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道路防災工事請負契約の是正を求める措置請求

ページ番号:0000380746 更新日:2024年4月15日更新 印刷ページ表示

広島市監査公表第6号

令和6年4月15日

 令和6年2月26日付け第1484号で受け付けた広島市職員に関する措置請求について、その監査結果を地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により、別紙のとおり公表する。

                                    広島市監査委員 古 川 智 之 

                                          同 井 戸 陽 子 

                                          同 山 本 昌 宏 

                                          同 平 野 太 祐 

別紙

広 監 第 4 号

令和6年4月15日

請求人

(略)

                                    広島市監査委員 古 川 智 之 

                                          同 井 戸 陽 子 

                                          同 山 本 昌 宏 

                                          同 平 野 太 祐 

 

広島市職員に関する措置請求に係る監査結果について(通知)

 令和6年2月26日付け第1484号で受け付けた広島市職員に関する措置請求(以下「本件措置請求」という。)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第5項の規定により監査を行ったので、その結果を同項の規定により次のとおり通知する。

 

第1 請求の要旨

 請求書の記載内容から、請求の要旨は次のとおりと整理できる。

道路防災工事請負契約の是正を求める措置請求

(1) 監査請求の概要

 「一般国道433号(大古谷)道路防災工事」(以下「本件工事」という。)においては、違法・不当に請負契約の変更が行われていると思料されるため、その是正を求めて監査請求するものである。

 本件工事は、令和5年7月14日に請負契約がなされている。

 本件工事は、佐伯区湯来町大字葛原で、国道433号線の川角トンネルの大古谷側出口付近の落石等を防止するために発注された工事である。

 本件工事は、主目的物である「高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網工」(以下「当該落石防止網工」という。)の施工を設計書、仕様書、設計図面等で明らかにしている。入札に当たっては、その施工を実施することが可能な業者が応札し、落札後には、広島市と工事請負契約を締結して工事目的物を完成させる債務を負う。

 工事に関する受発注者間のやりとりは「工事打合せ簿」で行われている。これは、発注者及び受注者が工事施工状況についてお互いに確認しあい、適正に工事を遂行するために文書として記録して、行き違いをなくすとともに、証拠として残しておくものである。

 工事打合せ簿に添付されている「下請負人に関する事項」及び「技術者台帳」によれば、令和5年7月24日に、「落石防護工・落石予防工・仮設工」を実施する下請業者として、■(会社名非開示)と契約を締結している。

 ところが、令和5年8月17日受注者は工事打合せ簿で「高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の施工に関し、当該製品を扱う企業と下請契約に関する協議・調整が難航しており、当該工法の着手が見通せない状況となっていることから、工法の変更等について協議をお願いします。」という発議をしている。この工事打合せ簿には添付資料がなく、難航しているという経緯は文書で明らかにされていない。

 これは債務が履行できないことを自ら認めるものである。

 このような下請協議は応札前に完了させて入札に臨まなければならないことは落札後に工事請負契約を締結して債務を負うことからも明らかである。

 工事請負契約を締結した後に、下請業者ともめてできないということは理由にならず、できないのであれば、債務不履行にあたる。

 発注者は、この協議を受けるのではなく、受注者ができないというのであれば、債務不履行を理由として契約解除し、再度入札を行うなどして他の業者と契約すべきであった。

 ところが、広島市はこの協議を受理し「高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の施工が可能な他の業者とも下請契約に関する協議・調整を行うこと。」という指示を出した。

 この指示に対して、受注者が、全国に存在する当該工事のできる業者と十分な協議を行ったとは到底思えない。それは、わずか1週間後の令和5年8月24日、受注者が工事打合せ簿で「高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網を扱う他の企業と下請契約に関する協議・調整を行ったところ、年度内の契約は困難との回答があったため協議します。」という内容で広島市と協議を行っているからである。なお、この工事打合せ簿にも回答文書は添付されていない。

 契約締結によって、受注者は債務を負っている。その債務は、自ら施工できないのであれば、全国に存在する施工できる業者から下請業者を選定し、そこと契約して債務を履行しなければならない。

 上記の通り、受注者は、「高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網」の施工ができないということ(債務不履行)を自ら明らかにしており、受注者の責めに帰すべき事由によって中止になったことは明らかである。

 このことから、広島市は、契約解除の手続きに入るべきであったが、同日(令和5年8月24日)、「高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の下請け契約が難航している状況を踏まえ、当該工法の取り止めも含めて対応の検討を行うこと。」と受注者に、実質的に、中止する上での対応を指示している。

