ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ

本文

昭和63年(1988年)

ページ番号:0000009432 更新日:2019年10月21日更新 印刷ページ表示

平和宣言

ヒロシマ—それは、核兵器廃絶を実現し、世界恒久平和を求める人類悲願の象徴である。

43年前の、あの焦熱地獄が、今さらのように脳裡に蘇ってくる。「ヒロシマを再び繰り返すな」—このヒロシマの訴えは、核兵器の恐怖に曝された者の魂の叫びである。

いま、ヒロシマの訴えは世界に広がり、国際世論は、対決から対話へ不信から友好へと、国際政治を変えようとしている。

このたび、米ソ両国において、「中距離核戦力全廃条約」が締結されたことは、人類絶滅の危機から生存の道へと、未来への展望を与えるものであり、包括的核軍縮に向けての歴史的第一歩として評価する。しかし、その量は僅少(わずか)であり、地上はおろか、海洋から宇宙までもが核戦略の場(にわ)となっている現実も見逃すことはできない。

こうしたさ中、第3回国連軍縮特別総会が開催され、広島市長は世界の恒久平和を願う「ヒロシマの心」を強く訴えた。世界平和連帯都市市長会議理事都市の市長も同席した。いまや、「世界平和都市連帯推進計画」は、40か国、228都市の賛同を得、着実なひろがりのもとに、核兵器廃絶に向けて、国際世論醸成の新しい潮流となった。

軍縮総会は、過去最多の政府首脳と非政府組織の代表が参加して行われ、核実験禁止や核不拡散について具体的な議論を尽しながらも、関係国が自国の利害に固執するあまり、世界の包括的軍縮への展望を示す最終文書の採択に至らなかったことは、極めて遺憾である。

ヒロシマは主張する。核兵器廃絶こそが人類生存の最優先課題であり、逡巡は許されない。いまこそ、国連の平和維持機能を強化し、活性化することを各国に強く要請するとともに、今後、国連主催による平和と軍縮の会議が被爆地広島で開催されることを望むものである。

本日、ここ広島において、姉妹・友好都市の青年による「国際平和シンポジウム」を開催し、「ヒロシマの体験」を継承すべく、市民とともに討議する。さらに、来年8月には、「第2回世界平和連帯都市市長会議」を広島・長崎両市で開催し、連帯の絆を強固にする。その10月には、「第9回核戦争防止国際医師会議世界大会」が広島市において開催され、ノーモア・ヒロシマの決意を新たにする。

ヒロシマは、21世紀に向かって、限りない人類未来のために警鐘を打ち鳴らし、世界平和構築のために国際世論の喚起を一層盛り上げる決意である。

ヒロシマはここに改めて訴える。

核実験を全面的に禁止し、核兵器を廃絶することを。

世界の指導者をはじめ、次代を担う青少年が広島を訪れ、被爆の実態を確認することを。

広島に平和と軍縮に関する国際的な研究機関を設置することを。

ヒロシマはまた、飢餓、貧困、人権抑圧、地域紛争等で苦難に喘ぐ人びとに思いをいたし、早急な解決が図られるよう関係諸国に切望してやまない。

日本政府は、日本国憲法に謳う平和理念の現代的意義をふまえ、非核三原則堅持のもとに、世界平和に貢献する積極的な施策を講じるべきである。さらに、長年にわたり求め続けてきた、国家補償の精神に立脚した被爆者援護対策が早期に確立されるよう強く要求するものである。

本日、被爆43周年の8月6日を迎え、謹んで原爆犠牲者の御冥福をお祈りするとともに、世界恒久平和への弛みない努力を固く誓うものである。

1988年(昭和63年)8月6日

広島市長 荒木 武