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2015年05月08日記者会見「2015年NPT再検討会議への出席等について(帰国報告)」
動画は下記からご覧ください。
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市からの発表案件
【2015年NPT再検討会議への出席等について(帰国報告)】
その他の質問
【2016年主要国首脳会議(サミット)の開催について】
<会見録>
市からの発表案件
2015年NPT再検討会議への出席等について(帰国報告)
市長 それでは、2015年NPT再検討会議への出席等についての概要の説明を行います。
お手元に資料を配布してあると思いますが、ご覧ください。この度2015年NPT再検討会議への出席等を目的といたしまして、4月25日に日本を出まして、5月3日までの日程でアメリカ・ニューヨークを訪問しました。この出張には、小溝広島平和文化センター理事長、「核廃絶!ヒロシマ・中高生による署名キャンペーン」の高校生10人にも同行していただきました。
日程に沿って主要用務を中心に説明します。
ニューヨークに到着した4月26日に、平和NGOの主催による集会と行進に参加しました。行進後、アンゲラ・ケイン国連軍縮担当上級代表とタウス・フェルーキNPT再検討会議議長に核兵器禁止条約の交渉開始等を求める市民署名約110万筆の目録を手渡すということを行いました。
2ページ目に移って、翌27日は、2015年NPT再検討会議の開会式等を傍聴しました。
その後、午後から平和首長会議の主催によります、「ヒロシマ・ナガサキアピール集会」を開催いたしました。集会には被爆者や市民団体、ユース非核特使、国連・日本政府関係者等約100人が参加しました。この会議では、バージニア・ガンバ国連軍縮担当次席上級代表に平和首長会議からの要請文、核兵器禁止条約の交渉開始等を求める約110万筆の署名目録、そして広島女学院高校の生徒が折りました折鶴を手渡すということを行いました。また、岸田外務大臣に挨拶していただきまして、その後、被爆者による証言、市民団体、ユース代表からの活動報告を行っていただきました。さらには湯崎広島県知事にもスピーチをしていただきました。最後に、「ヒロシマ・ナガサキアピールinニューヨーク」を採択しまして、そのアピールの中で、世界の為政者の広島・長崎訪問や核兵器禁止条約締結に向けた誠実な交渉開始等について、この度のNPT再検討会議の最終文書に盛り込むことを求めました。このアピール文につきましては、後日、NPT締約国に配布しました。
3ページをご覧ください。日本原水爆被害者団体協議会が主催します「国連原爆展2015」に出席しまして、挨拶とテープカットを行いました。この展示会には、広島・長崎両市が提供した被爆資料や原爆ポスターも展示されました。
28日には、セバスチャン・クルツオーストリア外務大臣、タウス・フェルーキNPT再検討会議議長と面会しました。クルツ大臣につきましては、NPT第6条に基づく核兵器を禁止するための議論を始めるべきであるという点で意見が一致しました。フェルーキ議長の方とは、4月3日に広島訪問をされているということもありまして、議長としての責任を果たしていきたいとの強いコミットメント(約束)をいただきました。
翌29日は、まず平和首長会議ニューヨーク集会を開きました。会議では、バンコク、フォンゴトンゴ及びメキシコシティの3都市にリーダー都市認定書の交付を行いました。各都市からは平和首長会議の核兵器廃絶に向けた決意表明などがありました。また、続いて行いましたパネルディスカッションでは平和NGOの参加者が、NPT再検討会議後の核兵器廃絶に向けた法的整備の具体的な取り組みや核兵器廃絶に向けた市民社会の役割についての議論を行いました。最後に2020年までの核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けた決意を示す「ニューヨークアピール」を採択しました。このアピール文も後日、NPT締約国に配付いたしました。
