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旧広島商工会議所ビルディングの運営・管理について

ページ番号:0000382095 更新日:2024年4月26日更新 印刷ページ表示

広島市監査公表第7号

令和6年4月26日

 令和6年2月27日付け第1489号で受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により、別紙のとおり公表する。

広島市監査委員 古川 智之

同       井戸 陽子

同       山本 昌宏

同       平野 太祐

 

 

別紙

 

広監第7号

令和6年4月26日

請求人

(略)

広島市監査委員 古川 智之

同       井戸 陽子

同       山本 昌宏

同       平野 太祐

 

   広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和6年2月27日付け第1489号で受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。

 

第1 請求の要旨

 請求書の記載内容から、請求の要旨は次のとおりと整理できる。

 

1 事実関係

 令和3年8月1日、広島市は市営基町駐車場の土地及び建物との交換により、広島市中区基町に所在する広島商工会議所ビルの土地及び建物を取得した。

 同日、広島市は、広島商工会議所に対し商議所ビルの管理業務を、令和3年8月1日から令和4年3月31日までの期間、委託する旨の委託契約を締結した。契約の相手方の選定方法は、地方自治法施行令167条の2第1項第2号に該当するとして、入札によることなく、随意契約の方法がとられたものであり、前回の監査請求でその違法・不当性について監査を求めたところである。

 そして、令和4年度・令和5年度においても、何ら是正されることなく、同様の手法により、広島商工会議所に対し、商議所ビルの管理を委託している。

 令和5年度の管理委託業務については、令和5年3月13日付けの都市機能調整部長決裁において、広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会の審査省略の確認を受けたとして、随意契約の相手方として広島商工会議所が選定され、同年4月1日に、同日から令和6年3月31日までの管理委託業務に係る契約書が締結されているところである。

 

2 違法又は不当性

(1) その性質又は目的が競争入札に適したものである

 広島市の本件管理委託業務の契約締結伺いによれば、随意契約とした根拠は、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号該当とする。すなわち、「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するというのである。

 しかしながら、前回も指摘したように、本件管理業務は、ごく一般的なテナントビルの管理業務である。

 本件管理業務について、一つとして、その性質又は目的が競争入札に適しないものはなく、一般的なビルの管理業務である。また、本件仕様書を見ても、その目的においてすべて、特異なものはない。

 このように、その性質又は目的は、すべて競争入札になじむものである。

ア 監査委員の監査結果の判定は不合理極まりないものであること

 ところが、前回監査請求をしたところ、監査結果は不合理極まりないものであった。本監査請求においても、広島市からは同様の答弁がなされると思われることから、予め反論をしておくこととする。

 令和5年6月30日付けの監査結果において、監査委員は次のように判断されている。

 「令和9年度頃の本件ビルの円滑な解体に向けては、解体までにテナントの退去が必要不可欠であること、一方で財産の有効活用を図るためには解体までの間において少しでも長くテナントが入居していることが望ましいこと」とされているが、この論理が分からない。

 そもそも、解体までテナントの退去が必要不可欠であることはそのとおりであるが、本件仕様書において、テナントとの退去交渉という業務の定めはない。もちろん、テナントを長く入居させるために必要な業務についての定めはない。

 このように、市の監査委員の判断は、解体の決まった広島商工会議所ビルに関し、広島市にとって望ましいものをあげるだけであり、「性質又は目的が競争入札に適するかどうか」について、その仕様書の内容を踏まえた適正な検討をしていないことは明らかである。

 そもそも、広島市と広島商工会議所との間で令和3年6月25日付けで締結された覚書(以下単に「覚書」という。)第5条第3項は、「乙(商工会議所)は、令和9年3月31日までに転貸借部分の転貸借をすべて終了させて転借人を退去させ、自己利用部分と併せた賃貸借部分を甲(広島市)に返還する。」と規定する。これを受けて、令和3年8月1日付けの定期建物賃貸借契約第18条第1項は、「乙(商工会議所)は、第4条に規定する貸付期間が満了したとき(中略)は、直ちに転借人を乙(商工会議所)の責任において退去させることによって、残置物を撤去させた上で本物件を明け渡す」と規定する。

 ここに規定されている通り、そもそも、転借人であるテナントを期間満了時に退去させる義務は賃借人(転貸人)である広島商工会議所の義務とされているのであって、業務委託契約の目的にテナントの円滑な退去という目的を入れる余地はないのである。

イ そして、監査結果では、次のように続く。

 「そのためには建物の老朽化度に応じた必要最小限の維持管理・補修を行うことが効率的であること、これらの相反する事項の調整に当たっては財産交換前の賃貸人である広島商工会議所がテナントとの交渉窓口となることが、テナントのより長い入居かつ円滑な退去に向けて有利に働くと考えられること」とされているが、この論理も分からない。無茶苦茶である。

 「老朽化度に応じた必要最小限の維持管理・補修を行うことが効率的」とするが、仕様書のどこに記載されているのかはっきりしない。何より、老朽化度に応じた必要最小限度の維持管理・補修を行う者として、経済団体にすぎない広島商工会議所が適任であるとも言えない。適任であるのは、ビルの維持管理・補修業務を専門的に行っている業者であり、常識的に見て、こうした専門業者との比較においても広島商工会議所が優れていると評価することはできない。

 また、従前賃貸人であった広島商工会議所がテナントとの交渉窓口になることが、どうして「テナントのより長い入居と円滑な退去に向けて有利に働く」ことになるか不明である。すでに財産交換が行われ、広島市所有の財産となっており、原爆ドームの景観のため取り壊しが決まっているビルである。このことは、すでにテナントの知るところとなっている。こうした事情からすれば、いつ退去するかは、各テナントにおける諸事情によるものであって、維持管理・補修がどの程度なされるかによって左右されることはないと考えるのが常識である。

 また、何より、法律上、必要な修繕費や共益費については、貸主が負担すべきものとされているのであり、老朽化度に応じた必要最小限の維持管理・補修というような「相反する事項の調整」を業務の内容とすることはできない。必要性が認められる限り、貸主として修繕義務を負担することは免れないのである。維持管理の手抜きは、そのまま損害賠償請求を受けるリスクとなることは明らかであり、広島市が賃貸借契約上の債務不履行を奨励する結果となることは厳に慎むべきである。

ウ 以上のとおり、監査結果は、おそらく広島市の言い分のそのまま判断の理由としただけであり、「その性質又は目的」に照らし「競争入札に適しているか否か」を具体的に判定していないことは明らかである。

(2) 諸悪の根源は覚書にあること

ア 前回も指摘したが、そもそも、なぜこのような随意契約が締結されたかといえば、令和3年6月25日に広島市長と広島商工会議所会頭の間で交わされた覚書第7条第2項の規定により、「広島市は令和9年3月31日まで商工会議所ビルの管理業務を広島商工会議所に委託する」と約しているからである。

 随意契約という手法を取ることが妥当か審査を行う「都市整備局委託業務等競争入札参加者等指名委員会」が本件契約について承認を出したのは、契約締結直前の令和3年7月26日であり、しかも委員会は開催されることなく、持ち回り審議で決裁されている。

 既に、市長と商工会議所会頭の間で約しているものを、市の内部審査委員会が何ら疑問を呈することもなく追認したものと推察される。

 本来、こうした随意契約を締結することを容認する覚書を締結するのなら、その前に指名委員会に諮るべきであり、こうした点にも手続き的な瑕疵があると言える。

イ この点について、監査結果によると、「市長の判断が、特定の者による恣意的な運用には当たらないものであることは明白であり、本件覚書の締結の前に、特定の者による恣意的な運用の防止を目的とする競争入札参加者等指名委員会の審査に付す必要があったとは認められない。」とする。

 監査委員の意見とも思えない判断である。市長の判断について、恣意的な運用に当たらないものであることは明白であるとするが、その根拠を具体的に明らかにすることはない。まさに、結論先にありきの判断の典型である。

 そもそも、上記のとおり、普通財産についてその維持管理を委託する場合、原則として入札によらなければならず、「その性質又は内容に照らし入札に適しない場合」には例外的に随意契約によることができるとされている。このような競争入札契約が原則となる制度においては、例外は安易に認められるべきではなく、十分な審査が必要となるのが筋である。たとえ市長であったとしても、恣意的な判断で原則と例外を逆転させることは許されず、市長の権限で随意契約をも認める場合にも、例外要件に該当する場合なのかは慎重に審査されなければならない。

 このような原則と例外という制度にあって、上記の監査委員の判断は、まさに慎重さを欠くものであって、許されるものではない。

 もしこのような論理が本当に認められるならば、今後、主管局長において、これは随意契約理由があることは明らかだからと、その相手方とその旨、約束を交わしておいて、そして、実際に契約を交わす直前に、既に約束を交わしているとして、指名委員会を形式的に開催すればよいこととなるが、本当に監査委員は、そのような運用を許すのであろうか。監査委員に再考を促したい。

 また、令和5年度の管理委託業務については、指名委員会の審査すら省略されているが、本来、管理委託契約については単年度契約であり、その都度、随意契約の相手方として適切かどうか審査すべきものであり、この点についても、違法・不当である。

(3) 随意契約ガイドラインの規定自体が法の趣旨を没却する内容になっていること

 その他、広島市の物品売買等に係る随意契約ガイドラインの規定に照らし、精査する。

ガイドライン「3 令第167条の2第1項各号の解釈・運用について」

「令第167条の2第1項第2号」

「(1) 契約の相手方が特定されるとき」

「ア 法令等により契約の相手方が定められているとき。」

→ 本件において、相手方を特定する法令等はない。

「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務づけられているとき。」

→ この規定は、当該法律文書を締結したときに、相手を特定するだけの合理的理由が要求されていると、読むべきである。なぜなら、本件のような覚書で競争入札を回避することを認めると、一定の契約に付随して覚書さえ交わせば、常に競争入札を回避できることになってしまい、競争入札を大原則とする地方自治法の趣旨に反することは明らかである。この条項は、このような限定解釈をすることのみにより、適法であるというべきである。

 しかるに、本件覚書締結時に、何らかの合理的理由があったであろうか。ここで、今一度、覚書の決裁書の説明書をよく見て欲しい。

 管理委託に対する説明が、むろん理由も含め、一切ないのである。

 これは、起案者が手を抜いた訳ではないと思われる。なぜなら、貸付料の減額については、根拠規定をあげつつ、詳細な説明がなされているからである。

 ところが、随意契約によるものであることは、一切触れられていない。触れられていないということは、通常考えられないことである。なぜなら、入札が原則となる事項について随意契約は例外であるため、例外にあたるという事情は詳細な理由を付して説明すべきは当然であるからである。

