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平和宣言
広島に原子爆弾が投下せられてから、すでに15年の歳月が流れた。
あの日、広島市は一瞬にして焦土と化し、無数の生命を失ったが、その惨禍の中からかろうじて生き残った者の心の底に深く根ざしたものは、戦争への強い憎しみと、それをふたたび繰返してはならないという固い決意とであった。
爾来、われわれは、あらゆる機会を通じて、懸命にそのことを訴え続けてきた。
しかるに、最近核兵器の研究と生産はますます進み、国際情勢もまた極度の緊張を加えつつあることは、まことに憂慮にたえない。
今や人々は、原子戦争は勝利の見込みのない戦争であって、それは全人類の自滅を意味するものであることを深く認識しなければならない。
われわれは、すべての民族すべての国家が、人類連帯の精神に立って、小異をすてて大同につき、核兵器の禁止と戦争の完全放棄をなし遂げ、共栄共存のための新しい世界秩序を打ち立てることこそ、喫緊の要務であることを確信するものである。
本日、ここに思い出もあらたに原爆死没者の霊を弔うにあたり、重ねてこれを広く世界に宣言する。
1960年(昭和35年)8月6日
広島市長 浜井 信三