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広島商工会議所ビルの運営・管理について

ページ番号:0000341860 更新日:2023年6月30日更新 印刷ページ表示

​広島市監査公表第20号

令和5年6月30日

 令和5年5月10日付け第202号で受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により、別紙のとおり公表する。

広島市監査委員 政氏 昭夫

同       井戸 陽子

同       山本 昌宏

同       平野 太祐

 

別紙

広監第25号

令和5年6月30日

請求人

(略)

広島市監査委員 政氏 昭夫

同       井戸 陽子

同       山本 昌宏

同       平野 太祐

 

   広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和5年5月10日付け第202号で受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。

 

第1 請求の要旨

 請求書の記載内容から、請求の要旨は次のとおりと整理できる。

 

1 事実関係

 令和3年8月1日、広島市は市営基町駐車場の土地及び建物との交換により、広島市中区基町に所在する広島商工会議所ビルの土地及び建物(以下、この建物を「本件ビル」という。)を取得した。

 本件ビルは、鉄骨鉄筋コンクリート造り地下2階地上12階建ての建物であり、床面積延べ1万3,818.45平方メートル、土地は面積1,788.45平方メートルである。

 広島市は本件ビルのうち、約7,786平方メートルを広島商工会議所に賃貸し、広島商工会議所はこのうち約3,864平方メートルを第三者への転貸部分とし、その他の部分を自己利用している。(令和3年8月1日賃貸借契約当初)

 また、本件ビルの共用部分の維持管理については、清掃・警備、来館者対応業務などについて、広島商工会議所に委託している。

 

2 違法又は不当性

(1) 本件ビルが、赤字によって運営されていることは、財産の適正な管理を怠るものである。

 令和3年度(令和3年8月1日から令和4年3月31日まで)の本件ビルにおける共益費を含む広島市の賃料収入は、80,099千円、管理運営費は、82,991千円となっており、赤字である。この状況は、当該措置請求(注:後記第3の4後段に記述する広島市職員に関する措置請求)によっても何ら改善されてないことから、現在も、同様の状況である。

 そもそも、本件ビルについては、財産交換に当たり、令和3年3月に不動産鑑定士による鑑定評価がなされ、その中で、本件ビルの収益について、市場賃料を参考に今後10年間で、12億7900万円と見込んでいるところである。交換した市営基町駐車場の今後10年間で9億9000万円の収益を上回る数字である。

 毎年1億2790万円の収益が上がるはずなのに、本市は、収益が全く上がらない状況で運営しているのである。

 なぜ、そのようなことになっているのか。それは、市が適正な賃料を広島商工会議所から徴収していないことによる。広島商工会議所へ貸付に係る賃料については、広島市は、普通財産(不動産)の貸付料算定基準に基づいて算定されている。この額が市場賃料に比べて著しく低額なのである。

 市が広島商工会議所から受け取る賃料は、市場賃料に比べ、ほぼ半額である。

 この点、市は、「本件ビルは、財産交換後短期間で全てのテナントに立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産であり、こうした制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場価値よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、貸付料算定基準の原則により算定したものであり、妥当」としている。

 そして、「テナントを令和9年3月31日まで退去させるべく、広島商工会議所に対し、テナントへの意思確認の上、改めて定期借家契約を締結することを求めるなどの措置が講じられている」とする。

 しかしながら、市と商工会議所の令和3年6月25日付けの覚書(以下、単に「覚書」という。)第5条第1項によると、商工会議所に対してテナントと定期借家契約を締結するよう求めているだけであり、「テナントがこれに応じない場合は、従前の契約を継続する」とされているにすぎない。

 すなわち、テナントが応じたら定期貸借契約にして欲しいと言っているだけであり、基本的には従前の契約が継続されることとなっているものである。

 そればかりか、同条第2項によると、「テナントの賃貸借が終了した場合は、商工会議所は、新たなテナントを求めて、転貸することができる。」としている。

 このような覚書の規定からは、令和9年3月31日までにすべてのテナントに退去してもらえるための保障は全くないに等しく(「当該監査結果」(注:後記第3の4後段に記述する広島市職員に関する措置請求に係る監査結果)の意見においても、本件ビルについては、解体によって景観改善という行政目的を確実に実現するため、市において、広島商工会議所による転貸部分に係る契約の推移やテナントの退去の状況を定期的に把握する」よう、求めているのは、監査委員もこの点を危惧していたことがうかがえる。)、「極めて特殊な不動産」として取扱うことはできないことは明らかである。

 一方、本来、本件ビルのような、建物が賃貸された建物が譲渡された場合、建物の譲受人が賃貸人たる地位を引き継ぐところ、広島市は商工会議所と本件ビルについて賃貸借契約を締結したことから、商工会議所とテナントとの間における賃貸借契約の賃貸人たる地位を承継することはなかった(民法605条の2第2項)。もっとも、広島市と商工会議所との本件ビルについての賃貸借契約が終了すれば、商工会議所に留保されていた本件ビルのテナントとの間の賃貸借契約の賃貸人たる地位を広島市が承継することになる。そうなれば、定期借家契約の締結に応じなかったテナントに対し、広島市が賃貸人としての責任を負うことになってしまう。

 このような意味においても、令和9年3月31日までにすべてのテナントに退去してもらうことを商工会議所がなしえなかった場合、明け渡しの交渉は広島市においてしなければならないことになってしまうのである。

 なお、本件ビルは、商工会議所が、広島市と財産交換契約をするより前から、ずっと、テナントとは賃貸借契約を締結していたものであり、もともとの賃貸借契約により商工会議所がもともとの賃料を受け取っているのであれば、「極めて特殊な不動産」と扱い、広島市が低額な賃料で商工会議所に賃貸することは、不当な利得を商工会議所に与える結果となることになることにも留意が必要である。

 よって、令和9年3月31日までにすべて退去してもらう極めて特別な不動産と断ずることは無理があり、賃料を市場賃料より相当低く設定することに合理的理由はない。

 以上のように、現在の商工会議所に対する貸付料の設定は、広島市財産条例第9条第1項の「普通財産の交換価額、譲渡価額、貸付料の額及び私権設定の価額は、適正な時価により評定した額をもつてしなければならない」の規定に違反するものである (この点について監査委員も前述の意見に続けて、「他都市では、大規模な公有財産の貸付の場合におけるその貸付料の決定に際し、慎重かつ専門的な判断を経る手続を設けている例が見られることから、そうした事例を調査するなどして、本市でも制度の改善を検討されたい」と指摘している。)。

 したがって、商工会議所ビルの運営について、広島市財産条例第9条第1項に違反して、市場賃料と比べ、著しく低廉な賃料で広島商工会議所に貸し付け、本来収益が見込めるテナントビルを全く収益が上がらない状態で運営していることは、普通財産の適正な管理を怠っていることは、明らかである。

 地方自治法第2条第14項の「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を上げるようにしなければならない。」の地方自治経営の根本原則にも違反しているものである。

 なお、そもそも、市は商工会議所ビルを広島商工会議所に貸しつけ、さらにテナントに転貸することを認めているのであるが、そもそも、広島市は普通財産の転貸を認めてないことを付記しておく。普通財産(不動産)貸付事務処理方針は、転貸について一切の規定がないからである。

(2) 広島商工会議所ビルの管理委託業務を広島商工会議所と随意契約により委託していることの違法性について

 広島市は、本件ビルの管理を令和3年8月1日から広島商工会議所に委託している。

 広島市の本件管理委託業務の契約締結伺いによれば、随意契約とした根拠は、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号該当とする。すなわち、「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するというのである。

 しかしながら、本件管理業務は、ごく一般的なテナントビルの管理業務であり、一つとして、その性質又は目的が競争入札に適しないものはなく、すべて、競争入札になじむものである。

 なぜ、このような随意契約が締結されたかといえば、令和3年6月25日に広島市長と広島商工会議所会頭の間で交わされた覚書第7条第2項の規定により、「広島市は令和9年3月31日まで商工会議所ビルの管理業務を広島商工会議所に委託する」と約しているからである。

 随意契約という手法を取ることが妥当か審査を行う「都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会」が本件契約について承認を出したのは、契約締結直前の令和3年7月26日であり、しかも委員会は開催されることなく、持ち回り審議で決裁されている。

 既に、市長と商工会議所会頭の間で約しているものを、市の内部審査委員会が何ら疑問を呈することもなく追認したものと推察される。

 本来、こうした随意契約を締結することを容認する覚書を締結するのなら、その前に指名委員会に諮るべきであり、こうした点にも手続き的な瑕疵があると言える。

 以上、広島市が本件ビルの管理業務を随意契約により広島商工会議所に委託しているのは、地方自治法施行令第167条第1項第2号に違反するものである。

 

3 損害額

 市は、本件ビルについて、商工会議所から適正な賃料を徴収せず、かつ、本来入札すべき管理委託契約を随意契約によったことにより、現在までで、総額124,361千円の損害が発生しており、この状態は、現在も続いていることから、改善されない場合には、さらに損害が拡大することとなる。