4ページをご覧ください。続いて、記録映画「あの日何があったのか」を上映する会がございまして、そこにおいて挨拶を行いまして、制作者の田邊雅章氏に敬意を表すとともに、会場に来た国連・各国政府関係者に対しまして、被爆地の訪問ということを呼び掛けました。最後に、広島県主催のサイドイベントに出席しまして、核兵器の非人道性の議論の高まりを核兵器禁止の法的枠組みへと具体化していくための方策等についてスピーチを行いました。
翌30日は、昨年に続き2回目となりますけれども、「2015平和首長会議主催ユースフォーラム」を開催いたしました。署名活動に参加した高校生10名、ナガサキ・ユース代表団の大学生2名、中国新聞ジュニアライター2名、タイ・バンコク市の大学生及びインド・コーチ市の青年が、それぞれの平和活動や平和への思い、核兵器廃絶に向けた取り組みへの決意等を発表してくれました。
次に、日韓モンゴルNGOワークショップに出席しまして、挨拶を行った後、シャインマン米国大統領特別代表との面会をしました。私からは、オバマ大統領の広島・長崎訪問の実現、核兵器廃絶に向けた国際的な環境づくりにおける米国のリーダーシップの発揮、そしてNPT第6条に基づく核軍縮の誠実な交渉義務に則って、核兵器禁止条約またはそれと同様の法的枠組みについての議論を進めること、の3点について要請を行いました。これに対し、先方の方からは、オバマ大統領の広島訪問については認識しているという返事をいただくとともに、核兵器禁止条約については、一つ一つの合意や活動を重ねながら段階的に取り組むことが重要であると、すぐに禁止条約に取り掛かる状況にはないということでしたが、個々の取り組みということは、これは必ずしも一歩ずつということではなくて、複数のステップを同時に進めていくということで、核兵器の削減を加速するということも視野に入れて今考えているというようなご紹介がありました。
夜には、本市の被爆70周年記念事業にも位置づけられている「国連創立70周年記念未来につなぐヒロシマ平和祈念コンサート」を開催いたしまして、広島邦楽連盟の協力による開催でありましたが、音楽を通じて平和の大切さというのを訴えてまいりました。
5月1日には、長崎市長、被爆者団体と共に、マンハッタン計画関係施設の国立歴史公園化を推進してきております、アトミック・ヘリテージ・ファンデーションのケリー理事長と面会しまして、被爆地としての懸念や意見を伝えると共に核兵器の非人道性を伝える展示内容にしてくださいという要望を行いました。これに対しケリー理事長は、今後も被爆地との対話を継続していきたいという意欲を示すとともに、面会の最後の局面では「私たちの真のゴールは、核兵器廃絶だということを訴えたい」ということを力強く述べられました。
続いて、2015年NPT再検討会議の公式プログラムでありますNGOセッションに出席いたしまして、スピーチを行いました。スピーチでは、主に3点に言及したところです。まず、核兵器がいかに非人道的で「絶対悪」であるかを各国の政府代表に対して強く訴えるということをしました。その上で、2点目として、近年、核兵器の非人道性についての問題意識が国レベルで着実に広がっている点を評価する一方で、国家間の対立やテロ行為が核軍縮交渉の進展を阻んでいるとの考えに対し強く反対の意を述べました。さらに、3点目として、世界の為政者に対して、今こそ核兵器廃絶に向けたリーダーシップを発揮すべきタイミングであると強く訴え掛けるとともに、核不拡散条約(NPT)第6条に規定する核軍縮交渉を誠実に行う義務は全ての締約国にあることに触れた上で、一刻も早く核兵器禁止条約に関する交渉を始めることの重要性を訴えました。
以上が、出張の概要です。
最後に、この度の出張の総括になりますけれども、まず、今回のNPT再検討会議は、状況設定として、核兵器の非人道性の議論が高まるということを背景にしての核兵器廃絶への具体的な進展を期待する空気が広がる状況がある一方で、この流れが法的禁止の議論に向かうということに対して、警戒感を高める核保有国等があり、それをどうしようかという状況の中で開催されたということであったのではないかと思います。