 この事実は、工事担当課が、受注者が債務不履行で契約解除になることを避け、意図的に工事の主目的物を削除することによって、受注者の責任を不問にしたことを示している。明らかに違法行為であるから、受注者とどのような関係があって、裁量権を逸脱するこのような行為を行ったのか、真相究明が必要である。

 上記のような経緯のあったのちの、令和5年10月2日に、工事担当課は技術管理課と設計変更に係る事前協議を行った。その協議は同日完了し、「高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の施工を削除することで、技術管理課と合意している。

 どうして、適正に工事が行われることを監理し検査を行う技術管理課が、工事担当課と結託して違法行為の一端を担ったのか、技術管理課長の倫理観が理解できない。

 一連の文書から、不適切な事実関係がよく分かる。

 そもそも、工事担当課が受注者に取り止めを指示した8月24日から1か月以上たった10月2日に技術管理課との事前協議を行ったことは、全く事前協議ではないことを意味している。既成事実を作ったあとで、佐伯区建設部長が泣きつき無理やり合意させたという可能性もあると思われるが、そうであっても、技術管理課長は合意してはいけなかったはずである。

 合意が整った結果、同10月2日、工事担当課は、受注者に対して、2件の指示と1件の通知を出した。

(1) 主目的物である「高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網」の取り止め

(2) 主目的物の取り止めに伴う中間検査の取り止め

(3) 全く別の場所での区画線及び舗装復旧工事の追加

 当該落石防止網工の施工にかかる費用(国庫補助対象)は概ね2,200万円であり、区画線及び舗装工事の施工にかかる費用(市単独費)は、概ね1,900万円である。結局、差し引き約300万円減の変更設計となっている。

 この事実から分かるもう一つのことは、区画線・舗装工事の追加については、設計変更の事前協議が行われていないことである。

 追加工事も併せて事前協議が行われなければならなかったことは明らかであるから、工事担当課は意図的に協議せず、削除分の補填として工事追加を行ったのではないかと推察されるし、それ以外に追加する理由がない。

 広島市建設工事設計変更ガイドライン(以下「当該ガイドライン」という。)には以下の通り記述されている。

 次のいずれかに該当する場合は、民法第513条に規定する契約の更改にあたるため、原則として別途工事として契約することとし、設計変更で対応してはならない。

(ア) 工事の目的を変更するもの

 a 工事内容の同一性がなくなるもの

 b 原契約の工事の範囲を超える部分の工事を追加するもの

(イ) 変更見込額(設計金額ベース)の合計額が、当初の設計金額の3割又は設計金額が3,000万円を超える増額変更を行うもの

 ただし、(ア)又は(イ)に該当するものであっても、現に施工中の工事と分離して施工することが著しく困難なものは設計変更で対応してもやむを得ないものとする。

 工事の主目的である高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網を削除し、その代わりとして舗装工事・区画線工事を追加することは、「工事の目的を変更するもの」であり、「工事内容の同一性がなくなる」とともに、「原契約の工事の範囲を超える部分の工事を追加するもの」となり、設計変更で対応できないものである。

 また、旧道は本件工事と全く違う場所であり、「現に施工中の工事と分離して施工することが著しく困難なもの」ではない。どうしてもこの舗装復旧を行わなければならないのであれば、別途工事で発注しなければならない。

 実際に工事打合せ簿でのやり取りを閲覧すると、その結果として第三者的に考えられることは、そもそも、施工できるとして落札し工事請負契約を締結して債務を負った業者が、そのあとになって下請業者ともめたか何かで、下請業者に施工させようとしていた主目的物である防護網が施工できず、債務不履行となることが確実であったことから、それを避けるために当該工事を削除するよう市に泣きつき、それに応じて市が削除を決め、更に、約2,200万円に及ぶ削除分の補填も求められたため、別の場所の区画線及び舗装工事を追加し、約1,900万円の補填をしたのではないか、という疑いであり、それしか考えようがないのである。

 事実、このような工事目的物の削除とそれを補填する追加工事を、当該ガイドラインに反して行うことは、通常あり得ないことであるから、業者から泣きつかれたり脅されたりした結果ではないかとの憶測が出ても仕方がないと思われる。

 結局、特定業者に利益供与する結果となった今回の工事目的物の削除とそれを補填する追加工事は、その理由が分からないと、第三者の目からは、業者との癒着や、業者から脅された結果ではないかというような重大事案のおそれもあるのではないかとの疑念も出てくることとなる。