(1) 商工会議所に対する低廉な賃料による損害額

 113,587千円

(2) 本件ビルの管理業務を競争入札によらず、広島商工会議所に対して委託していることによる損害額

 10,774千円

 

4 求める措置

 2(1)に関しては、広島市長に対し、早急に本件ビルの広島商工会議所に対する賃料を市場賃料とするなど適正化することを請求する。

 2(2)に関しては、広島市長に対し、早急に本件ビルの管理業務について、競争入札を行い、速やかに落札したその相手方に管理業務の受託を移管させることを請求する。

 

(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)

・ 委託契約書(旧広島商工会議所ビルディング管理業務)

・ 旧広島商工会議所ビルディング管理業務委託契約の締結について(伺い)

・ 旧広島商工会議所ビルディング管理業務の契約方法及び契約の相手方について(伺い)

・ 財産交換仮契約に関する覚書の交換について(伺い)

・ 不動産鑑定評価書(有限会社総合アプレイザル)

・ 鑑定評価書(株式會社谷澤總合鑑定所)

 

第2 請求の受理

 本件措置請求は、地方自治法第242条第1項の所定の要件を具備するものと認め、令和5年5月23日に、同月10日付けでこれを受理することを決定した。

 

第3 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述

 地方自治法第242条第7項の規定に基づき、請求人に対し、証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、請求人からは証拠の提出はなく、陳述も行われなかった。

 

2 広島市長(都市整備局都市機能調整部、財政局管財課及び同局契約部物品契約課)の意見書

 広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めるとともに、広島市財産条例(昭和39年広島市条例第8号)及び広島市契約規則(昭和39年広島市規則第28号)を所管する観点からの見解等を求めたところ、令和5年6月5日付け広都機第32号により意見書の提出があった。なお、陳述は行われなかった。

 この意見書の主な内容は、次のとおりと整理できる。

(1) 本市の意見

 請求人の主張には理由がないため、本件措置請求は棄却されるべきである。

(2) 本市の意見の理由

ア 経緯

 本市が商工会議所ビルを取得し、管理運営を行うに至った経緯は次のとおりである。基町駐車場周辺における再開発事業(以下「再開発事業」という。)について、同事業の実施に併せて、本市の長年の懸案事項となっていた原爆ドームの背景の景観改善を同時に決着することができるならば、紙屋町・八丁堀地区の都市機能の一層の充実・強化を図ることができるとの判断の下、平成30年に本市から商工会議所に対し、商工会議所ビルの移転を提案し、そのための手段として基町駐車場との財産交換を先行させることについて、地権者も含めた関係者で議論を重ねた結果、合意が成立したものである。

 本市は各交換財産(商工会議所ビル及び基町駐車場)の不動産鑑定評価を行い、関連予算案について令和3年第1回市議会定例会の議決を得た後、令和3年第2回市議会定例会において財産交換議案が令和3年6月25日付けで議決された。また、同日付けで交換後の各財産を円滑に運営するための利用等に関する事項を定めた覚書を締結している。その後、関連する事務手続を進め、令和3年8月1日付けで商工会議所と財産交換を行い、商工会議所ビルを本市所有とするとともに、同日付けで商工会議所ビルに関する定期建物賃貸借契約及び管理業務委託契約を、商工会議所と締結したものである。

 請求人は、財産交換後の財産の管理及び商工会議所ビルに係る貸付料の算定、管理業務の随意契約の違法性等について指摘し、そのことをもって本市が商工会議所ビルの適正な管理を怠っていると主張しているため、以下、これらの点について述べる。

イ 広島商工会議所ビルの貸付料等について

 普通財産として取得した商工会議所ビルは、商工会議所が再開発ビルに移転した後には速やかに解体(処分)することを予定しているが、処分までの間、市は商工会議所等に貸し付け、貸付料を得ている。

 普通財産の貸付料の算定については、広島市財産条例第9条第1項で、適正な時価とする旨定め、「適正な時価」については、普通財産(不動産)の貸付料算定基準の1の(2)で、直近の基準年度の固定資産税評価相当額を用いて算出する旨定めている。

 また、前記算出額が近傍類似の民間賃貸事例等に比較して著しく高額又は低額と認められる場合など、この基準により算定することが適当でないと認めることができる場合は、調整措置として財政局長の承認を得て貸付料を別に定めることができる旨定めている。

 本市が財産交換により取得した商工会議所ビルは、前記アのとおり、特定の時期に解体することを目的に取得したものであり、取得から約5年半という短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産である。

 こうした特殊な制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、また、客観性のある確立された評価手法もない。このことは、不動産鑑定士からあらかじめ意見を聴取し、同様の見解を得ている。

 このため、商工会議所ビルの貸付料の算定に当たっては、本市「普通財産(不動産)の貸付料算定基準」の基準どおり、直近の基準年度の固定資産税評価相当額を用いて算定したものであり、広島市財産条例の規定に、何ら違反するものではない。

 また、覚書第5条第3項では借地借家法第38条の趣旨に鑑み、期限までに転借人を退去させ、自己利用部分と併せて本市に返還すべき義務について規定をしたところであるが、覚書第5条第4項により、期限までに退去しない転借人がいる場合に退去させることに要する補償費、人件費、弁護士費用その他費用を賃借人(商工会議所)が全面的に負うこととしている。このため、商工会議所がテナントの立退きに係る責務を免れているという請求人の指摘は当たらない。

 そもそも行政財産と同様、普通財産についても財産の特性に応じた維持管理を行うためには所要の経費が必要であり、財産を適正に管理しているか否かは、財産貸付収入と管理運営費支出の差額のみで評価すべきではない。本市は、商工会議所等に賃貸している床以外についても、公益的法人、広島サミット県民会議事務局などその時々の公共的な需要に対応した執務室及び都心の活性化に資するコワーキングスペース等に有効活用している。

 以上のことから、市は普通財産である商工会議所ビルを有効に活用しており、適正な管理を怠っているという請求人の指摘は当たらない。

 なお、本市において、普通財産の転貸借に係る規定や基準を条例等に定めていないが、転貸借を認めないという趣旨ではない。また、民法第612条は、転貸するに当たって賃貸人の承諾が必要である旨定めている。

ウ 商工会議所ビルの管理業務を随意契約により委託していることについて

 本市は、基町駐車場周辺の再開発事業を官民一体で推進するとともに、原爆ドームの北側を望む良好な景観の形成に資するため、基町駐車場と商工会議所ビルとの財産交換を行ったが、この目的を円滑に実現するためには、商工会議所が再開発ビルに移転するまでの間、商工会議所が商工会議所ビルを使用することを許容するとともに、入居しているテナントを令和9年3月31日までに退去させる必要がある。

 また、商工会議所ビルの管理については、従前の利用を継続しつつも、短期間で解体することを踏まえた適切な維持管理・補修等を行うことが求められるところ、長年にわたり商工会議所ビルを管理運営し、施設の利用状況や建物・設備の状態を詳細に把握している商工会議所にこれを引き続き担わせることが、最も円滑かつ効率的であり、さらに、テナントとの退去に向けた交渉を短期間で着実に行うためには、これを従来の賃貸人である商工会議所に行わせることが最も有効であると判断したものである。

 以上の理由により、市は財産交換に先立って交換後の財産管理に関する規定を含んだ覚書を商工会議所と締結し、同覚書において、本市と商工会議所とが定期建物賃貸借契約を締結すること及び商工会議所と従前からのテナントとの転貸借契約を認めつつ、テナントとの退去に向けた交渉を商工会議所が行うことを定めたものである。

 商工会議所ビルの管理業務を随意契約により委託するに当たっては、管理運営費について商工会議所ビルの過去の実績額だけでなく、他のビル管理業者からも見積りを徴取し、その額を勘案した上で予定価格を設定したものであり、違法又は不当な点はない。

 さらに、広島市都市整備局業務委託等競争入札参加者指名委員会において、随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考を審査した上で契約を締結しており、法令等に照らして事務手続に何ら問題なく、手続上の瑕疵があるという指摘も当たらない。

エ 結論

 以上のことから、請求人が主張する内容について、いずれも理由がなく、また本市には何ら損害が発生していないことから、本件措置請求は棄却されるべきである。

 

3 監査対象事項

(1) 請求事項A(本件ビルの収支が赤字であること)について

 請求人は、広島商工会議所ビル(以下、請求人の請求の要旨又は市長の意見書の引用部分を除き、「本件ビル」という。)の運営について、維持管理に係る支出と本件ビルの広島商工会議所等に対する貸付けに伴う収入を比較し、本件ビルが赤字で運営されており、これは市場賃料と比べ著しく低額な賃料で広島商工会議所に貸し付け、本来収益が見込めるテナントビルを全く収益が上がらない状態で運営していることによるものであるから、市長は財産の適正な管理を怠っている、すなわち違法又は不当な財産の管理であると主張していると認められる。