そうした中、今回の出張では、NGOセッョンでのスピーチ等あらゆる機会を捉えて主張したことは、核保有国を始めとするNPT締約国、全ての国に対して、核兵器の非人道性ということをしっかり認識してくださいということを強調すると共に、NPT締約国ですから、NPT第6条を守るべき義務、すなわち、核軍縮の誠実交渉義務というのがあるじゃないですか、これを果たすということをやっていけば、おのずと、核兵器禁止条約またはそれと同様の趣旨の法的枠組みについての交渉に入るんじゃないかと、これを一刻も早く開始すべきではないかということを訴えてきました。
また、米国やオーストリアなどの政府高官との個別の意見交換の場を持てたという中で、核兵器廃絶に向け一歩でも二歩でも前進するように、そういう意味では、政治的リーダーシップを発揮することを強く要請したつもりです。限られた時間ではありましたけれども、自分なりの論点は提示し、直接相手の反応をうかがうことができたという意味で、非常に意義深い期間を過ごせたのではないかと思います。
また、平和首長会議では、今回「ヒロシマ・ナガサキアピール集会」、「平和首長会議ニューヨーク集会」、「2015平和首長会議ユースフォーラム」の3つの行事を主催いたしました。いずれも平和首長会議関係者はもとより、被爆者から次の世代を担う若者まで幅広い年齢層の方々、そして多くのNGO関係者の参加を得まして、被爆地のメッセージを対外的に強く発信する機会になったのではないかなと思いますとともに、この平和首長会議による取り組みの輪を広げる上でも非常に意義深いものであったのではないかなと考えています。それぞれの行事の成果は資料のとおりになろうかと思います。
以上、一連の活動を通じて改めて感じたことは、被爆地ヒロシマの市長、そして平和首長会議の会長というこの立場に対する期待の大きさというものを実感しました。このため、被爆地の重要な使命ということになりますけれども、核兵器の非人道性を訴える原点であり続けるというためには、被爆建物や樹木など実相を語り継ぐものをちゃんと「守る」ということ、そして被爆者自身の「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」という平和のメッセージをしっかり「広める」こと、そして、その思いを将来世代、あるいは国境を越えて世界に「伝える」という取り組み、こういったことに最善を尽くすことは改めて重要であるし、必要であるなということを再確認できたと思います。
また、平和首長会議については、リーダー都市というものを作り上げましたので、緒に就いたばかりのリーダー都市を中心とする地域グループ化をしっかりやっていきたいと思います。それをやることで、地球規模での核兵器廃絶の気運醸成、さらに拡大ということの必要性を強く感じました。同時にそういった取り組みは、平和首長会議が持っている世界的なネットワークをうまく活用するということができればなということで、平和首長会議の有効活用、これが大きな課題になってきているなと思いました。
NPT再検討会議の最終日となる今月22日には、成果を出してもらいたいなと思っています。核兵器廃絶に向けた具体的な道筋がつけられるような合意文書が取りまとめられることが大きな判断ポイントになると思いますけれども、その中に、ヒロシマ・ナガサキアピールで要請した事項が盛り込まれているというようなことがあれば、一定の成果も出たと言えるのではないかと思っています。
以上で説明は終わりですけれども、お手元に「マンハッタン計画」関係施設の国立歴史公園化に関して、昨年12月17日付けでキャロライン・ケネディ駐日米国大使に送付した要請文に対する返書が、米国内務省国立公園局長から届いております。返書には、マンハッタン計画についてバランスの取れた見方を提示するために日本政府、広島・長崎両市と協力したいというふうにされております。本市の被爆資料や写真・パネルなどの提供ということを申し出ているのですけれども、それについて感謝するということが記されています。
こういったことから、今後も、長崎市と連携して、国立歴史公園が核兵器の非人道性の正しい認識を広め、そして核兵器のない平和な世界の実現に資するものとなるように、必要な協力を行っていきたいと思っています。以上です。
