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委託業務の契約について

ページ番号:0000162328 更新日:2020年6月10日更新 印刷ページ表示

広島市監査公表第21号
令和2年6月8日

 令和2年4月14日付けで受け付けた広島市職員に関する措置請求について,その監査結果を地方自治法第242条第5項の規定により,別紙のとおり公表する。

広島市監査委員 谷本 睦志
同       井戸 陽子
同       碓氷 芳雄
同       豊島 岩白

 

別紙

広監第84号
令和2年6月8日

請求人
(略)

広島市監査委員 谷本 睦志
同       井戸 陽子

同       碓氷 芳雄
同       豊島 岩白

 

   広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和2年4月14日付けで受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について,地方自治法第242条第5項の規定により監査を行ったので,その結果を同項の規定により次のとおり通知する。

第1 請求の要旨

 令和2年4月14日付けで提出のあった広島市職員措置請求書に記載された内容は,以下のとおりである。

広島市長による委託契約の締結に関する措置請求

1 請求の要旨

⑴ 違法・不当な公金支出

 広島市長は,令和元年8月1日に行った広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務の入札について,同日の開札において低入札価格となる最低価格で保留となったA社(代表取締役X)を令和元年11月29日に違法又は不当に落札者としないこととして,令和元年12月10日に次順位価格入札者のB社を落札者として同業務の委託契約を締結し,結果,同業務について広島市にA社の入札額より高額となる12,827,757円の違法または不当な損害を与えたものである。よって,広島市が被った損害を補填するために必要な措置(再入札行為を含む)を求めるものである。

⑵ 理由

ア 事実経過

 令和元年6月21日の広島市の入札公告(「証拠1号」)並びに入札説明書(「証拠第2号」)及び仕様書(「証拠3号」)に基づきA社は,令和元年7月31日に入札に参加した。

 その業務に係る「入札金額内訳書(委託業務)業務名:広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務(その1)」(「証拠4号」)及び「入札金額内訳書(委託業務)業務名:広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務(その2)」(「証拠7号」)の入札において,令和元年8月1日の開札日に,開札の場で落札候補者である最低価格がA社であったのに,B社を落札候補者と発表され,入札会場を退出した2時間以上後になって,広島市教育委員会総務部学事課Y課長よりA社であると訂正の連絡があり,調査基準価格を下回り低価格入札に該当するという理由で保留した最低価格入札者であるA社に対して,委託業務低入札価格報告を求め,A社は運送業務に係る道路運送法上の本件に関する運賃計算に違法性のない点を同法を主管する国土交通省中国運輸局首席運輸企画専門官に精査を受け,問題のないことを確認して,広島市長宛に委託業務低入札価格報告書(「証拠5号」及び「証拠8号」)を令和元年8月5日に提出した。

 また,令和元年9月3日に,広島市教育委員会総務部学事課Z課長補佐から「(その1)の早稲田コースのみ落札にする。(その2)の温品コースは厳しい」と指摘されたので,「運行時間については未来予測的なところもあるので時間の多い少ないの議論は出来ないのではないか」と回答しておいた。

 A社は,広島市長宛に提出した委託業務低入札価格報告書(「証拠5号」及び「証拠8号」)について,各号証の2頁目の「項目別調査票(1)」の各々1枚目を提出した。ところが,令和元年9月9日に運送時間について明確にするようとのことであったので,各号証の「項目別調査票(1)」の2枚目に各所要時間を加筆して提出した。

 令和元年9月30日,A社としては保留とされてから2ヶ月を経過しようとしていたことから,Z課長補佐へ出向いて伺ったところ,Z課長補佐からは「今週,低入札価格審査委員会が開催されるから・・・」ということで,その連絡を待つことにした。

 令和元年11月29日,開札から4ヶ月を経過せんとした時に,Z課長補佐から電話がかかり「1コース(その1),2コース(その2)共に,A社を落札者としないので,ホームページの電子入札(欄)で確認してください。A社さんの運送時間では,運賃料金を追加で支払わなければならない可能性があるので・・・」と報告された。

 令和元年11月29日(金曜日)付けにて令和元年8月1日に発注された本件に関する「広島市長 保留通知書」(「証拠6号」及び「証拠9号」)なるものが,「広島市電子調達情報公開システム」に記載され,A社では翌土曜日,日曜日を経た令和元年12月2日の同サイト閲覧により,最低入札価格について8月1日保留の「低入札価格審査委員会」(開催日は不明)により「最低価格入札者を落札者としないことに決定した」と記載され,次順位者について12月2日(月)10時までに低入札価格報告書を求めていることを承知した。