 この主張を踏まえ、次の点について監査した。

ア 市が算定した貸付料の算定は適正か。

イ 普通財産に係る収支が赤字であることが、違法又は不当であるか。

(2) 請求事項B(本件維持管理業務の随意契約)について

 請求人は、本件ビルの維持管理業務の内容は一般的なテナントビルの管理業務であり、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第167条の2第1項第2号に規定される「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」には当たらないことから、広島商工会議所を随意契約の相手方とした本件ビルの維持管理業務(以下、請求人の請求の要旨又は市長の意見書の引用部分を除き、「本件維持管理業務」という。)に係る委託契約(以下、請求人の請求の要旨又は市長の意見書の引用部分を除き、「本件業務委託契約」という。)は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 また、本件業務委託契約は、令和3年6月25日に締結された覚書(以下、請求人の請求の要旨又は市長の意見書の引用部分を除き、「本件覚書」という。)に規定されていたものであり、本件覚書の締結より前に競争入札参加者等指名委員会の審査に付されるべきところ、本件業務委託契約の直前に付議されており、本件業務委託契約の手続には瑕疵があることから、本件業務委託契約は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 これらの主張を踏まえ、次の点について監査した。

ア 随意契約としたことが違法又は不当であるか。

イ 随意契約に当たり適正な手続が行われているか。

 

4 監査の実施内容

 請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類、広島市長から提出された意見書のほか関係書類を確認するとともに、関係職員への聴取りを行うなどして監査した。

 ただし、本件ビルの貸付けに関する事項については、別添1の令和4年12月26日付け広島市監査公表第51号で監査結果(以下「前回監査結果」という。)を公表した広島市職員に関する措置請求における監査の知見及び前回監査結果を活用した。

 

第4 監査の結果

1 事実の確認

(1) 本件ビルの維持管理及び貸付けに係る主な経緯

 本件ビルの維持管理及び貸付けに係る経緯を整理すると、次のとおりである。

年月日 内容
令和3年5月25日 市・広島商工会議所の間で財産交換仮契約を締結
令和3年6月14日 本件業務委託契約に関し、広島商工会議所以外の別のビル管理業者から参考見積を徴取
令和3年6月25日 市議会本会議において、財産交換議案を議決。市・広島商工会議所の間で財産交換契約の締結
同日 市・広島商工会議所の間で財産交換契約に基づく本件覚書を締結(以後の本件ビルの賃貸借契約の締結、転貸借契約の容認、転貸借契約の定期建物賃貸借契約への原則移行、賃貸借契約終了時の費用負担区分、所有権移転後の本件維持管理業務の委託など)
令和3年7月26日 本件業務委託契約に関し、広島商工会議所から見積を徴取
同日 本件業務委託契約に関し、広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会(持ち回り審議)を実施し、随意契約とすること及び相手方の決定について承認
令和3年8月1日 財産交換契約に基づく財産交換(所有権移転)を履行
同日 市・広島商工会議所の間で本件ビルの賃貸借契約を締結
同日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約(令和3年度分)を締結
令和4年4月1日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約(令和4年度分)を締結
令和5年4月1日 市・広島商工会議所の間で本件業務委託契約(令和5年度分)を締結

(2) 本件ビルの維持管理の状況

ア 本件維持管理業務に係る広島商工会議所との随意契約に関する事実

 令和3年5月25日付けで市と広島商工会議所が締結した財産交換仮契約書第15条において、「甲(注:市)、乙(注:広島商工会議所)両者は、1号財産(注:市営基町駐車場)及び2号財産(注:本件ビル)の交換後の利用等に関する覚書を交換する。」とされている。

 これを受け、令和3年6月25日付けで市と広島商工会議所が締結した本件覚書第7条第3項において、「甲(注:市)は、第4条に定める賃貸借期間における2号財産(注:本件ビル)の管理業務を乙(注:広島商工会議所)に委託する。」とされ、これにより、広島商工会議所が本件ビルの維持管理を担うことついて、合意形成が図られている。

 これらに基づき、本件維持管理業務については、令和3年8月1日付けで随意契約により本件業務委託契約が締結されている。

 随意契約に関し、地方自治法第234条第2項において、「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」と、地方自治法施行令第167条の2第1項柱書きでは「地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。」とされ、同令第167条の2第1項第2号において「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」とされている。

 この「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」について、「物品売買等に係る随意契約ガイドライン」(平成21年4月財政局契約部物品契約課作成)では、具体的に「(1) 契約の相手方が特定されるとき。」又は「(2) 競争が成り立たない契約をするとき。」とされている。このうち、「(1) 契約の相手方が特定されるとき。」の例示として、「ア 法令等により契約の相手方が定められているとき。」、「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」、「ウ あらかじめ基本となる事項を定めた基本契約に基づき個別契約を締結するとき。」など6つが挙げられている。そして、このうち「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」の例として、「施設設置の経緯により、施設の維持管理業務を特定の者に委託することを協定書、覚書その他の法律文書により定めた場合において、当該協定書等で定められた相手方と締結する施設の維持管理業務の委託契約」との解釈・運用が示されている。

 本件業務委託契約を随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考について、令和3年7月26日の広島市都市整備局委託業務等競争入札参加者等第一指名委員会(持ち回り審議)において、上記ガイドラインの「イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。」に該当するものとして、承認されている。

【参考】

物品売買等に係る随意契約ガイドライン(抜粋)

(平成21年4月財政局契約部物品契約課作成)

3 令第167条の2第1項各号の解釈・運用について

 「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、次のとおりです。

(1) 契約の相手方が特定されるとき。

ア 法令等により契約の相手方が定められているとき。

<例>

・ 厚生労働省からの通知に基づき母子福祉団体と締結するひとり親家庭等日常生活支援業務の委託契約

イ 法律文書により特定の相手方と契約を締結することが義務付けられているとき。

<例>

・ 施設設置の経緯により、施設の維持管理業務を特定の者に委託することを協定書、覚書その他の法律文書により定めた場合において、当該協定書等で定められた相手方と締結する施設の維持管理業務の委託契約(「法律文書」とは、協定書、覚書その他文書の名称の如何にかかわらず、内容において法的効力を有する文書をいいます。)

ウ あらかじめ基本となる事項を定めた基本契約に基づき個別契約を締結するとき。

<例>

・ 複数の者が、複数の機種、単価、仕様を示し、それに基づき当該複数の者と締結した基本契約の内容を踏まえ、最適な仕様及び最低の価格を提示した者を選定し締結する複写サービスの提供に係る個別契約

・ あらかじめ品名、単価を定めた基本契約に基づき締結するガソリン、コピー用紙等の購入に係る個別契約

エ~カ (略)

(2) 競争が成り立たない契約をするとき。

(略)

イ 本件業務委託契約の内容

 市は本件ビルの維持管理について、施設運営管理業務として来館者等対応業務、鍵等の管理業務、光熱水費・共益費に関する業務、各種損害保険の手続業務を、また、施設維持管理業務として清掃業務、警備業務、設備運転・保全業務を一括して、広島商工会議所に委託しており、その契約期間は会計年度(令和3年度分の始期は令和3年8月1日)としている。

(ア) 施設運営管理業務

 施設運営管理業務のうち、来館者等対応業務については、各種問合せ対応、空室(広島商工会議所に賃貸していない事務室)使用対応業務を行っている。

 また、光熱水費・共益費に関する業務として、広島商工会議所は、本件ビル全体に係る電気、上下水道及びガスの使用料金を各事業者へ支払うとともに、各入居者の専用部及び共用部に係る電気、上下水道及びガスの使用料金並びに共益費(共用部警備費、共用部清掃費及び機械警備費)を毎月計算し、市を除く各入居者から集金を行った上で、市に対し集金した光熱水費・共益費を支払っている。

 なお、市は広島商工会議所に対し、本件ビル全体に係る電気、上下水道及びガスの使用料金を委託料に含め支払っている。

(イ) 施設維持管理業務

 施設維持管理業務のうち、清掃業務については、建物内外を衛生的に保持するため、清掃員による館内清掃のほか、建物外周清掃、排水桝・側溝清掃、植栽管理及びフロアマット交換を行っている。

 また、警備業務については、建物館内及び外周における災害・事故等を未然に防止するため、有人警備による館内巡回、立哨及び監視カメラによる監視並びに機械警備を行っている。

 このほか、設備運転・保全業務については、環境整備業務(空気環境測定、貯水槽清掃、水質検査、汚水・排水槽点検清掃、防虫防鼠、ばい煙測定及び自動体外式除細動器設置)、廃棄物処理業務及び設備関連業務(受変電設備点検、昇降機点検、消防設備点検、空調機・周辺機器点検、空調機フィルター清掃、フロン排出抑制法に基づく点検、建築基準法に基づく検査及びその他設備点検)を行っている。

ウ 本件業務委託契約の履行状況

 イに掲げる業務について、市は、毎月実施報告書や写真その他の資料により所要の報告を受け、履行状況を把握し、履行確認を行っていた。

エ 本件業務委託契約に係る委託料の各年度の予算額、決算額等

 令和4年度については、燃料費の高騰に伴い電気及びガスの使用料金が大幅に増加しており、委託料も増加していた。

 