記者 1週間、NPT再検討会議へ出席されて、開幕初日からアメリカ、ロシアがそれぞれお互いをけん制し合うような場面も見られ、諸外国の反応が厳しい中での開幕だなと思って取材したのですが、松井市長ご自身は、改めて、核廃絶へ向けた機運を現地に行ってどういうふうに感じられたかと、それを受けて、広島は被爆70周年ということで、被爆者で現地に行かれた方も、前回と比べるとかなり減っている中で、被爆地ヒロシマのリーダーとして、どういうことを伝えていかないといけないと再認識されたのかをもう一度伺えますか。
市長 最初に申し上げた現状認識、非人道性についての認識が高まるということそれ自身は、5年前のNPT再検討会議での了解事項が、多くの方の目に見える形で進展していないと。条約締約国である多くの国が約束しながら、物事が進んでいない、つまり、核兵器廃絶に向けての動きが実際は起こっていないじゃないかという事実認識の下にいろいろな評価が出ていたと思います。
締約国そのものは約束しているわけですから、それを果たす義務があるということは分かっているのでしょうが、事態が進んでいない。したがって、一定の前進をさせることが必要だということを認識はしているとは感じました。今度も、アメリカの代表の方とも会いましたし、(NPT再検討会議に)行く前に、ロシア駐日大使が見えたときも、いろいろなやり取りをした中で、プーチン大統領の発言に対しては、「誤解だ」ということは言っていましたが、それとは別に、NPT体制に関しての取り組みということは、きちっとやらなければいけないという認識はあると言っておられたので、問題意識はある、つまり、今の核兵器保有国、保有していない国が集まってこのNPT条約について合意しているという、この合意を大事にしないといけないということは、やはり皆さんも分かっているということは分かりました。
しかし、分かっていながらなかなか事態が進まないという中で、進めるためには、やはり究極の目標である核兵器廃絶を目指した具体的な取組をやらないと、もうみんなしびれを切らしていますよということを言ったということです。
そういう意味で、より前進させるために、核兵器禁止条約という具体的な成果を目がけて、皆さんが一歩踏み出すということをやってくださいと申し上げたわけですが、そんな中で特に印象的だったのが、アメリカ政府の代表の方は、いわゆる軍縮ということと、安全保障体制というものを、現政権というか、自分たちが為政者としてその国を守りながら進める中で、やはり、考えとしては一歩一歩だと。しかし、やるべき課題を多面的に確実に一歩進めるということをまずやりたいんだと。それができていないからこういう問題が起こっているので、その問題認識はしっかり持っているつもりで、ぜひ成果を挙げたいという説明をその場でされて、私どもは、確認するけれども、核兵器のない世界というのは理想というか、追求すべき世界だということを改めて確認しました。そのこと自体は否定しませんでした。そのとおりだと。
しかし、現実の世界の中でそれに向けてどうやるかというときに、自国の安全保障ということを図りながら結果を出すという、そのやり方について、関係国との調整を整えないと(いけない)、それを進めるための努力をすると、こういう言い方ですから、それを言いながら、今まで成果が出ていないのだから、次の切り口というか、もう一歩進めて、核兵器禁止条約という新しいステージを目指してということはどうですかというやり取りです。
そうすると、今言っている問題意識を具体化するための努力をもう一回やってみたいんだということですので、それを本当にスピード感をもって成果が出ないと、我々の言っている取り組みをしないと、本当にこのNPT体制そのものも信用を失ってしまいます。そんなやり取りでした。そういう意味で、私自身は、真摯な議論ができたと思っています。
いろいろな意味で、不信感を持っておられる現状がある中で、しかし、基本的な締約国ベースとして、核兵器廃絶をしなければいけないという意識、それを実現するための努力を怠らないという気概といいますか、意欲はあるということを幾らかは確認できたと。それならばそれを言ったとおり実行してほしいということを改めて要求する、お願いする、その動機づけをしっかりするために、やはり被爆者の声といいますか、思いを、もう一回頭の中によく叩き込んでもらって、とりわけ為政者がそれをきちっと受け止めれば、その思いを実現するための状況も出てくるのではないかと思いました。
