本文
一般家庭で日常的に使用されている衣料品や住宅用洗剤などの家庭用品には、抗菌防臭処理など製品に付加価値を持たせるためにいろいろな化学物質が用いられており、これらの化学物質による様々な健康被害が危惧されています。
生活科学部では、家庭用品試験(「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」で規制されている繊維製品・洗浄剤・塗料等の家庭用品中の有害物質の試験)を実施しています。
当所の家庭用品試験では、法律で規制されている化学物質の中で、乳幼児用帽子や乳幼児用中衣からホルムアルデヒドが基準値を超えて検出され、保健所の指導による回収措置や、自主回収された事例が発生しています。
ホルムアルデヒドは沸点が零下19.5℃、可燃性、無色の気体で、刺激性の強い窒息性臭気を有し、粘膜に対する刺激性が非常に高い物質です。
また、反応性が高く、多くの物質と容易に結合するため、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(プラスチック、接着剤)などの原料としても用いられています。
水には非常に溶けやすく、約40%濃度の水溶液はホルマリンとして市販されています。
ホルムアルデヒドやホルマリンなどホルムアルデヒド水溶液は、毒物及び劇物取締法により医薬用外劇物に指定されています。
用途 | 繊維製品の防しわ剤・防縮剤、防腐剤、消毒剤、フェノール樹脂・メラミン樹脂・尿素樹脂(プラスチック、接着剤)等の原料等 | |
---|---|---|
健康影響(有害性) | 発がん性 | 国際ガン研究機関(IARC)の評価では、発がんの危険性が最も高いグループ1「ヒトに対する発がん性が認められる」に分類されています。 |
刺激性 | 高濃度のホルムアルデヒドは、眼や鼻、呼吸器などに刺激性を与えることが報告されています。 また、シックハウス症候群との関連性が疑われていることから、厚生労働省ではホルムアルデヒドの室内空気濃度の指針値を0.08ppmと設定しています。これは、人がホルムアルデヒドを吸い込んだ際の鼻やのどの粘膜への刺激を根拠としています。 また、高濃度のホルムアルデヒドは皮膚炎の原因となることもあり、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」によって、衣類や繊維製品などに含まれるホルムアルデヒドの量が規制されています。 |
ホルムアルデヒドは、身体に接触した場合、皮膚に対して刺激を与え、炎症を起すほか化学物質の中でも特に強い抗原性をもっているため、アレルギーを惹起することが知られています。
このようなことから、特に身体に直接、広範囲に、長時間接触する家庭用品(下着、寝衣等の衣料品、つけまつげなどに使用される接着剤)について基準(75ppm以下)が設定されています。(表1)
2歳以下の乳幼児が使用する衣類(おしめ、おしめカバー、よだれ掛け、下着、寝衣、手袋、くつした、中衣、外衣、帽子、寝具)については、ホルムアルデヒドによる感作の機会を少なくすること、乳幼児は化学物質による感受性が高いことなどを考慮して、成人よりも厳しい基準(16ppm以下)が設定されています。
対象品 | 法令 | 基準 | 使用用途 | 健康被害 |
---|---|---|---|---|
繊維製品のうち、おしめ、おしめカバー、よだれ掛け、下着、寝衣、手袋、くつした、中衣、外衣、帽子、寝具であって出生後24月以内の乳幼児用のもの | 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律 | 所定の試験法で吸光度差が0.05以下又は16ppm以下 | 防縮、防しわ加工 | 粘膜刺激、皮膚アレルギー |
繊維製品のうち、下着、寝衣、手袋、くつした(出生後24月以内の乳幼児用のものを除く)、たび | 75ppm以下 | 防縮、防しわ加工 | ||
かつら、つけまつげ、つけひげ又はくつしたどめに使用される接着剤 | 75ppm以下 | 接着効果、防腐剤 |
ホルムアルデヒドは水に溶けやすく、大気中に放散されますので、製品完成後にはホルムアルデヒドが含有されていなくても、流通中、倉庫等での保管中、店頭での販売中に他の製品や環境中から繊維製品にホルムアルデヒドが移る(移染)ことがあります。
特に乳幼児用製品は影響が大きいので注意が必要です。流通・販売をとおして製品ごとに袋に入れて販売されていますので、購入時は袋から取り出さないように気を付けましょう。
多くは化粧品と同じコーナーで販売されていますが、つけまつげ用接着剤はこの家庭用品に該当し、ホルムアルデヒドは、75ppm以下と基準が設けられています。
近年、健康被害が多数報告されています。まぶたはデリケートであり、健康被害にはいろいろな要因がありますが、使用の際には十分注意しましょう。
建材や調度品などから発生する化学物質やカビ・ダニなどによる室内空気汚染等による健康影響を「シックハウス症候群」と呼んでいます。これは、医学的に確立した単一の疾患ではなく、居住に由来する様々な健康障害の総称を意味する用語とされています。
原因となる化学物質の一つとしてホルムアルデヒドが挙げられます。この対策として、1997年に厚生労働省が室内空気環境指針値(0.08ppm)を設定し、規制しています。
日本では、化粧品は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(略称:医薬品医療機器等法、旧薬事法)」で、ホルムアルデヒドの化粧品への使用は禁止されています。
しかし、諸外国ではホルムアルデヒドは化粧品にも「防腐剤」として使用されることがあります。この「防腐剤」としてのホルムアルデヒドの取扱いは国により差があり、基準値を設けて使用を認めている国と、基準値を設けることなく使用を認めている国があります。
海外製造品でも国内販売されれば、医薬品医療機器等法が適応されますが、個人輸入や海外で購入した海外製造品は医薬品医療機器等法の適応外であり、製品中にホルムアルデヒドが含有されている可能性がありますので注意が必要です。