 他人の口に戸はたてられず、根拠のない色々な憶測が飛び出すこととなり、好ましいことではない。仮に、市職員が意図的な関与をしているとしたら、市民として座視できないものでもある。

 本件工事の設計変更は、あまりに不可解なものであり、事実関係から解釈すると、様々な疑念が出てくるようになる。

 そのような事実がないなら、業者や市職員は、勝手な憶測がまかり通ることによって社会的地位を低下させるような事態になるおそれがあるので、なぜ違法と考えられる設計変更を行うに至ったのか明らかにすべきである。

 本件設計変更は、違法であるから、以下の2点で、監査の実施が必要である。

(1) 受注した業者が、受注後に施工できないと申し出た場合は、債務不履行にあたることから、広島市は当該契約を直ちに解除するとともに、広島市建設工事請負契約約款第54条第2項第2号(以下「本条第2項第2号」という。)の規定「工事目的物の完成前に、受注者がその債務の履行を拒否し、又は、受注者の責めに帰すべき事由によって受注者の債務について履行不能となったとき。」に基づき請負代金額の10分の1に相当する額を違約金として受注者に請求しなければならない。

(2) 別の場所で行う工事は別途工事としなければならないのに、本件工事に追加したことは、「民法第513条に規定する契約の更改」にあたり許されないとして当該ガイドラインで禁止していることであり、違法であることから、違法に支出した工事費の返却を求める必要がある。

 以上の事から、監査の実施を求める。

(2) 請求の対象となる職員

 広島市長

 佐伯区長

 佐伯区建設部長

 佐伯区地域整備課長

 都市整備局技術管理課長

 財政局工事契約課長

 その他この手続き及び支払いに関係する職員

(3) 損害の推定

 約2,400万円

 うち違約金相当額約500万円

 うち違法に行われた舗装及び区画線工事の額約1,900万円

(4) 請求する措置

 契約を解除すること

 受注者に違約金の支払いを求める事

 違法な追加工事で支出した費用を関係者で支払うこと

 違法な処理をした職員に対する応分の処分を行うこと

 

(事実を証する事実証明書として次の書類が提出されているが、添付を省略する。)

 【事実証明書1】「一般国道433号(大古谷)道路防災工事」の発注状況(広島市調達情報公開システムより)

 【事実証明書2】工事打合せ簿に添付されている「下請負人に関する事項」

 【事実証明書3】工事打合せ簿に添付されている「技術者台帳」

 【事実証明書4】令和5年8月17日受注者発議の工事打合せ簿(下請契約に関する協議・調整が難航)

 【事実証明書5】令和5年8月17日広島市の指示(他の業者と協議・調整を求める)

 【事実証明書6】令和5年8月24日受注者発議工事打合せ簿(他の業者が断る)

 【事実証明書7】令和5年8月24日広島市指示工事打合せ簿(取り止めも含めて対応の検討)

 【事実証明書8】設計変更事前協議書(佐伯区地域整備課→技術管理課)

 【事実証明書9】令和5年10月2日広島市指示工事打合せ簿(防護網設置取り止め)

 【事実証明書10】令和5年10月2日広島市指示工事打合せ簿(中間検査取り止め)

 【事実証明書11】令和5年10月2日広島市指示工事打合せ簿(区画線及び舗装復旧工事の追加)

 【事実証明書12】変更設計書

 【事実証明書13】広島市建設工事設計変更ガイドライン

 

第2 請求の受理

 本件措置請求は、地方自治法第242条第1項の所定の要件を具備するものと認め、令和6年3月5日に、同年2月26日付けでこれを受理することを決定した。

 

第3 監査の実施

1 請求人による証拠の提出及び陳述

 地方自治法第242条第7項の規定に基づき、請求人に対し、証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、請求人から証拠の提出はなく、陳述も行われなかった。

2 広島市長(佐伯区役所農林建設部地域整備課、財政局契約部工事契約課及び都市整備局技術管理課)の意見書の提出

 広島市長に対し、意見書及び関係書類等の提出を求めたところ、令和6年3月12日付け広伯整第923号により意見書が提出された。なお、陳述は行われなかった。

 意見書の主な内容は、次のとおりである。

(1) 本市の意見の趣旨

 請求人が主張しているような債務不履行はなく、また、違法な請負契約の変更は行っていないため、本件措置請求は棄却されるべきである。

(2) 本市の意見の理由

ア 請求人の主張に対する反論について

(ア) 本条第2項第2号の規定による違約金を請求すべきとの主張について

 請求人は、主目的物である当該落石防止網工を本件工事において取り止めたことについて、受注者の責めに帰すべき事由であることから、契約解除するとともに、本条第2項第2号の規定により受注者に違約金を請求しなければならないと主張している。