そんな中で、多くの被爆者の平均年齢が80歳ですから、次の5年となると、どれだけの方がそういった被爆の実相を訴える、自分たちの気持ちを伝えるという局面があるか分かりませんので、ラストチャンスですよと、皆さんが本当に直に被爆者の方々から声を聴けるのは最後ということで、しっかり受け止めてくださいということを申し上げました。これをもっと徹底してやる必要があろうということで、先ほど申し上げましたように、被爆の実相を守り、広め、伝えるということを継続するというか、しっかりやるということは、今からの大きな課題かなと思っています。
記者 松井市長と田上市長は3月に外務省に行って、日本政府にも(核兵器)禁止条約に踏み込んでほしいと訴えていらっしゃいましたが、それは今回叶わなかったんですが、それについてはどのように受け止めていますか。
市長 これも今申し上げた流れの一環なんですけど、外務大臣の言葉を通じて何度も出ていますが、日本政府も、核兵器廃絶、恒久平和を願うという目標は、わが広島と共有できているということは間違いないんです。ただ、その取り組みにおいて、アメリカの代表が言われたのと同じように、まずは今ある核兵器を少なくしていく、そういう意味では軍縮です。それから、これ以上広めないという不拡散、まさにNPT体制、その約束事を守るということをしっかり追求したい。そして、更には自国の安全保障ということで、その維持も同時平行で図りながらやりたいというお話なんです。
それをやりながら確実な成果が出ているのであれば誰も文句を言わないじゃないですかと。そういう目標があり、それに対応すると言いながら、具体的な核軍縮ができていない。不拡散と言っても、不拡散の状況が国家を超えてテロのような組織に核兵器が渡るかも分からないというような状況がある中で、言っていることと実際起こっていることのギャップがあるんだから、それを埋めるためのリーダーシップを発揮してもらいたい。核兵器保有国と非保有国との間に立って、少なくともNPT体制の強化・持続ということであれば、それが実行されるような方向に行くための努力をまずやってくださいと。それができないということであれば、発想を変えて、核兵器禁止条約という、もっと強力な概念を取り込んで、それを実践するという局面ではないんでしょうかというように広島・長崎は申し上げているんです。そうすると、それをやる前に、もう一段NPT体制の持続、履行する努力をしたいんだというのが日本政府の言い分で、そうであれば言っている成果を出す努力を見てみようじゃないですかというやり取りになっているんです。
ですから、私自身も長崎も、核軍縮・不拡散の直接の締約者ではありませんし、責任は締約国、国と市の立場でやっているわけですから、言っていることをしっかり守ってもらう、実現してもらうということを期待しながら、それが一歩でも二歩でも成果を出すようにしてくださいということを訴え続けなければいけないと思っています。
記者 NPTは(5月)22日まで続きますが、合意文書で広島・長崎、被爆地への訪問ということ以外に、(核兵器)禁止条約についてはどういった内容に踏み込んでほしいとお考えですか。
市長 今言った具体的な対応をする中で、禁止しなければいけないという考え方も、私からすれば理解するということをちゃんと展開してもらいたいと思います。自分たちの今までの取り組みが成果を挙げないということになれば、切り口としてもう一つ先のステップ、「禁止」ということまで視野に置いて取り組みを強化していかないとNPT体制の維持・強化を図ったということを言えないのではないかということです。そんなことが認識というか、自分たちの頭の中で分かっているということが分かるような文面が最後の合意文書に出ればなと思います。それが我々の主張ですから、必要性に向けての交渉開始をしてほしいということですから、そういった考え方についての一定の理解が示されるということがあれば、成果が出たんじゃないかということになろうかと思います。そこまで行くかどうかがまさにポイントだと思います。
記者 アトミック・ヘリテージ・ファンデーションと話をされたときに、向こうとは、ねらいとか目的については意見が合致したと捉えていますか。