 このことからすれば、覚書締結時点において、随意契約をする合理的な理由がそもそもなかったということが優に推認できる。

 このような覚書の締結経過、とりわけ決裁文書の記載から、例外にあたることが検討されていないことは明らかであり、法の趣旨を潜脱する運用を認める結果となってしまう。

 このような重要な事項が説明書きに全く書かれていないのは、異常というほかない。これは、書かなかったのではなく、書けなかったものと思われる。商工会議所に対する便宜以外に理由がなかったのである。このようにして締結された覚書をこのガイドラインで言うところの「法律文書」には、該当しないと解さなければならないのである。

「ウ あらかじめ基本となる事項を定めた基本契約に基づき個別契約を締結するとき」

→ これも、基本契約そのものの締結方法が間違っていれば、個々の個別契約の正当性はない。今回のように覚書の締結そのものに違法性がある場合、この条項の適用はない。

「エ 特定の者でなければ納入することができないとき」

「オ 特定の者でなければ役務を提供できないとき」

→ この点については詳述した。

「カ 平成17年11月1日前に締結している契約で、自動更新(延長)条項を設けているとき」

→ 該当しない。

「(2) 競争が成り立たない契約をするとき」

→ ビルの管理委託業務は、まさに競争が成り立ち、入札に適したものである。

 以上、いずれも、随意契約ガイドラインの要件に合致するものはない。

 監査委員は、これらの様々な疑問点について、明確に答えて欲しい。

(4) 委託金額の決定方法について

 さらに、この度、新たな違法性について指摘する。

 それは、委託金額の決定方法である。

 令和5年4月1日付けの「旧広島商工会議所ビルディング管理委託契約の締結について」の説明を読むと、「(商工会議所から提出された)見積額が予定価格の範囲内であったため、当該業務に係る委託契約金額を決定する」とある。

 しかしながら、予定価格がいくらであるのかは、全く説明がない。予定価格を定めるためには、広島市契約規則第16条第2項にいう取引の実例価として、他の業者からの見積書を参考とする必要があるが、他の業者からの見積書をとった形跡すらない。これでは予定価格を定めたとは言えず、広島市契約規則第23条に違反するものである。

 ちなみに、この点、令和3年度の決裁書においては、「予定価格」ではなく、「予算の範囲内」とされており予定価格の言葉すら出てこない。さすがに、これはまずいと思ったのか、今回は、「予定価格」としているが、単に言葉を置き換えただけであり、実態は何ら変わっていないものである。

 そして、商工会議所の提出してきた見積書どおりの金額を、委託金額として、決定しているのである。その結果、令和5年度の委託金額を1億2914万9668円と定めているが、これは、令和3年度の委託金額(8月分)8209万4875円を、年額に換算した額、1億2314万2312円の約4.8%のアップとなっており、なんら金額の適正さが担保されることなく、増額されていることがわかる。

(5) まとめ

 以上、広島市が商議所ビルの管理業務を随意契約により広島商工会議所に委託しているのは、地方自治法施行令第167条第1項第2号に違反するものであるとともに、委託金額を定めるに当たって「予定価格」を定めていないのは、広島市契約規則第23条に違反するものである。

 

3 損害額

 これについては、競争入札によって落札されたとしたなら締結されていた金額との差額ということとなるが、これを想定することは困難である。

 佐賀地判平成23年1月21日判例タイムズ1357号112頁によれば、こうした事案について、市が被った損害を正確に推計することは極めて困難であるとして、民事訴訟法第248条を適用して、支出額の5パーセントを損害として認定している。

 ここでも、支出額の5%としておく。

 市と商工会議所との間で締結した令和5年度分の管理委託契約(令和5年4月1日~令和6年3月31日)によると、1億2914万9668円である。

 その5%を損害額とする。

 1億2914万9668円×5%=645万7483円が、損害額である。

 

4 広島市長に対し、早急に令和5年度の商議所ビルの管理委託業務について、競争入札を行い、速やかに落札したその相手方に管理業務の受託を移管させるとともに、令和6年度の管理委託業務についても、競争入札を行った上で、相手方を選定することを求める。

 

(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)

・ 事実証明書1 旧広島商工会議所ビルディング管理業務の契約方法及び契約の相手方について

・ 事実証明書2 旧商工会議所ビルディング管理業務委託契約の締結について

 

第2 請求の受理

 本件措置請求は、地方自治法第242条第1項の所定の要件を具備するものと認め、令和6年3月18日に、同年2月27日付けでこれを受理することを決定した。

 

第3 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述

 地方自治法第242条第7項の規定に基づき、請求人に対し、証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、請求人からは証拠の提出はなく、陳述も行われなかった。

 

2 広島市長(都市整備局都市機能調整部)の意見書

 広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めたところ、令和6年3月25日付け広都機第154号により意見書の提出があった。なお、陳述は行われなかった。

 この意見書の主な内容は、次のとおりと整理できる。

(1) 本市の意見

 請求人の主張には理由がないため、本件措置請求は棄却されるべきである。

(2) 本市の意見の理由

ア 随意契約により委託していることについて

 本市が、本件管理業務を随意契約により委託したことについては、すでに令和5年6月5日付け広都機第32号により意見を述べ、令和5年6月30日付け広島市監査公表第25号で監査結果において、当該事項に係る請求は理由がないことから監査委員により請求を棄却され、このことは請求人に通知されている。

 請求人は同一の内容について、繰り返し主張しているものの、本件委託契約が合理的な裁量の範囲で随意契約の方法で締結されたものであることに疑いはないことから、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号の趣旨に反するものではなく、何ら違法な点はない。

 なお、広島市都市整備局委託業務競争入札参加者等指名委員会(以下「指名委員会」という。)が、指名委員会設置要綱の規定に基づき、随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考の審査を行う場合において、当該審査対象の案件と仕様が同一であること等を条件として、同様の案件については、以後あらためて委員会の審査に付する必要がないと認めたときは、委員会の審査を省略することができることとされている。

 本件ビル管理業務については、令和3年度の指名委員会の審査において仕様に大幅な変更が生じない限り、審査を省略できるものであることの承認を得ており、令和4年度以降の業務の相手方の決定に当たっては、適正に審査省略の確認を行っており、事務手続きに何ら問題はない。

イ 予定価格の決定について

(ア) 予定価格の作成について

 本市は、本件委託契約の締結に際し、予定価格を作成している。

 予定価格とは、地方公共団体が契約を締結するときに、契約金額決定の基準となる価格として、あらかじめ作成するものである。

 随意契約については、広島市契約規則(以下「契約規則」という。)第23条の規定により「随意契約をしようとするときは、あらかじめ、第16条の規定に準じて予定価格を定めるものとする。」とされている。

 さらに、契約規則第16条第2項では「予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について取引の実例価、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めるものとする。」とされる。

 これによれば、参考見積による実例価のみで決定されるものではなく、役務の内容等を考慮し、合理的な積算方法によることとされている。

(イ) 予定価格の積算方法について

 本件委託業務の予定価格を検討するに当たっては、商工会議所が約60年もの間、本件ビルを自社ビルとしての管理を行っており、当然、経費削減の観点から、その管理コストを圧縮してきたものと容易に想像でき、営利を目的としている他のビル管理会社に委託するよりも、商工会議所が自所で実施していた分、間接経費も安価になっているものと考えられることから、本市は、過去4年度分の本件ビル管理に係る経費の実績額を基に、予定価格の積算を行っている。

 さらに、本市は、単に商工会議所の管理経費の実績額をそのまま計上するのではなく、市有施設となることを踏まえ、有人受付等の不要な業務は除くとともに、ビル運営の内容に応じた適切な人件費となるように査定を行うなど、契約規則第16条第2項を準用する第23条の規定に基づき、本件役務の性質等を十分に考慮した上で、予定価格を決定している。

(ウ) 別の業者の参考見積書について

 予定価格は適切な方法により算出されたものであるが、覚書を締結する前に令和3年6月14日付けで別のビル管理業者から参考見積を徴取し、前記(イ)による予定価格の積算額と著しく乖離がないかを比較検討したところ、本市の積算額は妥当な金額であることを確認した。この参考見積は、飽くまで予定価格の積算方法が妥当であったかを検証する過程の中で、徴したものに過ぎない。

 本市は、これらの検証を踏まえ、事故等により仕様書の大幅な変更を求められる事象が生じない限りは、同一の手法により積算することを想定している。

(エ) 委託金額の決定について

 このように契約規則の規定に基づき、予定価格の決定の手続きを適正に行っているため、説明文において「予算の範囲内」と誤記していたことをもって違反又は不当であったとはいえない。

 なお、令和4年度以降の説明文では「予定価格の範囲内」と修正している。

 請求人は契約の相手方の見積額のみをもって、本件委託契約金額を決定していると誤認しているが、あらかじめ予定価格を作成しており、決定された契約の相手方から提出された見積書の金額が予定価格を下回っていたことから契約を締結しており、法令等に照らして事務手続に何ら問題なく、手続上の瑕疵があるという指摘も当たらない。

 したがって、本件委託契約において、本市契約規則第23条に違反するという指摘は当たらない。

ウ 覚書について

 令和3年6月25日付けの覚書の締結については、締結から1年以上を経過しており、現時点において住民監査請求の対象とならない事項である。

 しかしながら、請求人は「諸悪の根源は覚書にある」とし、覚書に違法性があり、故に覚書に基づく委託契約も違法又は不当であると主張していると解されるため、本市が覚書を締結した目的やその内容の正当性について、以下に補足意見として述べる。

 本市は、市営基町駐車場周辺における再開発事業の実施に併せて、本市の長年の懸案事項となっていた原爆ドームの背景の景観改善を同時に決着することができるならば、紙屋町・八丁堀地区の都市機能の一層の充実・強化を図ることができるとの判断の下、商工会議所に対し、商工会議所ビルの移転を提案し、そのための手段として同ビルと市営基町駐車場との財産交換を先行して行うことについて、再開発事業の地権者も含めた関係者で議論を重ね、合意が成立したものである。

 本事業の推進にあたって、本市は、両施設とも長年にわたり広く市民等の利用に供されてきた施設であること等を踏まえ、従前に近い形で施設の利用を継続しながら、移転・解体に向けた手続きを進めるべきであると判断した。