 令和元年12月3日,メールでの回答を要請していたところZ課長補佐から電話があり,「低入札価格審査委員会の協議が終わっていないので何もお答えすることは出来ないし,義務もない」と一方的に話し,「メールでは回答できない,(A社が)落札者ではない事実は変わらない。協議が終わったら学事課に来てほしい」と話した。

 令和元年12月4日に連絡をしますと言いながら,Z課長補佐は連絡をせず,12月5日にY課長から来所の連絡があり,Y課長と運転役の方の2名で12月6日に来所した。

 Y課長は,A社の最低価格では不本意である内容として2時間にわたり,おおよそ下記2項につき説明をした。

1)  運賃の積算額については問題はない。
2)  生徒などの乗降時間を考えると,A社の積算時間では安全面から難しいと判断した。

 A社が反論をした内容については「証拠10号」の「広島市教育委員会Y学事課長の説明会話録」(録音テープを東京の事業者が文字に起こした)を参照されたい(「証拠10号」)。

 また,12月10日の広島市調達情報公開システムの「結果情報」(「証拠11号」)には,次順位者であるB社が落札者として決定されたことが掲載されていた。これで,A社が落札者たり得ないことが明確となった。

 令和元年12月13日,同日付で作成されたY課長からのZ課長補佐の9月3日の言質「(その1)の早稲田コースのみ落札にする。(その2)の温品コースは厳しい」とのことについて,「不適切な発言であったと反省」とする文書がA社宛てに届けられた(証拠12号)。

 A社は,広島市長宛に「広島市政府調達に関する苦情の申し出書」(証拠13号)を作成し広島市長宛に発送した。結果として,令和2年2月3日付けで広島市長からA社に対して「広島市政府調達に関する苦情申立てについて(通知)」文書(「証拠14号」) が,その内容である広島市入札等適正化審議会の広島市長宛の答申書を添えて送付されてきた。「10日以内に苦情申し立てを行う必要があり,12月9日の期日を経過したことにより,申立期限に遅れているので却下」とした。本件についての争点は「生徒などの乗降時間を考えると,A社の積算時間では安全面から難しいと判断した。」ことにつき,この積算時間を検討することについて,どのように考えるかということであるが,A社は(その1)コース及び(その2)コース共に10年以上の間,広島市から受託して運送業務を行っており,一度も安全面での問題を指摘されたことはない(「証拠15号」及び「証拠16号」)。

イ 道路運送法上の運賃・料金と安全性

 広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務は,道路運送法に定める貸切旅客自動車運送業務であり,入札説明書第7項「入札の方法」第(3号)に,「入札参加者は次のとおり契約金額を見積もること」として,(ア)「一般貸切旅客自動車運送事業の運賃料金の変更命令」によること,(イ)「一般貸切旅客自動車運送事業によりスクールバス運送を行う場合における運賃及び料金について」によること,(ウ)「一般貸切旅客自動車運送事業者と旅行事業者等との間で締結する年間契約等に対する取り扱いについて」によることもできること等,(エ)「運賃の割引について,2割引とすること。車種別に計算した額の下限額を下回らないこと。」等が定められている。

 これらの運賃計算(契約金額)の基本となるのは,道路運送法第9条の2第1項に「旅客の運賃及び料金を定め,あらかじめ,国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも同様とする。」と定められており,第2項において同法8条第6項の「第1号 社会的経済的事情に照らして著しく不適切であり,旅客の利益を阻害するおそれがあるものであるとき。」,「第2号 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。」,「第3号他の一般旅客自動車運送事業者(一般旅客自動車運送事業を経営する者をいう。以下同じ。)との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき。」には「当該一般乗合旅客自動車運送事業者に対し,期限を定めてその運賃等又は運賃若しくは料金を変更すべきことを命ずることができる。」の規定を準用することと定めている。

 この届け出運賃は,国土交通省の運賃・料金額(変更命令の審査を必要としない範囲)を公示により,上限額を超え,下限額を下回ってはならないこととされている。そして,その運賃及び料金については「輸送の安全を確保するための貸切バス選定・利用ガイドライン(平成24年6月29日一部改正平成28年12月20日 国土交通省自動車局作成)」の第4項貸切バスの調達に係る入札等における留意点(1)運賃及び料金②貸切バス運賃・料金の計算方法の後段において「各地方運輸局長等が,当該地域の貸切事業者の収支状況等を勘案して,安全コストを加算したキロ制運賃,時間制運賃を公示しています。」と安全コストを含んだものとなっている。

