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平和宣言
本日、わたくしたちは、原爆20周年を迎えた。
わたくしたちは、あの原爆の惨禍によって従来の戦争観を一変しなければならないことを知った。原子力時代の戦争は、敵味方の区別なく、人類自体を破滅に導く行為以外の何ものでもなくなったのである。原子爆弾は、単に、それが残虐非道なる恐るべき破壊兵器であるというだけでなく、その放射能は、長期にわたって人体をむしばみ、ついには地球そのものをも人間の生存を許さないものとすることが明らかになったからである。
わたくしたち広島市民が「原水爆の禁止」と「戦争の完全放棄」を強く叫び続けているのもそのためである。
しかるに、この20年の間に、核兵器は質量ともに異常な発達を遂げ、これが保有国も漸次その数を増して、事態をいよいよ混乱させているばかりでなく、ベトナムを初め世界各所において、大いなる危険を冒しつつ武力抗争が繰り返されていることは真に憂慮に堪えない。思えば、人類が現在以上の危機に直面したことはいまだかつてなかったであろう。
かかる観点よりすれば、今やすべての国家、すべての民族が、事態の重要性を深く認識し、一切の行きがかりを捨てて、人類の破滅防止のために全努力を傾注することこそが喫緊の要務であることを確信するものである。
本日、再び原爆犠牲者の霊を弔うにあたり重ねてこのことを全世界に訴える。
1965年(昭和40年)8月6日
広島市長 浜井 信三