 そこで、財産交換後の両施設の利用に係る事項を検討し、商工会議所ビルについては、商工会議所は移転までの間、引き続き同ビルにおいて事業活動を行うこととし、そのことを踏まえ、商工会議所が転貸借というかたちで従前からのテナントとの関係を継続しながら退居の交渉を担うこと、さらには、約60年近くにわたり自ら同ビルを管理し、その状況を熟知している商工会議所に引き続き維持管理を行わせることが、最も適切かつ効率的であると判断し、これらの事項を覚書に定めたところである。

 このように、覚書の内容は、類例のない事業を円滑に進め、その目的を確実に達成するための合理的手法について、合法な裁量の範囲内において本市が選択し決定したものである。

 また、こうした高次の判断に基づく覚書を根拠に随意契約を締結したことは、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に適合するものである。

 さらには、上述の判断に至る経緯等を覚書の決裁文書に詳細に記載していないことをもって、その意図がなかったと断定されるものではない。

 したがって、覚書そのものに違法性があるとする請求人の指摘は、全く当たらない。

エ 結論

 以上のことから、請求人が主張する内容について、いずれも理由がなく、また本市には何ら損害が発生していないことから、本件措置請求は棄却されるべきである。

 

3 広島市長(財政局契約部物品契約課)の見解

 広島市長に対し、「旧広島商工会議所ビルディング管理業務」を随意契約により委託したことについて、制度を所管する観点から見解等を求めたところ、令和6年3月25日付け広契物第29号により次のとおり回答があった。

(1) 制度所管課としての見解

ア 指名委員会の審査を省略できる条件の基本的な考え方

 各局(区)に設置された競争入札参加者等指名委員会が、各局(区)において定めた競争入札参加者等指名委員会設置要綱の規定に基づいて、随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考の審査を行う場合において、当該審査対象の案件と仕様が同一であること等を条件として、同様の案件については、以後あらためて委員会の審査に付する必要がないと認めたときは、委員会の審査を省略することができることとしています。

イ 予定価格の一般的な決定方法

 広島市契約規則第16条第2項において、予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について取引の実例価、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めるものとされています。

 同項にいう「取引の実例価」は予定価格を適正に定めるために考慮する事項の例示です。また、随意契約の相手方として決定した業者以外の業者から参考見積を徴取する必要があるとする規定はありません。

 

4 監査対象事項

(1) 本件業務委託契約を随意契約とすることとした手続について

 旧広島商工会議所ビルディング(以下「本件ビル」という。)の維持管理業務(以下「本件維持管理業務」という。)に係る委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)が随意契約とされていることに関し、請求人は、令和3年6月25日に広島市長と広島商工会議所会頭の間で交わされた覚書(以下「本件覚書」という。)第7条第3項において「広島市は令和9年3月31日まで商工会議所ビルの管理業務を広島商工会議所に委託する」と規定していることについて、広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等指名委員会(以下「指名委員会」という。)が何ら疑問を呈することなく追認したものと推察されるが、本来、こうした随意契約を締結することを容認する覚書の締結前に、指名委員会の審査に付されるべきであるとして、本件業務委託契約は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 また、請求人は、本件維持管理業務は、ごく一般的なテナントビルの管理業務であり、仕様書を見ても特異なものはなく、競争入札になじむものであるから、本件業務委託契約は、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に規定される「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」、具体的には市の「物品売買等に係る随意契約ガイドライン」(平成21年4月財政局契約部物品契約課作成)に規定される「(1) 契約の相手方が特定されるとき。」の「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」には当たらず、違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 さらに、これらのことを踏まえ、本件業務委託契約を競争入札に付すことにより、令和5年度分については違法又は不当な契約を是正することを、令和6年度分については違法又は不当な契約を事前に防止することを求めているものと認められる。

 これらの主張を踏まえ、次の点について監査した。

ア 本件維持管理業務が「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に当たるとして、本件業務委託契約を随意契約としたことは、違法又は不当であるか。

イ 本件業務委託契約を随意契約とすることを定めた本件覚書を締結する前に指名委員会へ諮っていないことは、違法又は不当であるか。

(2) 本件業務委託契約締結に係る手続について

 請求人は、令和5年度の本件業務委託契約を随意契約とするに当たり、指名委員会の審査が省略されているが、本件業務委託契約は、毎年度、随意契約の相手方として適切かどうか審査されるべきであり手続に瑕疵があるため、本件業務委託契約は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 また、請求人は、令和5年4月1日付けの決裁文書「旧広島商工会議所ビルディング管理委託契約の締結について」には、「(商工会議所から提出された)見積額が予定価格の範囲内であったため、当該業務に係る委託契約金額を決定する」とあるだけで、予定価格について具体的な説明がなく、広島市契約規則第16条第2項にいう取引の実例価として他の業者から見積書を徴した形跡もないため予定価格を定めたとは言えず、さらに、広島商工会議所が提出した見積書どおりの金額を委託金額として決定していることをもって、手続に瑕疵があることから本件業務委託契約は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 これらの主張を踏まえ、次の点について監査した。

ア 令和5年度の本件業務委託契約について、指名委員会の審査に付すことなく随意契約としたことは、違法又は不当であるか。

イ 令和5年度の本件業務委託契約の契約金額の決定手続は、違法又は不当であるか。

 

5 監査の実施内容

 請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類、広島市長から提出された意見書のほか関係書類を確認し、関係職員への聴取りを行うなどして監査するとともに、別添1の令和5年6月30日付け広島市監査公表第20号で監査結果(以下「前回監査結果」という。)を公表した広島市職員に関する措置請求における監査の知見及び前回監査結果を活用した。

 

第4 監査の結果

1 事実の確認

(1) 本件ビルの維持管理に係る主な経緯

 本件ビルの維持管理に係る経緯を整理すると、次のとおりである。

 
年月日 内容
令和3年5月25日 市・広島商工会議所の間で財産交換仮契約を締結
令和3年6月14日 本件業務委託契約に関し、広島商工会議所以外の別のビル管理業者から参考見積を徴取
令和3年6月25日 市議会本会議において、財産交換議案を議決。市・広島商工会議所の間で財産交換契約の締結
同日 市・広島商工会議所の間で財産交換契約に基づく本件覚書を締結(以後の本件ビルの賃貸借契約の締結、転貸借契約の容認、転貸借契約の定期建物賃貸借契約への原則移行、賃貸借契約終了時の費用負担区分、所有権移転後の本件維持管理業務の委託など)
令和3年7月26日 本件業務委託契約に関し、広島商工会議所から見積を徴取
同日 本件業務委託契約に関し、広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会(持ち回り審議)を実施し、随意契約とすること及び相手方の決定について承認
令和3年8月1日 財産交換契約に基づく財産交換(所有権移転)を履行
同日 市・広島商工会議所の間で本件ビルの賃貸借契約を締結
同日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約(令和3年度分)を締結
令和4年4月1日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約(令和4年度分)を締結
令和5年4月1日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約(令和5年度分)を締結

(2) 本件ビルの維持管理の状況

ア 本件維持管理業務に係る広島商工会議所との随意契約に関する事実

 令和3年5月25日付けで市と広島商工会議所が締結した財産交換仮契約書第15条において、「甲(注:市)、乙(注:広島商工会議所)両者は、1号財産(注:市営基町駐車場)及び2号財産(注:本件ビル)の交換後の利用等に関する覚書を交換する。」とされている。

 これを受け、令和3年6月25日付けで市と広島商工会議所が締結した本件覚書第7条第3項において、「甲(注:市)は、第4条に定める賃貸借期間における2号財産(注:本件ビル)の管理業務を乙(注:広島商工会議所)に委託する。」とされ、これにより、広島商工会議所が本件ビルの維持管理を担うことについて、合意形成が図られている。

 これらに基づき、本件維持管理業務については、令和3年8月1日付けで随意契約により本件業務委託契約が締結されている。

 随意契約に関し、地方自治法第234条第2項において、「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」と、地方自治法施行令第167条の2第1項柱書きでは「地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。」とされ、同令第167条の2第1項第2号において「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」とされている。

 この「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」について、「物品売買等に係る随意契約ガイドライン」では、具体的に「(1) 契約の相手方が特定されるとき。」又は「(2) 競争が成り立たない契約をするとき。」とされている。このうち、「(1) 契約の相手方が特定されるとき。」の例示として、「ア 法令等により契約の相手方が定められているとき。」、「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」、「ウ あらかじめ基本となる事項を定めた基本契約に基づき個別契約を締結するとき。」など6つが挙げられている。そして、このうち「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」の例として、「施設設置の経緯により、施設の維持管理業務を特定の者に委託することを協定書、覚書その他の法律文書により定めた場合において、当該協定書等で定められた相手方と締結する施設の維持管理業務の委託契約」との解釈・運用が示されている。

 本件業務委託契約を随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考について、令和3年7月26日の広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会(持ち回り審議)において、上記ガイドラインの「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」に該当するものとして、承認されている。

イ 本件業務委託契約の内容

 市は本件ビルの維持管理について、施設運営管理業務として来館者等対応業務、鍵等の管理業務、光熱水費・共益費に関する業務、各種損害保険の手続業務を、また、施設維持管理業務として清掃業務、警備業務、設備運転・保全業務を一括して、広島商工会議所に委託しており、その契約期間は会計年度(令和3年度分の始期は令和3年8月1日)としている。

(ア) 施設運営管理業務

 施設運営管理業務のうち、来館者等対応業務については、各種問合せ対応、空室(広島商工会議所に賃貸していない事務室)使用対応業務を行っている。

 また、光熱水費・共益費に関する業務として、広島商工会議所は、本件ビル全体に係る電気、上下水道及びガスの使用料金を各事業者へ支払っている。

 このほか、広島商工会議所は、各入居者(市及び市と直接賃貸借契約を行っている法人等)の専用部及び共用部に係る電気、上下水道及びガスの使用料金並びに共益費(共用部警備費、共用部清掃費及び機械警備費)を毎月計算し、市を除く各入居者から集金を行った上で、市に対し集金した光熱水費・共益費を支払っている(令和5年10月分以降は、市及び広島商工会議所を除く各入居者について、市が、これらの事務を直接行っている。)。

 なお、市は広島商工会議所に対し、本件ビル全体に係る電気、上下水道及びガスの使用料金を委託料に含め支払っている。

(イ) 施設維持管理業務

 施設維持管理業務のうち、清掃業務については、建物内外を衛生的に保持するため、清掃員による館内清掃のほか、建物外周清掃、排水桝・側溝清掃、植栽管理及びフロアマット交換を行っている。

