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財産交換について

ページ番号:0000310443 更新日:2022年12月27日更新 印刷ページ表示

広島市監査公表第51号

令和4年12月26日

 令和4年10月28日付け第990号で受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により、別紙のとおり公表する。

広島市監査委員 政氏 昭夫

同       井戸 陽子

同       山路 英男

同       山内 正晃

別紙

広監第154号

令和4年12月26日

請求人

(略)

広島市監査委員 政氏 昭夫

同       井戸 陽子

同       山路 英男

同       山内 正晃

   広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和4年10月28日付け第990号で受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。

 

第1 請求の要旨

 当初請求書並びに令和4年11月4日及び9日の各日付けで提出された補足意見の記載内容から、請求の要旨は次のとおりと整理できる。

 

広島市長が行った財産交換に関する措置請求

A 広島商工会議所ビルのテナントに関し転貸借を認めていることは、違法又は不当である。

ア 国の普通財産貸付事務処理要領では、普通財産の転貸を承諾する場合について、「転貸貸付料が国の貸付料を上回らないこと」など、転貸を認めることにより、国にとって不利な契約にならないことが求められている。
 地方公共団体においても、転貸の形式をとっていることが、当該地方公共団体にとって、不利となっていないかは、有効な基準となり得る。
 広島市の広島商工会議所ビルに係る収益状況と、広島商工会議所の建物特別会計の収支状況に鑑みれば、広島商工会議所が各テナントから得ている転貸料は、広島市が広島商工会議所から得ている賃料より高いと推察される。本件においては、広島市は各テナントとは、転貸借関係ではなく、直接賃貸借契約を結び賃料を得るべきであり、広島商工会議所に転貸人として利益を上げさせているのは、広島市にとって、不利な契約関係である。よって、広島市から広島商工会議所ビルの賃貸した一部分を、転貸していることを容認していることは、違法又は不当である。

イ 鑑定評価書によれば、広島商工会議所ビルの価値の半分は、当該ビルの収益性にある。だからこそ、同じく駐車場として収益力のある市営基町駐車場と、等価交換できたものである。にもかかわらず、現状では全く利益が上がらない状態で運営していることは、財産の適正な管理を怠るものである。

ウ 賃料の計算書によれば、広島商工会議所に対する賃料は、普通財産(不動産)貸付料算定基準に基づき算定され、テナント転貸部分は基準どおりの額となっている。
 広島市財産条例第9条第1項は、「普通財産の交換価額、譲渡価額、貸付料の額及び私権の設定価額は、適正な時価により評定した額をもってしなければならない。」とする。
 広島商工会議所ビルに係る鑑定評価書はまさにこの時価を査定したものであり、賃料について、可能貸室賃料収入を「年額223,517,004円」としている。これに対して、市の賃料の計算書によれば減免前家賃として「年額101,256,925円」としている。この差はあまりにも大きく、まさに近傍類似の民間賃貸料等と比較して著しく低い場面に当たるものであり、調整措置を適用すべきである。これを行わず、時価と大きく乖離する貸付料で普通財産の貸付けを行っていることは、広島市財産条例第9条第1項に違反するものである。
 どうしても転貸借にしたいと言うのなら、賃料をまさに「時価」といえる転貸料相当額として徴収することが、広島市財産条例第9条第1項の趣旨とも合致する。

 

 Aに関しては、広島市長に対して、現在の違法又は不当な契約関係を、早急に是正し、広島市が各テナントから直接テナント料を請求できる契約関係に是正するよう、請求する。

 

B 市営基町駐車場の鑑定評価の依頼において、鑑定の条件に、基町相生通地区において第一種市街地再開発事業が予定されていること、これに伴い当該地区を都市再生特別地区とすることが検討されていることが、付加されていないことは、違法又は不当であり、その鑑定評価書に基づく価格による財産交換は違法又は不当である。