 本条第2項第2号は、その要件として、「工事目的物の完成前に、受注者がその債務の履行を拒否し、又は、受注者の責めに帰すべき事由によって受注者の債務について履行不能となったとき。」としている。

 本件工事においては、受注者に債務を履行する意思がある中で、受注者は、当初下請させる予定であった高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網を取り扱う企業と下請契約に関する協議・調整を行ったものの、下請契約の調整が整わなかったことから、本市としては、当初下請させる予定であった企業以外とも交渉するよう指示したが、新たに下請を依頼した業者とも調整が整わず、当該落石防止網工の施工開始時期が不透明な状況となった。

 ここで、本件工事の主目的物は、落石防護工である当該落石防止網工及びポケット式落石防止網工のほか、落石予防工であるロープ伏工、小割・除去工等があり、当該落石防止網工は、この内の目的物の1つに過ぎず、当該落石防止網工を除くその他の落石防護工等を速やかに完成させることが、市民の安全の確保を優先する観点からも必要である。

 また、落石を防止し市民の安全を確保するという工事目的を一日でも早く達成する必要がある中で、本件工事の工期を延期することは適切ではなく、仮に、契約を解除して新たに入札手続を行ったとしても、入札不調となった場合は完成時期がなお不透明となり、いずれにせよ先述の工事目的が達成されないままになることが大きく懸念された。

 このため、本市としては、本件工事の工種を精査し、当初予定していた当該落石防止網工を取り止め、本件工事は残りの工種をもって先述の工事目的を達成することとした。

 以上から、本件工事において、受注者は当該落石防止網工の債務の履行を拒否しておらず、また、契約変更後において当該落石防止網工は債務に含まれていないことから債務不履行もない。

 したがって、請求人の主張するように契約解除をする必要はなく、本条第2項第2号を適用して受注者に違約金を請求する必要もない。

(イ) 当該ガイドラインに反した違法な契約変更を行っているとの主張について

 請求人は、本件工事において、一般国道433号の旧道で区画線及び舗装工事の契約変更を行ったことについて、当該ガイドラインにおける「原契約の工事の範囲を超える部分の工事を追加するもの」に当たることから、別途工事として契約すべきものであると主張している。

 しかし、区画線及び舗装工事を行った旧道については、本件工事施工に伴う本線の全面通行止めの際に通行車両等の迂回路として利用させており、旧道についても本件工事の施工区域の一部であると判断していることから、本件工事において施工することは、原契約の工事の範囲を超えるものではなく、契約変更により追加したことは当該ガイドラインに何ら反するものではなく、違法なものではない。

 なお、本件工事において契約変更を行った旧道での区画線及び舗装工事の経緯について、旧道は、自転車・歩行者等の専用道として活用するため、過年度に道路中央線の消去等を行っているが、本件工事の迂回路として利用させたところ、本来の道路中央位置を超えて通行する車両が多発し、重大事故の発生が懸念されたことから、本来の道路中央位置への区画線の復元等を本件工事受注者に指示したものである。

  また、区画線を復元した道路中央位置は、過年度に施工した区画線消去による段差やアスファルト骨材のむき出し状態が生じていたところであり、本件工事完了後の原形復旧に伴う再度の区画線消去により路面状態の更なる劣悪化及び段差の増大が想定され、そうした状態が道路中央に連続的に生じることは、自転車等の安全な通行に大きな支障がでると考えられたため、舗装を打ち換えることにより原形復旧を行うこととしたものである。

 こうした理由により本件工事の契約変更は、当該ガイドラインに基づき、 必要と認められるものを適切に行っており、契約変更は違法という請求人の指摘は当たらない。

(3) 結論

 以上のことから、請求人が主張する内容については、いずれも根拠が認められず、本件措置請求は棄却されるべきである。

3 監査対象事項

(1) 「高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網」が取りやめとなったことについて 

 請求人は、受注者の責めに帰すべき事由により高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網を取りやめたにもかかわらず、受注者との契約を解除せず違約金を請求しなかったことは、違法又は不当な公金の支出及び違法又は不当な契約の締結、履行であると主張していると認められる。