 また、警備業務については、建物館内及び外周における災害・事故等を未然に防止するため、有人警備による館内巡回、立哨及び監視カメラによる監視並びに機械警備を行っている。

 このほか、設備運転・保全業務については、環境整備業務(空気環境測定、貯水槽清掃、水質検査、汚水・排水槽点検清掃、防虫防鼠、ばい煙測定及び自動体外式除細動器設置)、廃棄物処理業務及び設備関連業務(受変電設備点検、昇降機点検、消防設備点検、空調機・周辺機器点検、空調機フィルター清掃、フロン排出抑制法に基づく点検、建築基準法に基づく検査及びその他設備点検)を行っている(ばい煙測定については令和4年度まで)。

ウ 本件業務委託契約の履行状況

 イに掲げる業務について、市は、毎月実施報告書や写真その他の資料により所要の報告を受け、履行状況を把握し、履行確認を行っていた。

エ 本件業務委託契約に係る委託料の各年度の推移

 令和4年度決算額については、燃料費の高騰に伴い電気及びガスの使用料金が大幅に増加していた。そのため、令和5年度当初予算額においては、特に光熱水費について直近1年間の実績を元に算出していた。

年度

当初予算額

当初契約金額

決算額

令和3年度(8月~翌3月)

82,804,000円

82,094,875円

82,990,981円

令和4年度

127,396,000円

126,249,922円

141,316,772円

令和5年度

132,442,000円

129,149,668円

-円

(3) 本件業務委託契約締結に係る手続について

 令和5年度の本件業務委託契約締結に係る手続は、次のとおり行われていた。

 
年月日 内容
令和5年3月9日 経費の支出伺
令和5年3月13日 広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会の審査省略の確認
同日 予定価格を決定
令和5年3月15日 広島商工会議所から見積書を徴取
同日 契約金額の決定
令和5年4月1日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約を締結

 

2 判断

(1) 本件業務委託契約を随意契約とすることとした手続について

ア 本件維持管理業務が「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に当たるとして、本件業務委託契約を随意契約としたことは、違法又は不当であるか。また、本件業務委託契約を随意契約とすることを定めた本件覚書を締結する前に指名委員会へ諮っていないことは、違法又は不当であるか。

 請求人は、「広島市は令和9年3月31日まで商工会議所ビルの管理業務を広島商工会議所に委託する」と約しているものについて、本来、こうした随意契約を締結することを容認する覚書の締結前に、競争入札参加者等指名委員会の審査に付されるべきであるとして、本件業務委託契約は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 また、本件維持管理業務は、ごく一般的なテナントビルの管理業務であって、その性質又は目的は、すべて競争入札になじむものであるから、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に規定される「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」には当たらず、本件業務委託契約は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 さらに、本件業務委託契約を競争入札に付すことにより、令和5年度分については違法又は不当な契約を是正することを、令和6年度分については違法又は不当な契約を事前に防止することを求めているものと認められる。

イ 判断

 これらの請求人の主張は、請求人が令和5年5月10日付けで請求し、監査委員が監査を実施し、前回監査結果のとおり結果を公表した広島市職員措置請求の対象と同一であると認められ、監査請求を重ねて行うことは許されていない(昭和62年2月20日最高裁判所判決)。

ウ 結論

 本件業務委託契約を随意契約とすることとした手続についての請求は、地方自治法第242条に規定される住民監査請求として不適法である。

(2) 本件業務委託契約締結に係る手続について

ア 令和5年度の本件業務委託契約について、指名委員会の審査に付すことなく随意契約としたことは、違法又は不当であるか。

(ア) 請求人の主張

 請求人は、本件業務委託契約については、毎年度、広島商工会議所が随意契約の相手方として適切かどうか審査すべきものであると主張していると認められる。

(イ) 市長の主張

 これに対し、市長は、次のとおり説明する。

・ 広島市都市整備局委託業務競争入札参加者等指名委員会(以下「指名委員会」という。)が、指名委員会設置要綱の規定に基づき、随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考の審査を行う場合において、当該審査対象の案件と仕様が同一であること等を条件として、同様の案件については、以後あらためて指名委員会の審査に付する必要がないと認めたときは、委員会の審査を省略することができることとされている。

・ 本件ビル管理業務については、令和3年度の指名委員会の審査において仕様に大幅な変更が生じない限り、審査を省略できるものであることの承認を得ており、令和4年度以降の業務の相手方の決定に当たっては、適正に審査省略の確認を行っており、事務手続きに何ら問題はない。

(ウ) 指名委員会による審査の省略について

 指名委員会による審査の省略に係る広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等指名委員会設置要綱(以下「指名委員会設置要綱」という。)の規定は次のとおりである。

 (設置)

第1条 都市整備局が発注する(略)委託業務(以下「委託業務等」という。)の(略)随意契約(略)によることの適否及び随意契約の相手方の選考(以下「随意契約によることの適否等」という。)を審査するため、広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等指名委員会(以下「委員会」という。)を設置する。

(1)~(5) (略)

 (委員会の名称、委員等)

第2条 委員会の名称、委員及び所掌事務は、次のとおりとする。

名称

委員

所掌事務

第一指名委員会

(略)

(略)

第二指名委員会

(略)

(略)

2 (略)

3 委員会が、第1項の規定に基づいて随意契約によることの適否等の審査を行う場合において、当該審査対象の案件と仕様が同一であること等を条件として、同様の案件については、以後あらためて委員会の審査に付する必要がないと認めたときは、第1項の規定にかかわらず、委員会の審査を省略することができる。

4 前項の規定に基づいて委員会が審査に付する必要がないと認めた案件について、以後委員会の審査を省略しようとする場合は、第3条に規定する委員長が、当該案件が前項の規定により委員会の審査を省略できるものであることの確認を行うものとする。

 (委員長)

第3条 委員会に委員長を置き、第一指名委員会にあっては局次長を、第二指名委員会にあっては都市整備調整課長をもってこれに充てる。

2~4 (略)

 

 監査したところ、市長の説明のとおり、令和3年7月26日に実施された広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会(持ち回り審議)により、「広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等指名委員会設置要綱第2条第3項の規定に基づき、本件と同様の案件については、以後あらためて委託業務等競争入札参加者等指名委員会の審査に付する必要がないと認める。」旨が決定されていた。

 また、指名委員会設置要綱第2条第4項の規定に基づき、令和5年3月13日付けで、広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会委員長(以下「第一指名委員会委員長」という。)により令和5年度の本件業務委託契約が委員会の審査を省略できるものであることの確認が行われていた。

 一方で、令和5年度の本件業務委託契約に係る仕様書と当初の令和3年度の仕様書とを比較したところ、令和5年度については、環境整備業務のうちのばい煙測定が除かれており、このばい煙測定は、建物内設備(ボイラー)の法定点検として毎年行われていたが、令和4年10月の改正大気汚染防止法施行令の施行により、令和5年度から点検の対象外としたものであった。

(エ) 指名委員会による審査の省略の妥当性について

 指名委員会の審査を省略できるか否かは、指名委員会設置要綱第2条第4項において委員長がその確認を行うこととされ、委員長の判断に委ねられているものと認められる。

 この点、本件業務委託契約に係る仕様書においては、令和8年度末まで契約が継続されることを念頭に、フロン排出抑制法や建築基準法に基づく点検といった実施周期が3年に1回のものなど必要となる業務全般が予め盛り込まれているところ、令和5年度の仕様書においては、関係法令の改正により実施不要となったばい煙測定を仕様書から除くよう見直されたものと認められる。

 これを踏まえると、令和5年度と令和3年度の仕様書に違いがあったとしても、なお「同様の案件」として審査を省略できるものであるとした第一指名委員会委員長の判断が不適当であったとは認められない。

(オ) 判断

 以上から、指名委員会の審査を省略できる基準に合致しないとは認められないため、令和5年度の本件業務委託契約を指名委員会の審査に付すことなく随意契約とした市長の判断は、違法又は不当ではない。

イ 令和5年度の本件業務委託契約の契約金額の決定手続は、違法又は不当であるか。

(ア) 請求人の主張

 請求人は、市の決裁文書において予定価格について具体的な説明がなく、広島市契約規則第16条第2項に規定する取引の実例価として他の業者から見積書を徴した形跡もないため、予定価格を定めたとは言えず、さらに、広島商工会議所が提出した見積書どおりの金額を委託金額として決定していることをもって、手続に瑕疵があると主張していると認められる。

(イ) 市長の主張

 これに対し、市長は、次のとおり説明する。

・ 契約規則第16条第2項では「予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について取引の実例価、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めるものとする。」とされる。

・ これによれば、参考見積による実例価のみで決定されるものではなく、役務の内容等を考慮し、合理的な積算方法によることとされている。 

・ 本件委託業務の予定価格を検討するに当たっては、広島商工会議所が約60年もの間、本件ビルを自社ビルとしての管理を行っており、当然、経費削減の観点から、その管理コストを圧縮してきたものと容易に想像でき、営利を目的としている他のビル管理会社に委託するよりも、広島商工会議所が自所で実施していた分、間接経費も安価になっているものと考えられることから、本市は、過去4年度分の本件ビル管理に係る経費の実績額を基に、予定価格の積算を行っている。

・ さらに、本市は、単に広島商工会議所の管理経費の実績額をそのまま計上するのではなく、市有施設となることを踏まえ、有人受付等の不要な業務は除くとともに、ビル運営の内容に応じた適切な人件費となるように査定を行うなど、契約規則第16条第2項を準用する第23条の規定に基づき、本件役務の性質等を十分に考慮した上で、予定価格を決定している。

(ウ) 広島市契約規則第16条第2項の解釈について

 市(財政局契約部物品契約課)は、広島市契約規則第23条において準じることとされる同規則第16条第2項「予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について取引の実例価、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めるものとする。」の規定について、「取引の実例価」は、予定価格を適正に定めるために考慮する事項の例示であり、随意契約の相手方として決定した業者以外の業者から参考見積を徴取する必要があるとする規定はないと説明する。

 この点、同条同項の文理解釈上、列挙される事項の全てを満たす必要があるとは言えないことから、これらの事項は例示に過ぎないものと認められる。

 したがって、広島商工会議所以外の他の業者から見積書を徴していないことをもって、手続に瑕疵があるとする請求人の主張には理由がない。

(エ) 予定価格の決定について

 市は、令和5年度の本件業務委託契約に係る経費の支出伺において、過去4年度分の本件維持管理業務に係る経費の実績額のほか、光熱水費については近年の燃料費の高騰などによる実績額の増加を考慮して独自に所要経費額を算定しており、予定価格については、広島市職務権限規程(昭和42年広島市訓令第13号)別表職務権限表「1 共通職務権限」の「(8) 業務(工事を除く。)の委託等」の規定に基づき、都市整備局都市機能調整部長が所要経費額の範囲内で決定していた。