 A社は,先にも記したように「道路運送法上の本件に関する運賃計算に違法性のない点を,同法を主管する国土交通省中国運輸局首席運輸企画専門官に精査を受け,問題のないことを確認」した上で入札金額内訳書を提出している。

 当然のことながら,A社の届け出運賃並びに本件入札の適用運賃は,運賃若しくは料金について変更命令を受けるようなものではない。本件運賃・料金を安全な時間がないという理由で「無効」とした広島市の見解こそが違法・不当なのである。

ウ 広島市のA社の入札に関する違法・不当性

(ア) 令和元年8月1日の最低価格入札者の取り違え

 開札日に,開札担当部署(入札執行役員)のZ課長補佐がB社名を最低価格入札者であると宣言したこと。最低価格がいくらであるかは広島市委託業務低入札価格調査要綱第5条(落札決定の保留)により公表されることはなく,A社の入札価格より下の入札を行った者が居たことを承諾して引き下がったものである。

 しかし,開札部署を退所してからおおよそ2時間経過後になって,広島市からA社の事務所に電話があり,最低価格入札者がA社であることを告げられた。

 この取り違えの事実が,後に落札者となるB社と広島市との談合によるものではないのか,という疑念を生じさせたのである。

(イ) 令和元年8月5日の委託業務低入札価格報告書と公告の不存在

 A社では,広島市から要請された委託業務低入札価格報告書を提出したが,広島市委託業務低入札価格調査要綱第2条第3項に定める公告を知らない。特に,同項第⑶号の「落札者の決定方法」が明らかであるときには行い得た「広島市政府調達に関する苦情の申し出」(証拠13号・14号)も時宜を得たものとなったと考える。

(ウ)  令和元年9月9日の1コースのみの落札通告の不当性

 (「証拠12号」のY課長の文書では9月3日となっているが,A社の記録では9月9日)学事課でZ課長補佐から「1コース早稲田のみ落札にする。2コースの温品はきびしい」と告げられた。この1コース(早稲田)及び2コース(温品)ともにA社が過去10年あまり運行してきた実績があり,時間配分にしても経験則から申し分ないと判断していたのであり,通告された内容について異議を述べた。

(エ) 令和元年8月1日より令和元年11月29日までの遅滞行為

 広島市側は本件入札の開札時においては,予定入札価格や課税基準価格は決定されており,その決定過程において運賃・料金の定め方すなわち1キロメートル当たり運賃や1時間あたり運賃等々については把握されていたものであり,低価格入札の際の低入札価格審査委員会の開催は期日を開けずに開催も可能であった(令和元年11月29日の「広島市長保留通知書」では,10日以内に開催されている。)。

 A社としては,9月にも開催されるだろうと結果を待っていたのに,約4ヶ月も待たされた挙げ句の果ての「無効」通知なのである。公平な取り扱いからは甚だしく逸脱している。

(オ)  令和元年11月29日の本件に関する「広島市長 保留通知書」(「証拠6号」及び「証拠9号」)と10日間の苦情申立期限

 広島市の担当部局(教育委員会学事課)は,11月29日の「保留通知書」の提出後,A社に対して積極的にアプローチをし,12月6日にはY課長がA社事務所まで訪れたのである。そして,来所時に約束した文書送付を12月13日に行い,Z課長補佐の「不適切な発言」(Y課長の記述から)を認めたのであるが,これらの行為は「広島市政府調達に関する苦情の申し出期限」を意識して行われたものに相違なく,期限後には何らの連絡もしていない。

エ 違法・不当な公金支出の額

 広島市長は,A社が道路運送に基づく運賃・料金を適法に算出して入札をしていたにもかかわらず,歪曲をして低入札価格審査委員会に報告し,その決定を得たものである。なお,入札後の開札から4ヶ月あまりの間の契約担当部局である学事課の対応も正当な手続きを得ていたものとはとても考えられない。

 広島市長が広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務(その1)及び(その2)の業務につき,A社が行った入札額を是として落札者として決定していたなら,次順位者をして落札者として決定した額との差額12,827,757円の違法・不当な公金支出を免れていたのである。

オ 広島特別支援学校の落札価格はすべて調査基準価格より下限

 広島市立広島特別支援学校のコースは24コースある。そのすべてが低入札(「証拠17」)であり,平均すれば約70%であり,A社が特別に低価格というわけではない。

 