当初予算額 a

決算(見込)額 b

差引 b-a

令和3年度(8月~翌3月)

82,804,000円

82,990,981円

186,981円

令和4年度

127,396,000円

141,316,772円

13,920,772円

令和5年度

132,442,000円

-円

-円

(3) 本件ビルの貸付けの状況

ア 賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保する旨及び広島商工会議所に賃貸する旨の合意

 前回監査結果の第4の1(4)アのとおりである。

イ 広島商工会議所への貸付状況

(ア) 当初賃貸借契約時の状況(令和3年8月1日時点)

 市は本件ビルのうち、約7,786平方メートルを広島商工会議所に賃貸し、広島商工会議所はこのうち約3,864平方メートルを第三者(市長の意見書の引用部分を除き、以下「テナント」という。)への転貸部分とし、その余を自己利用している。

(イ) 直近の状況(令和5年5月31日時点)

 市は本件ビルのうち、約7,142平方メートルを広島商工会議所に賃貸し、広島商工会議所はこのうち約3,463平方メートルをテナントへの転貸部分とし、その余を自己利用している。

ウ 広島商工会議所への貸付部分以外の状況

 広島商工会議所への貸付部分以外については、市の専有部又は共用部であり、市の専有部について、市が直接使用しているほか、市の事務事業の目的に沿った利用希望があれば、市が直接定期建物賃貸借契約を締結して貸付けを行っており、現在は、公益的法人及び広島サミット県民会議に対し無償で貸し付けているほか、民間事業者に有償で貸し付けている。

エ 広島商工会議所への貸付部分に係る貸付料の算定

 前回監査結果の第4の1(4)イのとおりである。

 なお、貸付料算定の基礎となる固定資産税評価額は令和3年度に評価替えがあったため、令和4年度以降の貸付料は改定されることとなるが、令和4年度分及び令和5年度分の貸付料は適正に算定されているものと認められた。

オ 貸付料収入及び光熱水費等実費徴収額の各年度の予算額、決算額等

 令和3年度については、広島商工会議所に対する貸付面積が、不要となった事務室や倉庫の返還及びテナントの退去により減少したため、貸付料収入が当初予算額に比べ減少していた。

 令和4年度については、前記(2)エのとおり燃料費の高騰により電気及びガスの使用料金が大幅に増加したことに伴い、各入居者が負担する光熱水費に係る実費徴収額についても増加していた。

 

当初予算額 a

決算(見込)額 b

差引 b-a

令和3年度(8月~翌3月)

85,846,000円

80,099,207円

-5,746,793円

令和4年度

119,810,000円

128,502,714円

8,692,714円

令和5年度

125,976,000円

-円

-円

(4) 本件ビルの収支の状況

ア 各年度の当初予算額における収支の状況

 令和3年度から令和5年度までの当初予算額に係る収支の差額を見ると、令和3年度は支出予算が収入予算を下回っていたが、令和4年度及び令和5年度はいずれも支出予算が収入予算を上回っていた。

 

支出当初予算額 a

収入当初予算額 b

差引 b-a

令和3年度(8月~翌3月)

82,804,000円

85,846,000円

3,042,000円

令和4年度

127,396,000円

119,810,000円

-7,586,000円

令和5年度

132,442,000円

125,976,000円

-6,466,000円

イ 各年度の決算(見込)額における収支の状況

 令和3年度及び令和4年度の決算(見込)額に係る収支の差額を見ると、いずれも支出額が収入額を上回っており、本件ビルの運営は赤字であった。ただし、令和4年度については、燃料費の高騰による電気及びガスの使用料金の増加に伴い、収支が悪化していた。

 

支出

決算(見込)額 a

収入

決算(見込)額 b

差引 b-a

令和3年度(8月~翌3月)

82,990,981円

80,099,207円

-2,891,774円

令和4年度

141,316,772円

128,502,714円

-12,814,058円

 

2 判断

 説明の便宜から、請求事項Bについて述べた後に、請求事項Aについて述べる。

(1) 請求事項B(本件維持管理業務の随意契約)について

ア 随意契約としたことが違法又は不当であるか。また、随意契約に当たり適正な手続が行われているか。

(ア) 請求人及び市長の主張

 請求人は、本件業務委託契約は、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に規定される「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」には当たらないと、また、随意契約を締結することを容認する覚書の締結前に、競争入札参加者等指名委員会の審査に付されるべきであるとして、本件業務委託契約は違法又は不当な契約の締結であると主張していると認められる。

 これに対し、市長は、本件業務委託契約について、次のとおり説明する。

・ 商工会議所ビルは、基町駐車場周辺の再開発事業を官民一体で推進するとともに、原爆ドームの北側を望む良好な景観の形成に資するため、特定の時期に解体することを目的に財産交換により取得したものであり、取得から約5年半という短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産である。

・ その目的を円滑に実現するためには、商工会議所が再開発ビルに移転するまでの間、商工会議所が商工会議所ビルを使用することを許容するとともに、入居しているテナントを令和9年3月31日までに退去させる必要がある。

・ 商工会議所ビルの管理については、従前の利用を継続しつつも、短期間で解体することを踏まえた適切な維持管理・補修等を行うことが求められるところ、長年にわたり商工会議所ビルを管理運営し、施設の利用状況や建物・設備の状態を詳細に把握している商工会議所にこれを引き続き担わせることが、最も円滑かつ効率的であり、さらに、テナントとの退去に向けた交渉を短期間で着実に行うためには、これを従来の賃貸人である商工会議所に行わせることが最も有効であると判断した。

・ 商工会議所ビルの管理業務を随意契約により委託するに当たっては、管理運営費について商工会議所ビルの過去の実績額だけでなく、他のビル管理業者からも見積りを徴取し、その額を勘案した上で予定価格を設定した。

・ 広島市都市整備局業務委託等競争入札参加者指名委員会において、随意契約によることの適否及び随意契約の相手方の選考を審査した上で契約を締結しており、手続上の瑕疵があるという指摘も当たらない。

(イ) 指名委員会の設置目的

 業務委託に係る随意契約の相手方の決定に係る職務権限については、広島市職務権限規程(昭和42年広島市訓令第13号)別表職務権限表「1 共通職務権限」の「(8) 業務(工事を除く。)の委託等」に規定され、金額により部長決裁又は課長決裁(一部例外あり。)によることとされているが、随意契約によることや随意契約の相手方の決定に当たり、複数の職員による合議を義務付け、もって特定の者による恣意的な運用を防ぐことを目的として、市の各局・区等に委託業務に係る競争入札参加者等指名委員会が設けられたものと認められる。

(ウ) 本件覚書の内容

 本件覚書は、別途締結した財産交換契約に基づき交換後の財産の利用等について定めたもので、その内容は、最終的な本件ビルの円滑な解体に向け、財産交換後の本件ビルの賃貸借契約の締結、転貸借契約の容認、転貸借契約の定期建物賃貸借契約への原則移行、賃貸借契約終了時の費用負担区分、所有権移転後の本件維持管理業務の委託に関する事項など多岐にわたるものであった。

(エ) 随意契約に係る判例

 地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に規定される「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」について、昭和62年3月20日最高裁判決では「競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項1号(注:現2号)に掲げる場合に該当するものと解すべきである。そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法(注:地方自治法)及び令(注:同法施行令)の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。」とされている。

(オ) 判断

 これを本件に当てはめてみると、本件ビルは長年の懸案事項となっていた原爆ドームの背景の景観改善を目的として取得したものであること、令和9年度頃の本件ビルの円滑な解体に向けては、解体までにテナントの退去が不可欠であること、一方で財産の有効活用を図るためには解体までの間において少しでも長くテナントが入居していることが望ましいこと、そのためには建物の老朽化度に応じた必要最小限の維持管理・補修を行うことが効率的であること、これらの相反する事項の調整に当たっては財産交換前の賃貸人である広島商工会議所がテナントとの交渉窓口となることが、テナントのより長い入居かつ円滑な退去に向けて有利に働くと考えられること、そのためには従前どおりテナント管理や本件ビル全体の維持管理を広島商工会議所が包括的に行うことが合理的であること、予定価格の見積もりに当たっては別のビル管理事業者から参考見積を徴取するなどして、広島商工会議所からの見積額が不当な価額でないことを担保していたことなど、これら諸般の事情を総合的に勘案すれば、広島商工会議所と本件覚書を締結し、本件業務委託契約について随意契約を行うこととした市長の判断は、上記判例に照らし裁量の範囲を逸脱しているものとは認められない。

 また、この市長の判断が、特定の者による恣意的な運用には当たらないものであることは明白であり、本件覚書の締結の前に、特定の者による恣意的な運用の防止を目的とする競争入札参加者等指名委員会の審査に付す必要があったとは認められない。

