契約において、伐採木は全て中間処理施設に搬入するよう定められているにもかかわらず、伐採木の一部が工事現場から中間処理施設に搬入されることなく、直接木材市場に持ち込まれ、売却されたことが確認されている。
中間処理施設に搬入されることなく直接木材市場に持ち込まれた日は、平成28年6月1日、2日、3日、6日、7日の計5日で、持ち込まれた数量は、約880立方メートルとされている。
これに係る売却代金、また、これに係る伐採木の処分費及び運搬費の金額は、市及びE企業体において確認中であると聞いている。
(6) 本件工事におけるこれまでの支払状況
ア 支払金額及び支払日
年度 |
種別 |
支払金額 |
支払日 |
---|---|---|---|
平成27年度 | 前払金 | 94,500,000円 | 平成28年3月23日 |
平成28年度 |
前払金 | 247,000,000円 | 平成29年3月27日 |
平成28年度 | 部分払 | 119,205,000円 | 平成29年3月27日 |
計 366,205,000円
イ 平成28年度の支払状況
出来高に係る支払は、広島市建設工事請負契約約款第37条に規定されており、平成28年度においては、準備費(伐採・除根、集積、発生木材運搬、伐採木処分及び根株処分)の出来高を含め支払が行われている。
ウ 部分払に係る検査
当該検査については、広島市建設工事請負契約約款第37条第4項に規定されており、1回目の請求に係る出来形部分等を確認するため、市の検査を受けている。
平成29年3月10日に、検査担当課である技術管理課により検査が実施されており、工事検査調書に施行の確認が記されている。
2 判断
請求人は、売却された伐採木に発生木材運搬費及び伐採木処分費を支払ったこと並びに伐採木の売却益の返還を求めていないことは違法又は不当であり、これによって市に損害が発生したと主張するとともに、関係職員の処分を求めていることから、以下、検討する。
(1) 伐採木の発生木材運搬費及び伐採木処分費の支払について
本件請負契約において準備費として示される伐採木に関する工事は、(1)伐採・除根、(2)集積、(3)発生木材運搬、(4)伐採木処分、(5)根株処分とされている(工事設計書26頁)。
本件請負契約においては、建設副産物としての発生木材は、産業廃棄物処分業の中間処理の許可を有する再資源化施設に搬入することとされており(特記仕様書7頁)、搬入すべき発生木材は産業廃棄物に限定されていないことから、有価物である発生木材も、中間処理施設に搬入すべきと解される。
ア 本件請負契約について
請求人は、本件請負契約においては伐採木を全て産業廃棄物として処分することが前提とされているにもかかわらず、その一部を木材市場で売却しており、その売却された伐採木は中間処理施設に搬入されてはいるものの産業廃棄物として処分されたことにはならず、伐採木処分費が違法・不当にE企業体に支払われていると主張する。
この請求人の主張が、本件請負契約において再資源化の工程を経ることなく売却された伐採木についても伐採木処分費を支払うこととされていることが違法・不当であるとの趣旨であるとすれば、住民監査請求は対象となる財務会計行為の後1年を経過したときは請求することができないとされているところ(地方自治法第242条第2項)、本件請負契約の締結は、平成28年3月1日になされたものであり、平成29年8月10日になされた本件措置請求は、請求期限を徒過している。
なお、請求期限までに請求できなかったことについて正当な理由がある場合は、請求することは可能であるが、請求人は、平成28年6月6日には、本件契約に基づいて伐採木がトラックに積載されて木材市場に運ばれていることを知っていたのであるから(本件措置請求に係る事実証明書7(追加提出分))、その日の翌日から起算したとしても1年を経過しており、請求期限までに請求できなかったことについて、正当な理由があるとはいえない。
したがって、本件請負契約の内容が違法・不当であるとする住民監査請求をすることはできない。
イ 中間処理施設に搬入されていない伐採木に係る発生木材運搬費及び伐採木処分費について
次に、市の調査によれば、平成28年6月において、有価物である伐採木が中間処理施設に搬入されずに売却されている事実が認められる。