(オ) 契約金額の決定について

 市は、令和5年度の本件業務委託契約の予定価格の決定後に広島商工会議所へ見積依頼を行い、広島商工会議所から提出された見積書の契約希望金額が予定価格を下回っていたため、契約希望金額と同額を契約金額として契約を締結していた。

(カ) 判断

 以上のとおり、令和5年度の本件業務委託契約の予定価格の決定及び契約金額の決定は、広島市契約規則等にのっとって行われており、不適当であったとは認められなかった。

ウ 結論

 本件業務委託契約締結に係る手続に瑕疵はなく、違法又は不当な契約の締結に当たるとは認められない。

3 結論

 以上のとおり、請求人が行った本件措置請求は、上記2(1)に係る部分については地方自治法第242条に規定される住民監査請求として不適法であることから却下し、上記2(2)に係る部分については理由がないものであることから請求を棄却する。

 

 

別添1

​広島市監査公表第20号

令和5年6月30日

 令和5年5月10日付け第202号で受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により、別紙のとおり公表する。

広島市監査委員 政氏 昭夫

同       井戸 陽子

同       山本 昌宏

同       平野 太祐

 

別紙

広監第25号

令和5年6月30日

請求人

(略)

広島市監査委員 政氏 昭夫

同       井戸 陽子

同       山本 昌宏

同       平野 太祐

 

   広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和5年5月10日付け第202号で受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。

 

第1 請求の要旨

 請求書の記載内容から、請求の要旨は次のとおりと整理できる。

 

1 事実関係

 令和3年8月1日、広島市は市営基町駐車場の土地及び建物との交換により、広島市中区基町に所在する広島商工会議所ビルの土地及び建物(以下、この建物を「本件ビル」という。)を取得した。

 本件ビルは、鉄骨鉄筋コンクリート造り地下2階地上12階建ての建物であり、床面積延べ1万3,818.45平方メートル、土地は面積1,788.45平方メートルである。

 広島市は本件ビルのうち、約7,786平方メートルを広島商工会議所に賃貸し、広島商工会議所はこのうち約3,864平方メートルを第三者への転貸部分とし、その他の部分を自己利用している。(令和3年8月1日賃貸借契約当初)

 また、本件ビルの共用部分の維持管理については、清掃・警備、来館者対応業務などについて、広島商工会議所に委託している。

 

2 違法又は不当性

(1) 本件ビルが、赤字によって運営されていることは、財産の適正な管理を怠るものである。

 令和3年度(令和3年8月1日から令和4年3月31日まで)の本件ビルにおける共益費を含む広島市の賃料収入は、80,099千円、管理運営費は、82,991千円となっており、赤字である。この状況は、当該措置請求(注:後記第3の4後段に記述する広島市職員に関する措置請求)によっても何ら改善されてないことから、現在も、同様の状況である。

 そもそも、本件ビルについては、財産交換に当たり、令和3年3月に不動産鑑定士による鑑定評価がなされ、その中で、本件ビルの収益について、市場賃料を参考に今後10年間で、12億7900万円と見込んでいるところである。交換した市営基町駐車場の今後10年間で9億9000万円の収益を上回る数字である。

 毎年1億2790万円の収益が上がるはずなのに、本市は、収益が全く上がらない状況で運営しているのである。

 なぜ、そのようなことになっているのか。それは、市が適正な賃料を広島商工会議所から徴収していないことによる。広島商工会議所へ貸付に係る賃料については、広島市は、普通財産(不動産)の貸付料算定基準に基づいて算定されている。この額が市場賃料に比べて著しく低額なのである。

 市が広島商工会議所から受け取る賃料は、市場賃料に比べ、ほぼ半額である。

 この点、市は、「本件ビルは、財産交換後短期間で全てのテナントに立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産であり、こうした制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場価値よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、貸付料算定基準の原則により算定したものであり、妥当」としている。

 そして、「テナントを令和9年3月31日まで退去させるべく、広島商工会議所に対し、テナントへの意思確認の上、改めて定期借家契約を締結することを求めるなどの措置が講じられている」とする。

 しかしながら、市と商工会議所の令和3年6月25日付けの覚書(以下、単に「覚書」という。)第5条第1項によると、商工会議所に対してテナントと定期借家契約を締結するよう求めているだけであり、「テナントがこれに応じない場合は、従前の契約を継続する」とされているにすぎない。

 すなわち、テナントが応じたら定期貸借契約にして欲しいと言っているだけであり、基本的には従前の契約が継続されることとなっているものである。

 そればかりか、同条第2項によると、「テナントの賃貸借が終了した場合は、商工会議所は、新たなテナントを求めて、転貸することができる。」としている。

 このような覚書の規定からは、令和9年3月31日までにすべてのテナントに退去してもらえるための保障は全くないに等しく(「当該監査結果」(注:後記第3の4後段に記述する広島市職員に関する措置請求に係る監査結果)の意見においても、本件ビルについては、解体によって景観改善という行政目的を確実に実現するため、市において、広島商工会議所による転貸部分に係る契約の推移やテナントの退去の状況を定期的に把握する」よう、求めているのは、監査委員もこの点を危惧していたことがうかがえる。)、「極めて特殊な不動産」として取扱うことはできないことは明らかである。

 一方、本来、本件ビルのような、建物が賃貸された建物が譲渡された場合、建物の譲受人が賃貸人たる地位を引き継ぐところ、広島市は商工会議所と本件ビルについて賃貸借契約を締結したことから、商工会議所とテナントとの間における賃貸借契約の賃貸人たる地位を承継することはなかった(民法605条の2第2項)。もっとも、広島市と商工会議所との本件ビルについての賃貸借契約が終了すれば、商工会議所に留保されていた本件ビルのテナントとの間の賃貸借契約の賃貸人たる地位を広島市が承継することになる。そうなれば、定期借家契約の締結に応じなかったテナントに対し、広島市が賃貸人としての責任を負うことになってしまう。

 このような意味においても、令和9年3月31日までにすべてのテナントに退去してもらうことを商工会議所がなしえなかった場合、明け渡しの交渉は広島市においてしなければならないことになってしまうのである。

 なお、本件ビルは、商工会議所が、広島市と財産交換契約をするより前から、ずっと、テナントとは賃貸借契約を締結していたものであり、もともとの賃貸借契約により商工会議所がもともとの賃料を受け取っているのであれば、「極めて特殊な不動産」と扱い、広島市が低額な賃料で商工会議所に賃貸することは、不当な利得を商工会議所に与える結果となることになることにも留意が必要である。

 よって、令和9年3月31日までにすべて退去してもらう極めて特別な不動産と断ずることは無理があり、賃料を市場賃料より相当低く設定することに合理的理由はない。

 以上のように、現在の商工会議所に対する貸付料の設定は、広島市財産条例第9条第1項の「普通財産の交換価額、譲渡価額、貸付料の額及び私権設定の価額は、適正な時価により評定した額をもつてしなければならない」の規定に違反するものである (この点について監査委員も前述の意見に続けて、「他都市では、大規模な公有財産の貸付の場合におけるその貸付料の決定に際し、慎重かつ専門的な判断を経る手続を設けている例が見られることから、そうした事例を調査するなどして、本市でも制度の改善を検討されたい」と指摘している。)。

 したがって、商工会議所ビルの運営について、広島市財産条例第9条第1項に違反して、市場賃料と比べ、著しく低廉な賃料で広島商工会議所に貸し付け、本来収益が見込めるテナントビルを全く収益が上がらない状態で運営していることは、普通財産の適正な管理を怠っていることは、明らかである。

 地方自治法第2条第14項の「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を上げるようにしなければならない。」の地方自治経営の根本原則にも違反しているものである。

 なお、そもそも、市は商工会議所ビルを広島商工会議所に貸しつけ、さらにテナントに転貸することを認めているのであるが、そもそも、広島市は普通財産の転貸を認めてないことを付記しておく。普通財産(不動産)貸付事務処理方針は、転貸について一切の規定がないからである。

(2) 広島商工会議所ビルの管理委託業務を広島商工会議所と随意契約により委託していることの違法性について

 広島市は、本件ビルの管理を令和3年8月1日から広島商工会議所に委託している。

 広島市の本件管理委託業務の契約締結伺いによれば、随意契約とした根拠は、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号該当とする。すなわち、「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するというのである。

 しかしながら、本件管理業務は、ごく一般的なテナントビルの管理業務であり、一つとして、その性質又は目的が競争入札に適しないものはなく、すべて、競争入札になじむものである。

 なぜ、このような随意契約が締結されたかといえば、令和3年6月25日に広島市長と広島商工会議所会頭の間で交わされた覚書第7条第2項の規定により、「広島市は令和9年3月31日まで商工会議所ビルの管理業務を広島商工会議所に委託する」と約しているからである。

 随意契約という手法を取ることが妥当か審査を行う「都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会」が本件契約について承認を出したのは、契約締結直前の令和3年7月26日であり、しかも委員会は開催されることなく、持ち回り審議で決裁されている。

 既に、市長と商工会議所会頭の間で約しているものを、市の内部審査委員会が何ら疑問を呈することもなく追認したものと推察される。

 本来、こうした随意契約を締結することを容認する覚書を締結するのなら、その前に指名委員会に諮るべきであり、こうした点にも手続き的な瑕疵があると言える。

 以上、広島市が本件ビルの管理業務を随意契約により広島商工会議所に委託しているのは、地方自治法施行令第167条第1項第2号に違反するものである。

 

3 損害額

 市は、本件ビルについて、商工会議所から適正な賃料を徴収せず、かつ、本来入札すべき管理委託契約を随意契約によったことにより、現在までで、総額124,361千円の損害が発生しており、この状態は、現在も続いていることから、改善されない場合には、さらに損害が拡大することとなる。

(1) 商工会議所に対する低廉な賃料による損害額

 113,587千円

(2) 本件ビルの管理業務を競争入札によらず、広島商工会議所に対して委託していることによる損害額

 10,774千円

 

4 求める措置

 2(1)に関しては、広島市長に対し、早急に本件ビルの広島商工会議所に対する賃料を市場賃料とするなど適正化することを請求する。

 2(2)に関しては、広島市長に対し、早急に本件ビルの管理業務について、競争入札を行い、速やかに落札したその相手方に管理業務の受託を移管させることを請求する。

 