ア 国土交通省の不動産鑑定評価基準によれば、最有効使用の判定上の留意点として、「価格形成要因は常に変動の過程にあることを踏まえ、特に価格形成に影響を与える地域要因の変動が客観的に予測される場合には、当該変動に伴い対象不動産の使用方法が変化する可能性があることを勘案して最有効使用を判定すること。」と規定する。

イ 令和4年6月議会において、市側の答弁は「再開発事業は、その実施やスケジュールが不確実であり客観的に予測できる場合には該当しないため、10年間、このまま駐車場として、使用して更地化して売却することを想定した」としている。

ウ 令和3年1月1日時点で、広島市が広島商工会議所と財産交換を行うのは、広島商工会議所が、当該市街地再開発事業に地権者として参画するためであり、その交換のために土地と建物の鑑定を依頼しているのである。その前提を鑑定条件から外すことはあり得ないものではないか。

エ 一方、広島市は、「一団地の官公庁施設の変更」については、検討中であるにもかかわらず、鑑定条件として付加しているところである。恣意的に条件を操作しているとの疑念が払しょくし得ない。

オ 令和4年3月3日、基町相生通地区第一種市街地再開発事業は都市計画決定がなされ、これに伴い本事業区域は都市再生特別地区として都市計画決定がなされた。
 これにより、当該土地に関する価格形成要因が大きく変化した。

カ こうしたことを鑑定条件に付していないことは、明らかに違法又は不当であり、その鑑定評価書による財産交換もまた、違法又は不当と言わざるを得ない。

 

 Bに関しては、広島市長に対して、早急に市営基町駐車場の土地及び建物の鑑定評価を市街地再開発事業及び都市再生特別地区を条件に付加してやり直し、その差額を広島商工会議所に請求することを求める。

 

 なお、Bに関しては、財産交換という財務会計上の行為から1年3月が経過しているが、以下の理由により正当な理由がある。
 本当に価格が正当であったかについては、議会においても議論がなされていたことは、承知していたが、強く疑問に感じることになった時点は、鑑定評価を行った際には市街地再開発事業は不確実なものと答弁した、令和4年6月である。
 この時点から、本格的に調査を始め、この時間(約4月)を要したものである。

 

(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)
【事実証明書1】令和3年度当初予算説明資料
【事実証明書2】広島商工会議所ビルに係る不動産鑑定評価書(市長宛て部分)
【事実証明書3】市営基町駐車場に係る鑑定評価書(市長宛て部分)
【事実証明書4】広島市財産評価委員会からの報告
【事実証明書5】市営基町駐車場に係る鑑定評価依頼書
【事実証明書6】市営基町駐車場に係る鑑定評価書(収益価格部分)
【事実証明書7】広島商工会議所ビルに係る鑑定評価依頼書
【事実証明書8】広島商工会議所ビルに係る鑑定評価書(収益価格部分)
【事実証明書9】令和3年度広島商工会議所収支決算報告
【事実証明書10】広島市普通財産(不動産)貸付事務処理方針
【事実証明書11】無償貸付契約書書式
【事実証明書12】普通財産貸付事務処理要領(国)
【事実証明書13】財産交換の仮契約に係る決裁書
【事実証明書14】不動産鑑定評価基準(国)
【事実証明書15】令和4年6月議会の市都市整備局長の答弁
【事実証明書16】基町相生通地区第一種市街地再開発事業の広島県の発表資料
【事実証明書17】容積率増加による土地価格の上昇についての、不動産鑑定士の見解(ネット情報)
【事実証明書18】定期建物賃貸借契約書
【事実証明書19】建物貸付料計算書
【事実証明書20】公文書不存在通知書
【事実証明書21】普通財産(不動産)貸付料算定基準

 

第2 請求の受理

 本件措置請求のうち、請求事項A(転貸借に係る部分)については適法な請求と認めるとともに、請求事項B(財産交換に係る部分)については監査請求期間経過後の請求につき正当な理由の有無を監査の過程において確認する必要があると認め、令和4年11月11日に、同年10月28日付けでこれを受理することを決定した。