市長 理事長さんと直にお話した範囲では、もともとは要請文書を出したときに、関係の場所が核実験をやり、長崎型・広島型の核爆弾を製造した地点、3カ所それぞれに施設群を残してというお話で伝わっていまして、それを歴史公園のような形で維持するということですから、結局、兵器を作ったという実績が残って、それをそのまま残すわけですから、その意義付けたるや、それを使った後の被爆の実相などを説明するような余裕があまりない施設群になるんじゃないか。そうすると、核兵器そのものがあってはならない存在なので、歴史的な事実としてそうあったとしても評価をしっかりするような展示にならないんじゃないかという気持ちを込めて要請文書を送ったわけです。
そうしたところが、ケリー理事長さんは、自分たちの国内でこういうことをやっていこうというときにも、議会の中でもさまざまな議論があって、そういうものを残すことについてのいろんな評価があった。そんな中で、多数決で(施設を)残す方向になったけども、展示施設を造るときに、我々の言っているような問題意識をどう取り込むかということも重要な問題だと思っているという話もあり、施設群だけの説明ですと、核兵器そのものを肯定するような施設群になるから、3カ所をぐるぐる回るような展示を考えて、共通の項目で皆さんに周知するような方法はないかとか、いろんなことを考えているんだという紹介もあったりしたんです。ですから、そういう意味では、バランスの取れた施設運営をやっていきたいということを、具体例を交えて説明があったものですから、真摯な対応をしていただけるんじゃないかという期待感を持ったわけです。
最終的にそういう話をしながら、いろいろやり取りをしたところ、元に戻って、国立の歴史公園を核兵器に関する対話と教育の場にすべく、やっていきたいという判断、そして、それをやっていく上で、間違いなく真のゴールは核兵器廃絶だということを訴える中で、広島・長崎に行ってでも、勉強してでも皆さんの考えをしっかり吸収して、今後どういう運営をするかを協議していきたいというお話がありましたので、そうなんだったら広島・長崎にぜひ来てくださいというようなことを言いまして、やり取りとしては極めて真摯な、成果ある良いやりとりができたんじゃないかと思っています。
記者 誤解というか、お互いの認識のずれというのは埋められたと…。
市長 それをどう実現していくかという手法的にはなかなか課題もありますけども、問題意識の共有はできたと思います。
記者 今の質問に関連しまして、面会の際に、市長も、原爆が投下された後、被爆者は、何十年にも渡って、肉体的にも精神的にも苦しかったという指摘をなさってらっしゃって、まさにそれに関連しまして、マンハッタン計画が開発でもあるんですけども、やっぱり投下後、例えばABCC(原爆傷害調査委員会)という機関が始まりますけども、なおかつ、人体への影響、例えば原爆小頭症とか、日本側に伏したまま研究が続けられたというような、ある意味忌まわしいとも言える、そういう歴史もあるわけです。そういう意味では、被爆者からは協力ということに関しては慎重であるべきという意見もあるかとは思うんですけども、その辺りのスタンスはどのようにお考えでしょうか。
市長 この類の問題というのは、いつも付きまとう問題です。なぜかと言うと、国境を越えて、相手国の中での合意を得てやっていこうという行為、それについて、国境を隔てたところから、そういったものについての一定の注文を付けるという、そういう立場ですから、強制力があって、それをやめろとかということはできるような仕掛けにはなっていません。そうすると、こちらが懸念していることを極力配慮しながら、やっていただくということを、向こうも理解してもらうというセッティングがとても重要だと思うんです。そのために、いろんな意見を申し述べるんですけども、私自身は今回は、そのやり方が方法論において、うまくいった方じゃないかなと思うんです。要請文書を出し、それについてのお答えをいただきながら、個別具体的に当事者と直接お話できたわけですから。
そして、当事者の方の意向というのも、直接お聞きしました。それで、外で考えているほど、偏っているという反応でないということを直接お聞きして、ただ、問題はそうやって気持ちがあったとしても、先ほど申し上げたように、施設が3カ所に分かれていて、核実験をした、兵器を作った、その場所において、その後の、今申し上げた被爆をした方々の悲惨な状況をどう展示していくかと考えたら、そう簡単に、すぐに「ああそうですか」という結論にならないじゃないですか。
