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「重症熱性血小板減少症候群」は、近年になってその存在が知られるようになったダニ媒介性の新しい感染症です。2009年中国で原因不明の疾患が集団発生したことで本感染症の存在が明らかとなり、2011年に原因ウイルスである新しいウイルス(SFTSウイルス)が確認されました。主な症状は発熱と消化器症状で、重症化し、死亡することもあります。
日本国内では2013年1月に初めて重症熱性血小板減少症候群による感染症患者が報告され、それ以降他にも患者が確認されるようになりました。日本で見つかったSFTSウイルスは、中国の流行地域で見つかっているウイルスとは遺伝子レベルで若干異なっていることから、患者はいずれも国内で感染したと考えられています。また、SFTSウイルス自体は、以前から国内に存在していたと考えられます。SFTSウイルスを媒介すると考えられるマダニ類は全国に分布するので、全国どこにおいても発生し得る感染症と考えられます。
なお、重症熱性血小板減少症候群は、2013年3月4日をもって新たに感染症法の四類感染症全数把握対象疾患に追加されました。
感染症発生動向調査では228人のSFTS患者が、西日本を中心とした21府県から報告されています。発症時期は5月~8月が多くなっています(2016年12月28日現在)。
また、広島市においても、2015年に5人、2016年に2人(2013、2014、2017年は報告なし)のSFTS患者が報告されています。
多くの場合、SFTSウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染しています。
マダニは、食品等に発生するコナダニや衣類や寝具に発生するヒョウヒダニなど、家庭内に生息するダニと種類が異なります。マダニ類は、固い外皮に覆われた比較的大型(吸血前で3~4mm)のダニで、主に森林や草地等の屋外に生息しており、市街地周辺でも見られます。広くアジアやオセアニアに分布しますが、日本でも全国的に分布しています。
これまでのところ、SFTS患者は西日本を中心に発生していますが、これまでに患者が報告された地域以外でもSFTSウイルスを保有したマダニが見つかっています。SFTS患者の発生が確認されていない地域でも注意が必要です。
原因不明の発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が中心です。時に頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸器症状(咳など)、出血症状(紫斑、下血)を起こします。
潜伏期間は、(マダニに咬まれてから)6日~2週間程度です。
なお、患者がマダニに咬まれたことに気がついていなかったり、刺し口が見つからなかったりする場合も多くあります。
多くの場合、SFTSウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染しており、マダニの活動が盛んな春から秋にかけて(4月~11月頃)患者が発生しています。
有効な抗ウイルス薬等の特異的な治療法はなく、対症療法が主体になります。中国では、リバビリンが使用されていますが、効果は確認されていません。
この病気は、多くの場合、SFTSウイルスを保有しているダニに咬まれることによって感染しますから、野外でダニに咬まれないようにすることが最も重要です。特にマダニの活動が盛んな春から秋にかけて注意しましょう。これらの予防方法は、重症熱性血小板減少症候群だけではなく、つつが虫病や日本紅斑熱など、ダニが媒介する他の疾患の予防にも有効です。
なお、現時点では、SFTSウイルスに対して有効なワクチンはありません。