 

第3 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述

 地方自治法第242条第7項の規定に基づき、請求人に対し、証拠の提出及び陳述の機会を設けた。
 これを受けて、請求人は次のとおり、書類を提出するとともに当該書類に沿って陳述を行った。

(1) 証拠の提出

ア 提出日

 令和4年11月15日

イ 提出された証拠

 「広島市長の財産交換に係る措置要求書の補足説明(まとめ)」
 (添付を省略する。)

(2) 陳述

ア 陳述日

 令和4年11月24日

イ 主な内容

・ 広島商工会議所ビルについて、広島商工会議所は、広島市に対し賃料を支払っているが、それを上回る額の管理委託料が広島市から支払われている。
 一方、基町駐車場の方は、所有者である広島商工会議所が駐車場使用料を徴収し、こちらも利益を上げており、交換した財産から生ずる利益は全て広島商工会議所が得るスキームとなっている。
・ 基町駐車場周辺の再開発を鑑定依頼の条件に入れてしまうと、格段に価額が上がることが想定されたため、鑑定評価を急いだのではないか。
・ この二つの広島商工会議所に有利な条件が合致して初めて、この財産交換は成り立ったのではないか。

 

2 広島市長(都市整備局都市機能調整部、道路交通局自転車都市づくり推進課及び財政局管財課)の意見書

 広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めるとともに、広島市財産条例(昭和39年広島市条例第8号)を所管する観点からの見解等を求めたところ、令和4年11月18日付け広都機第98号により意見書の提出及び同年12月9日付け広都機第104号による補足意見書の提出があった。なお、陳述は行われなかった。
 これらの意見書の主な内容は、次のとおりと整理できる。

(1) 本市の意見

 請求人の主張には理由がないため、本件措置請求は棄却されるべきである。

(2) 本市の意見の理由

ア 経緯

 取得した広島商工会議所ビルについては、市有財産の有効活用の観点からこれを貸し付ける一方で、再開発事業で再開発ビルが完成(令和9年度頃)し、同ビルに広島商工会議所が移転した後は、原爆ドームの背景の景観改善という財産交換の大きな目的を実現するため、速やかに解体することを予定しており、その際全ての賃借人の円滑かつ確実な立退きを担保することを目的に、本市は直接賃貸借契約を交わす広島商工会議所を含む賃借人と定期建物賃貸借契約(貸付期間は令和8年度末まで)を締結している。

イ 市営基町駐車場の鑑定評価の条件について

 広島商工会議所ビル及び市営基町駐車場の鑑定評価額は、不動産鑑定士により、令和3年1月1日を価格時点として、その時点で客観的に予測される要因等を反映した評価結果に基づき、本市財産評価委員会の審議を経て決定したものである。
 市街地再開発事業を鑑定評価に反映するには、少なくとも施行認可が必要であるとの不動産鑑定士の認識もあり、この度の鑑定評価の価格時点では、不動産鑑定士が客観的にその実施を予測できる状況では到底なかった。そういう状況にもかかわらず、仮に不動産鑑定士が単なる見込みで織り込んだとすれば、恣意性が介在し客観性、公平性を欠いた鑑定評価になると言わざるを得ない。
 一方、市営基町駐車場の敷地は本市が唯一の土地所有者として、その官公庁施設を廃止する方針で取り組んでいたものであり、土地利用制限のある都市計画上の「一団地の官公庁施設」の指定を除外しないまま鑑定評価を行うことは財産の過小評価となり本市にとって不利になることから、この指定がないものとして鑑定評価を行うよう不動産鑑定士に依頼したものである。また、不動産鑑定士の立場からしても、「一団地の官公庁施設」が指定されたままであれば、民間には取得をする者がおらず正常価格を算定することができないことから、指定はないものとして評価する必要があり、唯一の土地所有者たる市の意向は、その指定が除外されることを客観的に予測し得る要因となるとのことであった。

