「一人一人、“普通”は違う。介護される人にとっての普通に合わせて接すること、それが“介護”」。中学校の体育館で小気味よく話す講師に、生徒らの真っすぐな視線が集まります。
「例えば、隣の人の消しゴムが落ちたら拾ってあげるでしょう。それも介護の入り口なんだよ。君たちのごく身近にもできることがあふれているんだ」。
出前授業で熱く訴えるのは、県介護福祉士会会長の吉岡俊昭さん(43・上写真)。施設の介護職員時代に出会った入所者やその家族とのさまざまなエピソードを紹介しながら、認知症の人との接し方や介護職としての誇り、若い世代へのメッセージを熱く語ります。その言葉を受け、静かに涙を流す生徒の姿も見られます。
吉岡さんと認知症の施設入所者。一緒に入浴し、入所者の語る思い出話に耳を傾け、気持ちに寄り添うことで、乏しかった表情が笑顔に変わっていったそう
施設の入所者とお花見。後列左から2人目が吉岡さん。「会えなくなる時が必ずくる。離れて暮らす祖父母に5分でも10分でもいいから会いに行って」と生徒らに伝える
出前授業を受ける前の生徒の中には「精神的に大変」「体力がないときつい」など、介護に対して「あまり良いイメージがなかった」という声が多くありました。ところが話を聞いた後には、「人の役に立つ」「自身の成長につながる」といった前向きな捉え方が増え、「介護の仕事や要介護者に対するイメージ、認識が180度変わった」という生徒もいるほど。「自分が学生の時にこの授業を受けたかった」という教員もいました。
「僕の話を持ち帰って、家族でも話し合い、祖父母や親から愛情を受けたことへの感謝や恩返ししたい気持ちが広がっていくとうれしいですね。そして、将来、介護職に就きたいと考える生徒が一人でもいてくれたら」と吉岡さんは話します。