2 求める措置

 監査委員は市長に対し,広島市に与えた損害を賠償するか,次順位者との契約を解除し,改めて入札を実施するかの措置を求める。

 以上,地方自治法第242条第1項の規定により,別紙事実証明書を添え,必要な措置を求めます。併せて,同法252条の43第1項の規定により,当該請求に係る監査について,監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によることを求めます。

 個別外部監査契約に基づく監査を求めるのは,低入札価格審査委員会の結論が不当であった点(市職員の誘導)に鑑みて,個別外部監査委員による監査が必要と判断した。

 

 (事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが,添付を省略する。)

証拠1号 令和元年6月21日,広島市作成の「入札公告」の写し

証拠2号 広島市作成の「入札説明書」の写し

証拠3号 広島市作成の「仕様書」の写し

証拠4号 令和元年7月31日,A社作成の広島市長宛「入札金額内訳書(委託業務)業務名:広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務(その1)」の写し

証拠5号 令和元年8月5日,A社作成の広島市長宛業務(その1)の「委託業務低入札価格報告書」の写し

証拠6号 令和元年11月29日,広島市長作成の業務名(その1)「広島市長保留通知書」の写し

証拠7号 令和元年7月31日,A社作成の広島市長宛「入札金額内訳書(委託業務)業務名:広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務(その2)」の写し

証拠8号 令和元年8月5日,A社作成の広島市長宛業務(その2)の「委託業務低入札価格報告書」の写し

証拠9号 令和元年11月29日,広島市長作成の業務名(その2)「広島市長保留通知書」の写し

証拠10号 令和元年12月6日,広島市教育委員会Y学事課長のA社代表取締役Xへの説明会話記録

証拠11号 広島市入札HP「広島市委託結果一覧」と「結果詳細」の写し

証拠12号 令和元年12月13日,広島市教育委員会学事課長Y作成のA社Xに対する回答書の写し

証拠13号 令和元年12月13日,A社作成の広島市長に対する「広島市政府調達に関する苦情の申し出書」の写し

証拠14号 令和2年2月3日,広島市長からA社への「広島市政府調達に関する苦情申立てについて(通知)」の写し

証拠15号 平成26年3月10日付け広島市長とA社との「委託契約書」(総価契約)の写し

証拠16号 平成31年4月1日付け広島市長とA社との「委託契約書」(総価契約)の写し

証拠17号 広島市立特別支援学校入札・落札者調査基準価格等一覧表

 

第2 請求の受理

 本件措置請求は,地方自治法第242条第1項の所定の要件を具備するものと認め,令和2年4月30日に,同月14日付けでこれを受理することを決定した。

 

第3 個別外部監査契約に基づく監査によることが相当であると認められない理由(広島市長に地方自治法第252条の43第2項前段の規定による通知を行わなかった理由)

 請求人は,本件措置請求による監査について,地方自治法第252条の43第1項の規定により,監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によることを求めているが,監査委員は,市長から独立して監査を行う機関であり,常に公正不偏の態度を保持して監査をしなければならないとされていることから,公正な監査ができないとはいえないため,請求人の個別外部監査の請求は相当とは認められない。

第4 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述

 地方自治法第242条第7項の規定に基づき,令和2年5月19日に請求人に対し証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ,請求人の都合により中止となった。なお,新たな証拠の提出はなかった。

 

2 広島市長の意見書の提出及び陳述

 広島市長に対し,意見書及び関係書類等の提出を求めたところ,令和2年5月19日付け広教総学第11号により意見書が提出された。なお,陳述は行わなかった。
 意見書の内容は,以下のとおりである。

⑴ 本市の意見

 請求人の主張には理由がないため,本件住民監査請求は棄却されるべきである。

⑵ 棄却を求める理由

 本件入札は,適正に行われている。よって,違法又は不当な公金が支出されることはなく,本市に何ら損害を発生させるものではない。その理由は以下のとおりである。

ア A社を落札者としないことについて

 A社を落札者としなかったのは,A社が,低入札価格調査基準価格を大きく下回る価格で入札し,令和元年11月27日に開催された広島市教育委員会委託業務低入札価格審査委員会(以下「委員会」という。)において,当該価格での履行が困難であると認められたためである。

 本件広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務においては,乗客が障害を有する児童等であることから,乗車介助が必要である等,健常者を乗客とする場合よりも,輸送に時間がかかることは明白である。