ウ 広島商工会議所ビルのテナントに関し転貸借を認めていることについて

(ア) 貸付料の算定について

 本市が財産交換により取得した広島商工会議所ビルは、前記アのとおり、財産交換後、短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産である。
 こうした特殊な制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、また、客観性のある確立された評価手法もないため、広島商工会議所ビルの貸付料の算定に当たっては、本市「普通財産(不動産)の貸付料算定基準」の基準どおり、直近の基準年度の固定資産税評価相当額を用いた額としているのであって、当該貸付料の算定は、「広島市財産条例」及び「普通財産(不動産)の貸付料算定基準」に照らして、何ら違法又は不当な点はない。

(イ) 転貸借について

 広島商工会議所ビルの所有権の移転後、通常は借地借家法第31条の規定により、賃貸人たる地位が新たな所有者の本市に承継され、改めて賃借人(テナント)との間で契約を締結し直すことなく、普通借家契約という契約形態や貸付料、特約など全て従前と同じ内容の賃貸借契約が承継されることになる。
 そうなれば、請求人の主張するように本市が直接各テナントから従前と同額の貸付料を得ることにはなるが、一方で従前の普通借家契約を承継するため、テナントに令和8年度末までの立退きを強制する手段がなく、立退きに係る交渉や立退料が発生した場合の費用は全て本市が負うことになる。
 本市としては、令和8年度末までに広島商工会議所を含む全てのテナントに立ち退いてもらう必要があると考えており、30を超えるテナントと本市が短期間のうちに個別に交渉し、期限までの確実な立退きを担保することは困難なため、転貸借という現状の契約形態としたものであり、この転貸借は本市条例等で禁止されているものではない。
 請求人の指摘する貸付料と転貸貸付料の差額についても、転貸人が移転交渉及び移転補償を行うという本件契約の特殊性を併せて考えるならば、当該差額に相当する損害は発生していない。

エ 結論

 以上のとおり、請求人が主張する内容について、いずれも理由がなく、また本市には何ら損害が発生していないことから、本件措置請求は棄却されるべきである。

 

3 監査対象事項

(1) 請求事項A(転貸借に係る部分)について

 請求人は、市と広島商工会議所が令和3年6月25日付けで締結した財産交換契約(以下「財産交換契約」という。)に基づく財産交換(以下「財産交換」という。)により市が取得した広島商工会議所ビル(以下「本件ビル」という。)の管理について、令和3年8月1日付けで締結した定期建物賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)に基づき、広島商工会議所による転貸借を認め転貸人として利益を上げさせ、市に利益が上がらない状態としていること、また、仮に転貸借を認めるとしても、時価と大きく乖離する貸付料で広島商工会議所に貸付けを行っていることは、財産の適正な管理を怠るものであると主張しており、これは違法又は不当な財産の管理に当たるものとの主張と解する。
 この主張を踏まえ、次の点について監査する。

ア 市が賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保したこと及び広島商工会議所に賃貸したことは違法又は不当であるか。

イ 転貸借された部分について、市が算定した貸付料が時価に比べ著しく低額で、貸付けが継続されていることは違法又は不当であるか。

(2) 請求事項B(財産交換に係る部分)について

 請求人は、市営基町駐車場の鑑定評価依頼の条件として、基町相生通地区において第一種市街地再開発事業及び都市再生特別地区に係る都市計画決定が予定されていたことが付されないまま行われた鑑定評価書に基づく価格による財産交換は、違法又は不当であると主張しており、これは財産交換契約が違法又は不当であるとの主張と解する。
 この主張を踏まえ、次の点について監査する。

ア 本請求事項が監査請求期間の経過後の請求であることについて、正当な理由があるか否か。

イ 仮に適法な請求であるとしたとき、財産交換契約は違法又は不当であるか。

 

4 監査の実施内容

 請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類、請求人の陳述の内容、広島市長から提出された意見書のほか関係書類を確認するとともに、関係職員への聴取りを行うなどして監査した。

