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大腸菌O157など、ベロ毒素を産生する大腸菌によって引き起こされる感染症で、症状のないものから、腹痛や下痢を伴うもの、血便を伴うもの、さらには重症化して溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome, HUS)を発症するものなど症状は様々です。
原因菌はベロ毒素と呼ばれる、腸管に出血を引き起こす強い毒素を産生する大腸菌で、O157、O26、O111などの種類があります。これらの大腸菌が、動物の糞便中にみられることから自然環境中に広く分布していると考えられます。
外国では、ハンバーガーなどのひき肉を用いた食品、生野菜、果物、日本では、肉類,サラダ,野菜などが原因食品となった事例がみられます。
感染力が強く、わずか数十個でも感染すると考えられています。熱には弱いが、低温には強く、水の中では長期間生存します。また、酸にも強く、胃酸の中でも生存します。
経口感染がほとんどで、汚染された食品を食べたり、患者や保菌者の汚染された手指を通して二次的に感染します。
3~5日の潜伏期間の後、下痢(水様便)、腹痛、血便が様々な程度で現れます。発熱は軽度で、多くは37度台ですが、激しい腹痛や著しい血便を伴うこともあります。
患者の6~7%が重症化して、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症など重篤な合併症を発症するといわれています。特に子どもと高齢者は重症化しやすいので、注意が必要です。
他の細菌性の食中毒と同様に、気温が高い初夏から初秋にかけて多発する傾向にあります。この時期は、細菌が増えるのに適した気温であり、これに人の体力の低下や食品などの不衛生な取扱いなどの条件が重なることにより発生しやすくなると考えられます。
しかしながら、気温の低い時期でも発生が見られることから、夏以外の季節も注意が必要です。
「一次、二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157等)感染症治療の手引き(改訂版)」(厚生省)によると、下痢の場合は、安静、水分の補給、消化しやすい食事の摂取に気をつけますが、症状が重い場合は輸液(点滴)を行います。止痢剤(下痢止め)の使用は、毒素の排泄を遅らせることになるので使用しません。また、抗菌剤の使用については賛否両論があり、医師の判断のもとで慎重に使用する必要があります。
過去には富山県等で発生した腸管出血性大腸菌による食中毒事件において、飲食店で食肉を生食した小児等、3名が死亡し、多くの重症者が報告される事例も発生しています。
腸管出血性大腸菌の食中毒を予防するためには、生肉を使った肉料理を避けることや、肉の中心部まで十分に加熱することが重要です。
詳しくは、腸管出血性大腸菌に関するQ&A<外部リンク>(厚生労働省)をご覧ください。
第51週(12月14日~12月20日)は、1件の報告がありました。
今年の累計報告数は、24件です。
腸管出血性大腸菌は感染力が強く、汚染された食品を食べたり、患者や保菌者の汚染された手指をとおして少ない菌量でも感染します。手洗いの励行、食品は十分加熱して食べるなど、感染予防対策を徹底しましょう。
年 | O157 | O26 | O121 | O111 | その他 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|
2000 | 39 | 1 | 0 | 0 | 0 | 40 |
2001 | 29 | 11 | 0 | 0 | 0 | 40 |
2002 | 5 | 9 | 0 | 3 | 0 | 17 |
2003 | 18 | 5 | 0 | 1 | 0 | 24 |
2004 | 33 | 14 | 0 | 0 | 0 | 47 |
2005 | 11 | 3 | 0 | 1 | 0 | 15 |
2006 | 23 | 2 | 0 | 4 | 1 | 30 |
2007 | 14 | 1 | 3 | 2 | 1 | 21 |
2008 | 27 | 8 | 0 | 3 | 0 | 38 |
2009 | 33 | 2 | 3 | 0 | 0 | 38 |
2010 | 26 | 10 | 7 | 0 | 3 | 46 |
2011 | 21 | 6 | 1 | 0 | 1 | 29 |
2012 | 10 | 3 | 0 | 1 | 0 | 14 |
2013 | 7 | 10 | 1 | 0 | 4 | 22 |
2014 | 5 | 3 | 0 | 0 | 1 | 9 |
2015 | 3 | 7 | 0 | 2 | 2 | 14 |
2016 | 8 | 0 | 0 | 0 | 6 | 14 |
2017 | 3 | 13 | 0 | 0 | 1 | 17 |
2018 | 6 | 2 | 1 | 0 | 0 | 9 |
2019 | 8 | 2 | 1 | 1 | 6 | 18 |
2020 | 6 | 6 | 2 | 1 | 9 | 24 |
計 | 335 | 118 | 19 | 19 | 35 | 526 |
(*)その他・不明の内訳
【2006年】O145:1、【2007年】O165:1、【2010年】O103:3、【2011年】O8:1
【2013年】O165:3、O181:1、【2014年】不明:1、【2015年】O115:2、
【2016年】O103:4、O113:1、O130:1、【2017年】O76:1
【2019年】O103:5、OUT:1
【2020年】O1:1、O103:4、O128:3、OUT:1
※UT:untypable(型別不能)
2000年以降の年間報告数の最高は2004年の47件で、次いで2010年の46件となっています。近年はやや減少しており、2019年は18件でした。
気温が高く細菌が繁殖しやすいと考えられる5月~10月にかけて多くなっていますが、12月も比較的多く、気温が低い時期でも注意する必要があります。
乳幼児から小学生低学年にかけての年齢層である9歳以下が約40%を占めています。
また、30~34歳の年齢層がその前後の年齢層に比べて報告数が多くなっています。これは、病気にかかった子どもさんの世話をしていて感染する例があるためと考えられ、患者さんの世話をする時は、自分が感染したり、家族内に感染を広げないよう細心の注意を払う必要があります。
【図1】月別報告数
【図2】年齢階層別報告数
【図3】年齢階層別報告数比
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