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平成元年(1989年)

ページ番号:0000009429 更新日:2019年10月21日更新 印刷ページ表示

平和宣言

「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」—焦熱地獄を身をもって体験したヒロシマは、この悲願に立ち、核兵器が人類とは共存し得ないことを、一貫して警告し続けて来た。

ヒロシマの訴えは、世界の世論を喚起し、人類は核兵器の廃絶と恒久平和確立を目指し、胎動を始めた。

米ソは中距離核戦力全廃条約の締結に続き、戦略核兵器の削減に向け、交渉を積み重ねている。更に、短距離核戦力や通常軍備の軍縮提案が打ち出されている。その底流には、軍縮を志向する世界世論の大きな歴史的高揚がある。今や、戦後政治を支配した米ソを頂点とする東西の冷戦構造に崩壊の兆しが見え、新たな国際平和秩序が模索され始めている。人類は輝かしい未来に向って、今こそ、この好機を生かさなければならない。

日本政府は、日本国憲法の平和主義の理念に立ち帰り、緊張緩和の動向に逆行することなく、軍事費の抑制に努め、世界の恒久平和実現のため、先導的な役割を果たすべきである。何よりもまず、アジア・太平洋地域の国際的非核化の実現に向けて、関係諸国の協力のもとに、積極的な平和外交を展開しなければならない。また、沖縄近海での米軍水爆搭載機水没事件の徹底解明に努めるとともに、国是とする非核三原則の空洞化を阻止する方策を樹立し、その厳守を米国政府に強く要請しなければならない。

広島市は、本年、市制施行百周年、「広島平和記念都市建設法」施行40周年を迎えた。この意義ある年に、今ここ広島で「第2回世界平和連帯都市市長会議」を開催している。世界30数か国、約130都市の市長らが、体制の違いや国境を乗り越えて相集い、「核兵器廃絶を目指して——核時代における都市の役割」を基調テーマに、活発な討論を交わしている。

10月には、「核戦争防止国際医師会議」の第9回世界大会が、「ノーモア・ヒロシマ この決意永遠に」をテーマに、広島市で開催される。

去る4月に、日本で初めて京都市において「国連軍縮会議」が開催された。その参加者が被爆地広島を訪れ、核兵器がもたらした被害の実相に触れ、その凄まじさを改めて認識し、核兵器廃絶への思いを強くした。

時恰も、核兵器による人類絶滅の危機を警告し続けてきた原爆ドームの保存募金には、国の内外から大きな反響が寄せられている。原爆資料館の昨年度の入館者数が145万人を超え、過去最高を記録した。これらの事実は、「ヒロシマの心」が着実にひろがっている証左である。

ヒロシマは、人類の共存共栄に基づく新しい世界秩序が実現されるまで、国の内外に警鐘を打ち鳴らして行かなければならない。

ヒロシマは、世界の人びとと痛みを共に分かち合い、飢餓、貧困、人権抑圧、地球環境破壊等で苦境に喘ぐ人びとに深く思いをいたし、早急な解決が図られるよう関係諸国に切望してやまない。

ヒロシマは重ねて訴える。

核実験を即時全面的に禁止し、核兵器を廃絶することを。

世界の指導者をはじめ、次代を担う青少年が広島を訪れ、被爆の実相を確認することを。

広島に平和と軍縮に関する国際的な研究機関を設置することを。

本日、被爆44周年の平和記念式典を迎えるに当たり、原爆犠牲者の御冥福を衷心よりお祈りするものである。被爆者の高齢化が進む現状に鑑み、国家補償の理念に立った被爆者援護対策が、一日も早く確立されるよう、日本政府に強く要求するとともに、平和への不屈の努力を誓うものである。

1989年(平成元年)8月6日

広島市長 荒木 武