(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)

・ 委託契約書(旧広島商工会議所ビルディング管理業務)

・ 旧広島商工会議所ビルディング管理業務委託契約の締結について(伺い)

・ 旧広島商工会議所ビルディング管理業務の契約方法及び契約の相手方について(伺い)

・ 財産交換仮契約に関する覚書の交換について(伺い)

・ 不動産鑑定評価書(有限会社総合アプレイザル)

・ 鑑定評価書(株式會社谷澤總合鑑定所)

 

第2 請求の受理

 本件措置請求は、地方自治法第242条第1項の所定の要件を具備するものと認め、令和5年5月23日に、同月10日付けでこれを受理することを決定した。

 

第3 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述

 地方自治法第242条第7項の規定に基づき、請求人に対し、証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、請求人からは証拠の提出はなく、陳述も行われなかった。

 

2 広島市長(都市整備局都市機能調整部、財政局管財課及び同局契約部物品契約課)の意見書

 広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めるとともに、広島市財産条例(昭和39年広島市条例第8号)及び広島市契約規則(昭和39年広島市規則第28号)を所管する観点からの見解等を求めたところ、令和5年6月5日付け広都機第32号により意見書の提出があった。なお、陳述は行われなかった。

 この意見書の主な内容は、次のとおりと整理できる。

(1) 本市の意見

 請求人の主張には理由がないため、本件措置請求は棄却されるべきである。

(2) 本市の意見の理由

ア 経緯

 本市が商工会議所ビルを取得し、管理運営を行うに至った経緯は次のとおりである。基町駐車場周辺における再開発事業(以下「再開発事業」という。)について、同事業の実施に併せて、本市の長年の懸案事項となっていた原爆ドームの背景の景観改善を同時に決着することができるならば、紙屋町・八丁堀地区の都市機能の一層の充実・強化を図ることができるとの判断の下、平成30年に本市から商工会議所に対し、商工会議所ビルの移転を提案し、そのための手段として基町駐車場との財産交換を先行させることについて、地権者も含めた関係者で議論を重ねた結果、合意が成立したものである。

 本市は各交換財産(商工会議所ビル及び基町駐車場)の不動産鑑定評価を行い、関連予算案について令和3年第1回市議会定例会の議決を得た後、令和3年第2回市議会定例会において財産交換議案が令和3年6月25日付けで議決された。また、同日付けで交換後の各財産を円滑に運営するための利用等に関する事項を定めた覚書を締結している。その後、関連する事務手続を進め、令和3年8月1日付けで商工会議所と財産交換を行い、商工会議所ビルを本市所有とするとともに、同日付けで商工会議所ビルに関する定期建物賃貸借契約及び管理業務委託契約を、商工会議所と締結したものである。

 請求人は、財産交換後の財産の管理及び商工会議所ビルに係る貸付料の算定、管理業務の随意契約の違法性等について指摘し、そのことをもって本市が商工会議所ビルの適正な管理を怠っていると主張しているため、以下、これらの点について述べる。

イ 広島商工会議所ビルの貸付料等について

 普通財産として取得した商工会議所ビルは、商工会議所が再開発ビルに移転した後には速やかに解体(処分)することを予定しているが、処分までの間、市は商工会議所等に貸し付け、貸付料を得ている。

 普通財産の貸付料の算定については、広島市財産条例第9条第1項で、適正な時価とする旨定め、「適正な時価」については、普通財産(不動産)の貸付料算定基準の1の(2)で、直近の基準年度の固定資産税評価相当額を用いて算出する旨定めている。

 また、前記算出額が近傍類似の民間賃貸事例等に比較して著しく高額又は低額と認められる場合など、この基準により算定することが適当でないと認めることができる場合は、調整措置として財政局長の承認を得て貸付料を別に定めることができる旨定めている。

 本市が財産交換により取得した商工会議所ビルは、前記アのとおり、特定の時期に解体することを目的に取得したものであり、取得から約5年半という短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産である。

 こうした特殊な制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、また、客観性のある確立された評価手法もない。このことは、不動産鑑定士からあらかじめ意見を聴取し、同様の見解を得ている。

 このため、商工会議所ビルの貸付料の算定に当たっては、本市「普通財産(不動産)の貸付料算定基準」の基準どおり、直近の基準年度の固定資産税評価相当額を用いて算定したものであり、広島市財産条例の規定に、何ら違反するものではない。

 また、覚書第5条第3項では借地借家法第38条の趣旨に鑑み、期限までに転借人を退去させ、自己利用部分と併せて本市に返還すべき義務について規定をしたところであるが、覚書第5条第4項により、期限までに退去しない転借人がいる場合に退去させることに要する補償費、人件費、弁護士費用その他費用を賃借人(商工会議所)が全面的に負うこととしている。このため、商工会議所がテナントの立退きに係る責務を免れているという請求人の指摘は当たらない。

 そもそも行政財産と同様、普通財産についても財産の特性に応じた維持管理を行うためには所要の経費が必要であり、財産を適正に管理しているか否かは、財産貸付収入と管理運営費支出の差額のみで評価すべきではない。本市は、商工会議所等に賃貸している床以外についても、公益的法人、広島サミット県民会議事務局などその時々の公共的な需要に対応した執務室及び都心の活性化に資するコワーキングスペース等に有効活用している。

 以上のことから、市は普通財産である商工会議所ビルを有効に活用しており、適正な管理を怠っているという請求人の指摘は当たらない。

 なお、本市において、普通財産の転貸借に係る規定や基準を条例等に定めていないが、転貸借を認めないという趣旨ではない。また、民法第612条は、転貸するに当たって賃貸人の承諾が必要である旨定めている。

ウ 商工会議所ビルの管理業務を随意契約により委託していることについて

 本市は、基町駐車場周辺の再開発事業を官民一体で推進するとともに、原爆ドームの北側を望む良好な景観の形成に資するため、基町駐車場と商工会議所ビルとの財産交換を行ったが、この目的を円滑に実現するためには、商工会議所が再開発ビルに移転するまでの間、商工会議所が商工会議所ビルを使用することを許容するとともに、入居しているテナントを令和9年3月31日までに退去させる必要がある。

 また、商工会議所ビルの管理については、従前の利用を継続しつつも、短期間で解体することを踏まえた適切な維持管理・補修等を行うことが求められるところ、長年にわたり商工会議所ビルを管理運営し、施設の利用状況や建物・設備の状態を詳細に把握している商工会議所にこれを引き続き担わせることが、最も円滑かつ効率的であり、さらに、テナントとの退去に向けた交渉を短期間で着実に行うためには、これを従来の賃貸人である商工会議所に行わせることが最も有効であると判断したものである。

 以上の理由により、市は財産交換に先立って交換後の財産管理に関する規定を含んだ覚書を商工会議所と締結し、同覚書において、本市と商工会議所とが定期建物賃貸借契約を締結すること及び商工会議所と従前からのテナントとの転貸借契約を認めつつ、テナントとの退去に向けた交渉を商工会議所が行うことを定めたものである。

 商工会議所ビルの管理業務を随意契約により委託するに当たっては、管理運営費について商工会議所ビルの過去の実績額だけでなく、他のビル管理業者からも見積りを徴取し、その額を勘案した上で予定価格を設定したものであり、違法又は不当な点はない。

 さらに、広島市都市整備局業務委託等競争入札参加者指名委員会において、随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考を審査した上で契約を締結しており、法令等に照らして事務手続に何ら問題なく、手続上の瑕疵があるという指摘も当たらない。

エ 結論

 以上のことから、請求人が主張する内容について、いずれも理由がなく、また本市には何ら損害が発生していないことから、本件措置請求は棄却されるべきである。

 

3 監査対象事項

(1) 請求事項A(本件ビルの収支が赤字であること)について

 請求人は、広島商工会議所ビル(以下、請求人の請求の要旨又は市長の意見書の引用部分を除き、「本件ビル」という。)の運営について、維持管理に係る支出と本件ビルの広島商工会議所等に対する貸付けに伴う収入を比較し、本件ビルが赤字で運営されており、これは市場賃料と比べ著しく低額な賃料で広島商工会議所に貸し付け、本来収益が見込めるテナントビルを全く収益が上がらない状態で運営していることによるものであるから、市長は財産の適正な管理を怠っている、すなわち違法又は不当な財産の管理であると主張していると認められる。

 この主張を踏まえ、次の点について監査した。

ア 市が算定した貸付料の算定は適正か。

イ 普通財産に係る収支が赤字であることが、違法又は不当であるか。

(2) 請求事項B(本件維持管理業務の随意契約)について

 請求人は、本件ビルの維持管理業務の内容は一般的なテナントビルの管理業務であり、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第167条の2第1項第2号に規定される「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」には当たらないことから、広島商工会議所を随意契約の相手方とした本件ビルの維持管理業務(以下、請求人の請求の要旨又は市長の意見書の引用部分を除き、「本件維持管理業務」という。)に係る委託契約(以下、請求人の請求の要旨又は市長の意見書の引用部分を除き、「本件業務委託契約」という。)は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 また、本件業務委託契約は、令和3年6月25日に締結された覚書(以下、請求人の請求の要旨又は市長の意見書の引用部分を除き、「本件覚書」という。)に規定されていたものであり、本件覚書の締結より前に競争入札参加者等指名委員会の審査に付されるべきところ、本件業務委託契約の直前に付議されており、本件業務委託契約の手続には瑕疵があることから、本件業務委託契約は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 これらの主張を踏まえ、次の点について監査した。

ア 随意契約としたことが違法又は不当であるか。

イ 随意契約に当たり適正な手続が行われているか。

 

4 監査の実施内容

 請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類、広島市長から提出された意見書のほか関係書類を確認するとともに、関係職員への聴取りを行うなどして監査した。

 ただし、本件ビルの貸付けに関する事項については、別添1の令和4年12月26日付け広島市監査公表第51号で監査結果(以下「前回監査結果」という。)を公表した広島市職員に関する措置請求における監査の知見及び前回監査結果を活用した。

 

