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平和宣言
平和を求め、ヒロシマは語り、ヒロシマは訴え続けなければならない。
8月6日の灼熱の閃光以来、ヒロシマは、恒久の平和を悲願として、世界の人びとに核兵器の廃絶と戦争の完全否定を訴え続けて来た。
もとより、今日まで、世界では数多くの平和への努力が試みられている。特に、国際連合は、昨年、史上初の軍縮特別総会を開催し、核兵器の廃絶を究極の目標とした軍備の縮小をめざし、その第一歩を踏み出した。さらにこれに応えて、軍縮委員会は、英知を結集し、3年後の軍縮特別総会に向かって討議を続けている。
他方、米・ソ両国による戦略兵器制限交渉が持たれ、また、中東における和平交渉が精力的に進められて来た。
こうした努力にもかかわらず、国際政治の現実は、未だ核戦力を主力とした際限のない軍備拡張競争に明け暮れ、莫大な破壊力を蓄積している。
ヒロシマの抗議を無視した相次ぐ核実験の強行は、新たに放射能被爆の問題を世界的に提起した。これはヒロシマの憂慮が現実のものとなっていることに他ならず、まことに痛憤に堪えない。
すべての核実験はただちに停止し、これ以上新たな被曝者をつくってはならない。
今や、原爆被爆者と放射能被曝者の問題は、世界的課題として緊急な解決を迫られている。この時にあたり、日本政府において、被爆者援護対策の基本理念と制度の見直しが始められたことに、われわれは大きな期待を寄せるものである。
平和とは、単に戦争の防止のみにとどまらず、憎しみを超えた愛と理性に基づき、人類のすべてが共存共栄することである。
おろかにも地球の限りある資源を軍備の拡張に浪費し、飢えと貧困を拡大させている現実を直視しなければならない。
今こそ、ヒロシマの願いに立って歴史の流れをかえ、人類繁栄の礎を築くべき時である。
ここに、原爆の犠牲となられた方々に対し、謹んで哀悼の誠を捧げるとともに、ヒロシマの惨禍を、核時代に生きる人類への警告として厳粛に受けとめ、平和への努力を着実に進めていくことを固く誓うものである。
1979年(昭和54年)8月6日
広島市長 荒木 武