 

第4 監査の結果

1 事実の確認

(1) 財産交換に係る財産の概要

ア 本件ビル

 市が財産交換により取得した本件ビルは広島市中区基町に所在する鉄骨鉄筋コンクリート造り地下2階付き12階建ての建物であり、床面積延べ1万3,818.45平方メートル、土地は面積1,788.45平方メートルである。

イ 市営基町駐車場

 市が財産交換に供した市営基町駐車場は広島市中区基町に所在する鉄筋コンクリート造り地下1階付き7階建ての建物のうち1階から7階までの部分であり、専有部分の床面積延べ1万9,871.51平方メートルのうち1万7,456.08平方メートル、土地は面積4,155.54平方メートルに対する建物の敷地権の割合である。

(2) 本件ビルの取得の経緯等

 本件ビルを取得した経緯等を整理すると、次のとおりであると認める。

年月日 内容
平成30年9月 市が広島商工会議所に対し、本件ビルの移転・建替えについて、市営基町駐車場周辺の再開発事業として検討することを提案
令和2年12月11日 市が等価交換に係る財産の不動産鑑定評価を不動産鑑定士に依頼
令和3年2月4日 市議会都市活性化対策特別委員会において、再開発事業について説明し、財産の鑑定評価、等価交換、貸付料等について答弁
令和3年2月8日 令和3年度広島市当初予算案を公表
令和3年3月8日 市議会令和3年度予算特別委員会において、等価交換の理由及び内容、不動産鑑定評価の方法等について答弁
令和3年3月18日 不動産鑑定士が不動産鑑定評価書を提出
令和3年3月22日 市財産評価委員会が市に各財産の評価結果を報告
令和3年3月24日 市議会令和3年度予算特別委員会において、財産交換に係る交換差金3,400万円を減じた修正議案を否決し、令和3年度広島市当初予算案原案を議決
令和3年3月25日 市議会本会議において、財産交換に係る交換差金3,400万円を減じた修正議案を否決し、令和3年度広島市当初予算案原案を議決
令和3年3月27日 中国新聞が、広島商工会議所議員総会で財産交換が承認された旨を報道(各財産の評価額、交換差金の記載有)
令和3年4月29日 中国新聞が、2021年夏頃に財産交換が行われる旨を報道(各財産の評価額、交換差金、仮契約締結予定、財産交換議案の提出予定等の記載有)
令和3年5月25日 市・広島商工会議所の間で財産交換仮契約を締結
令和3年6月2日 財産交換議案を公表
令和3年6月22日 市議会本会議において、賃貸借契約について答弁
令和3年6月25日 市議会本会議において、財産交換議案を議決。市・広島商工会議所の間で財産交換契約の締結
同日 市・広島商工会議所の間で財産交換契約に基づく覚書を締結(以後の本件賃貸借契約の締結、転貸借契約の容認、転貸借契約の定期建物賃貸借契約への原則移行、本件賃貸借契約終了時の費用負担区分、所有権移転後の管理業務の委託など)
令和3年7月13日 中国新聞が、6月25日の財産交換議案議決を受けた財産交換契約の締結、8月1日の財産交換実施予定について報道(各財産の評価額、交換差金の記載有)
令和3年7月15日 ひろしま市民と市政(7月15日号)において、8月1日の財産交換実施について記事掲載
令和3年8月1日 市営基町駐車場の用途廃止
同日 財産交換契約に基づく財産交換(所有権移転)を履行
同日 市・広島商工会議所の間で本件賃貸借契約を締結
令和3年9月2日 市議会都市活性化対策特別委員会において、再開発事業について説明し、財産交換後の事業の進め方について答弁
令和3年12月10日 市議会本会議において、鑑定評価条件の妥当性、鑑定評価書を非公表とした理由等について答弁
令和4年2月15日 市議会本会議において、鑑定評価書を開示することとした理由、財産交換の時期の妥当性等について答弁
令和4年6月13日 市議会本会議において、鑑定評価における具体的な判断手法等について答弁