第4 監査の結果

1 事実の確認

(1) 本件ビルの維持管理及び貸付けに係る主な経緯

 本件ビルの維持管理及び貸付けに係る経緯を整理すると、次のとおりである。

年月日 内容
令和3年5月25日 市・広島商工会議所の間で財産交換仮契約を締結
令和3年6月14日 本件業務委託契約に関し、広島商工会議所以外の別のビル管理業者から参考見積を徴取
令和3年6月25日 市議会本会議において、財産交換議案を議決。市・広島商工会議所の間で財産交換契約の締結
同日 市・広島商工会議所の間で財産交換契約に基づく本件覚書を締結(以後の本件ビルの賃貸借契約の締結、転貸借契約の容認、転貸借契約の定期建物賃貸借契約への原則移行、賃貸借契約終了時の費用負担区分、所有権移転後の本件維持管理業務の委託など)
令和3年7月26日 本件業務委託契約に関し、広島商工会議所から見積を徴取
同日 本件業務委託契約に関し、広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会(持ち回り審議)を実施し、随意契約とすること及び相手方の決定について承認
令和3年8月1日 財産交換契約に基づく財産交換(所有権移転)を履行
同日 市・広島商工会議所の間で本件ビルの賃貸借契約を締結
同日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約(令和3年度分)を締結
令和4年4月1日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約(令和4年度分)を締結
令和5年4月1日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約(令和5年度分)を締結

(2) 本件ビルの維持管理の状況

ア 本件維持管理業務に係る広島商工会議所との随意契約に関する事実

 令和3年5月25日付けで市と広島商工会議所が締結した財産交換仮契約書第15条において、「甲(注:市)、乙(注:広島商工会議所)両者は、1号財産(注:市営基町駐車場)及び2号財産(注:本件ビル)の交換後の利用等に関する覚書を交換する。」とされている。

 これを受け、令和3年6月25日付けで市と広島商工会議所が締結した本件覚書第7条第3項において、「甲(注:市)は、第4条に定める賃貸借期間における2号財産(注:本件ビル)の管理業務を乙(注:広島商工会議所)に委託する。」とされ、これにより、広島商工会議所が本件ビルの維持管理を担うことついて、合意形成が図られている。

 これらに基づき、本件維持管理業務については、令和3年8月1日付けで随意契約により本件業務委託契約が締結されている。

 随意契約に関し、地方自治法第234条第2項において、「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」と、地方自治法施行令第167条の2第1項柱書きでは「地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。」とされ、同令第167条の2第1項第2号において「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」とされている。

 この「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」について、「物品売買等に係る随意契約ガイドライン」(平成21年4月財政局契約部物品契約課作成)では、具体的に「(1) 契約の相手方が特定されるとき。」又は「(2) 競争が成り立たない契約をするとき。」とされている。このうち、「(1) 契約の相手方が特定されるとき。」の例示として、「ア 法令等により契約の相手方が定められているとき。」、「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」、「ウ あらかじめ基本となる事項を定めた基本契約に基づき個別契約を締結するとき。」など6つが挙げられている。そして、このうち「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」の例として、「施設設置の経緯により、施設の維持管理業務を特定の者に委託することを協定書、覚書その他の法律文書により定めた場合において、当該協定書等で定められた相手方と締結する施設の維持管理業務の委託契約」との解釈・運用が示されている。

 本件業務委託契約を随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考について、令和3年7月26日の広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会(持ち回り審議)において、上記ガイドラインの「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」に該当するものとして、承認されている。

【参考】

物品売買等に係る随意契約ガイドライン(抜粋)

(平成21年4月財政局契約部物品契約課作成)

3 令第167条の2第1項各号の解釈・運用について

 「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、次のとおりです。

(1) 契約の相手方が特定されるとき。

ア 法令等により契約の相手方が定められているとき。

<例>

・ 厚生労働省からの通知に基づき母子福祉団体と締結するひとり親家庭等日常生活支援業務の委託契約

イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。

<例>

・ 施設設置の経緯により、施設の維持管理業務を特定の者に委託することを協定書、覚書その他の法律文書により定めた場合において、当該協定書等で定められた相手方と締結する施設の維持管理業務の委託契約(「法律文書」とは、協定書、覚書その他文書の名称の如何にかかわらず、内容において法的効力を有する文書をいいます。)

ウ あらかじめ基本となる事項を定めた基本契約に基づき個別契約を締結するとき。

<例>

・ 複数の者が、複数の機種、単価、仕様を示し、それに基づき当該複数の者と締結した基本契約の内容を踏まえ、最適な仕様及び最低の価格を提示した者を選定し締結する複写サービスの提供に係る個別契約

・ あらかじめ品名、単価を定めた基本契約に基づき締結するガソリン、コピー用紙等の購入に係る個別契約

エ~カ (略)

(2) 競争が成り立たない契約をするとき。

(略)

イ 本件業務委託契約の内容

 市は本件ビルの維持管理について、施設運営管理業務として来館者等対応業務、鍵等の管理業務、光熱水費・共益費に関する業務、各種損害保険の手続業務を、また、施設維持管理業務として清掃業務、警備業務、設備運転・保全業務を一括して、広島商工会議所に委託しており、その契約期間は会計年度(令和3年度分の始期は令和3年8月1日)としている。

(ア) 施設運営管理業務

 施設運営管理業務のうち、来館者等対応業務については、各種問合せ対応、空室(広島商工会議所に賃貸していない事務室)使用対応業務を行っている。

 また、光熱水費・共益費に関する業務として、広島商工会議所は、本件ビル全体に係る電気、上下水道及びガスの使用料金を各事業者へ支払うとともに、各入居者の専用部及び共用部に係る電気、上下水道及びガスの使用料金並びに共益費(共用部警備費、共用部清掃費及び機械警備費)を毎月計算し、市を除く各入居者から集金を行った上で、市に対し集金した光熱水費・共益費を支払っている。

 なお、市は広島商工会議所に対し、本件ビル全体に係る電気、上下水道及びガスの使用料金を委託料に含め支払っている。

(イ) 施設維持管理業務

 施設維持管理業務のうち、清掃業務については、建物内外を衛生的に保持するため、清掃員による館内清掃のほか、建物外周清掃、排水桝・側溝清掃、植栽管理及びフロアマット交換を行っている。

 また、警備業務については、建物館内及び外周における災害・事故等を未然に防止するため、有人警備による館内巡回、立哨及び監視カメラによる監視並びに機械警備を行っている。

 このほか、設備運転・保全業務については、環境整備業務(空気環境測定、貯水槽清掃、水質検査、汚水・排水槽点検清掃、防虫防鼠、ばい煙測定及び自動体外式除細動器設置)、廃棄物処理業務及び設備関連業務(受変電設備点検、昇降機点検、消防設備点検、空調機・周辺機器点検、空調機フィルター清掃、フロン排出抑制法に基づく点検、建築基準法に基づく検査及びその他設備点検)を行っている。

ウ 本件業務委託契約の履行状況

 イに掲げる業務について、市は、毎月実施報告書や写真その他の資料により所要の報告を受け、履行状況を把握し、履行確認を行っていた。

エ 本件業務委託契約に係る委託料の各年度の予算額、決算額等

 令和4年度については、燃料費の高騰に伴い電気及びガスの使用料金が大幅に増加しており、委託料も増加していた。

 

当初予算額 a

決算(見込)額 b

差引 b-a

令和3年度(8月~翌3月)

82,804,000円

82,990,981円

186,981円

令和4年度

127,396,000円

141,316,772円

13,920,772円

令和5年度

132,442,000円

-円

-円

(3) 本件ビルの貸付けの状況

ア 賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保する旨及び広島商工会議所に賃貸する旨の合意

 前回監査結果の第4の1(4)アのとおりである。

イ 広島商工会議所への貸付状況

(ア) 当初賃貸借契約時の状況(令和3年8月1日時点)

 市は本件ビルのうち、約7,786平方メートルを広島商工会議所に賃貸し、広島商工会議所はこのうち約3,864平方メートルを第三者(市長の意見書の引用部分を除き、以下「テナント」という。)への転貸部分とし、その余を自己利用している。

(イ) 直近の状況(令和5年5月31日時点)

 市は本件ビルのうち、約7,142平方メートルを広島商工会議所に賃貸し、広島商工会議所はこのうち約3,463平方メートルをテナントへの転貸部分とし、その余を自己利用している。

ウ 広島商工会議所への貸付部分以外の状況

 広島商工会議所への貸付部分以外については、市の専有部又は共用部であり、市の専有部について、市が直接使用しているほか、市の事務事業の目的に沿った利用希望があれば、市が直接定期建物賃貸借契約を締結して貸付けを行っており、現在は、公益的法人及び広島サミット県民会議に対し無償で貸し付けているほか、民間事業者に有償で貸し付けている。

エ 広島商工会議所への貸付部分に係る貸付料の算定

 前回監査結果の第4の1(4)イのとおりである。

 なお、貸付料算定の基礎となる固定資産税評価額は令和3年度に評価替えがあったため、令和4年度以降の貸付料は改定されることとなるが、令和4年度分及び令和5年度分の貸付料は適正に算定されているものと認められた。

オ 貸付料収入及び光熱水費等実費徴収額の各年度の予算額、決算額等

 令和3年度については、広島商工会議所に対する貸付面積が、不要となった事務室や倉庫の返還及びテナントの退去により減少したため、貸付料収入が当初予算額に比べ減少していた。

 令和4年度については、前記(2)エのとおり燃料費の高騰により電気及びガスの使用料金が大幅に増加したことに伴い、各入居者が負担する光熱水費に係る実費徴収額についても増加していた。

 

当初予算額 a

決算(見込)額 b

差引 b-a

令和3年度(8月~翌3月)

85,846,000円

80,099,207円

-5,746,793円

令和4年度

119,810,000円

128,502,714円

8,692,714円

令和5年度

125,976,000円

-円

-円

(4) 本件ビルの収支の状況

ア 各年度の当初予算額における収支の状況

 令和3年度から令和5年度までの当初予算額に係る収支の差額を見ると、令和3年度は支出予算が収入予算を下回っていたが、令和4年度及び令和5年度はいずれも支出予算が収入予算を上回っていた。

 

支出当初予算額 a

収入当初予算額 b

差引 b-a

令和3年度(8月~翌3月)

82,804,000円

85,846,000円

3,042,000円

令和4年度

127,396,000円

119,810,000円

-7,586,000円

令和5年度

132,442,000円

125,976,000円

-6,466,000円

イ 各年度の決算(見込)額における収支の状況

 令和3年度及び令和4年度の決算(見込)額に係る収支の差額を見ると、いずれも支出額が収入額を上回っており、本件ビルの運営は赤字であった。ただし、令和4年度については、燃料費の高騰による電気及びガスの使用料金の増加に伴い、収支が悪化していた。

 