そうすると、運用面で相当工夫しないといけないんじゃないかと思うんです。そんな中で、被爆の資料とか写真パネルなど、幾らでも提供しますよということも申し上げました。それも利用するということを考えるということを言われました。
だけど、もう一つ、国内でこう考えたときに、それを資料展示したときに、そこにあるそのものでいいんじゃないかと、他のところの情報を持ってきて、一緒に展示するのはどうであろうとかというふうな議論はあり得るんです。それは、国内のスミソニアン博物館で、原爆関係の展示をしようと思ったら、中でそのことはしないでいいと反対を受けたというような経験もありますから、そういうのを乗り越えて、両方判断していただく素材をそこで提供し、見た方がバランスよく考え、そして、多くの方がむしろ非人道性というものを認識し、そういう被害が一瞬の核爆発が将来何十年にも渡って人間をさいなむということがあるんですよということを抜きに、そういった資料を一面的に見るんじゃないんだということをいかに徹底し、皆様が理解していくかということをしっかりやらないと、最初持った一面的な展示になるということなので、これを本当にちゃんとしっかりやらないと駄目です。
だから、最後の広島・長崎と協議しながら、対話と、そして教育の場にするという、その言われた言葉をそのままいただいて、それが実になるようにやっていくということしかないんじゃないかなと思っています。
記者 NPTの話に若干戻るんですが、岸田外相が初日の演説で、核兵器禁止条約とかそういったことに一切触れなかったんですけども、外相スピーチを聞いて、率直にどう思われたかという感想を聞かせていただければと思います。
市長 それは先ほど申し上げた中にも含まれているんですけども、私どもは核兵器廃絶という、この目標に向けて、裾野からどう攻め上げていくかというときに、現実の世界でNPT体制という核兵器を持っている国、持っていない国が100数十カ国集まって、約束事をやっている。これを守ってください、守るべきだというところからスタートしていて、守るというふうに言いながらも、その守った事態が進展していないから、これじゃ物足りないから、もう少し先のステップ、つまり、禁止条約というさらに廃絶に近い目標を掲げて、それを推進するようにすべきだという論理展開をしているつもりなんです。だから、NPT体制を否定しているわけでもないんです。これをもっと進化させて、この実績を上げていく中で、そちらに踏み込んでくださいとやっていると。
そこで、皆さん方の評価とはちょっと違うんですけども、外務省、アメリカ、今回を通じてNPT体制での複数の国から聞いた議論は、今の体制についての不信感はあるんだけど、これの中で、いろんな宿題をとにかく1個でも2個でもするということをさせてみてくれと。だから、実践的な対応をやるという努力をもう一回やるんだと、こういうことを言っているんです。では、本当にそれをやってみてくださいということを申し上げるというところに尽きるのかなと思うんです。それすらやらないということだったらもう大ごとです。NPT体制破壊ですから。それはないということは分かったんです。そうであれば、それを見せるための、皆さんが納得していただくための、例えば具体的な核軍縮交渉とか、あるいは核不拡散のためのNPT体制から出た国々に対して、こう取り込むとかいう具体的なアクションをする。その行為対応を最終の合意文書で記述できるか、そのときにそういうことをできないと、禁止条約とかという次のステージに行かなければいけないという瀬戸際なんだというふうな論理展開をして文書をまとめてもらったらなというのが先ほど申し上げた自分の中の気持ちなんです。それらが、いろんな意見を総合したときの成果文書だと思うんですけども、そこまでいけるかどうかが今、勝負かなと思っています。
その他の質問
2016年主要国首脳会議(サミット)の開催について
