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平和宣言
本日、広島市原爆被災10周年を迎えるにあたり、われわれは、おごそかに原爆死没者の諸霊を弔うとともに、あの悲惨な体験にもとづいて叫びつづけて来た世界平和への悲願と決意を重ねて世界に向って訴えるものである。
6千人の原爆障害者は、今なお、必要な医療も満足に受けることができず、生活苦と戦いつづけており、更に、9万8千人にのぼる被爆生存者は、絶えず原爆障害発病の不安にさらされている。人体を徐々に蝕む原爆の放射能には人類の健全な社会を崩壊に導く危険性が存在していることを、われわれは、ここに特に指摘する。
原爆を体験したわれわれは、その体験の故に、誇大な杞憂におののいているのではない。われわれは、世界の人々がこの悲惨事を地球上の微小な一点に起ったこととして等閑に附しているかに見えるのを坐視するにしのびない。真実の世界平和が恒久的に打ち立てられるのを見るまでは、われわれは、全世界の人々にこの真実を伝えることを大きな義務と考え、「広島の悲劇をふたたび繰返すな」と叫びつづけるものである。
1955年(昭和30年)8月6日
広島市長 渡辺 忠雄