 平成26年度から平成31年度の6年間にわたり,受注者として本件業務を請け負っているA社は,その実態を十分理解しているはずであるが,障害を有する児童等の乗降時間等を加算することなく運行時間を算出し,その時間に,中国運輸局が示している「一般貸切旅客自動車運送事業の変更命令の審査を必要としない運賃・料金の額の範囲」の下限額を乗じた価格で応札している。そのために,低入札価格調査基準価格とA社の応札価格には差が生じており,委員会において安全な輸送ができないと判断されたことについて,本市が令和元年12月6日にA社の事務所で説明している。

 これに対し,A社は,加算すべき時間を明記していないのは,仕様書の不備であると主張している。

 しかしながら,仕様書には,「受注者は,乗車する児童等の障害等について正しく理解したうえで,運転者に対し,次に掲げる事項を遵守させるものとする。」と記載し,「児童等は,情緒が不安定な場合があるので,その行動には常に気を配ること。」,「児童等の中には,言葉での意思疎通を行うまでに至らない者もおり,お互いに信頼関係を築き,行動の予測や要望の理解ができるよう努めること。」及び「児童等に対しては,教育の場にふさわしい態度をもって接すること。」を挙げている(2業務実施上の留意事項 ⑵児童等についての理解ア~ウ)。

 なお,本契約は,超過時間が発生した場合にはその料金を本市が負担するという内容になっており,受注者が算出した運行時間を超過することがあっても,受注者には不利益がない。

 以下,A社が入札したコース別に,A社が積算した走行時間では,特別支援学校の児童等に対する安全確実な輸送(仕様書 1業務内容)が不可能であり,恒常的に超過料金が発生すると判断した根拠について述べる。

 ただし,乗客が1人増えた際の増加時間数の積算等,今後の入札事務に影響がある事項については,やむを得ず割愛する。

(ア)  早稲田コースについて

 平成30年度の月別走行時間実績は,平均7時間であり,A社の積算による走行時間6時間を超過している。

 平成31年度の月別走行時間実績は平均6時間であるが,詳述すれば,6時間29分かかっており,30分単位で切り上げ又は切り下げを行うことから,切り下げにより平均6時間になっているに過ぎず,1月当たり1分超過すれば,切り上げにより平均7時間になる。

 令和2年度からは,乗車する児童等の人数が,平成30年度及び平成31年度の平均人数16名から10名増加し,26名になる予定で仕様書を作成している。

 よって,令和2年度は,平均7時間を上回るのは確実であり,A社の積算である6時間の走行時間では足りない。

(イ)  温品コースについて

 平成30年度及び平成31年度の月別走行時間実績は平均6時間であり,A社の積算による走行時間5時間を超過している。

 また,本コースにおいても,令和2年度の乗車人数が,平成30年度及び平成31年度の平均人数16名から9名増加し,25名になる予定で仕様書を作成している。

 よって,令和2年度は,平均6時間を上回るのは確実であり,5時間の走行時間では足りない。

 

 以上より,両コース共に,実績に基づく低入札価格調査基準価格から著しく低い価格で応札したA社を落札者としないことには合理的な理由があり,適正な履行を確保するために設けられた低入札価格調査制度(地方自治法施行令第167条の10第1項)の趣旨に適うものである。

イ A社の主張に対する反論について

 本件入札に関するA社の主張について,以下のとおり反論する。

(ア)  最低価格入札者の取り違えについて

 令和元年8月1日の開札で,誤ってB社を最低価格入札者とし,その後にA社及びB社に事情を説明したことは事実である。

 しかしながら,これは確認ミスが原因であり,誤りを認知後,直ちに対応している。

 このことで,A社の不利益になることは一切ない。

(イ)  委託業務低入札価格報告書と公告の不存在について

 落札者の決定方法については,令和元年6月21日付け入札公告(4落札者の決定 ⑴落札者の決定方法)及び入札説明書(11落札者の決定 ⑴落札者の決定方法)において明示している。

 また,入札説明書では,入札参加者は,地方自治法,地方自治法施行令,広島市契約規則その他関係法令及び本市の要綱,要領等を承知の上で入札に参加することを求めている(13その他 ⑾)。