 これを踏まえ、次の点について監査した。

ア 契約を解除しなかったことが、違法又は不当であるか。

イ 受注者に違約金を請求しなかったことが、違法又は不当であるか。

(2) 舗装工事・区画線工事を追加したことについて

 請求人は、別途工事としなければならない舗装工事・区画線工事を本件工事に追加することは、違法又は不当な公金の支出及び違法又は不当な契約の締結、履行であると主張していると認められる。

 これを踏まえ、次の点について監査した。

ア 本件工事に追加したことが、違法又は不当であるか。

イ 適正な変更契約手続が行われているか。

4 監査の実施内容

 請求人から提出された広島市職員措置請求書及び事実を証する書類、広島市長から提出された意見書のほか関係書類を確認するとともに、関係職員への聴取りを行うなどして監査した。

 

第4 監査の結果

1 事実の確認

(1) 本件工事における当該落石防止網工及び舗装工・区画線工の概要

ア 一般国道433号(大古谷)道路防災工事(5-1)請負契約の概要

 (ア) 工事場所  佐伯区湯来町大字葛原

 (イ) 工 期   令和 5年 7月14日から令和 6年 1月30日まで

 (ウ) 請負代金額 5,115万     円(当初契約)

                             4,855万6,200円(変更契約)

 (エ) 受注者   E社

 (オ) 契約日   令和 5年 7月14日(当初契約)

          令和 5年11月 7日(変更契約)

 (カ) 工事内容  道路防災工事

             施工延長  50メートル

             落石防護工 約510平方メートル

           落石予防工、法面工、擁壁工、排水構造物工、構造物撤去工、舗装工、区画線工、

           仮設工 一式

イ 設計図書上の記載(関係部分を抜粋)

 本件工事の設計図面及び工事設計書には、当該落石防止網工及び舗装工・区画線工について、次の内容が記載されている。

 (ア) 設計図面

    高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網 1000キロジュールタイプ L=15.0メートル

 (イ) 変更設計図面

   ・ 高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の取りやめ

   ・ アスファルト舗装工の追加      A=606.3平方メートル

   ・ 区画線工(外側線消去・復旧)の追加 L=966.1メートル

 (ウ) 工事設計書(変更数量等)

名 称

単 位

当初数量

変更数量

落石防護工

 高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網工

一式

 ―

構造物撤去工

 運搬処理工

  殻運搬

立方メートル

  93

  殻処分

立方メートル

  93

舗装工

 アスファルト舗装工

  不陸整工

平方メートル

 606

  基層

平方メートル

 606

  表層

平方メートル

 606

区画線工

 区画線工

  区画線設置工

メートル

 940

  区画線消去

メートル

 970

  区画線設置工

メートル

 970

(2) 主な経緯 

 高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網の取りやめ及び舗装工事・区画線工事の追加に係る主な経緯を整理すると、次のとおりである。

年 月 日

内 容

令和5年

6月 9日

工事担当課は、入札後資格確認型一般競争入札にて入札公告を行い、見積単価及び労務歩掛等を積算参考資料及び工事設計書で公表した。

7月14日

受注者と請負契約を締結した。

  24日

受注者は、A社と落石防護工・落石予防工・仮設工を下請契約したが、当該落石防止網工の下請契約を見込んでいたB社からは、下請契約が困難との連絡があった。

  25日

工事担当課が、B社に下請施工について電話で確認したところ、「会社都合により下請契約は困難」と回答があった。

8月 7日

〈工事〉工事に着手し迂回路(旧道)を使用開始した。

地元住民から「迂回路(旧道)の区画線が中央になく偏っており、車両の通行が危険な状況である。安全に通行できるように対応すべき」と、工事担当課に申出があった。

  17日

受注者は工事担当課に、高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の施工に関し、当該製品を扱う企業と下請契約に関する協議・調整が難航しており当該施工の着手が見通せない状況となっているとして、工法の変更等について協議した。

工事担当課は協議に対し、高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の施工が可能な他の業者とも、下請契約に関する協議・調整を行うよう回答した。

  24日

受注者は工事担当課に、高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網を扱う他の企業と下請契約に関する協議・調整を行ったところ、年度内の契約は困難との回答があったとして協議した。

工事担当課は受注者に、高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の下請契約が難航している状況を踏まえ、当該工法の取りやめも含めて対応の検討を行うよう指示した。