 したがって、本件業務委託契約を随意契約としたことが、違法又は不当であるとは認められない。

イ 結論

 請求事項Bについては、違法又は不当な契約の締結に当たらないと認められる。

(2) 請求事項A(本件ビルの収支が赤字であること)について

 請求人は、本件ビルが赤字で運営されていることが、違法又は不当な財産の管理であると主張していると認められる。

ア 市が算定した貸付料の算定は適正か。

 上記1で述べた事実関係から、この点に対する判断は、前回監査結果の第4の2(1)イのとおりであり、原則に従って算定することとした市長の判断に違法又は不当な点があったとは認められない。

イ 普通財産に係る収支が赤字であることが、違法又は不当であるか。

(ア) 市長の主張

 このことについて、市長は、「行政財産と同様、普通財産についても財産の特性に応じた維持管理を行うためには所要の経費が必要であり、財産を適正に管理しているか否かは、財産貸付収入と管理運営費支出の差額のみで評価すべきではない。」と説明する。

(イ) 財産の管理及び運用に関する法令等の規定、解釈及び小括

 地方公共団体の財産の管理及び運用について、地方財政法第8条では「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない。」とされ、「「良好の状態においてこれを管理」するということは、善良なる管理者の注意を持って管理すべきことを命じたもの、「その所有の目的に応じて最も効率的に」運用するということは、その財産の用途用途に適応して最も効果あるごとく運用すべきことを命じたものである。」(地方財政法逐条解説 ぎょうせい)とされている。

 市長の説明するとおり、普通財産に限らず、地方公共団体がその所有する建物等を管理するに当たっては、稼働中のものであれば清掃、警備、法定点検等必要最小限の維持管理経費が生じるものであり、また、未稼働の遊休資産であっても老朽化や当該資産を取り巻く環境等を踏まえ、周囲への安全配慮等に要する経費などが生じるものと認められる。

 一方で、普通財産の全てについて、有償貸付け等の有効活用による収入が確実に見込まれるものではないことを踏まえれば、地方財政法第8条が、地方公共団体の財産の管理及び運用に当たり一の普通財産に係る収支が赤字でないことを求めているとは言えない。

 したがって、本件ビルが赤字で運営されていることだけをもって違法又は不当であるとする請求人の主張は採用できない。

(ウ) 財産の管理及び運用に関する裁判例

 地方財政法第8条に規定される地方公共団体の財産の効率的な運用について、平成31年1月17日盛岡地裁判決では「効率的利用といっても、その内容、程度を一義的に決することは困難である上に、それぞれの地方公共団体が置かれた固有の社会的、経済的、地域的諸事情にも左右されるから、効率的な公有財産の運用方法は、地方公共団体の執行機関の合理的な裁量に委ねられていると解するほかない。」とされていることから、本件ビルの管理及び運用については、市長の合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。

 よって、本件ビルの所有目的である最終的な解体に向けた維持管理業務及び有効活用のための貸付けが、それぞれ適切かつ合理的に執行されることにより、本件ビルの効率的な運用が図られているかについて、以下検討する。

(エ) 判断

 市長は、本件ビルの維持管理及び貸付けについて、次のとおり説明する。

・ 商工会議所ビルは、基町駐車場周辺の再開発事業を官民一体で推進するとともに、原爆ドームの北側を望む良好な景観の形成に資するため、特定の時期に解体することを目的に財産交換により取得したものであり、取得から約5年半という短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産である。

・ その目的を円滑に実現するためには、商工会議所が再開発ビルに移転するまでの間、商工会議所が商工会議所ビルを使用することを許容するとともに、入居しているテナントを令和9年3月31日までに退去させる必要がある。

・ 商工会議所ビルの管理については、従前の利用を継続しつつも、短期間で解体することを踏まえた適切な維持管理・補修等を行うことが求められるところ、長年にわたり商工会議所ビルを管理運営し、施設の利用状況や建物・設備の状態を詳細に把握している商工会議所にこれを引き続き担わせることが、最も円滑かつ効率的であり、さらに、テナントとの退去に向けた交渉を短期間で着実に行うためには、これを従来の賃貸人である商工会議所に行わせることが最も有効であると判断した。

・ 商工会議所等に賃貸している床以外についても、公益的法人、広島サミット県民会議事務局などその時々の公共的な需要に対応した執務室及び都心の活性化に資するコワーキングスペース等に有効活用している。

 本件ビルの維持管理については、監査したところ、市長が説明するとおり事務が執行され、上記2(1)で述べたとおり広島商工会議所との随意契約については違法又は不当な点は認められず、かつ、適切に維持管理や補修等が行われていると認められた。

 また、本件ビルの貸付けについては、前回監査結果の第4の2(1)アのとおり、市は、適法に賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保し、広島商工会議所に賃貸しているとともに、その貸付料も前記アで述べたとおり適正であり、かつ、市長が説明するとおり、広島商工会議所等に賃貸している部分以外の部分を含め、有効活用が図られているものと認められた。

 したがって、市は、本件ビルを適切に維持管理するとともに、本件ビルを有効活用しており、上記(イ)の地方財政法第8条の規定や上記(ウ)の裁判例に照らし、適切に財産の管理及び運用を行っており、これは市長の合理的な裁量の範囲であると認められることから、本件ビルの収支が赤字であるとしてもそれが違法又は不当な財産の管理に当たるとは認められない。

ウ 結論

 請求事項Aについては、違法又は不当な財産の管理又は処分に当たらないと認められる。

3 結論

 請求人が行った本件措置請求については、理由がないものであることから請求を棄却する。

 

別添1

広島市監査公表第51号

令和4年12月26日

 令和4年10月28日付け第990号で受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により、別紙のとおり公表する。

広島市監査委員 政氏 昭夫

同       井戸 陽子

同       山路 英男

同       山内 正晃

別紙

広監第154号

令和4年12月26日

請求人

(略)

広島市監査委員 政氏 昭夫

同       井戸 陽子

同       山路 英男

同       山内 正晃

   広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和4年10月28日付け第990号で受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。

 

第1 請求の要旨

 当初請求書並びに令和4年11月4日及び9日の各日付けで提出された補足意見の記載内容から、請求の要旨は次のとおりと整理できる。

 

広島市長が行った財産交換に関する措置請求

A 広島商工会議所ビルのテナントに関し転貸借を認めていることは、違法又は不当である。

ア 国の普通財産貸付事務処理要領では、普通財産の転貸を承諾する場合について、「転貸貸付料が国の貸付料を上回らないこと」など、転貸を認めることにより、国にとって不利な契約にならないことが求められている。
 地方公共団体においても、転貸の形式をとっていることが、当該地方公共団体にとって、不利となっていないかは、有効な基準となり得る。
 広島市の広島商工会議所ビルに係る収益状況と、広島商工会議所の建物特別会計の収支状況に鑑みれば、広島商工会議所が各テナントから得ている転貸料は、広島市が広島商工会議所から得ている賃料より高いと推察される。本件においては、広島市は各テナントとは、転貸借関係ではなく、直接賃貸借契約を結び賃料を得るべきであり、広島商工会議所に転貸人として利益を上げさせているのは、広島市にとって、不利な契約関係である。よって、広島市から広島商工会議所ビルの賃貸した一部分を、転貸していることを容認していることは、違法又は不当である。

イ 鑑定評価書によれば、広島商工会議所ビルの価値の半分は、当該ビルの収益性にある。だからこそ、同じく駐車場として収益力のある市営基町駐車場と、等価交換できたものである。にもかかわらず、現状では全く利益が上がらない状態で運営していることは、財産の適正な管理を怠るものである。

ウ 賃料の計算書によれば、広島商工会議所に対する賃料は、普通財産(不動産)貸付料算定基準に基づき算定され、テナント転貸部分は基準どおりの額となっている。
 広島市財産条例第9条第1項は、「普通財産の交換価額、譲渡価額、貸付料の額及び私権の設定価額は、適正な時価により評定した額をもってしなければならない。」とする。
 広島商工会議所ビルに係る鑑定評価書はまさにこの時価を査定したものであり、賃料について、可能貸室賃料収入を「年額223,517,004円」としている。これに対して、市の賃料の計算書によれば減免前家賃として「年額101,256,925円」としている。この差はあまりにも大きく、まさに近傍類似の民間賃貸料等と比較して著しく低い場面に当たるものであり、調整措置を適用すべきである。これを行わず、時価と大きく乖離する貸付料で普通財産の貸付けを行っていることは、広島市財産条例第9条第1項に違反するものである。
 どうしても転貸借にしたいと言うのなら、賃料をまさに「時価」といえる転貸料相当額として徴収することが、広島市財産条例第9条第1項の趣旨とも合致する。

 

 Aに関しては、広島市長に対して、現在の違法又は不当な契約関係を、早急に是正し、広島市が各テナントから直接テナント料を請求できる契約関係に是正するよう、請求する。

 

B 市営基町駐車場の鑑定評価の依頼において、鑑定の条件に、基町相生通地区において第一種市街地再開発事業が予定されていること、これに伴い当該地区を都市再生特別地区とすることが検討されていることが、付加されていないことは、違法又は不当であり、その鑑定評価書に基づく価格による財産交換は違法又は不当である。