 なお,広島市政府調達に関する苦情の処理手続に関する要綱についても,本市ホームページで公開されている。

(ウ)  落札通告の不当性について

 令和元年12月13日付けでA社のX代表取締役宛てに送付した文書のとおり,取引しようという意図は全くなく,誤解を生じさせる言い方,言い回しはしていない。

(エ)  保留通知書が令和元年11月29日付けで通知されたことについて

 A社を落札者としないことについては,委員会の審査結果に基づくが,委員会に諮問するための準備には時間を要する。

 本件についても,A社に適正な業務履行が可能かどうかを確認するために,広島市立広島特別支援学校への聞き取りを行い,1人当たりの輸送に必要と考えられる時間を積算するなど,検討すべき事項が多く,必要な準備期間であった。

(オ)  広島市政府調達に関する苦情の申し出期限を意識した対応について

 令和元年12月6日に,学事課長のYがA社を訪問したのは,契約担当課及び入札執行課の責任者として,A社のX代表取締役に対面で事情説明することが誠実な対応であると考えたからである。

 (イ)で先述のとおり,広島市政府調達に関する苦情の処理手続に関する要綱は公開されているため,A社は苦情申出期限を知ることができ,本市の対応にかかわらず,期限内に苦情の申し出を行うことは可能であった。

 

 以上より,本件入札に関するA社の主張についてはいずれも失当である。

 

3 監査対象事項

 広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務の入札及び契約締結は,違法又は不当なものか。

 

第5 監査の結果

1 事実関係の確認

 請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類,広島市長から提出された意見書及び関係書類並びに広島市職員への聴き取り調査により,次のとおり確認した。

⑴ 本業務(広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務)

ア 業務内容

 契約の目的である業務は,広島市立広島特別支援学校へ通学する児童生徒を安全確実にバス輸送し,学校教育の円滑な運営に資するため,通学バスを運行するものである。

 本業務は全部で24コースあり,広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務(その1)から広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務(その24)まで分割して発注されている。

 本件措置請求の対象は,早稲田コースの広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務(その1)(以下「(その1)」という。)と,温品コースの広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務(その2)(以下「(その2)」という。)である。

イ 本業務における運行距離,運行時間の考え方

 (ア) 運行距離は,次の表の合計である。

運行時間

(イ) 運行時間は,次の表の合計である。

運行時間

ウ 乗車人数

 仕様書には,介助員2名を含め,車椅子の台数及び運転手を含めない人数が,乗車人数として記載されている。(その1)は26名,(その2)は25名と記載されている。

 なお,前年度の乗車人数の実績については,仕様書に記載がなかった。

⑵ 本入札(広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務に係る一般競争入札)

ア 入札方式

 本入札は,一般競争入札(WTO方式)で行われ,4年間の総価契約である。 

イ 入札金額内訳書の提出

 入札参加者は入札書に記載する金額の算定根拠となった入札金額内訳書を作成し,入札書と同時に提出することとなっている。

 1日当たりの運行経費は,以下のように日車キロ運賃計算額と日車時間運賃計算額の合計によって求められる。キロ単価及び時間単価については,「一般貸切旅客自動車運送事業の運賃・料金の変更命令について」(平成26年3月27日改正,中国運輸局公示第122号)により,上限と下限が定められている。したがって,仮に入札者同士が下限の単価を用いて積算した場合,日車キロ数(1日当たりの運行距離)及び日車時間数(1日当たりの運行時間)を少なく見積もった入札者が有利となる。

 なお,日車キロ数の端数処理については,10キロメートル未満は10キロメートルに切り上げ,日車時間数の端数処理については,30分未満は切り捨て,30分以上は1時間に切り上げる。

(入札金額)一斉下校の月・水・金曜日分と,時差下校の火・木曜日分を別々に積算する。
 a 日車キロ運賃計算額(円)=日車キロ数(km) ×キロ単価(円)
 b 日車時間運賃計算額(円)=日車時間数(時間) ×時間単価(円)
(月・水・金曜日分:1日当たりの運行経費)(a+b)× 80%(学校教育割引)=c
(火・木曜日分  :1日当たりの運行経費)(a+b)× 80%(学校教育割引)=d
(入札金額:4年分) (c×484日)+(d×322日)

ウ 低入札価格調査制度適用案件 

 本件の入札は低入札価格調査制度適用案件であり,調査基準価格が設定されている。

エ 日程

 入札公告:令和元年6月21日
 入札日 :令和元年7月30日から令和元年7月31日まで(電子入札)
 開札日時:(その1) 令和元年8月1日 午前9時15分
      (その2) 令和元年8月1日 午前9時28分

オ 落札結果

 一般競争入札の結果,広島市教育委員会委託業務低入札価格審査委員会(以下「委員会」という。)の審議を経て,落札業者及び落札価格が以下のとおり決定され,A社は無効となった。    