下旬

工事担当課がC社に下請施工について電話で確認したところ、「年度内は代理人等が人手不足で確保できないため、施工不可」と回答があった。

  27日

工事担当課は、地元町内会との会合で、迂回路(旧道)の既設外側線の消去及び道路中央への新たな区画線の設置の要望を受け、現場を確認した。

9月 4日

工事担当課は受注者に、地元町内会からの要望も踏まえ、車両の安全な通行を確保するため、迂回路(旧道)の外側線の消去及びセンターラインの仮設置を指示した。

   5日

〈工事〉歩行者と自転車とを区画していた外側線を消去した。

  14日

〈工事〉区画線(センターライン)を仮設置した。

受注者は工事担当課に、高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の施工について、年度内の完成が見込めない状況であるとして、当該施工の取りやめについて協議した。

  26日

工事担当課がD社に下請施工について電話で確認したところ、「年度内は代理人等が人手不足で確保できないため施工不可等」と回答があった。

 

10月 2日

工事担当課は高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網を取りやめることについて、工事量の著しい変更に該当するため、技術管理課と設計変更事前協議を行った。

工事担当課は受注者に、当該落石防止網工の取りやめについて指示した。

また、これに伴い本件工事で旧道を迂回路として使用することがなくなったため、区画線(外側線)の復旧及び舗装復旧を指示した。

    3日

〈工事〉歩行者と自転車とを区画していた外側線の復旧工事を実施した。

    6日

〈工事〉当該落石防止網工を除く落石防護工及び落石予防工等について施工が完了した。

5日~18日

〈工事〉区画線(センターライン)を引いていた道路中央部の舗装復旧工事を実施した。

  31日

工事担当課は技術管理課と、次の内容について設計変更協議を行った。

・高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の取りやめ

・区画線(外側線)の消去・設置、区画線(センターライン)の仮設置、舗装復旧

11月 7日

受注者と、請負代金額の変更契約を締結した。

・高エネルギー吸収型ポケット式落石

 防護網の取りやめ           減額 約2,000万円

・舗装工事・区画線工事の追加      増額 約  850万円

・伐採木の引取条件の変更        増額 約  500万円

・作業時間帯の変更           増額 約  300万円

・現地精査による数量変更        増額 約   90万円

受注者は、工事完成を通知した。

    9日

受注者は、工事完成検査を受けた。

令和6年

 1月30日

請負契約期間終了

(3) 履行状況等

ア 当該落石防止網工を除く落石防護工及び落石予防工等については、令和5年8月7日から同年10月6日までの間において契約図書のとおり施工されていた。

イ 「高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網」の取りやめについて

・ 工事担当課は、設計時に高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網の工法について比較検討を行っており、「斜面の安全・安心研究会」が実施する工法以外に、この現場の地形に適合するものがないことを確認していた。

・ 受注者は債務の履行を拒否しておらず、高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網を施工可能な複数の業者と下請契約に関する協議・調整を行ったものの、下請契約が整わなかったものと認められた。

・ 工事担当課は、当該落石防止網工を取りやめたとしても、その他の工種(ポケット式落石防止網工、ロープ伏工、小割・除去工)をもって、本件工事が対象とする法面の面積の相当の部分に対応することができると判断していた。

・ 工事担当課は、この変更について、当該ガイドラインに基づき技術管理課と設計変更事前協議を行っていた。

・ その後同年11月7日に、高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網の取りやめに伴う請負代金額変更の契約を締結していた。

ウ 舗装工事・区画線工事の追加について

・ 工事担当課は、入札公告の積算参考資料に「重量物(資機材)の吊り込み作業時にはアウトリガーを全幅張り出す必要があるため、一時的に全面通行止めとなる可能性が高い」と記載していた。

・ 工事着手後、地元町内会から迂回路(旧道)の既設外側線の消去及び道路中央への新たな区画線の設置の要望があったことを受け、工事担当課が現地を確認した上で、交通事故のおそれがあるため区画線工事が必要と判断していた。

・  工事担当課は、旧道の迂回路としての使用が終了した後に、外側線と道路中央部の原形復旧を実施していた。また、道路中央部については、過年度の区画線の消去により舗装に損傷等が認められており、今回再度の区画線の消去を行うとさらに損傷等が拡大し通行に支障を来すと判断し、舗装工事を実施していた。