支出

決算(見込)額 a

収入

決算(見込)額 b

差引 b-a

令和3年度(8月~翌3月)

82,990,981円

80,099,207円

-2,891,774円

令和4年度

141,316,772円

128,502,714円

-12,814,058円

 

2 判断

 説明の便宜から、請求事項Bについて述べた後に、請求事項Aについて述べる。

(1) 請求事項B(本件維持管理業務の随意契約)について

ア 随意契約としたことが違法又は不当であるか。また、随意契約に当たり適正な手続が行われているか。

(ア) 請求人及び市長の主張

 請求人は、本件業務委託契約は、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に規定される「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」には当たらないと、また、随意契約を締結することを容認する覚書の締結前に、競争入札参加者等指名委員会の審査に付されるべきであるとして、本件業務委託契約は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 これに対し、市長は、本件業務委託契約について、次のとおり説明する。

・ 商工会議所ビルは、基町駐車場周辺の再開発事業を官民一体で推進するとともに、原爆ドームの北側を望む良好な景観の形成に資するため、特定の時期に解体することを目的に財産交換により取得したものであり、取得から約5年半という短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産である。

・ その目的を円滑に実現するためには、商工会議所が再開発ビルに移転するまでの間、商工会議所が商工会議所ビルを使用することを許容するとともに、入居しているテナントを令和9年3月31日までに退去させる必要がある。

・ 商工会議所ビルの管理については、従前の利用を継続しつつも、短期間で解体することを踏まえた適切な維持管理・補修等を行うことが求められるところ、長年にわたり商工会議所ビルを管理運営し、施設の利用状況や建物・設備の状態を詳細に把握している商工会議所にこれを引き続き担わせることが、最も円滑かつ効率的であり、さらに、テナントとの退去に向けた交渉を短期間で着実に行うためには、これを従来の賃貸人である商工会議所に行わせることが最も有効であると判断した。

・ 商工会議所ビルの管理業務を随意契約により委託するに当たっては、管理運営費について商工会議所ビルの過去の実績額だけでなく、他のビル管理業者からも見積りを徴取し、その額を勘案した上で予定価格を設定した。

・ 広島市都市整備局業務委託等競争入札参加者指名委員会において、随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考を審査した上で契約を締結しており、手続上の瑕疵があるという指摘も当たらない。

(イ) 指名委員会の設置目的

 業務委託に係る随意契約の相手方の決定に係る職務権限については、広島市職務権限規程(昭和42年広島市訓令第13号)別表職務権限表「1 共通職務権限」の「(8) 業務(工事を除く。)の委託等」に規定され、金額により部長決裁又は課長決裁(一部例外あり。)によることとされているが、随意契約によることや随意契約の相手方の決定に当たり、複数の職員による合議を義務付け、もって特定の者による恣意的な運用を防ぐことを目的として、市の各局・区等に委託業務に係る競争入札参加者等指名委員会が設けられたものと認められる。

(ウ) 本件覚書の内容

 本件覚書は、別途締結した財産交換契約に基づき交換後の財産の利用等について定めたもので、その内容は、最終的な本件ビルの円滑な解体に向け、財産交換後の本件ビルの賃貸借契約の締結、転貸借契約の容認、転貸借契約の定期建物賃貸借契約への原則移行、賃貸借契約終了時の費用負担区分、所有権移転後の本件維持管理業務の委託に関する事項など多岐にわたるものであった。

(エ) 随意契約に係る判例

 地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に規定される「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」について、昭和62年3月20日最高裁判決では「競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項1号(注:現2号)に掲げる場合に該当するものと解すべきである。そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法(注:地方自治法)及び令(注:同法施行令)の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。」とされている。

(オ) 判断

 これを本件に当てはめてみると、本件ビルは長年の懸案事項となっていた原爆ドームの背景の景観改善を目的として取得したものであること、令和9年度頃の本件ビルの円滑な解体に向けては、解体までにテナントの退去が不可欠であること、一方で財産の有効活用を図るためには解体までの間において少しでも長くテナントが入居していることが望ましいこと、そのためには建物の老朽化度に応じた必要最小限の維持管理・補修を行うことが効率的であること、これらの相反する事項の調整に当たっては財産交換前の賃貸人である広島商工会議所がテナントとの交渉窓口となることが、テナントのより長い入居かつ円滑な退去に向けて有利に働くと考えられること、そのためには従前どおりテナント管理や本件ビル全体の維持管理を広島商工会議所が包括的に行うことが合理的であること、予定価格の見積もりに当たっては別のビル管理事業者から参考見積を徴取するなどして、広島商工会議所からの見積額が不当な価額でないことを担保していたことなど、これら諸般の事情を総合的に勘案すれば、広島商工会議所と本件覚書を締結し、本件業務委託契約について随意契約を行うこととした市長の判断は、上記判例に照らし裁量の範囲を逸脱しているものとは認められない。

 また、この市長の判断が、特定の者による恣意的な運用には当たらないものであることは明白であり、本件覚書の締結の前に、特定の者による恣意的な運用の防止を目的とする競争入札参加者等指名委員会の審査に付す必要があったとは認められない。

 したがって、本件業務委託契約を随意契約としたことが、違法又は不当であるとは認められない。

イ 結論

 請求事項Bについては、違法又は不当な契約の締結に当たらないと認められる。

(2) 請求事項A(本件ビルの収支が赤字であること)について

 請求人は、本件ビルが赤字で運営されていることが、違法又は不当な財産の管理であると主張していると認められる。

ア 市が算定した貸付料の算定は適正か。

 上記1で述べた事実関係から、この点に対する判断は、前回監査結果の第4の2(1)イのとおりであり、原則に従って算定することとした市長の判断に違法又は不当な点があったとは認められない。

イ 普通財産に係る収支が赤字であることが、違法又は不当であるか。

(ア) 市長の主張

 このことについて、市長は、「行政財産と同様、普通財産についても財産の特性に応じた維持管理を行うためには所要の経費が必要であり、財産を適正に管理しているか否かは、財産貸付収入と管理運営費支出の差額のみで評価すべきではない。」と説明する。

(イ) 財産の管理及び運用に関する法令等の規定、解釈及び小括

 地方公共団体の財産の管理及び運用について、地方財政法第8条では「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない。」とされ、「「良好の状態においてこれを管理」するということは、善良なる管理者の注意を持って管理すべきことを命じたもの、「その所有の目的に応じて最も効率的に」運用するということは、その財産の用途用途に適応して最も効果あるごとく運用すべきことを命じたものである。」(地方財政法逐条解説 ぎょうせい)とされている。

 市長の説明するとおり、普通財産に限らず、地方公共団体がその所有する建物等を管理するに当たっては、稼働中のものであれば清掃、警備、法定点検等必要最小限の維持管理経費が生じるものであり、また、未稼働の遊休資産であっても老朽化や当該資産を取り巻く環境等を踏まえ、周囲への安全配慮等に要する経費などが生じるものと認められる。

 一方で、普通財産の全てについて、有償貸付け等の有効活用による収入が確実に見込まれるものではないことを踏まえれば、地方財政法第8条が、地方公共団体の財産の管理及び運用に当たり一の普通財産に係る収支が赤字でないことを求めているとは言えない。

 したがって、本件ビルが赤字で運営されていることだけをもって違法又は不当であるとする請求人の主張は採用できない。

(ウ) 財産の管理及び運用に関する裁判例

 地方財政法第8条に規定される地方公共団体の財産の効率的な運用について、平成31年1月17日盛岡地裁判決では「効率的利用といっても、その内容、程度を一義的に決することは困難である上に、それぞれの地方公共団体が置かれた固有の社会的、経済的、地域的諸事情にも左右されるから、効率的な公有財産の運用方法は、地方公共団体の執行機関の合理的な裁量に委ねられていると解するほかない。」とされていることから、本件ビルの管理及び運用については、市長の合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。

 よって、本件ビルの所有目的である最終的な解体に向けた維持管理業務及び有効活用のための貸付けが、それぞれ適切かつ合理的に執行されることにより、本件ビルの効率的な運用が図られているかについて、以下検討する。

(エ) 判断

 市長は、本件ビルの維持管理及び貸付けについて、次のとおり説明する。

・ 商工会議所ビルは、基町駐車場周辺の再開発事業を官民一体で推進するとともに、原爆ドームの北側を望む良好な景観の形成に資するため、特定の時期に解体することを目的に財産交換により取得したものであり、取得から約5年半という短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産である。

・ その目的を円滑に実現するためには、商工会議所が再開発ビルに移転するまでの間、商工会議所が商工会議所ビルを使用することを許容するとともに、入居しているテナントを令和9年3月31日までに退去させる必要がある。

・ 商工会議所ビルの管理については、従前の利用を継続しつつも、短期間で解体することを踏まえた適切な維持管理・補修等を行うことが求められるところ、長年にわたり商工会議所ビルを管理運営し、施設の利用状況や建物・設備の状態を詳細に把握している商工会議所にこれを引き続き担わせることが、最も円滑かつ効率的であり、さらに、テナントとの退去に向けた交渉を短期間で着実に行うためには、これを従来の賃貸人である商工会議所に行わせることが最も有効であると判断した。

・ 商工会議所等に賃貸している床以外についても、公益的法人、広島サミット県民会議事務局などその時々の公共的な需要に対応した執務室及び都心の活性化に資するコワーキングスペース等に有効活用している。

 本件ビルの維持管理については、監査したところ、市長が説明するとおり事務が執行され、上記2(1)で述べたとおり広島商工会議所との随意契約については違法又は不当な点は認められず、かつ、適切に維持管理や補修等が行われていると認められた。

 また、本件ビルの貸付けについては、前回監査結果の第4の2(1)アのとおり、市は、適法に賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保し、広島商工会議所に賃貸しているとともに、その貸付料も前記アで述べたとおり適正であり、かつ、市長が説明するとおり、広島商工会議所等に賃貸している部分以外の部分を含め、有効活用が図られているものと認められた。

 したがって、市は、本件ビルを適切に維持管理するとともに、本件ビルを有効活用しており、上記(イ)の地方財政法第8条の規定や上記(ウ)の裁判例に照らし、適切に財産の管理及び運用を行っており、これは市長の合理的な裁量の範囲であると認められることから、本件ビルの収支が赤字であるとしてもそれが違法又は不当な財産の管理に当たるとは認められない。

ウ 結論

 請求事項Aについては、違法又は不当な財産の管理又は処分に当たらないと認められる。

3 結論

 請求人が行った本件措置請求については、理由がないものであることから請求を棄却する。