単位:円(消費税及び地方消費税相当額を除く)
区分 予定価格 調査基準価格 A社入札額 B社入札額
(低入札落札決定)
(その1) 52,277,160 44,324,497 低入札価格調査で無効となったため非公表 33,488,592
(その2) 53,703,779 45,445,078 30,843,413

カ 契約締結

 契約書により落札者の契約額を以下のとおり確認し,事実証明書の入札金額内訳書によりA社の入札額と比較した。

 その結果,請求人は12,827,757円を違法・不当な公金支出と主張しているが,これは消費税及び地方消費税等相当額を除く入札金額の差額であり,正しくは,消費税及び地方消費税等相当額込の契約金額の差額である,14,110,533円であると判明した。

単位:円(消費税及び地方消費税相当額を除く)
区分 契約額 契約日 契約者
(その1) 36,837,451 令和元年12月16日 B社
(その2) 33,927,754

⑶ 広島市による本件低入札価格調査の審査

ア 低入札価格調査制度

 低入札価格調査制度とは,地方自治法施行令第167条の10第1項に基づき一般競争入札により工事又は製造その他についての請負の契約を締結しようとする場合において,予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって申込みをした者の当該申込みに係る価格によってはその者により当該契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認めるとき,又はその者と契約を締結することが公正な取引の秩序を乱すこととなるおそれがあって著しく不適当であると認めるときは,その者を落札者とせず,予定価格の制限の範囲内の価格をもって申込みをした他の者のうち,最低の価格をもって申込みをした者を落札者とすることができる制度である。

イ 本入札の低入札価格調査

 入札の結果,全てのコースについて調査基準価格を下回る入札となったため,落札者の決定が保留され,当該契約に適合した履行がなされるか検証されることとなった。この検証を行うため,最低価格入札者に,入札書に対応した積算内容の詳細を示した委託業務低入札価格報告書を提出させた。

 広島市は,提出された委託業務低入札価格報告書により,入札書に対応した積算内容の詳細を確認した。

 そこには,入札金額の根拠として,運行コースを輸送及び回送に区分し,それぞれに要する距離及び時間が記載されていた。

ウ 広島市による運行時間の検証

 A社の積算した運行時間で輸送が行えるか否か疑義が生じたため,広島市は運行時間の検証を行った。この検証は委員会に諮られた。

(その1)

 平成30年度の月別運行時間実績は,A社の積算による運行時間を超過している。また,平成31年度の月別運行時間実績はA社の積算による運行時間を超過していないが,令和2年度の乗車人数は平成31年度の平均乗車人数と比較して10名増加予定であり,実績から推計した増加時間を加算すると,A社の積算による運行時間を超過する。

(その2)

 平成30年度及び平成31年度の月別運行時間実績は,A社の積算による運行時間を超過している。

 なお,(その1),(その2)以外の入札では,入札金額内訳書の運行時間が,昨年度の契約時間と比較して,極端に短縮されていないため,実績と比較した詳細な調査まではされていないことを,聴き取りにより確認した。

エ 委員会の審議結果

 委員会は,上記ウの検証結果を踏まえ,A社の積算した運行時間では,児童生徒を安全にバス輸送することは困難であると判断した。

 

2 監査委員による検証等

⑴ 業務実施の確認

 業務ごとに,広島市立広島特別支援学校児童生徒輸送業務に係る業務実施報告書が提出されていることを確認した。この報告書には,輸送時間と乗車人数の実績値が記録され,検査員(広島特別支援学校長)による検査を経て,1か月ごとに広島市に報告書が提出されていることを確認した。

⑵ 委員会で審議した運行時間の検証

 委員会における審議に使用された広島市の積算時間は,平成30年度及び平成31年度9月までについては,実績値を使用し,平成31年度10月から3月までについては,推計した数値を使用していた。その積算方法と積算根拠資料となる業務実施報告書を抽出により確認した。

 さらに,(その1)では,実績値だけでなく,児童生徒の10人増加を踏まえた輸送時間推計値を,A社を無効とした根拠としていたため,その積算方法を確認した。

 また,積算方法が妥当であるかを確認するため,登下校時においてそれぞれ複数の異なる乗車人数での時間差の比較検証を行った。

 検証の結果,広島市の積算する1人当たりの増加時間が若干過分に積算されている部分が見受けられたが,その数値は落札者の決定に影響はなかった。

⑶ その他確認した事項

ア (その1)について,8月1日開札時に最低価格入札者を誤って発表した経緯を,関係職員から聴取した。

 開札の際,入札金額内訳書を別室で印刷した学事課職員が最低入札価格でないB社の入札金額内訳書を誤って開札担当のZ課長補佐に手渡ししたため,B社を最低入札価格者として誤って発表したものであり,当日のうちには,誤りに気が付き正当な保留通知書を電子入札システムで送付し電話連絡したことを確認した。

