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平和宣言
この世の中で平和ほど尊いものはない。
われわれ広島市民は、悲惨な被爆の体験に基づいて、30有余年の間、核兵器の廃絶と戦争の放棄を訴え、真の平和を求めつづけてきた。
このヒロシマの願いは、ようやく世界の良心を動かし、本年5月、国連加盟149か国による史上初の軍縮特別総会が開催された。
広島市長は、長崎市長とともに、両市民を代表してこの軍縮特別総会に列席し、あわせて国連本部で画期的な「ヒロシマ・ナガサキ原爆写真展」を実現した。この写真展は、被爆の実相を生々しく再現し、国連加盟国代表はもちろん、国連を訪れた人びとに大きな衝撃を与えた。
今回の軍縮特別総会では、全面的かつ完全な軍縮を究極の目標とし、この目標を達成するため国連全加盟国で構成する新しい軍縮機構の設置を取り決めた。その意義はまことに大きい。
しかしながら、米・ソをはじめとする核大国は、依然として核実験をつづけ、恐るべき新兵器の開発に没頭している。破壊兵器の大量蓄積とその配備競争は、今や人類を先例のない絶滅の脅威にさらしている。
真の平和は、兵器の蓄積の上には断じて確立され得ない。
国家間の不信に根ざし、混迷をつづける国際政治の潮流は、イデオロギーを越えた良識ある国際世論の結集によって、変革されなければならない。
いまこそ唯一の被爆国であるわが国は、国際社会における平和の先覚者として国際世論の喚起に努め、核兵器の廃絶と戦争放棄への国際的合意の達成を目ざして、全精力を傾注すべきときである。
世界の人びとは、国家や民族の垣根を乗り越え、進んで人類共存と連帯の精神に基づく新しい世界秩序の創造に向かって、英知を結集しなければならない。これこそ真の平和を確立する道であり、ヒロシマの変わらざる願いである。
本日、被爆33年の記念日を迎え、つつしんで原爆犠牲者の御霊を弔うにあたり、全市民の名においてこのことを強く内外に宣言する。
1978年(昭和53年)8月6日
広島市長 荒木 武