ア 国土交通省の不動産鑑定評価基準によれば、最有効使用の判定上の留意点として、「価格形成要因は常に変動の過程にあることを踏まえ、特に価格形成に影響を与える地域要因の変動が客観的に予測される場合には、当該変動に伴い対象不動産の使用方法が変化する可能性があることを勘案して最有効使用を判定すること。」と規定する。

イ 令和4年6月議会において、市側の答弁は「再開発事業は、その実施やスケジュールが不確実であり客観的に予測できる場合には該当しないため、10年間、このまま駐車場として、使用して更地化して売却することを想定した」としている。

ウ 令和3年1月1日時点で、広島市が広島商工会議所と財産交換を行うのは、広島商工会議所が、当該市街地再開発事業に地権者として参画するためであり、その交換のために土地と建物の鑑定を依頼しているのである。その前提を鑑定条件から外すことはあり得ないものではないか。

エ 一方、広島市は、「一団地の官公庁施設の変更」については、検討中であるにもかかわらず、鑑定条件として付加しているところである。恣意的に条件を操作しているとの疑念が払しょくし得ない。

オ 令和4年3月3日、基町相生通地区第一種市街地再開発事業は都市計画決定がなされ、これに伴い本事業区域は都市再生特別地区として都市計画決定がなされた。
 これにより、当該土地に関する価格形成要因が大きく変化した。

カ こうしたことを鑑定条件に付していないことは、明らかに違法又は不当であり、その鑑定評価書による財産交換もまた、違法又は不当と言わざるを得ない。

 

 Bに関しては、広島市長に対して、早急に市営基町駐車場の土地及び建物の鑑定評価を市街地再開発事業及び都市再生特別地区を条件に付加してやり直し、その差額を広島商工会議所に請求することを求める。

 

 なお、Bに関しては、財産交換という財務会計上の行為から1年3月が経過しているが、以下の理由により正当な理由がある。
 本当に価格が正当であったかについては、議会においても議論がなされていたことは、承知していたが、強く疑問に感じることになった時点は、鑑定評価を行った際には市街地再開発事業は不確実なものと答弁した、令和4年6月である。
 この時点から、本格的に調査を始め、この時間(約4月)を要したものである。

 

(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)
【事実証明書1】令和3年度当初予算説明資料
【事実証明書2】広島商工会議所ビルに係る不動産鑑定評価書(市長宛て部分)
【事実証明書3】市営基町駐車場に係る鑑定評価書(市長宛て部分)
【事実証明書4】広島市財産評価委員会からの報告
【事実証明書5】市営基町駐車場に係る鑑定評価依頼書
【事実証明書6】市営基町駐車場に係る鑑定評価書(収益価格部分)
【事実証明書7】広島商工会議所ビルに係る鑑定評価依頼書
【事実証明書8】広島商工会議所ビルに係る鑑定評価書(収益価格部分)
【事実証明書9】令和3年度広島商工会議所収支決算報告
【事実証明書10】広島市普通財産(不動産)貸付事務処理方針
【事実証明書11】無償貸付契約書書式
【事実証明書12】普通財産貸付事務処理要領(国)
【事実証明書13】財産交換の仮契約に係る決裁書
【事実証明書14】不動産鑑定評価基準(国)
【事実証明書15】令和4年6月議会の市都市整備局長の答弁
【事実証明書16】基町相生通地区第一種市街地再開発事業の広島県の発表資料
【事実証明書17】容積率増加による土地価格の上昇についての、不動産鑑定士の見解(ネット情報)
【事実証明書18】定期建物賃貸借契約書
【事実証明書19】建物貸付料計算書
【事実証明書20】公文書不存在通知書
【事実証明書21】普通財産(不動産)貸付料算定基準

 

第2 請求の受理

 本件措置請求のうち、請求事項A(転貸借に係る部分)については適法な請求と認めるとともに、請求事項B(財産交換に係る部分)については監査請求期間経過後の請求につき正当な理由の有無を監査の過程において確認する必要があると認め、令和4年11月11日に、同年10月28日付けでこれを受理することを決定した。

 

第3 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述

 地方自治法第242条第7項の規定に基づき、請求人に対し、証拠の提出及び陳述の機会を設けた。
 これを受けて、請求人は次のとおり、書類を提出するとともに当該書類に沿って陳述を行った。

(1) 証拠の提出

ア 提出日

 令和4年11月15日

イ 提出された証拠

 「広島市長の財産交換に係る措置要求書の補足説明(まとめ)」
 (添付を省略する。)

(2) 陳述

ア 陳述日

 令和4年11月24日

イ 主な内容

・ 広島商工会議所ビルについて、広島商工会議所は、広島市に対し賃料を支払っているが、それを上回る額の管理委託料が広島市から支払われている。
 一方、基町駐車場の方は、所有者である広島商工会議所が駐車場使用料を徴収し、こちらも利益を上げており、交換した財産から生ずる利益は全て広島商工会議所が得るスキームとなっている。
・ 基町駐車場周辺の再開発を鑑定依頼の条件に入れてしまうと、格段に価額が上がることが想定されたため、鑑定評価を急いだのではないか。
・ この二つの広島商工会議所に有利な条件が合致して初めて、この財産交換は成り立ったのではないか。

 

2 広島市長(都市整備局都市機能調整部、道路交通局自転車都市づくり推進課及び財政局管財課)の意見書

 広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めるとともに、広島市財産条例(昭和39年広島市条例第8号)を所管する観点からの見解等を求めたところ、令和4年11月18日付け広都機第98号により意見書の提出及び同年12月9日付け広都機第104号による補足意見書の提出があった。なお、陳述は行われなかった。
 これらの意見書の主な内容は、次のとおりと整理できる。

(1) 本市の意見

 請求人の主張には理由がないため、本件措置請求は棄却されるべきである。

(2) 本市の意見の理由

ア 経緯

 取得した広島商工会議所ビルについては、市有財産の有効活用の観点からこれを貸し付ける一方で、再開発事業で再開発ビルが完成(令和9年度頃)し、同ビルに広島商工会議所が移転した後は、原爆ドームの背景の景観改善という財産交換の大きな目的を実現するため、速やかに解体することを予定しており、その際全ての賃借人の円滑かつ確実な立退きを担保することを目的に、本市は直接賃貸借契約を交わす広島商工会議所を含む賃借人と定期建物賃貸借契約(貸付期間は令和8年度末まで)を締結している。

イ 市営基町駐車場の鑑定評価の条件について

 広島商工会議所ビル及び市営基町駐車場の鑑定評価額は、不動産鑑定士により、令和3年1月1日を価格時点として、その時点で客観的に予測される要因等を反映した評価結果に基づき、本市財産評価委員会の審議を経て決定したものである。
 市街地再開発事業を鑑定評価に反映するには、少なくとも施行認可が必要であるとの不動産鑑定士の認識もあり、この度の鑑定評価の価格時点では、不動産鑑定士が客観的にその実施を予測できる状況では到底なかった。そういう状況にもかかわらず、仮に不動産鑑定士が単なる見込みで織り込んだとすれば、恣意性が介在し客観性、公平性を欠いた鑑定評価になると言わざるを得ない。
 一方、市営基町駐車場の敷地は本市が唯一の土地所有者として、その官公庁施設を廃止する方針で取り組んでいたものであり、土地利用制限のある都市計画上の「一団地の官公庁施設」の指定を除外しないまま鑑定評価を行うことは財産の過小評価となり本市にとって不利になることから、この指定がないものとして鑑定評価を行うよう不動産鑑定士に依頼したものである。また、不動産鑑定士の立場からしても、「一団地の官公庁施設」が指定されたままであれば、民間には取得をする者がおらず正常価格を算定することができないことから、指定はないものとして評価する必要があり、唯一の土地所有者たる市の意向は、その指定が除外されることを客観的に予測し得る要因となるとのことであった。

ウ 広島商工会議所ビルのテナントに関し転貸借を認めていることについて

(ア) 貸付料の算定について

 本市が財産交換により取得した広島商工会議所ビルは、前記アのとおり、財産交換後、短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産である。
 こうした特殊な制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、また、客観性のある確立された評価手法もないため、広島商工会議所ビルの貸付料の算定に当たっては、本市「普通財産(不動産)の貸付料算定基準」の基準どおり、直近の基準年度の固定資産税評価相当額を用いた額としているのであって、当該貸付料の算定は、「広島市財産条例」及び「普通財産(不動産)の貸付料算定基準」に照らして、何ら違法又は不当な点はない。