・ 舗装工事・区画線工事は、同年9月5日から同年10月18日までの間で施工され、同年11月9日に完成検査を受け合格していた。

・ 工事担当課は、当該ガイドラインに基づき、技術管理課と設計協議を行っていた。

(4) 関係人への調査

 地方自治法第199条第8項の規定に基づき、関係人である「斜面の安全・安心研究会」の正会員である事業者に対して調査を行い、次のとおり聴き取った。

・ 工事担当課から設計積算業務を受託した設計コンサルタントが選定した工法(ロックネット型)について、現場を調査した結果、当該工法による施工が可能であることを確認した。

・ 工事着手前、迂回路を使用しない片側交互通行での施工が検討されていたが、クレーン車が通行車両と接触するおそれがあるため、片側交互通行での施工は危険ではないかと意見した。

(5) 関係規定等について

 本件措置請求に係る関係規定等は、次のとおりである。

ア 広島市建設工事請負契約約款 令和5年4月改正(抜粋)

(発注者の催告によらない解除権)

第47条 発注者は、受注者が次の各号のいずれかに該当するときは、直ちにこの契約を解除することができる。

 (1) 第5条第1項の規定に違反して請負代金債権を譲渡したとき。

 (2) この契約の目的物を完成させることができないことが明らかであるとき。

 (3) 引き渡された工事目的物に契約不適合がある場合において、その不適合が目的物を除却した上で再び建設しなければ、契約の目的を達成することができないものであるとき。

 (4) 受注者がこの契約の目的物の完成の債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

 (5) 受注者の債務の一部の履行が不能である場合又は受注者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

 (6)~(10) 略

(発注者の損害賠償請求等)

第54条 発注者は、受注者が次の各号のいずれかに該当するときは、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。

 (1)~(4) 略

2 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の損害賠償に代えて、受注者は、請負代金額の10分の1に相当する額を違約金として発注者の指定する期限までに支払わなければならない。

 (1) 第46条又は第47条の規定により工事目的物の完成前にこの契約が解除されたとき。

 (2) 工事目的物の完成前に、受注者がその債務の履行を拒否し、又は、受注者の責めに帰すべき事由によって受注者の債務について履行不能となったとき。

3 略

4 第1項各号又は第2項各号に定める場合(前項の規定により第2項第2号に該当する場合とみなされる場合を除く。)がこの契約及び取引上の社会通念に照らして受注者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、第1項及び第2項の規定は適用しない。

イ 広島市建設工事設計変更ガイドライン 令和2年1月(抜粋)

 (4) 別途工事として契約すべきもの(設計変更ができないもの)

 ア 概要

 次のいずれかに該当する場合は、民法第513条に規定する契約の更改にあたるため、原則として別途工事として契約することとし、設計変更で対応してはならない。 

 (ア) 「工事の目的を変更するもの」

   a 工事内容の同一性がなくなるもの

   b 原契約の工事の範囲を超える部分の工事を追加するもの

 (イ) 変更見込額(設計金額ベース)の合計額が、当初の設計金額の3割又は設計金額が3,000万円を超える増額変更を行うもの 

 ただし、(ア)または(イ)に該当するものであっても、現に施工中の工事と分離して施工することが著しく困難なものは設計変更で対応してもやむを得ないものとする。

2 判断

(1) 「高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網」が取りやめとなったことについて

ア 請求人及び市長の主張

 請求人は、受注者の責めに帰すべき事由により高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網を取りやめたにもかかわらず、受注者との契約を解除せず違約金を請求しなかったことは、違法又は不当な公金の支出及び違法又は不当な契約の締結、履行であると主張していると認められる。

 これに対し、市長は次のとおり説明する。

 本件工事においては、受注者に債務を履行する意思がある中で、受注者は、当初下請させる予定であった高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網を取り扱う企業と下請契約に関する協議・調整を行ったものの、下請契約が整わなかったことから、本市としては、当初下請させる予定であった企業以外とも交渉するよう指示したが、新たに下請を依頼した業者とも調整が整わず、当該落石防止網工の施工開始時期が不透明な状況となった。

 ここで、本件工事の目的物は、落石防護工である当該落石防止網工及びポケット式落石防止網工のほか、落石予防工であるロープ伏工、小割・除去工等があり、当該落石防止網工は、この内の目的物の1つに過ぎず、当該落石防止網工を除くその他の落石防護工等を速やかに完成させることが、市民の安全の確保を優先する観点からも必要である。

 また、落石を防止し市民の安全を確保するという工事目的を一日でも早く達成する必要がある中で、本件工事の工期を延期することは適切ではなく、仮に、契約を解除して新たに入札手続を行ったとしても、入札不調となった場合は完成時期がなお不透明となり、いずれにせよ先述の工事目的が達成されないままになることが大きく懸念された。

