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感染性胃腸炎とは、細菌、ウイルス、寄生虫などによって引き起こされる胃腸炎のことです。このうちウイルス性の感染性胃腸炎には、ノロウイルス、ロタウイルスによるものが多く、ほかにアデノウイルス、アストロウイルス、サポウイルスなどによるものがあります。
最近、全国的にノロウイルスによると考えられる集団感染事例が多く報告されています。ノロウイルスは人から人へ感染する場合と、食品から感染する場合があります。また、感染力が強く、少量のウイルスでも感染しますので、福祉施設・保育園・学校などの集団生活の場では、集団感染を引き起こしやすいといわれており注意が必要です。
【参考】
ウイルスの中でも比較的小型のウイルスで、従来小型球形ウイルス(SRSV)またはノーウォーク様ウイルスと呼ばれていました。
ノロウイルスは胃酸の中でも生き延び、アルコールや逆性石けん(塩化ベンザルコニウム等)などの薬剤にも抵抗力があります。また、他のウイルスと比べて、環境中や食品中で比較的長く存在することができますが、増殖することはありません。増殖するのは人間の腸管の中のみです。
ノロウイルスの感染力は非常に強く、わずか10~100個のウイルスでも感染することがあるといわれています。
このようなノロウイルスの薬剤や環境中での抵抗力の強さ、人への感染力の強さに加え、感染経路の多様性が、予防対策を困難なものにしています。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎は、以前は「お腹の風邪」、「お腹のインフルエンザ」などと言われたこともありましたが、比較的最近になってから、その原因の多くがノロウイルスであることがわかってきました。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎は、晩秋から冬季にかけて多くなりますが、それ以外の季節でもみられます。
潜伏期間は1~2日で、下痢と嘔吐が主な症状で、そのほか、発熱、吐き気、腹痛、頭痛などの症状がみられます。発熱はあまり高くならないことが一般的です(38℃以下)。また、小児では嘔吐が多く、成人では下痢が多いことも特徴の一つです。
一般的には数日で軽快し、後遺症もありませんが、免疫力が弱い乳幼児や高齢者は、脱水症状を起こして重症化する場合がありますので注意が必要です。
また、特に高齢者の場合は合併症や体力の低下などから症状が悪化したり、嘔吐物がのどに詰まったために、窒息したり肺炎などの二次感染を起こす場合がありますので、慎重な経過観察が必要です。
感染経路は、基本的にはノロウイルスが口から入り、消化器に達して主に腸管で増殖して感染します。ノロウイルスが口に達する経路は様々で、具体的な経路を下に示しました。
感染性胃腸炎の原因となる病原体の中でも、ノロウイルスは他の病原体と異なり、経口感染や接触感染のみならず、飛沫感染や空気感染を起こすことが最近になってわかってきました。
これらの感染経路を理解することが、予防する上で大切です。
現在、ウイルスの増殖を抑える薬はありませんので、整腸剤や点滴による電解質補給など対症療法しかありません。
なお、下痢や嘔吐がひどい場合、脱水症状を起こす場合がありますので、水分補給につとめるとともに、早めに医療機関を受診してください。(特に乳幼児や高齢者)
1.手洗いの励行
最も基本的なことは、手洗いの励行です。(特にトイレの後、便や吐物を処理した後、調理の前、食事の前など)手洗いは石けんを使用し、しっかりと流水で洗い流してください。(注1参照)
2.食品の十分な加熱
ウイルスが含まれている可能性のある食品は、中心部までよく加熱してください。(注2参照)
3.消毒
ノロウイルスに対しては、熱湯または次亜塩素酸ナトリウムによる消毒(注3参照)が有効です。
(1)調理器具の消毒が大切です。まな板、包丁、へら、食器、ふきん、タオル等は熱湯による消毒が有効です。
(2)ウイルスが付着した衣服や器具、施設なども消毒する必要があります。
4.患者の便、吐物の処理
患者の便、吐物には多量のウイルスが含まれていますので、取扱いには十分注意してください。
5.その他
症状がある間は、食品の調理をできるだけ控えてください。やむをえず調理する場合は素手で食品を触らずに、手袋や箸を使用し、洗浄後乾燥させた調理器具を使用してください。また、症状がなくなっても比較的長期間ウイルスが排出される場合がありますので、食品を調理される方は、十分に注意する必要があります。
下痢や嘔吐の症状がある場合は、できるだけ学校や仕事を休み、体力の回復に努めてください。
(注1)石けん自体にはノロウイルスを直接死滅させる効果はありませんが、手の脂肪等の汚れを落とすことにより、ウイルスを手指からはがれやすくする効果があります。手のひらだけでなく、指の間や指先、爪の間もしっかりと洗います。手拭用のタオルは共用しません。
(注2)中心部が85~90℃で90秒間以上の加熱が必要とされています。
(注3)次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が有効です。ただし、皮膚に対する刺激作用がありますので手洗いには使用できません。また、腐食するため原則金属には使えません。次亜塩素酸ナトリウムは消毒する対象に応じて、適切な濃度に希釈して(薄めて)使います。消毒液の作り方(薄め方)と使用上の注意事項については、消毒液の作り方と使用上の注意(当サイト)を参考にしてください。
図1のシーズン別報告数の推移をみると、2003/04シーズンをピークに2020/21シーズンまで横ばいから減少傾向で推移してきました。しかし、2021/22シーズン以降は、やや増加に転じました。
図2の月別報告数の推移をみると、11月頃から増加し、12~6月に高い水準で推移した後、夏季にかけて減少しています。
*感染性胃腸炎の1シーズンは9月から翌年の8月までとします。
【図1】シーズン別報告数の推移
【図2】月別報告数の推移