(イ) 転貸借について

 広島商工会議所ビルの所有権の移転後、通常は借地借家法第31条の規定により、賃貸人たる地位が新たな所有者の本市に承継され、改めて賃借人(テナント)との間で契約を締結し直すことなく、普通借家契約という契約形態や貸付料、特約など全て従前と同じ内容の賃貸借契約が承継されることになる。
 そうなれば、請求人の主張するように本市が直接各テナントから従前と同額の貸付料を得ることにはなるが、一方で従前の普通借家契約を承継するため、テナントに令和8年度末までの立退きを強制する手段がなく、立退きに係る交渉や立退料が発生した場合の費用は全て本市が負うことになる。
 本市としては、令和8年度末までに広島商工会議所を含む全てのテナントに立ち退いてもらう必要があると考えており、30を超えるテナントと本市が短期間のうちに個別に交渉し、期限までの確実な立退きを担保することは困難なため、転貸借という現状の契約形態としたものであり、この転貸借は本市条例等で禁止されているものではない。
 請求人の指摘する貸付料と転貸貸付料の差額についても、転貸人が移転交渉及び移転補償を行うという本件契約の特殊性を併せて考えるならば、当該差額に相当する損害は発生していない。

エ 結論

 以上のとおり、請求人が主張する内容について、いずれも理由がなく、また本市には何ら損害が発生していないことから、本件措置請求は棄却されるべきである。

 

3 監査対象事項

(1) 請求事項A(転貸借に係る部分)について

 請求人は、市と広島商工会議所が令和3年6月25日付けで締結した財産交換契約(以下「財産交換契約」という。)に基づく財産交換(以下「財産交換」という。)により市が取得した広島商工会議所ビル(以下「本件ビル」という。)の管理について、令和3年8月1日付けで締結した定期建物賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)に基づき、広島商工会議所による転貸借を認め転貸人として利益を上げさせ、市に利益が上がらない状態としていること、また、仮に転貸借を認めるとしても、時価と大きく乖離する貸付料で広島商工会議所に貸付けを行っていることは、財産の適正な管理を怠るものであると主張しており、これは違法又は不当な財産の管理に当たるものとの主張と解する。
 この主張を踏まえ、次の点について監査する。

ア 市が賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保したこと及び広島商工会議所に賃貸したことは違法又は不当であるか。

イ 転貸借された部分について、市が算定した貸付料が時価に比べ著しく低額で、貸付けが継続されていることは違法又は不当であるか。

(2) 請求事項B(財産交換に係る部分)について

 請求人は、市営基町駐車場の鑑定評価依頼の条件として、基町相生通地区において第一種市街地再開発事業及び都市再生特別地区に係る都市計画決定が予定されていたことが付されないまま行われた鑑定評価書に基づく価格による財産交換は、違法又は不当であると主張しており、これは財産交換契約が違法又は不当であるとの主張と解する。
 この主張を踏まえ、次の点について監査する。

ア 本請求事項が監査請求期間の経過後の請求であることについて、正当な理由があるか否か。

イ 仮に適法な請求であるとしたとき、財産交換契約は違法又は不当であるか。

 

4 監査の実施内容

 請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類、請求人の陳述の内容、広島市長から提出された意見書のほか関係書類を確認するとともに、関係職員への聴取りを行うなどして監査した。

 

第4 監査の結果

1 事実の確認

(1) 財産交換に係る財産の概要

ア 本件ビル

 市が財産交換により取得した本件ビルは広島市中区基町に所在する鉄骨鉄筋コンクリート造り地下2階付き12階建ての建物であり、床面積延べ1万3,818.45平方メートル、土地は面積1,788.45平方メートルである。

イ 市営基町駐車場

 市が財産交換に供した市営基町駐車場は広島市中区基町に所在する鉄筋コンクリート造り地下1階付き7階建ての建物のうち1階から7階までの部分であり、専有部分の床面積延べ1万9,871.51平方メートルのうち1万7,456.08平方メートル、土地は面積4,155.54平方メートルに対する建物の敷地権の割合である。

(2) 本件ビルの取得の経緯等

 本件ビルを取得した経緯等を整理すると、次のとおりであると認める。

年月日 内容
平成30年9月 市が広島商工会議所に対し、本件ビルの移転・建替えについて、市営基町駐車場周辺の再開発事業として検討することを提案
令和2年12月11日 市が等価交換に係る財産の不動産鑑定評価を不動産鑑定士に依頼
令和3年2月4日 市議会都市活性化対策特別委員会において、再開発事業について説明し、財産の鑑定評価、等価交換、貸付料等について答弁
令和3年2月8日 令和3年度広島市当初予算案を公表
令和3年3月8日 市議会令和3年度予算特別委員会において、等価交換の理由及び内容、不動産鑑定評価の方法等について答弁
令和3年3月18日 不動産鑑定士が不動産鑑定評価書を提出
令和3年3月22日 市財産評価委員会が市に各財産の評価結果を報告
令和3年3月24日 市議会令和3年度予算特別委員会において、財産交換に係る交換差金3,400万円を減じた修正議案を否決し、令和3年度広島市当初予算案原案を議決
令和3年3月25日 市議会本会議において、財産交換に係る交換差金3,400万円を減じた修正議案を否決し、令和3年度広島市当初予算案原案を議決
令和3年3月27日 中国新聞が、広島商工会議所議員総会で財産交換が承認された旨を報道(各財産の評価額、交換差金の記載有)
令和3年4月29日 中国新聞が、2021年夏頃に財産交換が行われる旨を報道(各財産の評価額、交換差金、仮契約締結予定、財産交換議案の提出予定等の記載有)
令和3年5月25日 市・広島商工会議所の間で財産交換仮契約を締結
令和3年6月2日 財産交換議案を公表
令和3年6月22日 市議会本会議において、賃貸借契約について答弁
令和3年6月25日 市議会本会議において、財産交換議案を議決。市・広島商工会議所の間で財産交換契約の締結
同日 市・広島商工会議所の間で財産交換契約に基づく覚書を締結(以後の本件賃貸借契約の締結、転貸借契約の容認、転貸借契約の定期建物賃貸借契約への原則移行、本件賃貸借契約終了時の費用負担区分、所有権移転後の管理業務の委託など)
令和3年7月13日 中国新聞が、6月25日の財産交換議案議決を受けた財産交換契約の締結、8月1日の財産交換実施予定について報道(各財産の評価額、交換差金の記載有)
令和3年7月15日 ひろしま市民と市政(7月15日号)において、8月1日の財産交換実施について記事掲載
令和3年8月1日 市営基町駐車場の用途廃止
同日 財産交換契約に基づく財産交換(所有権移転)を履行
同日 市・広島商工会議所の間で本件賃貸借契約を締結
令和3年9月2日 市議会都市活性化対策特別委員会において、再開発事業について説明し、財産交換後の事業の進め方について答弁
令和3年12月10日 市議会本会議において、鑑定評価条件の妥当性、鑑定評価書を非公表とした理由等について答弁
令和4年2月15日 市議会本会議において、鑑定評価書を開示することとした理由、財産交換の時期の妥当性等について答弁
令和4年6月13日 市議会本会議において、鑑定評価における具体的な判断手法等について答弁

注 市議会本会議及び委員会については、市ホームページにおいて当日に生中継又は開催後1週間程度以内に録画等が配信されるとともに、半年から1年以内に議事録が公表されている。​
        

(3) 本件ビルの利用及び管理の状況

ア 広島商工会議所への貸付状況

 市は本件ビルのうち、約7,786平方メートルを広島商工会議所に賃貸し、広島商工会議所はこのうち約3,864平方メートルを第三者への転貸部分とし、その余を自己利用している(令和3年8月1日 賃貸借契約時当初)。

イ 広島商工会議所への貸付部分以外の状況

 広島商工会議所への貸付部分以外については、市の専有部分又は共用部分であり、市の専有部分について市の事務事業の目的に沿った利用希望があれば、市が直接定期建物賃貸借契約を締結して貸付けを行っており、財産交換後、新たに民間事業者等数団体に貸し付けている。

ウ 本件ビルの管理の状況

 市は本件ビルの共用部分等の維持管理については、次の業務を広島商工会議所に委託している。
・ 業務内容:来館者等対応業務、鍵等の管理業務、光熱水費・共益費に関する業務、各種損害保険の手続業務、清掃業務、警備業務など

(4) その他請求事項に関する事実

ア 賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保する旨及び広島商工会議所に賃貸する旨の合意に関する事実

(ア) 令和3年6月25日付けの財産交換契約の内容

 財産交換契約においては、財産交換後の本件ビルの利用等について、別途覚書を締結する旨を取り交わしている。

(イ) 令和3年6月25日付けの覚書の内容

 財産交換契約の規定に基づき締結した覚書(以下「覚書」という。)においては、令和3年8月1日から令和9年3月31日までを賃貸借期間とし、本件ビルの一部(広島商工会議所が自己利用する部分及び転貸を予定する部分)を対象として、市と広島商工会議所が定期借家契約を締結する旨について合意すると同時に、広島商工会議所による第三者(以下「テナント」という。)への転貸についても合意している。
 また、広島商工会議所は、転貸を予定している部分に従前からのテナントがいる場合は、令和3年8月1日以降の賃貸借継続の意思を確認し、原則として当該テナントと改めて定期借家契約を締結するとともに、令和9年3月31日までにテナントを退去させ、自己利用部分を含めた賃貸借部分を市に返還することとされている。