これについては、中間処理施設に搬入されたものとして伐採木処分費に係る請負代金が、また中間処理施設に運搬されたものとして発生木材運搬費に係る請負代金が、それぞれ既に支払われ、又は支払われることになっているところ、これらは本件請負契約に基づく履行がされていない債務についての支払であり、市の損害と認められる。
この点、市は、意見書において、市の設計金額とE企業体の見積金額との差額は伐採木を有価物として売却することを見込んだことによって生じたものであるところ、仮に伐採木の一部が有価物に当たるという前提で本件請負契約を設計しても設計金額はE企業体の見積金額を上回ることから、市に損害は発生しない旨を主張する。
しかし、低価格入札の調査の際に市がE企業体から聴取した内容によれば、準備費が低価格で見積もられた理由は、伐採木を産業廃棄物としてチップ化しリサイクルする予定の下、チップの需要が高く分量も多いと見込めること等であって、伐採木の一部を木材として売却し利益を得られる見込みがあることによるものではない。
また、現に成立した請負金額において約束された債務が履行されていないのであれば、それに対して支払われた金員が市の損害に当たるのは上述のとおりである。
以上のことから、中間処理施設に搬入されていない伐採木についての発生木材運搬費及び伐採木処分費に係る請負代金の支払は違法であるため、市は、E企業体に債務不履行に基づく損害賠償請求を行う等の措置をとる必要がある。
ウ 中間処理施設に搬入された伐採木に係る発生木材運搬費及び伐採木処分費について
中間処理施設に搬入された伐採木については、その発生木材運搬費及び伐採木処分費の支払については、契約に従ったものであり、違法・不当な点はない。
また、支払の前提となる契約内容の違法・不当を、支払の違法・不当の理由とすることはできないとされている(最高裁昭和62年5月19日判決)。
以上のことから、本件措置請求のうち当該部分については理由がない。
(2) 伐採木の売却益の返還を求めていないことについて
ア 中間処理施設に搬入されていない伐採木に係る売却益について
市は、立木の所有権は本件請負契約時にE企業体に移転していることから、他人により伐採木が売却されても市に損害は発生しない旨を主張する。
しかし、立木の所有権移転時期については契約上特段の定めはなく、伐採後の処分方法として全量を中間処理施設に搬入することが規定されていることからすると、契約時に立木の所有権を移転させるのが契約当事者の合理的意思であったとの主張は直ちには認められない。
また、市の主張のように立木の所有権を契約時にE企業体に移転させることは、公有財産の無償譲渡であり、所定の手続が必要となるが、そのような手続はとられていない。
よって、中間処理施設に搬入した時点で、伐採木を廃棄するという市の意思により市が所有権を失うと解するべきである。
平成28年6月上旬において、中間処理施設に搬入することなく売却された伐採木については、売却された時点では、まだ市は所有権を有しており、売却により買受人が動産を即時取得した場合に、市は所有権を失うことになると解される。
以上のことから、その売却は市の所有権を侵害する行為であり、その売却代金は不当利得であるため、その売却を行ったH組合に対し、市は不当利得返還請求権を有する。
イ 中間処理施設に搬入された伐採木に係る売却益について
請求人は、伐採木の売却益の返納を求めない本件請負契約では、有価物である伐採木の財産価値を失うことになるので市の損害が生じると主張するとともに、伐採木の売却益を返納させていないという状況が違法・不当に財産の管理を怠る事実に該当すると主張していると解することができる。
しかし、中間処理施設搬入後に売却された伐採木については、本件請負契約においては、本件工事において発生する伐採木の処理については中間処理施設に搬入することまでしか定められていないため(特記仕様書7頁)、搬入後に売却されたとしても本件請負契約上の債務不履行には該当しない。
また、上述のように、既に市が所有権を有しない物件であるため、その後の売却によっても市に損害が生じたとはいえない。
