平和記念都市展(広島平和記念都市建設計画50周年)記念講演会

広島平和記念都市建設法はどのような意味を発信しているか
―その形成過程と特質から―

2002(平成14)年8月11日 広島大学大学院工学研究科 石丸紀興

1.はじめに

研究の経緯 「被爆40年史都市の復興」編集作業、寺光忠氏との出会い、資料提供、新聞資料の徹底閲覧・収集

広島平和記念都市建設法制定40周年、50周年記念事業

広島平和記念都市建設計画50周年


2.平和記念都市建設法の制定過程をトーレースする

1)平和記念都市建設法(以下「平和都市法」と略す)制定過程の時期区分

第1期 国有財産払下げ・特別補助陳情運動期(終戦直後〜昭和23年11月頃)

第2期 復興国営請願運動期(昭和23年11月30日〜昭和24年2月13日)

第3期 平和都市法制定運動期(昭和24年2月13日〜昭和24年5月I1日)

第4期 平和都市法制定運動終幕期昭和24年5月12日〜昭和24年8月6日)

2)平和都市法制定過程にみる特質

(1) GHQ関係者との接触によって制定されたこと

(2) 日本政府の官僚・政治家が消極的な姿勢を示したこと

(3) 特別法として成立したこと

(4) 平和を主題として立法されたこと

(5) 多くの関係者の尽力によって制定されたこと

(6) 長崎との関係において違和感を発生し、市民との関係において問題を残したこと

(7) 際どい時期に制定されたこと


3.平和都市法の内容をおさらいする   

1)起草過程から

(1) 第1次案から第5次案まで変遷し少しずつ性格を変えたこと

(2) 背景として憲法前文、憲法第9条、教育基本法前文などが考えられる

(3) 当初は前文を持つ法案であった

(4) 第1次案には「恒久の平和を記念すべき施設の保存及び…」という文案が存在していたことは注目すべきである

2)最終案(決定段階)

(1)  「恒久の平和を誠実に実現しようとする理想の象徴として」という表現、特に「誠実に」という表現(第1条目的)

(2) 都市計画法の都市計画だけでなく「恒久の平和を記念すべき施設その他平和記念都市としてふさわしい文化的施設の計画を含むのとする」(第2条計画及び事業)

(3) 「国及び地方公共団体の関係諸機関は、平和記念都市建設事業が(中略)重要な意義を持つことを考え、その事業の促進と完成とにできる限りの援助を与えなければみらない。」(第3条事業の援助)

(4) 「国は、平和記念都市建設事業の用に供するために必要と認める場合においては、国有財産法第28条の規定にかかわらず、その事業の執行に要する費用を負担する公共団体に閲し、普通財産を譲与することが望ましい。」(第4条特別の助成)

(5) 「平和記念都市建設事業の執行者は(中略)建設大臣に進捗状況を報告しなければならない。内閣総理大臣は(中略)国会に対し平和記念都市建設事業の状況を報告しなければならない。」(第5条報告義務)

(6) 「広島市長は、この住民の協力及び関係諸機関の援助により、広島平和記念都市を完成することについて、不断の活動をしなければならない。」(第6条広島市長の義務)

(7) 平和都市法と「特別都市計画法」(後に「都市計画法」)の適用(第7条法律の適用)


4.平和都市法の現在までの効果を考える

(1) 特別法制定の他都市への波及効果

(2) 特別都市計画あるいは復興都市計画の枠組みの大変更

(3) 特別の補助(補助率、特別枠、補助総額のこと)

(4) 国有財産の譲与

(5) 平和記念施設、特に平和記念公園の設計と建設

(6) 世界情勢による広島の位置づけの変化、世界からの注目

(7) 精神的な支援(有形・無形の支援)


5.平和都市法制定時に考えられていなかった新たな事態はなにか

 旧日銀、レストハウス、旧被服支廠、旧広島大学理学部1号館
広島アンデルセン、福屋、旧山口銀行等々

・ バブルとバブル崩壊、構造不況、財政逼迫

・ 阪神大震災の発生

・ 原爆ドームの世界遺産登録

・ 被爆50年後の状況

特に

・ 9月11日同時多発テロ(Ground Zero)以後のこと


6・平和都市法の新たな展開が可能か

1)平和記念都市建設法の今後の扱い、効果(現在どのような視点が存在するか)

・ 広島平和記念都市建設法が今なお有効であるようその使い方を考える。

・ もはや広島平和記念都市建設法でもあるまい。

・ 今こそ広島平和記念都市建設法の基本に立ち返る。

・ 平和記念都市建設法の基本精神を今一度検討し、新たな展開を考える。

2)今後の展開で必要なこと(私見)

・ 平和都市法の検討、研究の必要性

・ 都市像の理念確立あるいは再認識、平和行政の本質化

・ 市民の関わり方の本格的展開

・ 世界の情報とのコラボレーション

・ 新たな魅力の創出、広島に来たくなるようなまちづくり

・ その他多くのアイデア


参考文献、引用文献

(1)寺光忠著「ヒロシマ平和都市法」(中国新聞社、昭和24年6月)

(2)拙著「『広島平和記念都市建設法』の制定過程とその特質(広島市戦災復興計画に関する研究その7)」(日本建築学会中国・九州支部研究報告第7号・3、昭和62年3月)

(3)拙著『広島平和記念建設法』の法案とその形成過程に関する考察」(芸備地方史研究162号、昭和62年11月)

(4)拙著「『広島平和記念都市建設法』の制定過程とその特質」(広島市公文書館「紀要」第11号、昭和63年3月)

(5)拙著「広島平和記念都市建設法の成立過程とそれに関わる新聞報道内容についての考察」(広島市公文書館「紀要」第23号、平成11年3月)

(6)拙著「広島平和記念都市建設法からのまちづくり一広島における都市建設の基本理念をどうするか」(日本の科学者第34号8号、平成11年8月)