 このため、市としては、本件工事の工種を精査し、当初予定していた当該落石防止網工を取りやめ、本件工事は残りの工種をもって先述の工事目的を達成することとした。

イ 判断

(ア) 契約を解除しなかったことが、違法または不当であるか。

 市は、目的物の一つである高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網を取りやめた場合においても、本件工事が対象とする法面の面積の相当の部分について、その他の目的物であるポケット式落石防止網工、ロープ伏工、小割・除去工等で対応することができると考え、高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網を除くその他の防護工を速やかに完成させることが、市民の安全の確保を優先する観点から必要であると判断し、変更契約を行うこととしたものと認められる。

 これらの市の判断について不適当とは言えないことから、契約を解除しなかったことが、違法又は不当であるとは認められない。

(イ) 受注者に違約金を請求しなかったことが、違法または不当であるか。

 違約金の請求について、広島市建設工事請負契約約款第54条第2項では、「工事目的物の完成前に、受注者がその債務の履行を拒否し、又は、受注者の責めに帰すべき事由によって受注者の債務について履行不能となったとき」(第2号)に該当するときは、受注者は違約金を支払わなければならないとされているところ、本件において、受注者は債務の履行を拒否していない。

 また、市が上記(ア)のとおり判断し、変更契約により高エネルギー吸収型ポケット式落石防止網を取りやめ、その他の防護工を速やかに完成させることとしたものであり、受注者の債務について履行不能があったとは認められない。

 このため、市が受注者に違約金を請求しなかったことが、違法又は不当であるとは認められない。

(2) 舗装工事・区画線工事を追加したことについて

ア 請求人及び市長の主張

 請求人は、別途工事としなければならない舗装工事・区画線工事を本件工事に追加することは、違法又は不当な公金の支出及び違法又は不当な契約の締結、履行であると主張していると認められる。

 これに対し、市長は次のとおり説明する。

 区画線及び舗装工事を行った一般国道433号の旧道については、本件工事施工に伴う本線の全面通行止めの際に通行車両等の迂回路として利用させており、旧道についても本件工事の施工区域の一部であると判断していることから、本件工事において施工することは、原契約の工事の範囲を超えるものではなく、契約変更により追加したことは当該ガイドラインに何ら反するものではなく、違法なものではない。

 なお、本件工事において契約変更を行った旧道での区画線及び舗装工事の経緯について、旧道は、自転車・歩行者等の専用道として活用するため、過年度に道路中央線の消去等を行っているが、本件工事の迂回路として利用させたところ、本来の道路中央位置を超えて通行する車両が多発し、重大事故の発生が懸念されたことから、本来の道路中央位置への区画線の復元等を本件工事受注者に指示したものである。

 また、区画線を復元した道路中央位置は、過年度に施工した区画線消去による段差やアスファルト骨材のむき出し状態が生じていたところであり、本件工事完了後の原形復旧に伴う再度の区画線消去により路面状態の更なる劣悪化及び段差の増大が想定され、そうした状態が道路中央に連続的に生じることは、自転車等の安全な通行に大きな支障がでると考えられたため、舗装を打ち換えることにより原形復旧を行うこととしたものである。

 こうした理由により本件工事の契約変更は、当該ガイドラインに基づき、必要と認められるものを適切に行っており、契約変更は違法という請求人の指摘は当たらない。

イ 判断

 本件工事に追加したことが違法または不当であるか、また、適正な変更契約手続が行われているか。

 別途工事として契約すべきものとして、当該ガイドラインでは、「原契約の工事の範囲を超える部分の工事を追加するものは、原則として別途工事として契約することとし、設計変更で対応してはならない」とされている。

 旧道は本件工事の施工区域の一部であるとする市の主張について、入札公告の積算参考資料に「一時的に全面通行止めとなる可能性が高い」とあることや、旧道の外に迂回路はないことを考え合わせると、市は、旧道を施工区域の一部と判断した上で、迂回路として使用することを当初から想定していたものと考えることができる。

 また、地元からの区画線工事の要望を受け、現地を確認した上で、舗装工事・区画線工事の必要性を判断したものと認められる。

 これらの市の判断について不適当とは言えないことから、舗装工事・区画線工事を本件工事に追加したことが、違法又は不当であるとは認められない。

 また、変更契約手続については、当該ガイドライン等の関係規定に基づき、適正に行われていると認められる。

3 結論

 請求人の行った本件措置請求については、理由がないものであることから、請求を棄却する。