注 市議会本会議及び委員会については、市ホームページにおいて当日に生中継又は開催後1週間程度以内に録画等が配信されるとともに、半年から1年以内に議事録が公表されている。​
        

(3) 本件ビルの利用及び管理の状況

ア 広島商工会議所への貸付状況

 市は本件ビルのうち、約7,786平方メートルを広島商工会議所に賃貸し、広島商工会議所はこのうち約3,864平方メートルを第三者への転貸部分とし、その余を自己利用している(令和3年8月1日 賃貸借契約時当初)。

イ 広島商工会議所への貸付部分以外の状況

 広島商工会議所への貸付部分以外については、市の専有部分又は共用部分であり、市の専有部分について市の事務事業の目的に沿った利用希望があれば、市が直接定期建物賃貸借契約を締結して貸付けを行っており、財産交換後、新たに民間事業者等数団体に貸し付けている。

ウ 本件ビルの管理の状況

 市は本件ビルの共用部分等の維持管理については、次の業務を広島商工会議所に委託している。
・ 業務内容:来館者等対応業務、鍵等の管理業務、光熱水費・共益費に関する業務、各種損害保険の手続業務、清掃業務、警備業務など

(4) その他請求事項に関する事実

ア 賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保する旨及び広島商工会議所に賃貸する旨の合意に関する事実

(ア) 令和3年6月25日付けの財産交換契約の内容

 財産交換契約においては、財産交換後の本件ビルの利用等について、別途覚書を締結する旨を取り交わしている。

(イ) 令和3年6月25日付けの覚書の内容

 財産交換契約の規定に基づき締結した覚書(以下「覚書」という。)においては、令和3年8月1日から令和9年3月31日までを賃貸借期間とし、本件ビルの一部(広島商工会議所が自己利用する部分及び転貸を予定する部分)を対象として、市と広島商工会議所が定期借家契約を締結する旨について合意すると同時に、広島商工会議所による第三者(以下「テナント」という。)への転貸についても合意している。
 また、広島商工会議所は、転貸を予定している部分に従前からのテナントがいる場合は、令和3年8月1日以降の賃貸借継続の意思を確認し、原則として当該テナントと改めて定期借家契約を締結するとともに、令和9年3月31日までにテナントを退去させ、自己利用部分を含めた賃貸借部分を市に返還することとされている。

(ウ) 令和3年8月1日付けの本件賃貸借契約の内容

 覚書の規定に基づき締結した本件賃貸借契約においては、令和3年6月25日の財産交換契約成立時において広島商工会議所がテナントとの間で締結している賃貸借契約により貸し付けている部分の賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保することに合意するとともに、市は当該貸付部分を当該テナント以外を含むテナントに転貸することを承諾している。
 また、貸付期間の満了時には、広島商工会議所の責任において直ちにテナントを退去させるとともに残置物も撤去させた上で賃貸借部分を明け渡すこととするほか、明渡しに際し、広島商工会議所は移転料、立退料、営業廃止の補塡その他名目を問わず、市に対し一切請求できない旨が定められている。

(エ) 以上の方法を採用した市の考え方

 このことについて、市長は「取得した本件ビルの有効活用の観点からこれを貸し付ける一方で、再開発ビルに広島商工会議所が移転した後は、原爆ドームの背景の景観改善という財産交換の大きな目的を実現するため、速やかに解体することを予定しており、その際全ての賃借人の円滑かつ確実な立退きを担保することを目的に、本市は直接賃貸借契約を交わす広島商工会議所を含む賃借人と定期建物賃貸借契約を締結している」と説明している(第3の2(2)アのとおり)。