(ウ) 令和3年8月1日付けの本件賃貸借契約の内容

 覚書の規定に基づき締結した本件賃貸借契約においては、令和3年6月25日の財産交換契約成立時において広島商工会議所がテナントとの間で締結している賃貸借契約により貸し付けている部分の賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保することに合意するとともに、市は当該貸付部分を当該テナント以外を含むテナントに転貸することを承諾している。
 また、貸付期間の満了時には、広島商工会議所の責任において直ちにテナントを退去させるとともに残置物も撤去させた上で賃貸借部分を明け渡すこととするほか、明渡しに際し、広島商工会議所は移転料、立退料、営業廃止の補塡その他名目を問わず、市に対し一切請求できない旨が定められている。

(エ) 以上の方法を採用した市の考え方

 このことについて、市長は「取得した本件ビルの有効活用の観点からこれを貸し付ける一方で、再開発ビルに広島商工会議所が移転した後は、原爆ドームの背景の景観改善という財産交換の大きな目的を実現するため、速やかに解体することを予定しており、その際全ての賃借人の円滑かつ確実な立退きを担保することを目的に、本市は直接賃貸借契約を交わす広島商工会議所を含む賃借人と定期建物賃貸借契約を締結している」と説明している(第3の2(2)アのとおり)。

イ 市と広島商工会議所の間の本件賃貸借契約に係る貸付料の算定に関する事実

 広島商工会議所への貸付けに係る貸付料について、市は、普通財産(不動産)の貸付料算定基準(以下「貸付料算定基準」という。)1(2)の規定により、固定資産税評価相当額に準じた額を建物の評価額の基準とするなどして、これを算定していた。このほか、屋外平面駐車場、屋内設置自動販売機、屋上設置テレビ放送用カメラ及び通信用基地局設備に係る貸付料を貸付料算定基準等により算定していた。
 このことについて、市長は「本件ビルは、財産交換後、短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産であり、こうした特殊な制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、また、客観性のある確立された評価手法もないため、貸付料の算定に当たっては、本市「普通財産(不動産)の貸付料算定基準」の基準どおり、直近の基準年度の固定資産税評価相当額を用いた額としている」と説明(第3の2(2)ウ(ア)のとおり)しており、この点について、監査で確認したところ、市長は、不動産鑑定士からあらかじめ意見を聴取し、同様の見解を得ていた。
 また、市は、転貸借部分を除き、広島市財産条例第5条の規定により、時価よりも低い価額で貸し付けることとし、具体的には広島市財産事務取扱要領第3の6において準用する同要領第3の2(3)の特別措置の規定を適用し、広島商工会議所の自己利用部分のうち自用の事務室部分について50%、有償で運営される会議室等の部分について30%の減額措置を講じていた。

 

2 判断

(1) 請求事項A(転貸借に係る部分)について

ア 市が賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保したこと及び広島商工会議所に賃貸したことは違法又は不当であるか。

 市が財産交換により適法に取得した本件ビルについては、民法(明治29年法律第89号)第605条の2第1項の規定により、その賃貸人たる地位は市に移転され、従前の賃貸人である広島商工会議所が従前のテナントから得ていた貸付料の徴収権も移転されることとなる。しかし、同条第2項前段の規定により、譲渡人たる広島商工会議所との間の合意により従前の賃貸人である広島商工会議所にその地位を留保することも可能であり、当事者双方がその合意をするか否かは各当事者の合理的な判断に委ねられている。
 市長からの意見書によれば、市は、民法第605条の2第1項の規定によることとすれば、従前と同じ内容の賃貸借契約が市に承継され、請求人の主張するように市が直接各テナントから従前と同額の貸付料を得られることを承知していたものと認められる。
 しかしながら、市によると、本件ビルを原爆ドームの背景の景観改善という行政目的を実現するため取得したものであるから、令和9年度頃に再開発ビルが完成した後に、本件ビルを速やかに解体することを予定しており、解体までの間は市有財産の有効活用の観点からこれを貸し付ける一方で、解体の際には立退きに係る交渉や立退料を市が負うことなく、テナントの円滑かつ確実な立退きを担保することを目的に、市は広島商工会議所と本件賃貸借契約を締結し、賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保した上で転貸借を認め、テナントの立退きに係る責任や費用負担については広島商工会議所が全面的に負うこととしたものと説明している。
 監査で前記1(4)ア(イ)の覚書その他の文書を検分したところ、実際にそのような内容が担保されていることが認められた。
 以上を踏まえれば、市長は、原爆ドームの背景の景観改善を行政目的として取得した本件ビルについて、その解体までの間の有効活用として貸付けを行うこととする一方で、解体までにテナントの退去を円滑に終えることや、その際の市の負担の軽減を図ることの必要性など諸般の事情を総合的に勘案して、民法第605条の2第2項前段の規定により、市が賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保する旨及び広島商工会議所に賃貸する旨を広島商工会議所との間で合意したものと認められ、このことについて、当事者の一方の市としての市長の判断に違法又は不当な点があったとは認められない。

イ 転貸借された部分について、市が算定した貸付料が時価に比べ著しく低額で、貸付けが継続されていることは違法又は不当であるか。

 地方自治法第237条第2項において、「第238条の4第1項の規定の適用がある場合を除き、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、(中略)適正な対価なくしてこれを(中略)貸し付けてはならない」とされている。
 この点について、広島市財産条例第9条第1項では、普通財産の貸付料の額は適正な時価により評定した額とされ、その具体を定めた貸付料算定基準では、原則として、建物の貸付料は当該建物の再調達価額又は固定資産税評価相当額から算出した額に、当該建物が所在する土地の固定資産税評価相当額を基に算定した土地の貸付料相当額を加算して算出することとされ、例外的に調整措置として、貸付料の額が近傍類似の民間賃貸事例に比較して著しく高額又は低額と認められる場合、その他この基準により算定することが適当でないと認める場合は、財政局長の承認を得て貸付料を別に定めることができるとされている。
 本件ビルについて、市長は意見書で、財産交換後短期間で全てのテナントに立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産であり、こうした制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場価値よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、貸付料算定基準の原則により算定したものであり、妥当であるとしている。
 監査で前記1(4)ア(イ)の覚書その他の文書を検分したところ、テナントを令和9年3月31日までに退去させるべく、広島商工会議所に対しテナントへの意思確認の上改めて定期借家契約を締結することを求めるなどの措置が講じられていることが認められた。
 また、前記1(4)イのとおり、市長は不動産鑑定士から意見を聴取していた。
 以上を踏まえれば、貸付料算定基準の適用に当たり、調整措置の検討が必要となる「貸付料の額が近傍類似の民間賃貸事例に比較して著しく高額又は低額と認められる場合」には当たらないものとして、原則に従って算定することとした市長の判断に違法又は不当な点があったとは認められない。

ウ 結論

 請求事項A(転貸借に係る部分)については、違法又は不当な財産の管理に当たらないと認められる。

(2) 請求事項B(財産交換に係る部分)について

ア 本請求事項が監査請求期間の経過後の請求であることについて正当な理由があるか。

 本請求事項については、財産交換契約の締結の日である令和3年6月25日から請求のあった令和4年10月28日までに1年以上経過しているが、正当な理由がある場合には1年を経過していても請求ができることとされている(地方自治法第242条第2項ただし書)。
 この正当な理由については、「特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度(監査請求をするに足る程度)に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである」(平成14年9月12日最高裁判例)とされている。
 監査したところ、市議会での審議や市による広報、報道などの経緯(前記1(2)のとおり)を見る限り、財産交換契約の内容は、随時、本市住民に知れるところとなっており、令和3年6月25日の契約締結の前後から1年を経過するまでの間において、客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為である財産交換契約が締結された事実の存在及び内容を知ることができたというべきである。
 よって、令和4年6月の市議会における市の答弁により強く疑問を感じ調査を開始したため監査請求期間を経過したことにつき正当な理由があるとする請求人の主張は採用できず、財産交換契約の締結の日である令和3年6月25日から1年を経過してなされた本請求事項については、正当な理由があると認めらない。

イ 結論

 請求事項B(財産交換に係る部分)については、不適法な請求であると認められる。したがって、この請求事項については監査は行わない。

 

3 結論

 請求人が行った本件措置請求のうち、請求事項A(転貸借に係る部分)については、理由がないものであることから請求を棄却し、請求事項B(財産交換に係る部分)については、不適法な請求であるからこれを却下する。

 

第5 意見

 本件ビルについては、解体によって景観改善という行政目的を確実に実現するため、市において、広島商工会議所による転貸部分に係る契約の推移やテナントの退去の状況を定期的に把握するとともに、貸付料の変動要素の変化を注視し、必要に応じて適切な措置を講ずるなど、解体までの間、円滑に維持管理・運営することが求められる。
 また、他都市では、大規模な公有財産の貸付けの場合におけるその貸付料の決定に際し、慎重かつ専門的な判断を経る手続を設けている例が見られることから、そうした事例を調査するなどして、本市でも制度の改善を検討されたい。