記者 サミットについて、近く総理が開催地を決定されるんですけど、それまでに市として最近どのように仕掛けをなさったとか、例えば市長当選後に何度か上京されていますが、その時に直接トップセールスなさるように伝えたというならその内容も教えていただきたいのと、あと今回選考にあたってはテロなどへの警備体制の評価も重要なポイントになると思われますけど、広島の警備面での実績、他都市と比べての優位性などをどう考えておられますか。
市長 サミットについては、もう正式に要請書を、外務省を通じて官邸の方に出させていただいているし、こちらの思いは伝わっていると思いますので、官邸の判断待ちという状況だと認識しています。要請できるチャンスがあればいつでも言おうと思っていますけど、それは今までも申し上げたことですということで申し上げています。警備体制の問題については、見ていただくと分かりますけども、予定しているところは島ですから、入口の橋を遮断すればそこへの交通は絶てるということで、警備面での問題はないといいますか、各国の要人を保護するための地形的な状況は確保できている。三方海ですし一部は山、そこは(元)宇品という島ですから、入口を遮断すれば、いろんな意味での防衛体制ができます。
そして空港から高速で下りてきて1号、2号、3号と通じて行けますから、利便性もあるし、そしていろんな施設群も交通をオープンすれば、市内の多くの複数のホテルを使って報道関係とか政府の関係者なんかも滞在できるということでサミットに耐え得るだけの能力は十分ある。これはもう誘致をするときの資料群にもきちっと入れ込んで説明していることですので、そういう意味では優位性はあるんじゃないかなと思っています。
あとは日本国としてのサミット開催時におけるテーマ設定でしょうね。それは総理の判断事項ですから、どういったテーマで設定されてどういう場所を選ぶかじゃないかと思うんです。だからどこがセキュリティがしっかりしていて、どこが足りないとかいうレベルじゃなくて、同等な能力、受入れ態勢がある中で、政府としてどういうテーマ設定で開催するかによって、場所が決まるんじゃないかなと思っています。
私自身は今回のNPT再検討会議などに出たこともあってでしょうか、まさに平和問題についてはここ1,2年、大きな世界的な課題になると思います。いろんな意味でグローバル化していく経済問題の発展の基盤でもありますし、地域紛争とかということを考えたときには、各国の国民の安全保障といいますか、セキュリティの問題があります。それらが停滞していると言われている中、そういったことを進めるための議論もサミットの中で話し合われることは意義があります。それを象徴する場、広島ということでやっていただければメッセージ性は大いにあると思うんです。ですから、今申し上げたように、今度の、6月のドイツにおいて翌年、日本で開かれるサミットのテーマをどういうふうにするかということにかかっているんじゃないかと思っています。
記者 追加で、市長がおっしゃったテーマ性、政治性、広島開催は非常に象徴的な場所だと思うのですが、開催が決まったら原爆投下国の大統領は被爆地に入るという形にもなると思うんですけど、そういうことが逆に開催地を設定する上でのネックになるという懸念もありますが、その点についてはどのようにお考えですか。
市長 私自身はそういうご意見はなくはないと思っていますけども、この平和問題に関してはずっと終始一貫して申し上げていますのは、未来志向といいますかこれからの我々、あるいは次の子孫といった方々が、核兵器がない平和な世界をどう作り上げていくか、そして今の為政者がそのための体制なり対応をどうしていくかということは大きな課題です。ですから、今までの過去の経緯についての反省ということは当然あります。それを前提にするということは欠かせないことですけども、それより重要なのは未来志向で、これからどういった対応をするかということについての、約束というか決意表明というか、そういったシステム作りということの方がより大事だと思います。
ですから、そちらをしっかり打ち出せるように、そして我が広島に来たときには被爆の実相をしっかりと脳裏に焼き付けていただいて、為政者の方はこれからの世界平和を構築するための取り組みについてしっかり思いを述べていただく、その取り組みをしっかりやっていく、それこそが重要だと私は思っています。
※ ( )は注釈を加えたものです。