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通常、酸性雨の定義としてpH(ピーエッチ、酸性・アルカリ性の度合いを示す指数。中性は7.0。これより小さいと酸性、大きいとアルカリ性。)5.6以下の雨水を指します。大気中には約300ppmを越える二酸化炭素が存在しています。これが炭酸イオンとして雨水中に飽和した時のpHが5.6であるので、この値以下の酸性の雨水を酸性雨といっています。しかしながら、海洋地域では自然発生源により、pHのバックグラウンドが5.6より低く5.0前後になるという報告もあります。
「酸性雨」というから、雨だけだと思っていませんか。
酸性雨をもたらすものとしては、自動車排ガス等に含まれる窒素酸化物や二酸化硫黄等があげられます。これらを現象面から見ると、雨、雪や霧など(湿性沈着)のほかに、雨等が降らない時の粒子状物質やガスなど(乾性沈着)であり、これらを合わせて「酸性沈着」として捉えることができます。
【図1】 酸性雨の概念
広島市では、1984年から酸性雨調査を開始し、さらに、1991年度からは全国の環境研究所と連携し共同で酸性雨モニタリングを実施しています。測定項目は、pH、電気伝導率、硫酸イオンや硝酸イオン等の陰イオン成分、アンモニウムイオンやカルシウムイオン等の陽イオン成分があげられます。
また、現在のところ、生態系の影響を予測するための酸性沈着は、pHや濃度によるよりは沈着量(雨の場合、「濃度」x「降水量」)で評価されているため、2000年度からは、降水時開放型雨水採取装置を導入し、降水のみを自動採取し、湿性沈着量を測定しています(図2)。
【図2】 降水時自動開放型雨水採取装置
2001年度から2005年度までの湿性沈着量の推移は【図3】 湿性沈着量の推移(2001年~2005年)のとおりです。pH及び酸性成分、アルカリ性成分沈着量は、ほぼ横ばいで、酸性成分である硫酸イオン及び硝酸イオンの年平均沈着量は、それぞれ59.4、34.4meq/m2/year、アルカリ性成分のアンモニウムイオンの年平均沈着量は、31.9meq/m2/yearでした。
また、4段ろ紙法、パッシブ法、自動測定機による方法により乾性沈着量調査を実施しています。(【図4】 4段ろ紙法(乾性沈着)、【図5】 パッシブ法(乾性沈着)、【図6】 設置状況)
【図5】 パッシブ法(乾性沈着)
【図6】 設置状況
酸性雨問題は、pHのみの問題ではありません。同じpHでも含まれている汚染物質の量や質(成分)が異なる場合、その影響は大きく違うからです。
また、酸性雨問題は、ローカルな大気汚染問題(地域汚染)と長距離越境汚染問題(地球規模汚染)とを含んでいます。当所としては、そういった意味で、地域に密着した地域の環境保全の見地から酸性雨問題に対処し、さらに、2001年から日本主導のもとで開始された東アジア地域における酸性雨モニタリングネットワーク(EANET;日本、中国、韓国、モンゴルといった13か国加盟)を通して地球環境問題解決の糸口が見つかればという思いです。