イ 市と広島商工会議所の間の本件賃貸借契約に係る貸付料の算定に関する事実

 広島商工会議所への貸付けに係る貸付料について、市は、普通財産(不動産)の貸付料算定基準(以下「貸付料算定基準」という。)1(2)の規定により、固定資産税評価相当額に準じた額を建物の評価額の基準とするなどして、これを算定していた。このほか、屋外平面駐車場、屋内設置自動販売機、屋上設置テレビ放送用カメラ及び通信用基地局設備に係る貸付料を貸付料算定基準等により算定していた。
 このことについて、市長は「本件ビルは、財産交換後、短期間で全ての賃借人に立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産であり、こうした特殊な制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、また、客観性のある確立された評価手法もないため、貸付料の算定に当たっては、本市「普通財産(不動産)の貸付料算定基準」の基準どおり、直近の基準年度の固定資産税評価相当額を用いた額としている」と説明(第3の2(2)ウ(ア)のとおり)しており、この点について、監査で確認したところ、市長は、不動産鑑定士からあらかじめ意見を聴取し、同様の見解を得ていた。
 また、市は、転貸借部分を除き、広島市財産条例第5条の規定により、時価よりも低い価額で貸し付けることとし、具体的には広島市財産事務取扱要領第3の6において準用する同要領第3の2(3)の特別措置の規定を適用し、広島商工会議所の自己利用部分のうち自用の事務室部分について50%、有償で運営される会議室等の部分について30%の減額措置を講じていた。

 

2 判断

(1) 請求事項A(転貸借に係る部分)について

ア 市が賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保したこと及び広島商工会議所に賃貸したことは違法又は不当であるか。

 市が財産交換により適法に取得した本件ビルについては、民法(明治29年法律第89号)第605条の2第1項の規定により、その賃貸人たる地位は市に移転され、従前の賃貸人である広島商工会議所が従前のテナントから得ていた貸付料の徴収権も移転されることとなる。しかし、同条第2項前段の規定により、譲渡人たる広島商工会議所との間の合意により従前の賃貸人である広島商工会議所にその地位を留保することも可能であり、当事者双方がその合意をするか否かは各当事者の合理的な判断に委ねられている。
 市長からの意見書によれば、市は、民法第605条の2第1項の規定によることとすれば、従前と同じ内容の賃貸借契約が市に承継され、請求人の主張するように市が直接各テナントから従前と同額の貸付料を得られることを承知していたものと認められる。
 しかしながら、市によると、本件ビルを原爆ドームの背景の景観改善という行政目的を実現するため取得したものであるから、令和9年度頃に再開発ビルが完成した後に、本件ビルを速やかに解体することを予定しており、解体までの間は市有財産の有効活用の観点からこれを貸し付ける一方で、解体の際には立退きに係る交渉や立退料を市が負うことなく、テナントの円滑かつ確実な立退きを担保することを目的に、市は広島商工会議所と本件賃貸借契約を締結し、賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保した上で転貸借を認め、テナントの立退きに係る責任や費用負担については広島商工会議所が全面的に負うこととしたものと説明している。
 監査で前記1(4)ア(イ)の覚書その他の文書を検分したところ、実際にそのような内容が担保されていることが認められた。
 以上を踏まえれば、市長は、原爆ドームの背景の景観改善を行政目的として取得した本件ビルについて、その解体までの間の有効活用として貸付けを行うこととする一方で、解体までにテナントの退去を円滑に終えることや、その際の市の負担の軽減を図ることの必要性など諸般の事情を総合的に勘案して、民法第605条の2第2項前段の規定により、市が賃貸人たる地位を広島商工会議所に留保する旨及び広島商工会議所に賃貸する旨を広島商工会議所との間で合意したものと認められ、このことについて、当事者の一方の市としての市長の判断に違法又は不当な点があったとは認められない。