また、本件措置請求が、本件請負契約の内容が違法・不当であるとするものであったとしても、上述のとおり請求期限の徒過により住民監査請求をすることはできない。
以上のことから、中間処理施設に搬入された伐採木について、その後売却されたことによる売却益については、市はその売却行為者に対し、売却益の返還を求める法的根拠を欠き、違法・不当に財産の管理を怠る事実に該当すると認められないので、本件措置請求のうち当該部分については理由がない。
(3) 関係職員の懲戒処分について
請求人は、売却された伐採木について、発生木材運搬費及び伐採木処分費を支払ったこと並びに売却益の返還を求めなかったことを理由に、関係職員の懲戒処分を請求している。
しかし、本件においてE企業体及びH組合に損害賠償請求等を行う必要が生じたのは、これらの者が本件請負契約で定められた債務を履行せず、伐採木を中間処理施設に搬入することなく売却したことによるものであり、この点について、市の職員に過失等の帰責事由は見当たらないため、本件措置請求のうち関係職員を懲戒処分するよう求める部分については理由がない。
3 結論
以上のことから、本件措置請求のうち、中間処理施設に搬入されていない伐採木に関する部分については理由があると認め、E企業体に支払った発生木材運搬費及び伐採木処分費相当額について、E企業体に債務不履行に基づく損害賠償請求を行うとともに、当該伐採木の売却益については、H組合に不当利得返還請求を行うよう勧告する。
その余の請求については、これを棄却する。
第5 勧告
本件措置請求における請求人の主張には一部理由があるものと判断し、地方自治法第242条第4項の規定に基づき、市長に次のとおり勧告する。
1 広島市は、本件請負契約における元請業者E企業体が中間処理施設に搬入していない伐採木に係る発生木材運搬費及び伐採木処分費について、その額を算出し、これを既に同企業体に支払っている場合には、その額について、同企業体に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求をするとともに、いまだ支払っていない場合には、その支払を中止するなど必要な措置を講ずること。
2 広島市は、H組合が中間処理施設に搬入せずに売却した伐採木の売却益相当額について、その額を算出し、その額について、同組合に対し、不当利得返還請求をするなど必要な措置を講ずること。
なお、本勧告に対する措置の期限は、平成29年12月20日までとし、地方自治法第242条第9項の規定に基づき、措置期限までに講じた措置の状況について、同月27日までに監査委員に通知されたい。
第6 意見
本件伐採地については、地権者への財産補償の際に立木の評価書面が作成されていたこと、恵下埋立地環境影響評価書には環境保全措置が規定されており、その内容として伐採木の建築資材等としての再利用・再資源化の実施が記載されていること、本件請負契約前に伐採予定地の一部地権者から伐採木を木材として売却してほしい旨の要請があったこと等の事情に照らせば、広島市としても、伐採予定地中に一定の財産的価値を有し、売却益を得る可能性のある有価物があることにつき、設計時に認識しあるいは認識し得べきであったが、これらの立木補償に係る事務や財産管理事務との関係を考慮することなく、漫然と「土木工事標準積算基準書の運用」及び「広島市建設廃棄物の処分に関する積算基準」等に記載された原則に沿って、伐採木の売却を想定していない契約内容としていたことが認められる。
このため、伐採木中に有価物があることを前提として、その処理についても配慮の上で契約がなされていたならば、今回のような問題には至らなかったものと考えられる。
本件請負契約締結が監査請求時点で1年を徒過しているため、契約内容そのものが住民監査請求の対象とならないのは上述のとおりであるが、本件請負契約が全体として最少の経費で最大の効果を挙げることができるよう検討し、今後予定される契約変更において協議するとともに、今後同様な請負工事等の設計に当たって、有価物の財産価値を認識した設計とするため、適正な事務処理を示した手引や設計積算基準の整備等に取り組まれたい。
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