令和3(2021)年に創業70周年を迎えた和菓子を製造・販売する鰍ノしき堂。現在本社工場長を務める當宮さん(57)は「工場の近くの高校に通っていたので、毎朝和菓子のいい匂いを嗅ぎながら通学していたんです。まさか自分がそこに就職するとは思ってもみませんでした」と笑顔を見せます。「高校の先生の勧めで入社したんですよ。入社してすぐは、もみじ饅頭(まんじゅう)の実演販売や、店頭販売の手伝いをしていました。おかげでお客さんや販売員の声を聞く習慣が自然と身に付きましたね」。今も時間がある時は店頭に立ち、現場の声を商品開発に生かしているという當宮さんは、自分の原点をそんな風に振り返ります。
もっちりとした食感が魅力の「生もみじ」。同社で一番人気のある商品です。その開発に当たっても、やはり顧客の声があったとのこと。
「『京都には生八ツ橋があるのに、広島には生もみじ饅頭はないのか』。そんなご意見をもらったことがきっかけです。生の食感をどう表現するかが難しく、餡子(あんこ)をういろう生地で包んでみるなど、いろいろな試行錯誤を重ねました」と、当時の苦労を振り返ります。
完成には約10年の期間を要したとのこと。製法は難しく、今でも日々の精進、努力が欠かせません。「粉の配合と焼きの温度調整が難しく、その日の気温に合わせて粉の配合と焼く温度を調整しなければならないんです。職人にはそれなりの経験と技術が必要になります」。今も製造現場に立つ當宮さんは、厳しい目を走らせます。
顧客の声を積極的に取り入れて商品開発を進めている同社。社内には若いメンバーで構成される製品開発チームがあります。
「やっぱり、若い発想というのかな。にしき堂のお菓子をこの先何百年も愛していただくために、新しいアイデアを積極的に取り入れていきたいと思っています。広島産の旬の食材を使った期間限定商品なども増やしていきたいですね」と當宮さん。最近では、このチームが考案し、一部店舗で販売中のあずきソフトクリームが好評とのことです。
伝統と歴史ある和菓子をベースに、新しい商品を積極的に開発していく當宮さん。その原点はどこまでいっても現場と顧客の声にあります。
生地に広島県産の米粉を使用し、もちもちとした食感が特徴です。2021年に「ザ・広島ブランド 味わいの一品」に認定されました(写真は10個入り)。他にも、「もみじ饅頭」、「新・平家物語」が現在までに味わいの一品として認定されています。