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平和宣言
本日われわれは広島市被爆11周年を迎えるに当り、多くの原爆死没者のねむるこの慰霊碑の前に静かに頭を垂れ、謹んで諸霊を弔うとともに、恒久平和確立の悲願を重ねて世界に訴えるものである。
凄惨を極めたあの運命の日の体験に基いて、「広島の悲劇をくりかえすな」と叫びつづけてきたわれわれの声に応じ、今日漸く世界各地より共鳴と激励が数多く寄せられ、原水爆禁止運動は次第に力強い支持を得ており、ひいては、永く充分な医療も受け得ず相次いで斃れて行きつつあった被爆生存者に対する救援も漸次軌道に乗りつつあることは、われわれに新たな勇気を与えるものである。
しかしながら原子力の解放が一方に於て人類に無限に豊かな生活を約束する反面、その恐るべき破壊力は人類の存続を根本からおびやかしている。
人間が自滅の道を捨て、繁栄の道につくことを決断するには、なお、真に平和を認識し、これを追求する者の絶大な努力を要するであろう。われわれはこの重大な決意のなされる日まで、われわれの体験を教える所をくりかえし宣べ伝え、自らも世界平和樹立の礎石となることを誓うものである。
1956年(昭和31年)8月6日
広島市長 渡辺 忠雄