市長コラム 忙中有閑/第47回

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広島市長 松井一實

市長コラム 忙中有閑(ぼうちゅうゆうかん)

次代を担う若者が自ら行動し平和文化を広めていく

 被爆から80年という節目の年を迎え、被爆者をはじめ戦争を体験した人々の高齢化が進み、戦争の記憶が薄れる中、市民社会が戦争と向き合い平和への思いを新たにすることが重要な課題になってきていると考えています。
 市では、こうした課題に対応し、次代を担う若者たちに被爆者の体験や平和への願いがしっかりと伝わり、確実に継承されるようにしていくため、AIやVRなどのデジタル技術を活用した新たな被爆体験継承の取組を始めました。AIを活用して被爆体験証言者の体験や平和への思いを対話形式で利用者に伝える応答装置の製作や、被爆当時の状況や悲惨さを視覚的に追体験できるVRゴーグルの活用など、テクノロジーを使って疑似体験できるようにすることで被爆の実相を的確に後世に伝えることができるようにしています。
 また、次代を担う若者たちが経験していない出来事であっても、自らのこととして実感できるようにすることで、平和についての学習を深めることができます。そうした観点から今年の4月から5月にかけて開催された第11回NPT再検討会議第3回準備委員会に、広島県内の高校生8名を平和首長会議ユースとして派遣しました。彼らと現地で多くの日程を共にする中で、次代を担う若者が国際社会の一員として主体的に学び、貢献できる絶好の機会になっているなと感じたところです。
 また、今年からは、全国の自治体の若者が平和記念式典に参列するとともに平和学習プログラムに参加できるよう、派遣経費を支援する取組を開始するとともに、平和記念資料館にこども向けの展示や学習スペースを新たに設けるための整備に着手したところです。
 こうした取組は市が進めている「平和文化」の振興にも資するものです。平和とは、あらゆる暴力がなく人々がポジティブな気持ちになることができる生活環境が整っている状態であり、平和文化とは、そうした生活環境を作り上げていくために不可欠となる人々の活動とその成果であるといえます。このように考え、市では令和3年から11月を「平和文化月間」と定め、この期間には、文化芸術活動の展示・発表やスポーツなどを通じた交流イベントなど、平和文化への思いの共有につながる様々な取組を集中的に行っています。次代を担う若者たちには平和についての学習を深めたうえで、こうしたイベントに参加し、多くの人々との交流を通じて平和意識を醸成するきっかけとしていただき、自分たちが日常生活の中でできることを見つけ、自ら行動することを始めてほしいと思います。被爆の悲惨さを知ったうえで、今の平和へ思いを巡らせることができる、そうした平和文化への思いや行動が着実に広がっていくことで、核兵器廃絶への思いが市民社会の総意につながっていくものと信じています。

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