本文
ロシア連邦大統領
ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン 閣下
抗議文
貴殿が、5月10日の連邦議会に対する年次報告演説において、今後5年間で長距離爆撃機や潜水艦、ミサイル発射装置という陸海空における核戦力の強化を目指すと明言したとの報に接した。
こうした貴国の姿勢は、被爆者をはじめ核兵器廃絶を求める世界の人々の願いを踏みにじるものであり、激しい憤りを覚える。被爆地ヒロシマを代表し、厳重に抗議する。
世界は今、核兵器の新たな拡散と使用の危機に瀕している。核の危険を減らすためには、核超大国である貴国が、核不拡散・廃絶に向けたリーダーシップを発揮することが不可欠である。にもかかわらず、「力の支配」を強行に推し進める米国の核政策に追随し、核戦力を強化しようとする貴国の行動は、核不拡散条約(NPT)で各締約国に課せられている核軍縮の義務や、国際司法裁判所の勧告的意見で述べられている「厳重かつ効果的な国際管理の下で、核軍備撤廃を全面的に実現する交渉を誠実に行い、かつ妥結に至らしめる責務」に反するものである。
現在、世界1,326都市で構成する平和市長会議は2020年までの核兵器廃絶を目指す「核兵器廃絶のための緊急行動」に取り組んでおり、全米市長会議、全米黒人市長会議、欧州議会、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)等が賛同決議を行うなど、世界的に賛同の輪が広がっている。貴国が、こうした核兵器の廃絶を望む世界の圧倒的多数の市民の声を誠実に受け止め、新たな「暴力と報復の連鎖」を生み出すことのないよう、また、核超大国として、核兵器のない平和な21世紀の実現に向け真摯に力を尽くすよう強く要請する。
広島の悲劇は、単に歴史的事実にとどまるものではなく、核戦争による人類滅亡を予見するものである。その悲劇を身をもって体験した広島市民は、原爆被害の実相を認識することから平和への取組みが始まると信じている。貴殿が広島を訪れ、核戦争の現実を直視し、広島・長崎の記憶と声、祈りを真摯に受け止められることをあらためて要請する。
2006年5月23日
広島市長 秋葉 忠利