イ 転貸借された部分について、市が算定した貸付料が時価に比べ著しく低額で、貸付けが継続されていることは違法又は不当であるか。

 地方自治法第237条第2項において、「第238条の4第1項の規定の適用がある場合を除き、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、(中略)適正な対価なくしてこれを(中略)貸し付けてはならない」とされている。
 この点について、広島市財産条例第9条第1項では、普通財産の貸付料の額は適正な時価により評定した額とされ、その具体を定めた貸付料算定基準では、原則として、建物の貸付料は当該建物の再調達価額又は固定資産税評価相当額から算出した額に、当該建物が所在する土地の固定資産税評価相当額を基に算定した土地の貸付料相当額を加算して算出することとされ、例外的に調整措置として、貸付料の額が近傍類似の民間賃貸事例に比較して著しく高額又は低額と認められる場合、その他この基準により算定することが適当でないと認める場合は、財政局長の承認を得て貸付料を別に定めることができるとされている。
 本件ビルについて、市長は意見書で、財産交換後短期間で全てのテナントに立ち退いてもらう必要がある極めて特殊な不動産であり、こうした制約のある不動産の貸付料は、一般的に市場価値よりも相当に低く評価されるものであるが、その参考となる近傍類似事例等が存在せず、貸付料算定基準の原則により算定したものであり、妥当であるとしている。
 監査で前記1(4)ア(イ)の覚書その他の文書を検分したところ、テナントを令和9年3月31日までに退去させるべく、広島商工会議所に対しテナントへの意思確認の上改めて定期借家契約を締結することを求めるなどの措置が講じられていることが認められた。
 また、前記1(4)イのとおり、市長は不動産鑑定士から意見を聴取していた。
 以上を踏まえれば、貸付料算定基準の適用に当たり、調整措置の検討が必要となる「貸付料の額が近傍類似の民間賃貸事例に比較して著しく高額又は低額と認められる場合」には当たらないものとして、原則に従って算定することとした市長の判断に違法又は不当な点があったとは認められない。

ウ 結論

 請求事項A(転貸借に係る部分)については、違法又は不当な財産の管理に当たらないと認められる。

(2) 請求事項B(財産交換に係る部分)について

ア 本請求事項が監査請求期間の経過後の請求であることについて正当な理由があるか。

 本請求事項については、財産交換契約の締結の日である令和3年6月25日から請求のあった令和4年10月28日までに1年以上経過しているが、正当な理由がある場合には1年を経過していても請求ができることとされている(地方自治法第242条第2項ただし書)。
 この正当な理由については、「特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度(監査請求をするに足る程度)に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである」(平成14年9月12日最高裁判例)とされている。
 監査したところ、市議会での審議や市による広報、報道などの経緯(前記1(2)のとおり)を見る限り、財産交換契約の内容は、随時、本市住民に知れるところとなっており、令和3年6月25日の契約締結の前後から1年を経過するまでの間において、客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為である財産交換契約が締結された事実の存在及び内容を知ることができたというべきである。
 よって、令和4年6月の市議会における市の答弁により強く疑問を感じ調査を開始したため監査請求期間を経過したことにつき正当な理由があるとする請求人の主張は採用できず、財産交換契約の締結の日である令和3年6月25日から1年を経過してなされた本請求事項については、正当な理由があると認めらない。

イ 結論

 請求事項B(財産交換に係る部分)については、不適法な請求であると認められる。したがって、この請求事項については監査は行わない。

 

3 結論

 請求人が行った本件措置請求のうち、請求事項A(転貸借に係る部分)については、理由がないものであることから請求を棄却し、請求事項B(財産交換に係る部分)については、不適法な請求であるからこれを却下する。

 

第5 意見

 本件ビルについては、解体によって景観改善という行政目的を確実に実現するため、市において、広島商工会議所による転貸部分に係る契約の推移やテナントの退去の状況を定期的に把握するとともに、貸付料の変動要素の変化を注視し、必要に応じて適切な措置を講ずるなど、解体までの間、円滑に維持管理・運営することが求められる。
 また、他都市では、大規模な公有財産の貸付けの場合におけるその貸付料の決定に際し、慎重かつ専門的な判断を経る手続を設けている例が見られることから、そうした事例を調査するなどして、本市でも制度の改善を検討されたい。