 適切とはいえない事務ではあるが,単純な確認の誤りで,恣意的なものではないことを確認しており,A社が無効となった結果との因果関係は確認できなかった。

イ 9月3日にZ課長補佐が,最低価格入札者に(その1)は落札可能で,(その2)は落札が困難である旨低入札価格調査の見込みを伝えた経緯を聴取した。

 この件に関しては事実証明書証拠12号の学事課長の文書にあるように,低入札価格調査の検証の途中段階で見込みを伝えたことは,相手に,その結果を推測させ,「取引を持ちかけられた」と思わせるような発言であった。

ウ 低入札価格調査に相当な期間を要した点については,関係職員から経緯の説明を受け,関係書類を確認し時系列整理を行った。

 A社が低入札価格報告書を8月5日に提出してから11月29日に保留通知で無効になったことが通知されるまで3か月以上要していた。

 広島市は意見書で委員会に諮問するためには,輸送時間の積算など検討事項が多く,必要な準備期間であると述べている。

 しかし広島市委託業務低入札価格調査要綱第6条では,低入札価格調査は速やかに実施することが定められており,他のコースの(その3)~(その24)の入札は開札から委員会に諮問するまで8日間で実施していることからしても,時間がかかりすぎていた。

 

3 判断

 地方自治法施行令第167条の10第1項では,一般競争入札において最低価格の入札者以外の者を落札者とすることができる場合として,「当該申込みに係る価格によつてはその者により当該契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認めるときは,その者を落札者とせず,予定価格の制限の範囲内の価格をもつて申込みをした他の者のうち,最低の価格をもつて申込みをした者を落札者とすることができる。」とされている。

 本件の低入札価格調査において発注者たる広島市は,これまでの運行の実績等を踏まえ,最低価格入札者から提出された低入札価格報告書の積算による所要時間では,安全面において契約の内容に適合した履行がなされないおそれがあると判断し,この者を落札者とせず,次順位価格入札者と契約した。

 これに対して請求人はその大要,本件契約では,入札の積算に当たり,どのような時間をみるべきか仕様書に記載されておらず,仕様書に記載されていない実績を基準にして安全な輸送ができないという理由でその入札者を落札者としなかったことは違法又は不当であると主張している。

 その主張について広島市は,A社を落札者としなかったのは,A社が,低入札価格調査基準価格を大きく下回る価格で入札し,委員会において,当該価格での履行が困難であると認められたためであり,本件入札は,適正に行われていると主張する。

 そもそも,本件業務内容は,その業務内容として広島市立広島特別支援学校へ通学する児童生徒を安全確実にバス輸送するということが本業務の仕様書に示されているように,本件契約は,児童生徒を安全に輸送する目的で行う,請負契約であると認められる。

 これを踏まえると,広島市が,契約の相手方を決定するに当たり,安全に輸送するために最低限必要となる運行時間であるか否かを審査することは,契約当事者として当然のことであり,その際,運行時間の実績を基に審査することは合理的である。

 また,本件の低入札価格調査における発注者の判断について,監査委員が関係書類等を調査し,関係職員からの説明聴取を行うとともに,積算根拠資料を精査したところ,広島市において運行増加時間を若干過分に積算した部分が見受けられるものの,落札者の決定に影響を与えるほどではなく,その他は,監査委員が監査した限りにおいて,違法又は不当な契約事務は確認できなかった。

 よって,広島市が,運行時間の実績を基にした積算により低入札価格調査の適否を判断したことは違法又は不当とはいえない。

 

4 結論

 以上のとおり,本件措置請求については,請求人の主張に理由がないことから,これを棄却する。

 

第6 意見

 今回の委託契約の締結に関する監査を通じ,入札に係る事務処理について,広島市長に対して,以下のとおり意見を述べる。

 本件の入札の執行に当たっては,先に述べたように,開札時における最低価格入札者の発表誤りなど必ずしも適切とはいえない対応が見受けられた。

 今後は,このようなことがないよう十分留意し,適切な入札の執行に努められたい。